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【英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団】セリーヌ・ギッテンス&ヤシエル・ホデリン・ベロ インタビュー【大阪・堺で「眠れる森の美女」主演】

阿部さや子 Sayako ABE

バーミンガム・ロイヤル・バレエ団「眠れる森の美女」©Tristram Kenton

英国バレエの伝統とユニークなレパートリー、演技力と技術力を併せ持つ団員たち。才能豊かな日本人ダンサーたちも活躍する人気カンパニー、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB)が、7年ぶりに来日します。

今回の日本公演は2025年6月20日(金)〜7月5日(土)の約2週間、全8公演。東京でピーター・ライト版『眠れる森の美女』とデヴィッド・ビントレー版『シンデレラ』、大阪と愛知で『眠れる森の美女』を上演します。

来日を前に、フェニーチェ堺(大阪府堺市/7月2日)と愛知県芸術劇場(愛知県名古屋市/7月5日)でオーロラ姫役を踊るセリーヌ・ギッテンス(プリンシパル)と、王子役を務めるヤシエル・ホデリン・ベロ(ソリスト)にインタビューしました。

🩰

Interview 1
セリーヌ・ギッテンス
プリンシパル

セリーヌ・ギッテンス(Céline Gittens)トリニダード生まれ、カナダ・バンクーバー育ち。バレエ教師の母親(ジャネット・ギッテンス)のもとでバレエを始め、カナダのゴー・バレエ・アカデミーで学ぶ。2006年バーミンガム・ロイヤル・バレエ団に入団。2016年プリンシパルに昇格。©Johan Persson

今回は7年ぶりの来日公演。あらためて、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB)とはどんなバレエ団なのか、その魅力や特徴を教えてください。
セリーヌ・ギッテンス(以下、セリーヌ) バーミンガム・ロイヤル・バレエをひと言で表現するなら、「英国最高のツアー・カンパニー」。もともと、英国ロイヤル・バレエのツアーを担っていた部門が独立してできたバレエ団ですから、踊りのスタイルや軸となるレパートリーなど根っこの部分は、ロイヤル・バレエと共通しています。そこから、ピーター・ライトやデヴィッド・ビントレー、そして現在のカルロス・アコスタといった歴代の芸術監督たちのもとで独自の個性を発展させてきた、とてもユニークで素晴らしいカンパニーです。
セリーヌさんが出演する『眠れる森の美女』は、BRBで長く踊り継がれている看板レパートリーですね。
セリーヌ 私たちの『眠れる森の美女』は、1977年から1995年までBRBの芸術監督を務めたサー・ピーター・ライトによる演出版です。サー・ピーターは英国バレエのスタイルとテクニックを完璧に体現する振付家。そしてすばらしいストーリーテラーでもあって、クラシック・バレエの動きで何を描き、物語をどう伝えればよいかを熟知しています。彼は絶対に、何かを描き損ねたり、せっかちに話を先に進めたりはしません。例えば第3幕のマズルカの踊りはサー・ピーターが付け足したものですが、それによって結婚式の場のすべてが美しくつながれていることに、観客のみなさんもきっと気がつくと思います。観る人を置き去りにせず、退屈もさせないのが、ピーター・ライト版『眠れる森の美女』。この作品は、同じくサー・ピーターが演出した『くるみ割り人形』等と並んで、世界最高傑作のひとつだと思います。

バーミンガム・ロイヤル・バレエ団「眠れる森の美女」セリーヌ・ギッテンス(オーロラ姫)©Bill Cooper

振付についてはどうですか? 古典バレエの代表的な作品として、世界中のバレエ団で踊られている『眠れる森の美女』ですが、ライト版ならではの特徴はありますか?
セリーヌ 踊り手として感じるのは、「技術的には難しいのに、芸術的には踊りやすい」ということです。矛盾するようですけれど、踊っていると自然にそう感じるんですよ。そして、振付がとても音楽的です。ステップが音楽そのものになっている、というのでしょうか。音楽がもたらす衝動と振付が一体になって、ドラマをどんどん前に進めてくれます。

あとはやはり、「これぞ英国バレエ」というスタイルであること。全編を通して、華美さや激しさよりも、控えめで節度のある美しさを重んじる振付です。じつは、BRBに入団した当初の私は、その「控えめで節度のある動き」になじめなくて苦労しました。でも素晴らしいコーチ陣の助けと、サー・ピーター・ライトから直接指導を受ける機会に恵まれたおかげで、時間をかけて習得していくことができました。

セリーヌさんは自分でも振付をするそうですが、その目線から、『眠れる森の美女』の「この動きは面白いな」「ここの振付は巧みだな」と思うところはありますか?
セリーヌ ステップの音楽的な紡ぎ方、フレージングの巧さ。そして序盤から難しいステップを詰め込まないところも、とても優れている点だと思います。『眠れる森の美女』のような大作バレエで重要なのは、ダンサーたちに大量のテクニックを踊らせて恥をかかせることではなく、彼らが最後までスタミナを保ち、ここぞというタイミングで華やかなステップや超絶技巧をきちんと見せられるようにすることです。これは観客のみなさんを最後まで飽きさせず、作品世界に引き込み続けるために、とても大事なポイントなんです。
先ほど「サー・ピーター・ライトから直接指導を受ける機会に恵まれた」というお話がありましたが、彼からもらったアドバイスで、とくに印象に残っているものはありますか?
セリーヌ サー・ピーターがBRBを訪れるたびに教えてくださるのは、バレエへの情熱です。ほんのわずかでもダンサーたちが「ただの仕事」として踊っているように見えたら、すぐに「私たちはなぜ、この芸術に取り組んでいるのか? それは、観に来てくださるお客様のためだ」と、自分たちが踊る理由を何度でも思い出させてくれます。サー・ピーターがいつも口にするのは、「いつだって100%、いや、150%の力を出さなくてはいけないよ」という言葉です。いつ、どこで、誰のために踊るかは関係ない。すべての舞台を大切にして、観客が観たいものを全部お見せすること。ただそれだけに全力を尽くしなさい、と。

私個人にいただいたアドバイスで心に残っているのは、先ほど少しお話しした「控えめな美しさ」というクオリティに関することです。サー・ピーターに喜んでもらいたい、彼の作った素晴らしい作品に正当な評価をもたらしたいという気持ちから、「もっと脚を高く上げよう!」と張り切って踊る私に、「バレエにおいて、脚は必ずしも高く上げる必要はないんだよ」と。180度まで上げる身体能力があったとしても、90度のクラシカルなラインのほうが美しいこともある。そういう価値観を真に理解できるまで、私の場合は少し時間がかかりました。

バーミンガム・ロイヤル・バレエ団「眠れる森の美女」セリーヌ・ギッテンス(オーロラ姫)©Lachlan Monaghan

現監督のカルロス・アコスタからも、リハーサル指導を受けることがありますか?
セリーヌ もちろんです。カルロスも、とても情熱的な芸術監督です。ものすごく多忙なのに、できる限りスタジオに顔を出して、技術的なことについて具体的にアドバイスしてくれたり、役の表現についてインスピレーションを与えてくれたりするんですよ。
ところで『眠れる森の美女』は、邪悪な妖精カラボスの呪いで100年の眠りについたオーロラ姫が、王子様のキスで目覚め、二人は幸せに結ばれる……というお話です。そんなプリンセス像について、最近では「ただ男性が助けてくれるのを待っているだけで、あまりにも受け身ではないか?」といった声も聞かれます。セリーヌさんは、こうした今日的な意見について、何か思うところはありますか?
セリーヌ いい質問ですね(笑)。私はひとりの女性ダンサーとして、社会における女性の権利や地位を映し出す存在でありたいと思っています。そしてあらゆることが再評価されているこの時代に、私たちはバレエ界に変化・進化をもたらしていかねばならない、とも思っています。ただそのいっぽうで、伝統をリスペクトすることも、忘れてはいけないと思うのです。『眠れる森の美女』は、遠い昔から愛されてきたおとぎ話であり、古典バレエの偉大な名作です。こうした作品については、現代的な価値観とは切り離して、伝統ある舞台芸術として楽しんでいただけたら嬉しいです。
バレエは肉体を極限まで使って表現する芸術です。セリーヌさんが、ダンサーとして大事にしていることや、心がけていることを教えてください。
セリーヌ 賢く栄養を摂り、賢くトレーニングすること。とくにトレーニングについては、バレエ団でのクラスレッスンだけでなく、ジェニー・ビントレー(デヴィッド・ビントレーの妻で、ピラティスのインストラクター)が私のために作ってくれたプログラムを欠かさず続けています。また、最近では「クロストレーナー」と呼ばれるランニングマシンを使ったトレーニングも取り入れるようになりました。これがちょっとおもしろくて、たとえば『眠れる森の美女』の公演が控えている時には、オーロラの踊りとリンクさせて行います。つまり『眠り』の音楽に合わせて、オーロラが踊るところではランニングの強度を上げ、踊らないところでは強度を下げる、というふうに、まるで全幕を踊るようにランニングするんですよ(笑)。
セリーヌさんはこれまで幾度か日本を訪れていますが、初来日はいつだったのでしょうか?
セリーヌ 初めて日本を訪れたのは、バレエ団に入る前でした。2004年のアデリン・ジェニー国際バレエコンクール(現在のマーゴ・フォンテイン国際バレエコンクール)で金メダルを受賞して、小林紀子先生のスクールに招待していただいたんです。コンクールで踊った『ジゼル』のヴァリエーションを披露したのですが、それまで親の付き添いなしに遠出をしたことがなかった私にとっては、すべてが大冒険でした! 初めて触れる日本の文化、日本の人々……あらゆることをめいっぱい吸収して、日記にも書き留めました(笑)。
その後、2006年にBRBに入団。以降、2008年、2011年、2015年、2018年と、3年ごとの日本ツアーに参加してきましたね。
セリーヌ 毎回が素晴らしい経験でしたけれど、私にとってのハイライトは2015年の日本公演、ピーター・ライト版『白鳥の湖』を上演した時です。初日の舞台で主演ダンサーが怪我をしてしまい、1幕で降板。第2幕以降は、翌日に主役を踊る予定だった私とタイロン・シングルトンが急遽代役を務めることになりました。その時のことが、いまでも忘れられません。なぜなら、観客のみなさんが本当に素晴らしかったからです。

私はいつも、「また日本に行きたい、早く日本で踊りたい」と思っています。その最大の理由は、日本の観客のみなさんです。温かくて、礼儀正しくて、時には前回の日本公演の写真を持参して、私たちを出迎えてくださる方もいます。そんなみなさんを見ると、日本のお客様がどれだけバレエ芸術をリスペクトし、愛してくれているかがわかります。世界中を見渡しても、日本のみなさんが最も素晴らしい観客だと断言できます。残念なことに、昨今では多くの国や自治体が芸術への助成金を削減し、バレエなどのアートを社会の片隅へと追いやっていくケースをいくつも見てきました。しかし日本では、観客がアーティストの創造性や身体への挑戦を深く理解し、バレエ芸術を力強く支えています。そんなみなさんに間もなく再会できるのが、本当に楽しみでたまりません。

今回の日本公演で、セリーヌさんは堺公演(フェニーチェ堺)と名古屋公演(愛知県芸術劇場)で、主役のオーロラ姫を踊ります。どちらの町にもたくさんのバレエ教室があって、多くの子どもや大人のみなさんがバレエを習っています。そうした人たちに、ぜひメッセージをお願いします。
セリーヌ バレエを習っているという事実、それじたいが素晴らしいことだと思います。上手に踊れるようになるだけでなく、心も身体も健康になるし、姿勢や立ち居振る舞いもよくなるし、自分の人生を生きるために大切な自信も育まれていく。私の母はバレエの先生で、母国カナダでロイヤル・アカデミー・オブ・ダンス(RAD)の教師をしているのですが、彼女の教え子たちは全員がバレエダンサーになるわけではありません。ピアニストになる人、医師や理学療法士になる人、中には消防士になる人もいます。つまり、バレエから学べるものは思っている以上に幅広いということ。みなさん、ぜひこれからもレッスンを楽しんでください!

バーミンガム・ロイヤル・バレエ団「眠れる森の美女」セリーヌ・ギッテンス(オーロラ姫)©Lachlan Monaghan

Interview 2
ヤシエル・ホデリン・ベロ
ソリスト

ヤシエル・ホデリン・ベロ(Yasiel Hodelín Bello)キューバのハバナに生まれる。フェルナンド・アロンソ国立バレエスクール、キューバ国立バレエ団で学び、同団のプリンシパルとして活躍。2023年バーミンガム・ロイヤル・バレエ団にアーティストとして入団。2024年ソリストに昇格。©Johan Persson

ヤシエルさんが日本の観客の前で踊るのは、今夏のBRB日本ツアーが初めてだそうですね。
ヤシエル・ホデリン・ベロ(以下、ヤシエル) ええ、仕事でもプライベートでも、日本にはまだ一度も行ったことがありません。でもバレエ団の仲間たちから、「日本は本当にいい国だよ」「何よりも観客が素晴らしいんだ。バレエに対する知識が深くて、いつも温かく歓迎してくれる」といった話をしょっちゅう聞かされています(笑)。だから今夏の日本ツアーがすごく楽しみで! しっかり準備して、最高の舞台をお見せしたいです。
ヤシエルさんは、ピーター・ライト版『眠れる森の美女』で主役の王子を踊ります。
ヤシエル 僕はBRBに入団してまだ2年目ですから、サー・ピーター・ライトの作品は『くるみ割り人形』と『眠れる森の美女』、そして『白鳥の湖』第2幕のパ・ド・ドゥしか踊ったことがありません。それでも彼の振付がどれだけ美しくて音楽的か、踊るたびにひしひしと感じます。そんな作品で日本デビューできるなんて、とてもラッキーだと思っています。
『眠れる森の美女』の中で、とくに好きな場面や、お気に入りの踊りはありますか?
ヤシエル 王子がオーロラ姫と恋に落ちるまでのプロセスが大好きです。第2幕、リラの精が見せてくれた彼女の幻影に心を奪われ、その後ついに生身の彼女と出会い、恋心が深まっていく。その一連の場面がとても美しいなと感じます。
初めて『眠れる森の美女』を観る人におすすめしたい“見どころポイント”は?
ヤシエル それはもう、間違いなく第3幕です! オーロラ姫と王子の結婚式の場面。荘厳な美術、見上げれば天井には大きなシャンデリアがあって、ダンサーたちの衣裳も豪華そのもので……この世の贅を尽くしたような空間が舞台上に表現されていて、踊っていると本当に宮殿の中にいる気分になります。そしてもちろん、次々に登場するキャラクターたちの踊りも見応え充分。最後には、「これぞ王道のクラシック・バレエ」というべき、僕たち主役のグラン・パ・ド・ドゥが待っています。約3時間の全幕を締めくくる壮大なコーダを、絶対に見逃さないでください!

バーミンガム・ロイヤル・バレエ団「眠れる森の美女」セリーヌ・ギッテンス(オーロラ姫)、ヤシエル・ホデリン・ベロ(王子)©Lachlan Monaghan

ヤシエルさんたち男性ダンサーは、女性ダンサーをリフトしたり、ジャンプや回転など超絶技巧をこなしたりと非常にパワフルですが、踊る身体を維持するために心がけていることはありますか?
ヤシエル 必要な栄養をよく考えて、よく食べる。毎日必ず身体を動かす。バレエ団のクラスやリハーサルが始まる前に、ストレッチなどで身体を整えておく。そうした、ダンサーとしての「当たり前」を毎日きちんと行うことが、何より大事だと思っています。
ヤシエルさんが主演する大阪府堺市や愛知県名古屋市には、たくさんのバレエ教室があります。ぜひ、バレエのレッスンを頑張っているみなさんにメッセージをお願いします!
ヤシエル 初めての日本で、主役として舞台に立つ堺市と名古屋市は、僕にとって特別な場所になると思います。もしも未来のダンサーを夢見る子どもたちがいっぱい観に来てくれるなら、彼ら・彼女らに勇気を与えられるようなダンスを踊りたい。みなさん、ぜひ劇場でお会いしましょう!

公演情報

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団
2025年日本公演
『眠れる森の美女』

【堺公演】
2025年7月2日(水)18:30
※上演時間:約3時間(休憩2回含む)

会場:フェニーチェ堺 大ホール

出演:
オーロラ姫 セリーヌ・ギッテンス
王子 ヤシエル・ホデリン・ベロ

詳細・問合せ:
フェニーチェ堺 公演WEBサイト

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5月10日(土)13:30
会場:フェニーチェ堺 大スタジオ
詳細・問合せ:
フェニーチェ堺 イベントWEBサイト

【東京公演】
6月20日(金)18:30
オーロラ姫:アリーナ・コジョカル(ゲスト・アーティスト)
王子 マチアス・ディングマン

6月21日(土)14:00
オーロラ姫 栗原 ゆう
王子 ラクラン・モナハン

6月22日(日)14:00
オーロラ姫 アリーナ・コジョカル(ゲスト・アーティスト)
王子 マチアス・ディングマン

会場:東京文化会館 大ホール

【名古屋公演】
7月5日(土) 14:00
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
出演:
オーロラ姫 セリーヌ・ギッテンス
王子 ヤシエル・ホデリン・ベロ

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団 2025年日本公演
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