
「エスペール・バレエ・ガラ」が、2025年7月27日(日)に宇都宮市文化会館大ホールで開催されます。宇都宮市と公益財団法人うつのみや文化創造財団が主催する本公演のプロデュースを務めるのは、元英国バーミンガム・ロイヤル・バレエプリンシパルの厚地康雄さん。2022年の退団後は活動拠点を日本に移し、2023年に第16回宇都宮エスペール賞を受賞しました。本公演は宇都宮市で生まれ育った厚地さんが、受賞成果を披露する凱旋公演。国内外で活躍している日本人ダンサーたちと、オーディションで選ばれた小学生以上のダンサーたちが共演する1度きりのステージです。
7月初旬、宇都宮市内の会場で行われた衣裳付きリハーサルを取材。プロデューサーの厚地康雄(あつじ・やすお)さん、コンテンポラリー作品振付の福田圭吾(ふくだ・けいご)さんにインタビューしました。
オーディションに合格したダンサーからは、井上宇一郎(いのうえ・ういちろう)さんと春山嘉夢一(はるやま・かむい)さんのコメントをお届け。2人は2024年のミュージカル『ビリー・エリオット』で厚地さんと共演しています。
- もくじ
- #1:厚地康雄
#2:福田圭吾
#3:井上宇一郎・春山嘉夢一
公演情報

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Interview#1 厚地康雄 Yasuo Atsuji

厚地康雄 ©Ballet Channel
- 2023年に第16回宇都宮エスペール賞を受賞した厚地さん。今回の成果披露公演にあたり、バレエを学ぶ子どもたちに、プロのダンサーと舞台で共演する機会を用意しました。
- 厚地 エスペール賞の成果発表でなにを披露するかは受賞者に任されていますから、僕とプロのダンサーだけで公演を打つこともできました。でもせっかくの機会なので、自分が生まれ育った宇都宮市で何をやるのがいちばんいいか、いろいろ考えました。そして思い出したのは、子どもの頃にトップダンサーと1回だけ共演した舞台のこと。嬉しくてたまらなかったあの時の記憶がよみがえって来て、今度は僕がそういう場を子どもたちに作ってあげたいと思いました。だから今回の主役はオーディションを勝ち抜いて舞台に立つ子どもたちです。僕はプロデューサーとしてみなさまに成果を届けたいと思います。

©Shoko Matsuhashi
- オーディションはどれくらい集まったのでしょう?
- 厚地 募集前に考えていた「公演が打てる最低限の人数」の3、4倍を上回る応募がありました。栃木県内はもちろん、都心や、遠方では愛知県から参加してくれた方も。合格者はプロのダンサーや留学中の学生もいますが、多くはバレエを頑張っている子どもたちで、男の子も9名います。また、大人バレエを楽しんでいる方にも出演の機会を作りました。オーディションを通過して出演が決まったのは8歳から70代まで、合計93名の大所帯です。
- プログラムにはプロダンサーとオーディション合格者が共演できる作品が全部で3演目用意されています。それぞれの出演者はどう決めたのですか?
- 厚地 一人ひとりに希望を聞き、出演したい作品を選んでもらいました。技術よりもやる気重視。本人が踊りたいと思う作品には、基本的にすべて出させてあげるようにプログラムを組みました。僕が振付を担当したクラシック・バレエもかなり大人数でのステージになり、それぞれの技術を考慮して振付を考えるのは、なかなか骨の折れる作業でした。
- 今回、厚地さんは2作品の振付を担当しています。まずはガラ公演のオープニングを飾る『Pathos』。オリジナルと聞いていますが、どんな作品ですか?
- 厚地 『Pathos』のテーマは「情熱」。チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」を使用します。ギリシャ語のパトス(pathos)から派生した単語には、悲愴/パセティーク(Pathetique)のほかにパッション(passion)、つまり情熱という意味もあって、そこからイメージを膨らませました。
この作品は、「バレエが好き!踊りたい!」という熱い思いをみんなに精一杯表現してほしいと思って振付けました。最近は、感情を表に出せない子どもが増えている気がします。バレエは上手なだけでは人を惹きつけることはできないんですよね。リハーサルでは、みんなが持っているバレエへの愛や情熱、自然な表情も引き出そうと思っています。僕の前だといつも表情の硬い子が友だちと表情豊かに喋っているのを見つけたら、すかさず「いい笑顔!その表情で踊るといいよ!」と声を掛けたり、むすっとしている子がいたら、わざとその子の目の前まで行って、冗談を言って笑わせたり(笑)。観ているほうも一緒にワクワクするような踊りに仕上げていきたいと思っています。

©Shoko Matsuhashi
- もうひとつの〈オーロラの結婚〉は、『眠れる森の美女』からオーロラ姫とデジレ王子の結婚式の場面を抜粋し、改訂振付した作品。ディヴェルティスマンには多くのキャラクターが登場しますが、キャスト表には東京バレエ団の山下湧吾さんや、ミュージカル『ビリー・エリオット』でビリー役を演じた井上宇一郎さん、春山嘉夢一さんの名前もありますね。
- 厚地 ゲスト出演の湧吾くんには、海外でバレエを学んでいる女の子と組んで、ブルーバードを踊ってもらうことになりました。バレエ団のリハーサルで忙しいなか、東京でも自主的に稽古を重ねてくれています。宇一郎くんと嘉夢一くんは、オーディションに応募してくれました。『眠り』では『シンデレラ』のチャーミング王子を宇一郎くんが、長靴を履いた猫を嘉夢一くんが踊ります。
- 今回のゲストダンサーは佐久間奈緒さんをはじめ、加治屋百合子さん、平野亮一さん、平田桃子さん、菅井円加さん、福田圭吾さんなど、厚地さんと公私ともに親しいダンサーが名を連ねています。
- 厚地 みんな、本当に心を許せる大事な仲間たちです。僕たちはほぼ同世代。誰かが成功した時も、上手くいかずに悩んでいる時も近くにいて、互いに見守ってきました。今回の公演に取り組むにあたって、僕のことをいちばん理解してくれている仲間の力を借りたいと思いました。みんなと一緒に舞台を作れることは、僕にとって精神的なサポートにもなっています。
- 福田圭吾さんに、コンテンポラリー作品の振付を依頼した理由は?
- 厚地 圭吾くんには『Inner Echoes』という新作を振付けてもらいました。この企画を始めた頃、彼が新国立劇場バレエ団を退団すると聞いて声を掛けました。僕もフリーランスになった時は不安だったので、彼に仕事を依頼することで助け合えるかもと思って。圭吾くんの振付は子どもたちには少し難しいかもしれないけれど、彼の指導は面白いんです。振りを日常の動きに例えて「この手をポケットに入れて、こっちはシートベルトをして」みたいに伝えてくれるから、子どもたちも楽しみながら稽古できていると思います。

コンテンポラリー作品「Inner Echoes」リハーサルより。指導:福田圭吾 ©Shoko Matsuhashi
- 『Inner Echoes』は厚地さんと加治屋百合子さんがゲストダンサーとして出演しますね。
- 厚地 はい。長い付き合いですが、圭吾くんの作品を踊るのは初めて。そして百合子ちゃんと一緒に踊るのも初めてです。じつは、今回のゲストダンサーの組み合わせはどれも世界初なんですよ! サプライズ好きの僕としては、お客様をキャスティングでもびっくりさせたくて。マクミランの『コンチェルト』は奈緒さんと亮一くん。ビントレーの『アラジン』は桃子ちゃんと圭吾くん。『眠り』は円加ちゃんと僕。このペアが実現するのは一夜限りかもしれないので、ぜひ期待していてください。
- 遠方から観に来る観客のために、厚地さんが生まれ育った宇都宮市のおすすめスポットを教えてください!
- 厚地 少し前まではシャッターが目立っていた商店街も、最近は活気を取り戻しています。中心部にある「オリオン通り」は大きなアーケード型の商店街で、歩くだけでウキウキしますよ。終演予定が17時20分と早いので、劇場を出た後でも宇都宮駅周辺の散策が楽しめます。人気の餃子屋さんもたくさんあるので、いっぱい食べて帰ってください。ジャズミュージシャンの渡辺貞夫さんを輩出した宇都宮市は「ジャズとカクテルの街」としても有名。ジャズの生演奏が聴けるバーでカクテルを楽しむのもおすすめです。
- 厚地さんにとってバレエとは?
- 厚地 ダンサーとして、というよりも「厚地康雄」としての自己表現方法であり、自分のあり方だと思います。どんな役を演じる時も自分自身を表現できることが僕の強みですし、そこを認めてもらえたから、いまの自分があると思っています。
Interview#2 福田圭吾 Keigo Fukuda

福田圭吾 ©Shoko Matsuhashi
- 「エスペール・バレエ・ガラ」に出演する子どもたちの印象は?
- 福田 意識の高い子が集まっていると思います。バレエを学んでいる子どもたちにとって、この公演は世界で活躍するプロのダンサーと共演できる、めったにない機会です。ここで少しでも多くのことを吸収したい!と積極的に取り組む姿からは、親や先生に言われたから来たんじゃない、自分の意志で参加したんだという前向きな姿勢が感じられますね。中には、僕の作品を踊りたくてオーディションに参加したと言ってくれる子もいます。純粋に嬉しいし、より良いものをつくりあげたい気持ちになります。
- 新作を振付ける時、福田さんはどこから取り組むのですか?
- 福田 新作を振付ける時は、稽古初日に合わせ、前もって自分の中でいくつかのパターンを用意していきます。でも実際にはダンサーと会ってわかることのほうが絶対に多いんですね。だから現場に行き、彼、彼女たちを見て即興的に振付けていくことも少なくありません。

「Inner Echoes」リハーサルより ©Shoko Matsuhashi
- 『Inner Echoes』のリハーサルはどのように進んでいったのでしょうか。
- 福田 今回、出演者の中には初めてコンテンポラリーを踊る子もいれば、ある程度のキャリアを持っている子もいたので、最初はレベルの差を考慮したグループ別に振付けるほうがいいかもしれないと考えました。でも途中で「この公演の正解は、みんなでひとつのものをつくりあげることなんじゃないか?」と考え直し、みんなで一緒に踊ろうと決めました。結果、少ない稽古時間で踊るには難しい振付になりましたが、小さな子たちも頑張ってついて来てくれています。自分から積極的に動いてくれる子は成長も早いんです。ポイントさえきちんと理解すれば、次に稽古場で会うと驚くほどできるようになっていることもある。このメンバーなら本番までにもっと伸びるはずだと感じています。ぜひ、楽しみにしていてください!
Interview#3 【6つの質問】
井上宇一郎 Uichiro Inoue & 春山嘉夢一 Kamui Haruyama

左から:井上宇一郎、春山嘉夢一 2024年のミュージカル「ビリー・エリオット」でビリー役(クアトロキャスト)をつとめた。「エスペール・バレエ・ガラ」では「Pathos」「Inner Echoes」「眠れる森の美女」の3演目に出演 ©Ballet Channel

- Q1:『ビリー・エリオット』で共演した厚地さんと、バレエダンサー同士として同じ舞台に立ってみてどう感じますか?

- バレエを踊っている時の厚地さんは、雰囲気が全然違ってカッコいいです。

- オールダー・ビリーの時とは別のオーラがある。腕や脚を少し動かしただけで空気が変わるのがすごいなと思います。

- Q2:福田圭吾さん振付のコンテンポラリーに参加した感想は?

- 初めてコンテンポラリーに挑戦しています。自分の感情を踊りに込められるのが、福田先生の振付の好きなところです。

- 僕の家はバレエ教室で、親はバレエの先生。だからこそ外に出て、いろんな経験を積みたいんです。福田先生の振りは今まで経験したコンテンポラリーとはまた違って、とても動きやすい。新たな踊りを学べるのは楽しいです。

- Q3:今回の『眠り』で井上さんは『シンデレラ』、春山さんは『長靴を履いた猫』を踊ります。女性とパ・ド・ドゥを踊ってみた感想を聞かせてください。

- 『ビリー・エリオット』の「ドリームバレエ」で、厚地さんにサポートしてもらった経験はあるけれど、サポートする側は今回が初めて。女の子を支えるのって、なんだか新感覚です。

- 小さい頃から観ていたパ・ド・ドゥを自分でもやることができて嬉しいです。パートナリングは父に教えてもらっていて、いまピルエットを練習中なんですけれど、ピルエットのサポートは本当に難しいです。

©Ballet Channel

- Q4:これからの目標は?

- YGP Japan(ユース・グランプリ・ジャパン)出場です。コンクールに出るのは技術向上のためでもあるけれど、いちばんの理由は留学のため。やっぱり僕はロイヤル・バレエ・スクールに入って、リアルビリーを目指したいです。

- 『ビリー・エリオット』では心で踊ることを学びました。僕はアン・ドゥオールなどバレエの基礎はまだまだだと思っています。もっと稽古して、コンクールにも挑戦したい。バレエに限らず舞台の中で生きる人間になりたいです。

- Q5:バレエを頑張っているけれど、男の子の仲間がいないバレエボーイズに、メッセージをお願いします。

- 不安な気持ちは上達する力を抑えてしまうので、ちょっとした心配ごとは思い切って手放してしまうといいと思います。それを乗り越えたらバレエがもっと楽しくなります。

- 僕は、自分に自信が持てれば小さなことは気にならなくなると思って練習しています。上手くなりたいという気持ちが自信につながっているので、みんなも頑張ってほしいです。

- Q6:自分にとって、バレエとは何ですか?

- 美しさとか、圧倒されるステージに心を掴まれる感じとか……いろいろ浮かぶけれど、ビリーが劇中で歌う「言葉にできない気持ち」という表現が、踊っている時の僕にはいちばんぴったりきます。

- バレエは僕の長所。僕は勉強も得意ではないし学校生活に自信はないけれど、バレエは自信がある。僕が自信を持って立てる場所は舞台です。その気持ちがバレエの楽しさに繋がっていると思います。

「Pathos」リハーサルより。右から2人目:春山嘉夢一、4人目:井上宇一郎。「Pathos」のキャストには、2020年にビリー役を務めた利田太一の名も。 ©Shoko Matsuhashi
公演情報
第16回宇都宮エスペール賞成果披露公演
「エスペール・バレエ・ガラ」

【日時】
2025年7月27日(日) 15:00開演(14:15開場)
【会場】
宇都宮市文化会館 大ホール
〒320-8570 栃木県宇都宮市明保野町7-66
【プログラム】
■オープニング『Pathos』
振付:厚地康雄
出演:佐久間奈緒、加治屋百合子、平田桃子、菅井円加 ほか
■コンテンポラリー作品『Inner Echoes』
振付:福田圭吾
出演:加治屋百合子、厚地康雄 ほか
■『アラジン』より第2幕のパ・ド・ドゥ
振付:デヴィッド・ビントレー
出演:平田桃子、福田圭吾
■『コンチェルト』より第2楽章のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン
出演:佐久間奈緒、平野亮一
■『眠れる森の美女』より〈オーロラの結婚〉
原案:マリウス・プティパ
改訂振付:厚地康雄
出演:菅井円加、厚地康雄、山下湧吾 ほか
【料金】(全席指定・税込)
S席¥6,500
A席¥5,000
U-22席(22歳以下対象)¥3,000
※未就学児入場不可
★当日券販売あり(S席残りわずか)
【チケット取り扱い】
■宇都宮市文化会館プレイガイド 028(634)6244
■CNプレイガイド 0570-08-9999
【公演詳細】
公式サイトはこちら
【問い合わせ】
宇都宮市文化会館 028(636)2121
主催:宇都宮市・公益財団法人うつのみや文化創造財団
共催:公益財団法人とちぎ未来づくり財団
協賛:株式会社 SHELHA