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特集:ミュージカル「ビリー・エリオット」③潜入取材!ビリーたちのレッスンレポート&ミニインタビュー

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

2024年公演のビリー役。左から:浅田良舞、石黒瑛土、井上宇一郎、春山嘉夢一

2024年7月、ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』が幕を開けます。スティーヴン・ダルドリーの映画「BILLY ELLIOT」(邦題「リトル・ダンサー」)を同監督によりミュージカル化。イギリス北部の炭鉱の町でバレエと出会い、数々の障害を乗り越えロイヤル・バレエ・スクールを目指す少年エリオットの物語です。
日本版の上演は今回で3度目。1年以上に渡るレッスン形式のオーディションを勝ち抜き、今回は浅田良舞くん、石黒瑛土くん、井上宇一郎くん、春山嘉夢一くんの4人がビリー役に選ばれました。合格後、彼らはさまざまな基礎レッスンを受け、大人キャストとの舞台リハーサルに備えています。3月下旬、東京のスタジオで取材したレッスンのもようを、ビリーたちのインタビューと合わせてお届けします。

写真撮影:バレエチャンネル編集部

ビリー役レッスンレポート

レッスンは週数回、おもに学校が終わってからの時間に行なわれているそうで(※2024年3月取材当時)、内容はバレエ、歌、演技、アクロバット、タップダンスなど。この日にはバレエとボーカルのレッスンがありました。

バレエレッスン

スタジオに入ると、4人のビリーたちはレッスン着に身を包んでウォームアップ中。定刻とともに先生の声が掛かり、90分間のクラスレッスンが始まりました。
ここで学ぶのは公演用の振付ではなく、徹底した「バレエの基礎」。指導はバレエ指導者であり、振付家としても活躍する坂本登喜彦さん。ミュージカル『ビリー・エリオット』の日本版初演時から、歴代のビリーたちのバレエ指導を担当しています。

先ほどまで笑顔で雑談を交わしていたビリーたち。バーに手を掛け音楽が流れた途端、引き締まった表情に

右脚から反転し同じ曲で左脚を繰り返す時には、先生が曲のテンポを速めます。「音楽をよく聴いて。本番は生演奏だから、曲の速さも毎回違ってくるよ(坂本)」

続いてセンターレッスンへ。音楽性や背中の使い方、コーディネーションに重点を置いた細かな指導が続きました。

ミュージカル『ビリー・エリオット』の振付には、本格的なクラシック・バレエの動きがふんだんに使われています。彼らの見せ場のひとつであるフリースタイルの動きも、「ただ自由に踊るだけではバレエではなくなってしまうよ」と坂本先生。腕の位置なども中途半端なままにしないで、バレエの基礎は忘れないようにと指導しました。「振り写しに入った時、振付家からの急な変更にも正確に対応できるように、普段から意識しておこう(坂本)」

スピード感ある高速回転やアラベスクが美しい浅田良舞くん、疑問を残さず、積極的に踊りに活かしていく石黒瑛土くん、上半身をたっぷりと使い優雅に踊る井上宇一郎くん、長い手足と笑顔が印象的な春山嘉夢一くん。四人四様の取り組みや個性ある踊りが見られました。

ボーカルレッスン

ミュージカルの歌唱は未経験の4人。ボーカルレッスンでは、広いステージ上で喉を傷めず大きな声を出すための身体の使い方や、発声の基礎を中心としたプログラムが行われました。ボーカル指導は、2020年に引き続き宇都宮直高さんが担当。歌手・舞台俳優として活躍、ボーカルスクールの講師も務めている先生です。

まずは床に寝て呼吸のコントロール。ひと息で吸い、倍以上の時間をかけて均等にゆっくり吐いていきます。ステージ上で苦しくなった時、身体に無駄な力が入らないようにするための訓練だそう。
続いてはピアノ伴奏に合わせて発声練習。「客席のいちばん奥のお客様まで声を届けるために、舞台の上にいる自分をイメージして歌いましょう」

「ミュージカルでは座ったり寝転んで歌うこともある。どんな時も姿勢を意識して!(宇都宮)」

先生は「君のいいところはここ」「この部分はすごく良くなった!」と一人ひとりの成長を褒め、同時に、口の開け方や音やリズムのとり方など、今後の課題を伝えました。熱心にメモをとる者や、もう一度歌ってみる者など、積極的に取り組むようすが見られました。

「先生、鍵盤を見てもいいですか?」音程やリズムを確認するためにピアノの周りに集合。「ビリーをやることになって初めて経験するレッスンですが、よく頑張っていると思います。みんな小さなころからバレエを学んでいるので、こちらのアドバイスをすぐ理解できる。習得能力も高いですね(宇都宮)」

最後はビリーのソロナンバー「エレクトリシティ」の歌唱指導が行われました。
歌い始めの「上手く言えません/言葉にできない/抑えきれない気持ち」は、ビリーがぽつりぽつりと自分の感情を言葉にしていく部分。「この歌は、楽譜のカウントどおりに歌おうとするよりも「演技」を大切にしないと成立しません。どんなに長い間(ま)ができてもいいので、自分の気持ちが決まってから歌い始めてみよう」と宇都宮先生。演技を意識して歌うことで、表情や声の大きさ、強調する言葉などに変化が生まれました。

最後に全員で「エレクトリシティ」を歌って90分間のレッスンは終了。宇都宮先生から次の課題として「声を遠くに届けること」「お芝居を意識して歌うこと」が伝えられました。

ビリーたちに聞きました!

レッスンを終えたばかりの4人にミニインタビュー! レッスンの感想やバレエとの出会い、ビリー役に向けて頑張っていることなどを聞きました。

浅田良舞(あさだ・りょうま)

12歳、小学6年生。バレエダンサーの両親のもとで2歳からバレエを始める。2023年英国ロイヤルバレエスクールのサマースクールにスカラシップ参加、ユースグランプリ2024日本予選プリコンペティティブ部門第1位

バレエのレッスンは楽しいですか?
はい、楽しいです!
バレエのクラスレッスンと『ビリー・エリオット』のバレエレッスンで違うところはありますか?
普段のバレエのレッスンだとやってこなかったことが、『ビリー・エリオット』のバレエでは大切だったりするところもあって、レッスンで坂本先生が教えてくれるのをひとつずつ勉強しています。今日もひとつ新しいことを教わりました。

経験があるバレエとは違い、ボーカルレッスンは初挑戦ですね。
今までやったことがなかったから、まだ歌は自信がなくて。だからレッスンの後はちょっと疲れます。
バレエよりも?
はい。
家でも自主レッスンはしていますか?
ビリーのレッスンがない日は、歌を見てもらったり、タップダンスを練習したりします。バレエはお父さんやお母さんにも見てもらいます。
良舞くんのご両親のバレエスタジオには、初演、再演でビリー役を演じた先輩(加藤航世くん、利田太一くん)がいますね。
はい。だから僕は3代目です。1代目、2代目とビリー役を繋いできたので、自分も繋げないといけないな、と思ってオーディションも頑張りました。
ビリー役に決まった時はどんな気持ちでしたか?
最後の面接の時、大人の人の質問する声がすごく怖く感じて、もうダメだって思いました。でも受かったって聞いたときは、本当に嬉しくて跳び上がりました。
これから数ヵ月後にビリー役を務める自分に向かって、応援の言葉をかけてあげてください。
(名前「良舞」から)「“良”く“舞”ってくれ!」

石黒瑛土(いしぐろ・えいと)

11歳、小学6年生。3歳でバレエを始める。2023年NBA全国バレエコンクール及びYBCバレエコンクール第1位。同年モナコプリンセスグレース・ダンスアカデミーへ留学

バレエもボーカルレッスンも、分からないことがあると自分から積極的に質問していましたね。
次回のレッスンに繋げるために、気になったところは質問して自分のノートにまとめています。自分でやっていることが合っているかいないか分からない時も先生に確認します。

ビリー役に挑戦するため、レッスン以外でここを頑張ろうと思うところは?
体力をつけようと思っています。本番になると今の倍くらい体力を使うし、このままだとビリーの完璧に演じられないと思うから。集中力もつけたほうがいいなって自分ではわかってるんですけれど、つい友だちと話しちゃって(笑)怒られることもあります。
バレエはいつから始めましたか?
3歳から始めました。お母さんがバレエの先生だったので、いつもバレエの音楽が聴こえていたし、お兄ちゃんとお姉ちゃんもバレエを習っていたから僕も踊るようになって。そうしたら、いつの間にかお母さんが、僕も一緒にバレエを習えるようにしてくれました。
バレエは楽しいですか?
はい。でも一度、やめようかなと思ったことがあります。その頃は友だちもいなかったし、男ひとりで女の子たちと一緒に習うのが嫌で、お母さんの個人レッスンを受けていました。でもたくさん注意されるし、納得いかないと反抗しちゃうこともあって。「バレエはもういいや」って諦めようとした時、男の子が入ってきたんです。すごく優しい子で一緒にいて楽しかったから、やめないで頑張ろうって思えたし、お母さんのアドバイスも聞くようになりました。
もうひとつバレエを続けられた理由はお兄ちゃんかな。コンクールの時もレッスンでも「俺のほうが上手いぞ!」とか競い合ったりして、バレエって楽しいなと感じました。お兄ちゃんは今、バレエで海外に留学しています。
これからの目標はありますか?
バレエ界に新たな道を作りたいです。「バレエはこんなにすごいんだよ」ってみんなに伝えたいし、それを見せられるダンサーになりたい。今はAIでいろいろできるようになったけれど、バレエは人にしかできない豊かな“こころ”と感情を持っています。そういうものを思いっきり出して、誰にも真似できない自分の踊りを見せられるようになりたいです。

井上宇一郎(いのうえ・ういちろう)

13歳、中学2年生。ダンサーの両親に3歳からバレエを学ぶ。海外短期留学の経験もあり。2022年ヴィクトワールバレエコンペティション第2位、パシフィックインターナショナルバレエコンペティティション第3位

ダンサーのご両親のもと、3歳からバレエを始めたという宇一郎くん、初めて習うボーカルレッスンはどうですか?
歌は声で表現するので、身体で表現するバレエとはやり方が違うなと思いました。歌では「いい声を出すためにどうするか」を習っています。最初は難しかったけれど、だいぶ慣れてきて今は楽しいです。
ビリー役のレッスンが始まってから、日常生活になにか変化がありましたか? 意識して取り組んでいることはありますか?
時間管理を頑張っています。レッスンの時は5分前に準備を済ませて待っていられるようにしよう、とか。レッスンが始まってから家で勉強する時間が少なくなってしまったので、ついていけなくならないように、きちんと授業を受けようと思っています。
健康管理はどうでしょう?
食事の管理はあまりしていないです。給食に好きなものが出てくるといっぱい食べちゃって(笑)。でもタンパク質は摂っています。体が成長しないしエネルギーも出ないから。レッスンが終わってから、筋肉のリカバリーや、疲れをカバーするものを飲んだりしています。

宇一郎くんがビリー役に応募したきっかけは?
僕が『ビリー・エリオット』を知ったのは去年なんです。「オーディションに挑戦してみたら?」と教えてもらってから映画『リトル・ダンサー』の映像を観て、やってみたいと思って応募しました。舞台は観ていないけれど、オーディションでは「過去の舞台を観ていないからこそ、ひき出せる何かがあるんじゃないか?」って言ってもらえました。
今までバレエを習っていて、ビリーのように「男がバレエなんて」とからかわれたりしたことはありますか?
小学校3年生の頃は言ってくる子もいたけれど、僕はそういうのが全然気にならないんです。その時も「そもそも、バレエって男が作ってるんだって聞いたよ」って言い返したら、向こうの返事はなかった(笑)。その後は言われることもなくなりました。
ビリー役には踊るシーンがたくさんありますが、いちばん楽しみなのは?
バレエだけでなくて、「アングリーダンス」みたいなパワーがあるダンスもできるのが楽しみです。バレエは型があって決められた動きがあるけれど、やっぱり思いっきり弾けるのが好きだから。
今の宇一郎くんから、『ビリー』初日を迎えた自分自身に向けてメッセージを伝えてください。
「お客さんを楽しませるためには何をすればいいかを考えて。怪我とか体調不良にならないように管理もしてね。自分がやらなきゃいけないことをきちんとやれれば、お客さんにもいい踊り、いいビリーを見せられるよ」

春山嘉夢一(はるやま・かむい)

13歳、中学2年生。小学1年生からバレエを習い始める。2022年バレエコンクールin横浜ジュニア3部門第3位、23年NBA全国バレエコンクール小学5・6年の部第2位

バレエはいつ、どんなきっかけで始めましたか?
小学1年生からです。きっかけは特になくて、突然「始めたいな」って。幼稚園の頃に、一度だけバレエの舞台を観に行ったことがあって、なんの作品だったかは覚えていないんだけれど、それがずっと印象に残っていたみたいです。だからいきなり「バレエをやりたい!」っていう気持ちになったのかな。
バレエはもちろん、ボーカルレッスンでも楽しそうに歌っていましたね。
どちらも楽しいです。歌は習ってはいないけれど、中学で合唱部に入っています。
嘉夢一くんは、ビリー役が大好きでこのオーディションを受けたと聞きました。
はい! バレエを始めたころに、お母さんが「バレエをやるんだったらこれを観たほうがいいよ」って『ビリー・エリオット』の舞台を勧めてくれました。観に行ったらものすごく感動しちゃって、自分もこんな風になりたい、ビリーをやってみたい!って思って挑戦しました。受かった時はすごく嬉しかったです。

レッスンが始まってから印象に残っている出来事は?
楽しいこともたくさんあったけど、大変なこともたくさんありました。あまりいい思い出じゃないですけれど、病気になってレッスンを一週間くらいお休みしたことがあったんです。本当は静かに寝ていないといけないのに、なんだか……どうしても寝ていることができなくて。その時のことがすごく印象に残っています。
踊り以外の趣味や、お休みの日にしていることはありますか?
うーん……特にないです。踊っているのが楽しい。
最後に質問です。初日の舞台に立つ直前の嘉夢一くん自身に、今、声をかけてあげるとしたら?
これからもっとたくさん練習が増えていって大変になると思うんですけど……「それを乗り越えたから、自信を持って舞台に立ってほしいな」って伝えます。

◉ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』2024年版製作発表(2024年2月17日)動画レポート

※ビリー役4名が初パフォーマンスで「エレクトリシティ」を披露!
※オールダー・ビリー役:永野亮比己さん、山科諒馬さんコメントも収録
動画撮影・編集:古川真理絵(バレエチャンネル編集部)
〈この動画は2024年11月24日までご覧いただけます〉

公演情報

Daiwa House presents
ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』

東京公演
【日程】
オープニング公演 2024年7月27日(土)~8月1日(木)
本公演 2024年8月2日(金)~10月26日(土)
【会場】東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)

大阪公演
【日程】2024 年11月9日(土)~24日(日)
【会場】 SkyシアターMBS

【スタッフ】
脚本・歌詞 リー・ホール
演出 スティーヴン・ダルドリー
音楽 エルトン・ジョン

【キャスト】
ビリー・エリオット(クワトロキャスト)浅田良舞、石黒瑛土、井上宇一郎、春山嘉夢一
お父さん(ダブルキャスト)益岡徹、鶴見辰吾
ウィルキンソン先生(ダブルキャスト)安蘭けい、濱田めぐみ
おばあちゃん(ダブルキャスト)根岸季衣、阿知波悟美
トニー(兄)(ダブルキャスト)西川大貴、吉田広大
ジョージ  芋洗坂係長
オールダー・ビリー(トリプルキャスト)永野亮比己、厚地康雄、山科諒馬
ほか

【公演に関するお問合せ】
ホリプロチケットセンター 03-3490-4949 (平日11:00~18:00/土日祝休)
*チケット一般販売 2024 年3 月13 日(水)11:00~

◆公式サイトはこちら

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