グランディーバ・バレエ団『白鳥の湖』より
2023年12月、アメリカのグランディーバ・バレエ団が、東京や大阪など6ヵ所でジャパンツアーを開催します。
グランディーバ・バレエ団は、1996年に元トロカデロ・デ・モンテカルロ・バレエ団のヴィクター・トレビノによって設立された、男性だけによるコメディ・バレエをレパートリーとするカンパニー。4年ぶりとなる来日公演に向けて、口パクのものまね「エアあやや」でブレイクしたタレントのはるな愛さんがアンバサダーに就任しました。ダンサーとしても活動しているはるなさんに、グランディーバ バレエ団の魅力やジャパンツアーの見どころ、自身のダンス愛などについて聞きました。
🩰
「グランディーバのイメージで」と、可愛いブルーのドレス姿で取材に応じてくれました ©️Shinji Masakawa
バレエって人間の持つ美しさを最大限に表現できる踊りだと思う
- アンバサダーに就任したご感想は?
- はるな 私がまだ大西賢示という男の子で、女の子に憧れていた頃、たまたまテレビで見たバレエダンサーに目を奪われました。綺麗にメイクした男性が、悩ましいポーズでウインクする姿が美しくて力強くて……すごく観に行きたかったけれど、そんなこと親には言えないし、いつか絶対に観に行こう!と思っていたんです。それはトロカデロ・デ・モンテカルロ・バレエ団の来日公演のCMだったんですが、踊っていたのは、その後グランディーバ・バレエ団を設立したヴィクター・トレビノさんでした。大人になってから実際に舞台を観て、いまではどちらも大好きなバレエ団です。今回はそのヴィクターさんも出演されると聞いてとても楽しみ。憧れのヴィクターさんの踊りを舞台で観られる機会に、アンバサダーを務められて光栄です。
- はるなさんは、コンサートでダンスパフォーマンスを披露するなど、ダンス経験も豊富な印象があります。先日も「バブリーダンス」やアバンギャルディを率いるakaneさん振付の公演で踊られたとか。はるなさんが初めてダンスに触れた頃のことを教えてください。
- はるな 小さい頃はバレエを習えるような環境じゃなかったし、男の子だったし、演歌を習っていましたから、ダンスは遠く離れた世界のものでした。初めてダンスに触れたのは14歳。ショーパブに行って、ニューハーフのお姉さんたちが踊っているのを見た時です。宝塚歌劇団出身の方の振付がすごく素敵で、それを観た瞬間に「私、これを振付どおりに全部踊れるようになりたい!」って思ったんですね。15歳からショーパブで働き始めたのと同時に、自分でダンスタジオを調べてレッスンに通うようになりました。
20代で東京に出て来て、テレビ出演の機会がなかった時もレッスンは欠かしませんでした。当時、青山ベルコモンズというファッションビルの8階にダンススタジオ(青山ダンシング・スクエア)があって、そこのバレエクラスにも通いました。バレエはほかのダンスと違ってほとんどの生徒が女性でしょう? みなさん身体が柔らかくって、いつも後ろのほうで眺めながら「グラン・バットマンであんなにパッと脚が上がったら気持ちいいだろうな」と思っていました。
- バレエのレッスンは、ほかのダンスと比べてどうでしたか?
- はるな やっぱり難しかった。いまも難しいと思っています。バレエはストレッチ、バー・レッスン、そのあとはセンター・レッスンとお稽古の流れも独特で、振付を教わってその通りに踊るジャズダンスとは勝手が違う。腕の位置も角度も決まっているし、(腕をアン・ナヴァンにして)こう構える時でも、腕は私が気持ちいいと思う位置にあっていいというわけじゃない。そんな感じでやってもやっても「上達しているのかな……」って。だから少し挫折して(笑)。途中からジャズダンス中心に通うようになってしまいました。
それでもね、バレエ、大好きなんですよ。手先から脚先までがピンと伸びていて、緊張感と美しさを兼ね備えていて。バレエほど、人間の持っている美しさを最大限に表現できる動きはほかにないと思います。お仕事でよく宝塚出身の女優さんと一緒になりますが、みなさんバレエをされているから立ち振る舞いがとても美しい。「さようなら!」って手を振るだけでも素敵なんです。
©️Shinji Masakawa
- はるなさんのバレエへの愛は変わらなかったと……バレエのメディアとしても嬉しいです。
- はるな よかった。私も嬉しいです(笑)。そうだ、私じつは5年くらい前、毎月、ニューヨークへダンスレッスンに通っていたんですよ。
- え? アメリカへ? 毎月ですか?
- はるな そう、毎月。当時テレビの生放送に出ていたので、それが終わったらすぐニューヨークに発ち、向こうで1週間レッスンを受けて、翌週の生放送が始まるまでには日本に帰ってくる。いま考えると、よく放送に一度も穴をあけずにできたと思います。飛行機もよく遅れずに飛んでくれたなと(笑)。
- ニューヨークではどこで、どんなレッスンを?
- はるな ブロードウェイ・ダンスセンター(BDC)に通っていました。ジャズダンス、タップダンス、そしてバレエのクラスレッスンも。BDCにはブロードウェイミュージカルの舞台に立ちたい人たちがたくさん集まっています。当たり前ですがとても厳しくて、レッスンについていけなければ脱落です。日本のスタジオみたいに、優しい先生が分かりやすく教えてくれたり、硬い背中を辛抱強く押してくれるわけでもない。だからバレエはバー・レッスンを受けるだけで精いっぱいで、ついて行こうと必死でした。バレエが終わったら、次はジャズダンスやタップダンスのレッスンを。夜にはもうへとへとで、ミュージカルの公演を観ながら居眠りしてしまったことも。でも楽しかった!
- いまもお忙しいなかバレエのレッスンは続けているそうですね。
- はるな 人間の身体ってね、年齢とともに前には曲がっていくんですけれど、後ろに曲がらなくなる。よく「背中から老けていく」っていうでしょう? そういう意味でもずっとバレエは続けたいです。最近は、大人になってからバレエを始める方も多くいらっしゃいますよね。私の行くスタジオにもおばあちゃまがいて、一生懸命脚を開いてストレッチされているんです。そしてそのおばあちゃま、私よりもちょっと大きく開くんですよ、すごいと思います!
©️Shinji Masakawa
グランディーバはバレエのステージに笑いの渦を起こすんです
- 今回のジャパンツアーに寄せて、アンバサダーはるな愛が思う、グランディーバ・バレエ団のいちばんの魅力を聞かせてください。
- はるな 美しさですね。男性が女装してチュチュを着て、しかもトウシューズを履くんです。トウシューズって、バレエの基礎がきちんとできていなければ立つことはできないし、骨折する危険もありますよね。グランディーバのみなさんはもちろんプロ中のプロ。力強いつま先と鍛え抜かれた男性の美しい筋肉の美しさは、本当に感動ものですよ。公演前のレッスンでもステージにバーを運び入れて、トウシューズでバー・レッスンをガッチリこなすんです。
- では、ステージの見どころは?
- はるな いつもびっくりするのは、美しく緊張感あるバレエにタイミングよく緩和を加えてくるところ。私もタレントとして舞台に立っていますが、客席の“笑い”は舞台の緊張と緩和のバランスで生まれます。グランディーバはそのバランスが絶妙なんです。本来の振付の中にちょっと面白い動きが入ったり、コミカルな表情をしたりすると客席でクスッと笑いが起きる。そのうちに、踊りながらお客さんに向かって舌を出したり、バレエを知っている人が観たら「この作品にその動きを入れちゃうの?!」って驚くような場面も。すると最初は小さかったお客さんの笑いがね、どんどん大きな渦になっていくんです。バレエでは演目ごとにダンサーがお辞儀をしますよね? あそこにも笑いが起きたりするんですよ。
- バレエでは、拍手するタイミングや見せ場が基本的には決まっています。そのタイミングを敢えてずらすことで笑いを起こすのは新鮮ですね。
- はるな これって、とても難しい試みですよね。バレエを真剣に続けていらっしゃる人たちが、そこにこれでもかと笑いの要素を入れていくんですから。でもグランディーバの舞台は、バレエを観たことがないとか、観たいけど眠たくなりそうなんて思っている方が、バレエ好きになる入口になるんじゃないでしょうか。たくさんあるバレエの決まりごとすら、ときには取り払うようなエンターテインメントステージ。バレエファンの方にも「こんな表現をするとは!」って面白く感じてもらえるかもしれません。
- 来日公演の演目には、『パ・ド・カトル』や『海賊』オダリスクのパ・ド・トロワのほかに、『瀕死の白鳥』もあるんですね!
- はるな 大好きな演目です。しなやかな腕と指先が本物の白鳥のようだし、なんといっても背中の動きが美しくて。ダンサーのチュチュの肩にある細い華奢な紐から覗く男性のおっきな肩甲骨がね、ガーッて動くんですよ! バレエファンの方にもこれだけは絶対に観て欲しい。『瀕死』を観ているとぐっと胸が締め付けられるようになります。グランディーバ・バレエ団版は途中で笑えるシーンもいっぱいあって『瀕死』なのに面白いんですが、笑いのスパイスがたっぷりある分、最後の場面ではより切なくなっちゃう。でもお客さんを笑顔にしてくれる『瀕死』は、グランディーバの持つ優しさや愛が伝わってくる作品だと思います。
グランディーバ・バレエ団『瀕死の白鳥』より
ツアー応援歌は”令和の”歌謡曲「まぼろし ザ ワールド」
- はるなさんが夏にリリースした「まぼろし ザ ワールド」が、このたびジャパンツアーの応援歌になりました。MVを拝見しましたが、懐かしい歌謡曲風の音楽と、振付を真似して踊りたくなるダンスが楽しいですね。
- はるな 嬉しい! ダンスって見ていても踊っていても明るい気持ちになるから、みんなで踊って欲しいんです。振付はバブリーダンス富岡高校のakaneちゃんにお願いしました。ピンクレディーを思わせる動きもあって、歌っていると子どもの頃テレビで夢中になっていた、大好きな歌謡曲たちを思い出します。
昭和の、日本がすごく元気だった時代は歌番組がたくさんあって、テレビをつければいつでも歌謡曲が流れていましたよね。当時「自分は大きくなったらどうなるんだろう」って感じていた私の不安を忘れさせてくれたのは、まだ大きな箱だったテレビの中から流れてくる音楽と、歌い踊るアイドルたちでした。
いま大人になった私がテレビで見せている「エアあやや」のものまねには、松浦亜弥さんの声にピタッと合わせて口パクするという強いこだわりがあって、そこはお笑いなしの本気。でも前後にはちょっと笑いを挟んでいます。そうしたいのは、子どもの頃の私が勇気をもらったように、テレビの向こうにいる人にクスッと笑って欲しいからなんですよ。グランディーバがみなさんに元気を与えるのと同じように、私もこの曲で「明日からも頑張ろう」って思ってもらえたら嬉しいです。
- ありがとうございます。最後にアンバサダーとして、読者へ一言お願いできますか?
- はるな グランディーバのバレエは美しくて、面白くって、そして泣きそうなくらい切ない気持ちにもさせてくれます。年末にお子さんと楽しい思い出を作りたいお父さんお母さん、お孫さんに本物に触れてもらいたいと思ってるおじいちゃまおばあちゃま、ぜひ家族みんなで観に来てくださいね!
🩰
©️Shinji Masakawa
- はるな愛 Ai Haruna
- 1972年生まれ、大阪出身。アイドル松浦亜弥のコンサート音源を流し口パクで完コピする「エアあやや」で大ブレイク。以後ニューハーフタレントとしてバラエティ番組に多数出演。2008年にはCDデビューも果たし、韓国ガイドブック・写真集・コミックも発売するなどマルチに活躍。2009年タイで行われた「ミスインターナショナルクイーン2009」で世界第1位となる。2016年にはニューヨーク公演を実現。2021年東京パラリンピック開会式では冒頭に登場しダンスパフォーマンスを披露した。現在はタレント活動をしながら、バーやお好み焼き店などの店舗経営も行っている。
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公演情報
グランディーバ・バレエ団ジャパンツアー2023
【おもな演目】
《Aプロ》『パ・ド・カトル』/『海賊』よりオダリスク パ・ド・トロワ/パ・ド・ドゥ集/『瀕死の白鳥』/『白鳥の湖』より
《Bプロ》『海賊』よりオダリスク パ・ド・トロワ/『ゴーフォーバロッコ』/『海賊』よりパ・ド・ドゥ/『瀕死の白鳥』/『くるみ割り人形』より
【出演】
ヴィクター・トレビノ
瀬川哲司、ジョエル・モリス、徳江弥、ジョナタン・メンデス ほか
【日程・会場・演目】
●12月22日(金)12:00開演(11:30開場)《Bプロ》
〈福岡〉北九州ソレイユホール
●12月23日(土)12:30開演(12:00開場)《Aプロ》
●12月24日(日)18:30開演(18:00開場)《Bプロ》
〈大阪〉門真市民文化会館ルミエールホール
●12月25日(月)18:30開演(18:00開場)《Bプロ》
〈東京〉大田区民ホール・アプリコ
●12月26日(火)18:30開演(18:00開場)《Aプロ》
〈茨城〉水戸市民会館
●12月27日(水)18:00開演(17:30開場)《Aプロ》
〈愛知〉Niterra日本特殊陶業市民会館フォレストホール
●12月28日(木)18:00開演(17:30開場)《Aプロ》
〈埼玉〉さいたま市民文化センター
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- ◉ジャパンツアー応援歌:はるな愛「まぼろし ザ ワールド」MV