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ミュージカル「どろんぱ」末満健一(作・演出)インタビュー~日本から世界へ! 妖怪をテーマにした“和製”ミュージカル

青木かれん Karen AOKI

2026年3月16日から開幕するミュージカル『どろんぱ』。日本青年館ホールを皮切りに、東京・大阪で上演されます。

本作は、「日本発のオリジナルミュージカルを世界へ」をテーマに、ワタナベエンターテインメントと劇作家・末満健一がタッグを組んだMOJOプロジェクト(Musicals of Japan Origin project)の第2弾。妖怪を題材に親子の愛と絆を描いた、書き下ろしの新作です。

今回は、作・演出を手がける末満健一さんにインタビュー。ミュージカル『どろんぱ』の製作にかける思いや、MOJOプロジェクトについて聞きました。

末満健一 Ken-ichi Suemitsu
大阪府出身。脚本家・演出家・俳優。演劇ユニット「ピースピット」主宰。2009年にオリジナル作品の「TRUMPシリーズ」を発表し、ミュージカルやコミック等幅広く展開。2.5次元作品を多く手がけ、代表的な作品に舞台『刀剣乱舞』、舞台『鬼滅の刃』など。2024年に「MOJOプロジェクト」を始動し、日本初のオリジナルミュージカル制作に取り組んでいる。2026年3月より同プロジェクト第2弾のミュージカル『どろんぱ』が上演予定。©はぎひさこ

ミュージカル『どろんぱ』には妖怪たちが登場します。作品の題材は、どのようにして決めましたか?
末満 この作品、じつは17年前から温めていたんです。僕が題材にした日本の妖怪は、さまざまなものに神が宿っているという、神道における“八百万の神”の理念から生まれたと言われています。そんな妖怪を題材にしたミュージカルは、きっとおもしろいものになるんじゃないか。日本オリジナルの作品にぴったりな題材だと考えて、妖怪に決めました。
当初はMOJOプロジェクトをお客さまに認知していただくために、まずは3作くらい西洋を題材にしたミュージカルを作って、土台が固まってきたら、少しずつ日本固有のものに挑戦しようと考えていました。そんな構想のもと第1弾として発表したのが、2024年に上演したミュージカル『イザボー』。これは実在したフランス王妃イザボー・ド・バヴィエールを題材にした作品です。終演後にさまざまな方と意見交換をしたところ、もうこの第1弾ですでに充分な助走ができたのではという助言をいただきました。「よし、だったら次は日本を題材にしよう!」と決意して制作したのが、今回のミュージカル『どろんぱ』です。
ミュージカル『どろんぱ』を作るにあたり、新しく試みていることはありますか?
末満 作詞に森雪之丞さん、作曲・編曲・音楽監督に深澤恵梨香さん、ゲストコンポーザーに和田唱さんをお招きしました。みなさんはじめてご一緒する方々で、お力を借りながら作品づくりを進めています。森さんは作詞界のレジェンドですので、勉強させていただいていますね。それに深澤さんや和田さんから出てくるメロディーは、とても新鮮で刺激になっています。
これまで作詞も自ら手掛けることが多かったので、今回はいかにいただいたピースを自分の作品として組み立てていくかに注力しています。ピースがバラバラではおもしろいミュージカルにならないと思うので、しっかりまとめあげていきたいです。
もし末満さん自身が妖怪になるとしたら?
末満 『どろんぱ』の主人公、「烟々羅(えんえんら)」がいいです。この妖怪、もともと名前だけは知っていたのですが、調べているうちに主人公にぴったりだと思うようになりました。なぜこれになりたいかというと、煙の妖怪で移動が楽そうだから(笑)。もし「烟々羅」になれたら、忙しい時も便利ですよね。それとユニークな妖怪で印象に残っているのは、「毛羽毛現(けうけげん)」。名前の通り、全身毛むくじゃらだそうです。おもしろいので、作中にも登場させています。
調べずともわかってはいたことですが、妖怪ってたくさんいるんですよ。今回の資料としてものすごく分厚い妖怪辞典を買ったら、今まで知らなかったものばかりで。やはり作品に出しやすい妖怪は決まっていて、たとえば「滑瓢(ぬらりひょん)」はみなさんも一度は聞いたことがあると思います。一風変わった、小豆を洗うだけの「小豆洗い(あずきあらい)」もいますね。
ところで、末満さんはなぜMOJOプロジェクトに取り組みたいと考えたのですか?
末満 ミュージカルはもともと欧米で誕生したものであり、題材的にもアメリカや中世フランスなど西洋を扱った作品が多く作られてきました。しかし今日では、本場と言われるブロードウェイやウエストエンド以外でも、各地で「自分たちのオリジナル作品を作っていこう」という機運が高まっています。たとえば韓国では、『笑う男』やチェコで生まれた作品をアレンジした『ジャック・ザ・リッパー』といったヒット作が生まれて、繰り返し上演されています。ただし、そういったケースですら多くの作品は引き続き西洋を題材にしているんです。やはりミュージカルの成り立ちからして、どうしても西洋のものと相性がいいからでしょう。
いっぽう日本にもミュージカルという文化はすでに深く根付いていて、日々あちこちの劇場で上演されています。その中で、日本はどういう方向に進んでいけばいいのだろうか。果たして、海外からの輸入作品を上演するばかりでいいのだろうか。そうした思いから、「世界に通用する日本発のミュージカルをクリエイトする」というテーマで、MOJOプロジェクトが始まりました。僕だけでなく様々な方がオリジナルの作品に挑戦していて、日本発のミュージカルが盛り上がりつつあると感じています。
具体的にはどのようにプロジェクトを進めていこうと考えていますか? 
末満 できれば年1回新作を上演し、繰り返し再演されるような息の長い作品を増やしていこうと計画しています。新作でも再演でも、多くの方が足を運んでくださり、作品の世界を楽しんでいただけるように、このプロジェクトを継続していきたいです。
若いミュージカル俳優に将来の夢を聞くと、『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』に出演したいという声が多く返ってきます。偉大な作品を目標に掲げる気持ちはわかるのですが、これらが作られたのは今よりも30年から40年前。なんだか夢が更新されてないな……と感じました。そんな若い俳優にとって、いつかはMOJOプロジェクトが選択肢の一つになれたら。彼らに出てみたいと言ってもらえるように、今後も第3弾、第4弾と回数を重ねて、いい作品を作り続けていきたいですね。
今後、どんな作品に挑戦したいですか?
末満 少人数のミュージカルをやってみたいです。俳優は5人くらいで、音楽は4人ほどのバンド構成で。じつはもう台本ができているものもあって、一昨年に朗読劇バージョンを上演し、手ごたえを感じました。もともとはミュージカル用に書いた脚本なので、ぜひ上演を実現できたらと思っています。いつか花が咲くようにと、あちこちに種をまいているところです。
ただ、何よりも大切なのは、未来につなげていくために「いま」をおろそかにしないことだと思っていて。やりたい題材はたくさんあるので、まずはしっかりと一つひとつの作品を実現させたいですね。

末満健一 ©はぎひさこ

末満さんは、ライフワークとして掲げている「TRUMPシリーズ」をはじめ、多くの作品で、美しく残酷な悲劇を描いていますね。
末満 僕はバッドエンドを描いているからといって、自分自身が不幸な経験をしてきたというわけではありません。ただ10代の頃は、孤独ではありました。学校の休み時間は教室の机に顔を突っ伏して、クラスの誰とも関わろうとせず、妄想の世界に浸る。自分の殻に閉じこもりがちな中高生でしたね。もしかしたら、そういった素地から生まれている部分もあるのかもしれません。
僕は脚本を作る時、どんな結末にするかの目的地を決めてから書くことはあまりなくて。自分で道を探しながら書いていくうちに、そういったゴールにたどり着くことが多いんです。作品ごとにその道筋も変わるので、今回のミュージカル『どろんぱ』は、バッドエンドが多い僕の作品としては珍しく、とてもハッピーな結末になっています。
これまでに影響を受けた作品はありますか?
末満 ティム・バートン監督の作品が好きで、なかでも『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』には影響を受けましたね。同作は、ミュージカル調に作られたストップモーション・アニメ。ティム・バートン監督の作品が今も僕の根っこにある気がします。
もうひとつ最近観て刺激を受けたのは、ミュージカル・アニメーションの『ハズビン・ホテルへようこそ』ですね。「こんなミュージカルもありなんだ!」と驚きました。1話30分ほどのアニメで毎話ごとに2曲ずつ歌が入るのですが、どのナンバーも魅力的で。『ハズビン・ホテル』シリーズは、セオリーに縛られない新しい発想で独自のおもしろいミュージカルを確立していて、勇気をもらえました。
日本を題材にしたミュージカルとして、『阿国 OKUNI』という作品も印象に残っています。歌舞伎の創始者といわれる出雲阿国を主人公とした作品で、木の実ナナさんが主演でした。1990年に初演されたのですが、今の時代に上演されてもいい作品だと思っています。
バレエについての質問もひとつお聞きします。末満さんがこれまでご覧になったバレエ作品は?
末満 「マシュー・ボーンの『白鳥の湖』を観た」と言いたいのですが、来日公演のチケットを取っていたのに日付を間違えてしまって……。生で観ることは叶いませんでしたが、とても好きな作品のひとつです。彼の『くるみ割り人形』や『赤い靴』も好きで、よく映像を観ていますね。ダンサーたちがピタっとしたタイツを履いて踊るクラシックな雰囲気とは異なり、マシュー・ボーン作品は現代的な描き方をしているところに惹かれます。衛星放送でたまにダンス公演を観ているのですが、アクラム・カーンの前衛的な作品にもパッと目を奪われました。
最後に読者に向けてメッセージを。
末満 ミュージカル『どろんぱ』は、題材も音楽的な部分も“和製”のオリジナルミュージカルになっています。なかなか珍しい作品に仕上がると思いますので、「こんなミュージカルもありなんだ!」という気持ちで楽しんでいただけたら嬉しいです。

公演情報

MOJOプロジェクト -Musicals of Japan Origin project- 第2弾
ミュージカル『どろんぱ』
supported by にしたんクリニック

あらすじ
煙の妖怪である烟々羅(小池徹平)は人間の姿に化けて、遠野爽子(屋比久知奈)というひとりの女性に憑りついていた。爽子に「自分の夫・遠野薫」だと思いこませた烟々羅は、彼女とともに神隠しの伝承が残る深い森へとやってくる。爽子は行方不明となった自分の娘をさがすうちに、森へと足を踏み入れたが、そこは神隠しの森などではなかった。時代の流れとともに信仰や畏怖する心が失われた現世から追いやられた妖怪たちの吹き溜まりの森であった。
森の様子はなにやら慌ただしい。現世から《どろん》と消えてしまった妖怪たちが、再び現世に《ぱ》と現れるための年に一度の祈願祭、《どろんぱ》がまもなく催されようとしていた。福の神である座敷童子(生駒里奈)、日本全国に伝承が残る河童(東島京)、ひねくれ者の猫又(木内健人)、欲望のままに行動する犬神(加治将樹)、神聖さすら漂わせる九尾狐(土井ケイト)、得体の知れない天邪鬼(相葉裕樹)、墓場の土から生まれた人形神(真琴つばさ)、そして妖怪たちの総大将である滑瓢(吉野圭吾)。烟々羅と爽子を待ち受ける運命とは。今宵、妖怪たちの百鬼夜行がはじまろうとしていた。

〇東京公演
2026年3月16日(月)~3月29日(日)
会場:日本青年館ホール

〇大阪公演
2026年4月3日(金)~7日(火)
会場:SkyシアターMBS

【キャスト】
小池徹平 屋比久知奈
生駒里奈 木内健人 東島京 加治将樹 土井ケイト 相葉裕樹
吉野圭吾 真琴つばさ ほか

【スタッフ】
作・演出:末満健一
作詞:森雪之丞
作曲・編曲・音楽監督:深澤恵梨香
ゲストコンポーザー:和田唱

【公演に関するお問合せ】
ワタナベエンターテインメント03-5410-1885(平日11:00~18:00)

公式サイトはこちら

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