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【英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ来日公演】「眠れる森の美女」栗原ゆうインタビュー「オーロラ姫は、孤高だけど孤独じゃない」

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

バーミンガム・ロイヤル・バレエ「眠れる森の美女」より栗原ゆう(オーロラ姫)、ラクラン・モナハン(王子) ©Tristram Kenton

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ(BRB)が、2025年6月20日(金)〜7月5日(土)、東京・大阪・名古屋の3都市で7年ぶりの来日公演を行います。カルロス・アコスタが芸術監督に就任後、初来日となる今回の演目は、『眠れる森の美女』(ピーター・ライト版)『シンデレラ』(デヴィッド・ビントレー版)。『眠れる森の美女』は大阪と名古屋でも上演されます。
来日を前にした4月末、6月21日(土)『眠れる森の美女』東京公演でオーロラ姫を演じるファーストソリストの栗原ゆうさんにお話を聞きました。

栗原ゆう Yu Kurihara 渡辺郁子バレエスタジオにて渡辺郁子に、A.M.スチューデンツにて牧阿佐美に師事。2015年ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)N.Y.ファイナルシニア部門女子第1位受賞、同年英国ロイヤル・バレエ・スクールへ留学。卒業後、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエにアーティストとして入団、21年ソリスト、22年ファーストソリストに昇格。 ©Ballet Channel

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栗原さんは英国バーミンガム・ロイヤル・バレエの2023/24シーズンでオーロラ姫デビューを果たしました。日本では今回が初披露になりますね。
栗原 日本でオーロラ姫を演じることがとても嬉しいです。英国に留学するまで私を育て、成長を見守ってくださった方々への感謝の気持ちと、頑張っている姿を観ていただきたい思いで、今からすごく緊張しています。
ピーター・ライト版『眠れる森の美女』の特徴は?
栗原 英国バレエ特有のエレガンスはもちろん、魅力的な登場人物やドラマティックな展開は大きな魅力だと思います。また、リラの精が踊らないのもライト版の特徴。マイムだけで演じるので、カラボスとの対照的な関係が際立ちます。
2度目のオーロラ姫を演じるにあたって、新たに取り組んでいることは?
栗原 より積極的に、役への理解を深めていきたいと考えています。オーロラはお姫様ですから、つねに人々に囲まれています。でも孤高の存在として描かれているからか、演じているとひとりきりで踊っているような寂しさを感じてしまうことがあるんですね。そんな時は、舞台では描かれていないオーロラの日常――­例えば彼女は自分の周りにいる人たちと、普段どんなふうに話すのかな?と、想像してみます。考え出すとどんどん楽しくなって、オーロラの目に映るのと同じ世界を感じられるようになる。「私はひとりじゃない」と思えて、心からホッとできるんです。

「チャイコフスキーの音楽は、曲そのものに感情があるかのよう。ダイナミックに盛り上がったと思ったらスッと沈んだり。聴いていると、曲が感じている思いに共感してしまうことも」(栗原) ©Ballet Channel

去年のオーロラ姫デビューの際には、ダーシー・バッセルから指導を受けたそうですね。
栗原 あの時は2日ほど前に振り写しがあったばかりで、事前リハーサルのないまま教わることになってしまったんです。そんな状態でもダーシーはとても優しくて、わずかな時間で多くを学びました。第1幕のオーロラの登場では、「無邪気さのなかに少しワイルドな感じも必要」(笑)と、エレガンスを保ちながら表現の幅を広げる方法を分かりやすく教えてくださって。また、上体の使い方や音の取り方、周りとの一体感をどう表現するかなども、細かく指導していただきました。
とくに印象に残った指導は?
栗原 第3幕のヴァリエーションです。ゆったりした音に合わせて、舞台の上手後方から下手前に向かって斜めに進むところで、腕を下から上へすこしずつ動かしていく振りがあります。ここの解釈はダンサーによってさまざまなのですが、ダーシーが私に「もっと自分に酔っていいのよ」とおっしゃった時は驚きました。だって、舞台の上で自分に酔うなんて、絶対にいけないことだと思ってきたから。けれどダーシーは、腕を動かすところは何を表現してもいいから、自分自身を思いきり楽しんでごらんなさい、と。そこで言われたとおりに踊ってみた瞬間、それまでとまったく違う感覚を覚えたんです。内側で固まっていたどこかが柔らかくなって……どう表現すればいいんでしょうか、私の中にある花のつぼみが、ふわっと開いたような。新鮮な空気の中に漂う香りまで感じられて、オーロラを演じる上で、とても大切なことを教えていただいたと感じました。

©Ballet Channel

栗原さんがバレエを始めたきっかけを聞かせてください。
栗原 始めたのは7歳か8歳の時。バレエを習っていた姉のお迎えに母と一緒に行くうちに、先生から「せっかく毎回来るのだから、一緒にやってみたら?」と言われました。
バレエを習うのは嬉しかったですか?
栗原 じつは嫌々始めたんです。恥ずかしがり屋なので、人前で踊るなんてあり得ない!と思っていました。ところが半年から1年ほど続けたところで発表会があり、初めて舞台に立った瞬間、恥ずかしさよりも快感を覚えて(笑)。幸福感に満たされながら「もっと踊りたいな」と思ったのを覚えています。
その後の栗原さんは、2015年のYAGPでシニア部門1位を受賞します。ロイヤル・バレエ・スクールの留学を目指したのは、当時、日本で行われたワークショップを受講したのがきっかけだそうですね。
栗原 それまでロシア系のバレエを学んでいたので、「まだ知らないことがたくさんある!」と新鮮な驚きがありました。身体の使い方や表現力など、かなり鍛えられましたね。勝手が違うので簡単には吸収できず、それがかえって私のチャレンジ心に火をつけました。これをやりたい、やるぞ!と。その中で嬉しかったのは、英国バレエならではの音の取り方が、日ごろ自分で感じていたものにとても近かったこと。「そう!この曲ってそういう質感だよね!」と胸が高鳴って、自分が目標にするバレエのひとつの到達点はここにあるかも、と思いました。
留学が決まってから、渡英までにどれくらい英語の勉強に時間をかけましたか?
栗原 留学前の期間に怪我をしたため、存分に踊れなかった代わりに、学ぶ時間は取れました。でも、その成果を出せたかと言えば……現地では、話しかけられた言葉の意味がほとんど分からず、「分からないので教えて」と英語で聞くこともできませんでした。
言葉の壁が理由で日本に帰ろうと思ったことは?
栗原 ありません。でも正直なところ、居心地の悪さみたいなものは感じていました。あちこちで飛び交っている知らない言葉。私はそれをすごく学びたいし、みんなの会話を言葉として聞きたい。でも英語が分からない私の耳には、それが雑音みたいに入ってきて、なりたくないのに不快な気持ちになってしまうんです。気づかないうちに涙が流れて、周りが「どうしたの? ごめんね」って慰めてくれるのもつらかったです。

©Ballet Channel

プロのダンサーを目指して頑張る子どもたちに、伝えたいことはありますか?
栗原 最近は舞台映像を簡単に動画で観られるようになりました。憧れのダンサーの踊りをチェックして、「素敵だな、私もこんなふうに踊りたい」と思うのはいいことだと思います。でも、例えそっくりに踊れるようになっても、それは優れたダンサーのコピーでしかなく、お客様の心を打つことはできないと思うんです。素敵だと思ったところを、自分の踊りのなかに取り入れるために試行錯誤をする。その過程を大切にして頑張ってほしいです。
日々の食生活や、体型維持のために気を付けるとよいことは?
栗原 留学を前にしたお子さんやそのご両親が気になるのは、慣れない場所での生活や食事による体型の変化ではないでしょうか。でも、これは留学の時期と成長する時期が重なっているからでもあると思います。18歳前後の体は、どんなに気を付けたとしても変わるんですね。もしアドバイスするなら、変化を無理に止めようとしないことです。ダイエットの成果が出るか出ないかは体質にもよりますし、無茶な減量が、後々の体に大きな問題を与える場合もあります。ダンサーとしての将来を考えて、くれぐれも無理をせず、健康第一で過ごしてもらえたらと思います。

©Ballet Channel

プライベートはどう過ごしていますか?
栗原 私はここまで、ありがたいことに忙しい日々を過ごしてきました。ある日、みんながワイワイと賑やかにしている傍にひとりでいた時、「あ、私、孤独だ」って気づいてしまったんです。グループ行動が得意な人はいつも誰かが周りにいるけれど、私はそういうタイプではなくて。孤独って、バレエを踊るうえでは決して悪いことではないと思うし、踊っていてもいなくても、私であることに変わりはありません。でもバレエを失ったらなにもないのは良くないなと感じて、素の部分の私をもっと大事にしていこうと思うようになりました。初めてのことにチャレンジしたりとか、趣味を見つけたりとか、バレエ以外の知り合いと海まで出かけたりとか(笑)。ひとりの人間として経験を積む。その価値に、20代後半になった今、やっと気が付きました。
最近の趣味をひとつ教えてください。
栗原 絵を描くこと。友だちにオイルペインティング(油絵)を教わって、頭に浮かんだイメージをそのまま描いてみることを楽しんでいます。決して本格的ではないんですけれど(笑)。ルールに縛られず、納得がいくまで何度でも試行錯誤できるところが気に入っています。

©Ballet Channel

公演情報

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団
2025年日本公演
「眠れる森の美女」
「シンデレラ」

「眠れる森の美女」全3幕・プロローグ付き
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
振付:マリウス・プティパ/レフ・イワーノフ/ピーター・ライト
演出:ピーター・ライト
装置・衣裳:フィリップ・プラウズ
オリジナル照明:マーク・ジョナサン

【東京公演】
6月20日(金)18:30
オーロラ姫:エリサ・バデネス(シュツットガルト・バレエ団プリンシパル)
王子:マチアス・ディングマン

6月21日(土)14:00
オーロラ姫:栗原ゆう
王子:ラクラン・モナハン

6月22日(日)14:00
オーロラ姫:エリサ・バデネス(シュツットガルト・バレエ団プリンシパル)
王子:マチアス・ディングマン

会場:東京文化会館 大ホール

■他都市公演
【堺公演】
7月2日(土)
会場:フェニーチェ堺 大ホール

【名古屋公演】
7月5日(土)14:00
会場:愛知県芸術劇場 大ホール

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「シンデレラ」全3幕
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
振付:デヴィッド・ビントリー
美術:ジョン・F・マクファーレン
照明:デヴィッド・A・フィン

6月27日(金)19:00
シンデレラ:平田 桃子
王子:マチアス・ディングマン

6月28日(土) 14:00
シンデレラ:ベアトリス・パルマ
王子:マックス・マズレン

6月29日(日)14:00
シンデレラ:平田 桃子
王子:マチアス・ディングマン

会場:東京文化会館 大ホール

 

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団 2025年日本公演
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