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特集:ミュージカル「ビリー・エリオット」②オールダー・ビリー役 山科諒馬インタビュー~ビリーは、僕にバレエを始める勇気をくれた

加藤 智子

2024年7月、ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』が幕を開けます。スティーヴン・ダルドリーの映画「BILLY ELLIOT」(邦題「リトル・ダンサー」)を同監督によりミュージカル化。イギリス北部の炭鉱の町でバレエと出会い、数々の障害を乗り越えロイヤル・バレエ・スクールを目指す少年エリオットの物語です。
バレエファン必見の場面のひとつは、ビリーが夢見る将来の自分と踊る「ドリームバレエ」のナンバー。将来のビリーの姿、オールダー・ビリー役には、今年もバレエダンサーの経歴を持つ3名(永野亮比己、厚地康雄、山科諒馬)がキャスティングされています。

トリプルキャストの一人として初挑戦の山科諒馬(やましな・りょうま)さんは、バレエダンサーからミュージカルの世界へと飛び込み、数々の舞台でさまざまな役柄を演じています。オールダー・ビリー役にどんな思いで取り組んでいくのか、バレエとの関わりやミュージカルの魅力について、聞きました。

©政川慎治

山科諒馬 Ryoma YAMASHINA
大阪府出身。10歳よりバレエを始め、18歳で谷桃子バレエ団に入団。すべてのレパートリーでプリンシパルやソリストを務め、古典から現代作品まで幅広く踊り分ける稀有なダンサーとして活躍。退団後は、劇団四季『CATS』への客演でミストフェリーズ役に抜擢されたのを皮切りに、様々なミュージカルやストレートプレイに出演。俳優として着実にキャリアを重ねている。

山科さんにとって、『ビリー・エリオット』はとても大切な作品だと聞きました。
山科 バレエを始めるきっかけとなったのが、10歳の時に見た映画版の『ビリー・エリオット』(「リトル・ダンサー」)でした。もともと妹がバレエを習っていて、一度発表会のお手伝いで舞台に立ったことがあったんです。立っているだけでしたが、バレエって楽しいなと思い、自分も習い始めようかどうしようかと悩んでいたその時期だったんですね。発表会が終わってからも、寝る前に「ああ、やっぱりやりたいな」と考えていたりしていました。
10歳の山科少年が映画版『ビリー・エリオット』のどんなところに感動したのか、覚えていることはありますか。
山科 僕が住んでいたのは大阪の少し田舎のほうだったのですが、当時は男の子がバレエをやることじたい、ちょっと“色物”のように見られるところがありました。ビリーも最初は父親や周りの人たちからはバレエをやることを反対されますが、「でも僕はやるんだ」と立ち向かう。そこに感銘を受けましたね。
その頃から、プロのダンサーになろうと?
山科 そうですね。もともと、自分がサラリーマンになって毎日会社に行って、というイメージが掴めず、何か手に職をつけたい、どんな仕事があるのかな、と漠然と考えていたところがあるんです。ですから、せっかくダンスをやるなら仕事になるくらいまでやってみたいなと思っていました。それに映画『リトル・ダンサー』でアダム・クーパーが演じたオールダー・ビリーは本当に衝撃的で、目指すところはここだ、と感じたのです。しかも映画版で彼が踊るのはマシュー・ボーンの『白鳥の湖』。普通は女性が演じる白鳥を男性が踊るわけですから、「男がやってもいいんだ!」というのも衝撃でした。自分がいいと思ったことに突き進んでいいと感じることができて、すごく勇気をもらいました。
山科少年もビリーと同じように成長し、プロとして活躍することになります。バレエ団でのキャリアはどのようなものでしたか。
山科 所属していた谷桃子バレエ団ではおもに古典作品の主要な役柄を踊っていました。現代作品にも取り組みました。そんな中で、いまのうちにもっといろんな表現のツールを持っておいたほうが長く舞台に立ち続けることができるのではないか、と思うようになったんです。僕はいろんな振付家の作品を踊るのが好きでしたからそこが平行移動していき、台詞を喋ってみたり歌を歌ってみたりしたいという思いが、どんどん強くなりました。
そうして8年間在籍したバレエ団を退団、ミュージカルの世界に入りました。バレエ団に所属しながらでも良かったのかもしれませんが、それでは自分の中で覚悟が決まらないような気がしましたし、ひとつの形になるまでは、と考えていたからです。バレエ界からミュージカルの世界へ来て、バレエ以外の分野でも活躍できるような幅を持つ人が増えたら、今後のバレエ界、演劇界のためにもなるのでは、とも思ったのです。
ずっとバレエの世界で活躍してきたダンサーがミュージカルの世界に飛び込んでいくのは、とても勇気のいることだったのではないでしょうか。
山科 「バレエダンサーだよね?」「ミュージカルの人でしょ?」と、枠にとらわれるのは嫌でした。だから、(ダンサーだから)歌はもう一息、と思われることがすごく悔しくて! 頑張って勉強して、いまはダンスなしで歌う役もいただけるようになりました。バレエのキャリアから始めた、若く才能ある人たち……今回の4人のビリーもそうですけれど、彼らにとって、いろんな選択肢がある世界であればいいですよね。

©政川慎治

ミュージカルの世界でキャリアを積んでいく中で掴んだオールダー・ビリー役。出演が決定した時、どんな気持ちでしたか。
山科 オーディションに受かったと聞いた時は、ものすごく嬉しかったです。ぶっちゃけて言いますと、この役をやりたい気持ちはすごく強かったけれど、自分はオールダー・ビリーのキャラクターではないなと感じる部分もあったんです。その役をやりたい気持ちと選んでもらえるかどうかはまた別ですから。でも選んでいただいたからには精一杯、頑張りたいと思っています。
この作品の中ではいろんな人間ドラマが描かれますが、主軸になっているのはビリーの成長です。オールダー・ビリーは、成長したビリーのその先の存在なので、人としての厚みを表現したいですね。ダンサーの踊りには、その人の人生とか思いが滲みでてくるものです。ビリーの成長すべてを背負ったダンサーとして舞台に立たなければならないので、それはもう、演じるうえでの重みを感じます。
オールダー・ビリーの登場シーンは、子どものビリーとのデュエット。ビリーがバレエダンサーになった未来の自分と踊る、印象深い場面です。山科さんは、この場面をどのように取り組んでいこうと考えていますか。
山科 印象的な場面ですが、ある意味、目立ちすぎないほうがいいのかなとも思っているんです。ビリーの心の中を映し出すシーンですから、いい意味で、いわば舞台装置のひとつのように演じられたらこの舞台に合うのかなと。つまり、自分がどう踊りたいとか、どう表現したいとかよりも、オールダー・ビリーが作品の中でどういう存在であるのかということのほうが大切ですし、そこが客席に伝わればと思っています。お客様に余計な情報を与えてしまわないように演じることができたらいいですね。
この作品の見どころは、ビリーを取り囲む様々な人々のドラマが描かれていること。そして、バレエが物語の重要な役割を果たしているところですね。
山科 ビリーのお父さんと炭鉱夫たち、またその家族のストーリーであったり、ビリーにバレエを教えるウィルキンソン先生の人生であったりと、いろんな人々の物語が交錯しています。バレエというツールが用いられた作品ではありますが、クラシック・バレエの全幕作品を観た時とはまったく違った化学反応がもたらされます。ビリーが舞台の前のほうで綺麗なバレエを踊っている時に、後ろのほうでは炭鉱夫のおじさんたちが踊っていたりして、バレエの扱いや作品への差し込み方がすごく上手い!って思います。日常の世界を舞台にしながら、表現としてバレエが入ってくる演出がすごく素敵なんですよね。バレエの華やかな部分だけでなく、ダンサーを目指す人間の裏側を描くことで、バレエがより美しく見えてくるのかもしれません。出演者としてやりがいを感じますし、もちろん、見応えもあると思います。
バレエが好きなら、きっと存分に楽しめる舞台といえますね。しかも、一緒に行こうと誘いやすいように思います。
山科 普段バレエをあまりご覧にならない方にとって、特に古典バレエは「マイムがよくわからない」とか、「なぜここであの人が踊りだすんだろう」とか、「蛇に噛まれて死にそうなのにまだ踊っている……」とか(笑)、疑問を感じるところはいろいろあると思いますが、このミュージカルは誰でも楽しめます。老若男女、おじいちゃんもおばあちゃんも一緒に楽しんでいただけたらと思っているんです。

©政川慎治

今日の製作発表(※編集部注:取材は2月下旬)で披露されたビリーたちのパフォーマンスは、それぞれの個性があって魅力的でした。彼らとの共演を楽しみにしているのではないでしょうか。
山科 本格的な稽古はこれからですが、めちゃくちゃ楽しみです! 製作発表の会場の楽屋で彼らがお弁当を食べている様子を見ていたら、それぞれ個性があって面白いんですよ。のんびり食べていたり、「野菜が食べられない」とか「唐揚げが美味しい」とか言っていたり(笑)。パフォーマンス直前まですごくはしゃいでいた子どもたちが、舞台上であんなに堂々と素晴らしい演技を披露して……もうプロ、ですよね。肝も据わっているし、みんな本番に強い。4人それぞれが、全然違うビリーになるはずです。これから稽古を重ねていき、初日を迎えるまでにぐんぐん良くなっていくと思います。
ビリー達を見ていると、バレエを始めた頃を思い出すのでは?
山科 バレエを習い始める前は、近所でザリガニを釣ったりしていました(笑)。結構、野生児だったんです。とはいっても本当はかなりの引っ込み思案で、人前で話すことが得意でなかった。バレエは喋らなくていいからやってみよう、と思って始めたところもあるんです。英語をちょっと習っていた時には、大会でスピーチをする機会があったのですが、ずっと練習してきたのに大勢の人を前にしたら全然喋れない、という経験も。それが今では、人前で喋りまくって歌まで歌う仕事をしているわけですから、人生、何が起こるかわかりませんね。

©政川慎治

公演情報

Daiwa House presents
ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』

東京公演
【日程】
オープニング公演 2024年7月27日(土)~8月1日(木)
本公演 2024年8月2日(金)~10月26日(土)
【会場】東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)

大阪公演
【日程】2024 年11月9日(土)~24日(日)
【会場】 SkyシアターMBS

【スタッフ】
脚本・歌詞 リー・ホール
演出 スティーヴン・ダルドリー
音楽 エルトン・ジョン

【キャスト】
ビリー・エリオット(クワトロキャスト)浅田良舞、石黒瑛土、井上宇一郎、春山嘉夢一
お父さん(ダブルキャスト)益岡徹、鶴見辰吾
ウィルキンソン先生(ダブルキャスト)安蘭けい、濱田めぐみ
おばあちゃん(ダブルキャスト)根岸季衣、阿知波悟美
トニー(兄)(ダブルキャスト)西川大貴、吉田広大
ジョージ  芋洗坂係長
オールダー・ビリー(トリプルキャスト)永野亮比己、厚地康雄、山科諒馬
ほか

【公演に関するお問合せ】
ホリプロチケットセンター 03-3490-4949 (平日11:00~18:00/土日祝休)
*チケット一般販売 2024 年3 月13 日(水)11:00~

◆公式サイトはこちら

◉ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』2024年版製作発表動画レポート

※ビリー役4名の初パフォーマンス披露
※オールダー・ビリー役:永野亮比己さん、山科諒馬さんコメントも収録!
動画撮影・編集:古川真理絵(バレエチャンネル編集部)
〈この動画は2024年11月24日までご覧いただけます〉

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