©蓮見徹
2024年7月、Daiwa House presents ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』 が幕を開けます。スティーヴン・ダルドリーの映画「BILLY ELLIOT」(邦題「リトル・ダンサー」)を同監督によりミュージカル化。イギリス北部の炭鉱の町でバレエと出会い、数々の障害を乗り越えロイヤル・バレエ・スクールを目指す少年エリオットの物語です。
バレエファン必見の場面のひとつは、ビリーが夢見る将来の自分と踊る「ドリームバレエ」のナンバー。将来のビリーの姿、オールダー・ビリー 役には、今年もバレエダンサーの経歴を持つ3名(永野亮比己、厚地康雄、山科諒馬)がキャスティングされています。
3人目のオールダー・ビリー役は厚地康雄(あつぢ・やすお) さん。劇中でビリーが入学試験を受ける英国ロイヤル・バレエ・スクールへの留学経験をもち、バーミンガム・ロイヤル・バレエで最高位のプリンシパルをつとめたバレエダンサーです。日本で活動中の現在も多くの舞台に引っ張りだこの厚地さんですが、バレエ以外の舞台に立つのはこれが初めてだそう。開幕直前の熱い稽古場のようすとともに、ビリーのようなバレエ少年だったころの思い出についても語ってくれました。
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厚地康雄 Yasuo ATSUJI
栃木県出身。石原千代に師事。2003年より英国ロイヤル・バレエ・スクールに留学。2006年バーミンガム・ロイヤル・バレエ(BRB)に入団。2011年より新国立劇場バレエ団にソリストとして移籍、翌年ファースト・ソリストに昇格。2013年BRBに再入団し、2018年同団初の日本人男性プリンシパルとなった。2022年に帰国、活動拠点を日本に移し、さまざまな舞台で活躍している。
厚地さんは今回の『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』がミュージカル初挑戦とのこと。稽古場には慣れましたか?
厚地 まず、綿密に組まれた膨大な稽古スケジュールに驚きました。僕の演じるオールダー・ビリー役は出番も少なく、余裕をもってできるだろうと思っていたけれど、とんでもない! この舞台は自分の稽古だけでなく、子どもたちと一緒にレッスンする時間も大事なんです。ビリー役は4人だから稽古も4倍。日々、男の子を何度も持ち上げたりサポートしたりしています。バレエの場合、プリンシパルのリハーサル時間はぎゅっと凝縮されているので、長時間稽古場にいるのも久しぶり。予想以上にハードですが、稽古時間を1秒も無駄にしないプロフェッショナルなみなさんと、濃密な時間を過ごさせてもらっています。
オールダー・ビリーの見せ場でもあるシーン「ドリームバレエ」の稽古について教えてください。今回のビリー役は4人ともバレエ経験者。一緒に稽古をしてみてどうですか?
厚地 つま先もきれいに伸びているし、まだ小さいのにこんなに踊れるんだ!とびっくりしています。さすが厳しいオーディションをくぐり抜けてきただけのことはありますね。「ドリームバレエ」の稽古は、振付捕のトム・ホッジソンさんの指導のもとで細かな確認作業を含め、一歩ずつ進んでいます。トムさんは子どもたちのことをめったに褒めません。僕がイギリスで子どものコーチング用のワークショップを受けた時「子どもは指導者が褒めると安心して歩みを止めてしまう」と習いましたが、それに近いメソッドなのだと思います。安易に「good」と言わずに子どものモチベーションを上げるのがとても上手なトムさん、カッコいいです。
ビリーと踊る時、バレエダンサーとして意識していることは?
厚地 4人とも個性豊かで、体型や踊り方もそれぞれです。僕は彼らをサポートする立場なので、一人ひとりの長所と短所を見極めながら、ズレが生じる部分を見つけ、個々に微調整していくよう心がけています。僕、そういう作業がとても好きなんです。バレエでパ・ド・ドゥを踊る時にも「彼女の場合は、ここの部分を持ってあげるとスムーズに回れるな」とか、どうサポートすればパートナーをより美しく見せられるかを最優先に考えていて、今回、ビリーとのダンスナンバーを稽古するときは、それに似た感覚を覚えます。ワイヤーで吊るされたビリーをオールダー・ビリーがサポートする振付はまさにパ・ド・ドゥ。バレエとは遠いイメージのワイヤーアクションですが、走って、相手をひっくり返して、宙に放り上げて、キャッチして……と、振りの流れもバレエに似ていて、面白い!と思いながら踊っています。
『ビリー・エリオット』のオールダー・ビリーは、ビリーの未来の姿として描かれています。キャラクターの解釈や演じ方など、いろいろなアプローチのできる役だと思いますが、厚地さんはどう解釈して演じていますか?
厚地 片手で椅子をくるくる回しながらバレエのステップを踏む場面は、プリンシパルになった未来のビリーのイメージです。後半の二人で踊るところでは、オールダー・ビリーとして、ビリーへ道標を示してあげたい気持ちを大切にしています。「もう、何があっても自分の道を諦めなくていいんだよ。つらいことがあったら僕が守る」という思いを込めて、彼を優しく包み込むように踊りたいですね。
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厚地さんがビリーたちと同じバレエ少年だった時代のことも聞かせてください。5歳でバレエを始めたそうですが、きっかけは?
厚地 先に妹が習っていて、その送り迎えについて行くうちに興味を持ちました。でも、今と違って男の子のバレエ人口は圧倒的に少なくて。恥ずかしがり屋な僕は女の子となんて全然話せなかったし、話したいとも思わなかった。だからスタジオではいつもひとりぼっちでした。自分からやりたいって言い出したものの全然楽しくないし、やめることばかり考えて……大きな声では言えませんが、向かい風に逆らって「バレエが踊りたい」と声を上げるビリーのスピリットとは真逆でしたね(笑)。結局、バレエは小学校卒業のタイミングですっぱりやめ、中学校ではテニス部に入りました。
バレエと離れた中学生の生活はどうでしたか?
厚地 部活に明け暮れていましたね。僕のいた中学校のテニス部は地域でも強いほうで、朝も放課後も毎日のように練習がありました。バレエはどんなにやっても好きになれなかったのに、テニスはすごく楽しかった。中3で引退するまで続けました。
その後、厚地さんは17歳でイギリスへバレエ留学します。ふたたびバレエの世界に戻ろうと決めるまでには、どんな経緯があったのでしょうか。
厚地 バレエ教室の先生から「男の子が足りないから10周年記念の発表会に出て欲しい」とお願いされました。部活も引退したし、まあ1回だけならいいかな、と久しぶりに行ってみたら、僕以外の男の子が入会していました。嬉しくて、ひとすじの光が差し込んだかのような気持ちになりましたよ。僕たちはすぐ友だちになりました。その子は僕より2歳上でバレエ初心者。上達するのがすごく早くて、あっという間に近いレベルで張り合えるようになりました。同時期に男らしい大ジャンプを教わったことで踊る楽しさが増し、さらにパ・ド・ドゥのレッスンも始まり、日に日にバレエが好きになっていきました。
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そして2003年に留学。厚地さんはビリーが入学試験を受けたのと同じ、英国ロイヤル・バレエ・スクールで学びました。プロを目指そうと決めたのはこの時ですか?
厚地 はい、16歳の時にバレエ教室の先生から進路を聞かれ、プロのバレエダンサーになりたいと言いました。そこで経験を積むためにとローザンヌ国際バレエコンクールに挑みましたが、結果は予選落ち。でも僕は、その年の審査委員長であり当時ロイヤル・バレエ・スクールの校長だったゲイリーン・ストックのところへ、オーディションを受けさせて欲しいと直談判しに行きました。彼女はローザンヌでの僕を見てくれていたので、「もし合格の可能性がないのなら、ここでハッキリ言ってください」と伝えると、オーディションにいらっしゃいと言ってくれました。その足でロンドンに飛び、オーディションを受け、ありがたいことに合格することができました。
初めての海外生活で、ホームシックになったり言葉の壁を感じたりすることはありませんでしたか?
厚地 それが一度もありませんでした。クラスには男の子が15人ぐらいいたので、友だちがたくさんできたからかな。僕はコンクール経験があったぶん、みんなよりちょっとだけテクニック的なことが上手くできたので、よく「どうやるの? 教えて!」と声を掛けられました。そういう時、言葉は話せなくても、バレエだったら身体で伝えられるんですよね。同じ目標をもった仲間たちと過ごす学校生活は本当に楽しく有意義な日々でした。
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厚地さんのようなプロのバレエダンサーを目指している子どもたちにメッセージをお願いします。
厚地 今はスマホさえあれば、大体のことは調べられるし疑問も解決できる。いっぽうで自分の心を動かす何かを、何もない状態から探し当てることの大切さに気づかないまま、ロボットみたいにみんなと同じ動きをすることで納得してしまう人もたくさんいると思います。
自分の内側からあふれる感情を表現するためには、想像力を育てること。それで初めてお客様に伝わります。僕は全幕の主役をやる時に、「この物語の主人公がもし厚地康雄自身だったとしたら、この場面で何を考え、どう行動するだろう」と想像をめぐらせます。みんなも先生から与えられた振りを言われた通りにこなすだけじゃなくて、この踊りを観たお客様は共感してくれるかな? と考えてみてください。難しいことを言いましたが、覚えていてくれたら嬉しいです。
もしも厚地さんがオールダー・ビリーのように、バレエをやめることばかり考えていたあの頃の自分と出会えたとしたら、なんと声を掛けてあげたいですか?
厚地 「もっとバレエを頑張れ!」とは言わないと思います。ダンサーになりたいと思ったらまず人間として成長すること。そのためにも「いろいろな経験をたくさんしてね」と言ってあげたいかな。
公演情報
Daiwa House presents
ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』
東京公演
【日程】
オープニング公演 2024年7月27日(土)~8月1日(木)
本公演 2024年8月2日(金)~10月26日(土)
【会場】東京建物Brillia HALL (豊島区立芸術文化劇場)
大阪公演
【日程】2024 年11月9日(土)~24日(日)
【会場】 SkyシアターMBS
【スタッフ】
脚本・歌詞 リー・ホール
演出 スティーヴン・ダルドリー
音楽 エルトン・ジョン
【キャスト】
ビリー・エリオット(クワトロキャスト)浅田良舞、石黒瑛土、井上宇一郎、春山嘉夢一
お父さん(ダブルキャスト)益岡徹、鶴見辰吾
ウィルキンソン先生(ダブルキャスト)安蘭けい、濱田めぐみ
おばあちゃん(ダブルキャスト)根岸季衣、阿知波悟美
トニー(兄)(ダブルキャスト)西川大貴、吉田広大
ジョージ 芋洗坂係長
オールダー・ビリー(トリプルキャスト)永野亮比己、厚地康雄、山科諒馬
マイケル(クワトロキャスト)髙橋維束、豊本燦汰、西山遥都、渡邉隼人
デビー(トリプルキャスト)上原日茉莉、佐源太 惟乃哩、内藤菫子
ほか
【公演に関するお問合せ】
ホリプロチケットセンター 03-3490-4949 (平日11:00~18:00/土日祝休)
*チケット 東京公演 10月公演まで発売中
大阪公演 一般販売 2024 年8 月2 日(金)10:00~
◆公式サイトはこちら
◉ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』2024年版製作発表動画レポート
※ビリー役4名の初パフォーマンス披露&会見コメント
※お父さん役:益岡徹さん、鶴見辰吾さん、オールダー・ビリー役:永野亮比己さん、山科諒馬さんの会見コメントも収録!
動画撮影・編集:古川真理絵(バレエチャンネル編集部)
〈この動画は2024年11月24日までご覧いただけます〉
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