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【特別対談】ジョージ朝倉(「ダンス・ダンス・ダンスール」)×池田武志(スターダンサーズ・バレエ団)〜「緑のテーブル」“死”は鏡。登場人物と私たちの心を映し出す

阿部さや子 Sayako ABE

2022年9月3日(土)、神奈川県民ホールにて、スターダンサーズ・バレエ団が『緑のテーブル』を上演します。

『緑のテーブル』は、ドイツの振付家でピナ・バウシュの師としても知られるクルト・ヨースが振付けた歴史的名作です。
この作品が初演された1932年は、第一次世界大戦が終わり、第二次世界大戦の影がひたひたと忍び寄っていた時代。ヒトラー率いるナチスが日増しに勢力を増していくなか、ヨースは“戦争を起こす人間”に対する激しい抗議として、この作品を発表しました。

日本ではスターダンサーズ・バレエ団が1977年に初演。その後2019年に14年ぶりの再演を果たして大きな話題を呼び、翌2020年にも上演が決定したものの、コロナ禍のため中止に。しかし2022年3月に2年越しの上演を果たし、この9月には神奈川県民ホールで1回限りの公演が実現します。

2019年と2022年3月の上演時、各2回の計4公演を「全部観た」と話すのは、大人気バレエ漫画「ダンス・ダンス・ダンスール」の作者・ジョージ朝倉さん。
そしてその2019年以降の『緑のテーブル』全公演で、同作の主役「死」を演じている、スターダンサーズ・バレエ団の池田武志さん。

漫画家とバレエダンサー、アーティスト同士の視点で『緑のテーブル』を掘り下げる、スペシャル対談をお届けします。

ジョージ朝倉さん(写真右)、池田武志さん ©︎Toru Hasumi

『緑のテーブル』
平和会議のモチーフである緑のテーブルを囲んで議論をしている、マスクを付けた黒服の紳士たち。彼らはその国際会議で、いかにも身勝手な調子で衝突し、戦争を起こします。しかしその戦争で実際に戦い、苦しみ、犠牲になるのは、罪もない市井の人々。戦争で利益を得る者が暗躍する戦場で、未来があったはずの若者たちが兵士となり、老いた母親は静かに死を迎え、民間兵として立ち上がった女性は処刑され、若い娘は売春宿に売られた末に命を落としますーー。

◇◆◇

「緑のテーブル」は作品が満点。僕らにできるのは減点をなくすことだけなんです(池田武志)

おふたりは今回が初対面ですか?
池田 直接お会いするのは初めてです。ただ、ジョージ先生が以前ツイッターで『緑のテーブル』について素晴らしい感想をつぶやいていらっしゃるのを発見して、思わず「ありがとうございます!」とリプライを送ったことがあります(笑)。

ジョージ リプが届いてびっくりしました。「ご本人だ!」って(笑)。

今日(※取材は8月中旬)はこの対談の前に、スターダンサーズ・バレエ団のスタジオで池田武志さんの「死」のリハーサルをジョージ先生に見学していただきましたが、ご感想は?
ジョージ 率直に、凄かったです。いつもは舞台全体からの「圧」がある中で観ているわけですけれど、普段の稽古場というフラットな環境の中で観ると、さらに細部が見えてくるんだなと。それはそれでとても感動しました。

池田 今回の公演に向けてのリハーサルは今日が初めてだったので、全力でというよりは少しずつ思い出しながら……という感じでした。でも自分としても「これならすぐに感覚を取り戻せそうだ」という手応えを感じられたので、よかったです。

ジョージ 「感覚」というのは、いわゆる「役が降りてくる」みたいなことですか?

池田 物語バレエなど他の演目だとまさにそういう感じで、その役に自分で入り込んでいかなくてはいけないのですが、『緑のテーブル』に関してはアプローチがまったく違います。この作品は、作品それ自体が100点満点。だから僕たち演者に求められるのは、それをいかに減点させないか、ということだと思うんですよ。例えば『白鳥の湖』や『くるみ割り人形』なら、ダンサーが演技を工夫したり、自分なりの個性や解釈を加えてみたりすることで、より良い舞台になっていきます。でも『緑のテーブル』は、僕らが余計なものを足したから良くなるわけじゃない。むしろその逆です。クルト・ヨースが作った原本こそが完璧なのだから、僕たちにできるのは「加点」ではなく、ただ「減点を減らすこと」だけなんです。

ジョージ つまり、オリジナルを正しく伝えるということですね。それは、バレエ団のみなさん全員の共通認識なんですか?

池田 そうですね。今年は『緑のテーブル』初演から90周年なのですが、90年経ってなお作品がまったく色褪せていないのは、ジャネット・ヴォンデルサールさんたち振付指導者の厳密な指導と、それを演じてきた世界中のダンサー全員が「点を減らさないように」と必死に努力してきた結果だと思うんですよ。僕たちスターダンサーズ・バレエ団も、「100点を取りにいくぞ!」という気持ちは全員が持っていると思います。

©︎Toru Hasumi

ジョージ 池田さんは2019年の再演時からずっと「死」の役ですけれど、配役はジャネットさんが決めたのですか?

池田 そうです。この作品を上演するにはいろいろと厳しい取り決めがあって、「配役は完全オーディションで決める」というのも条件のひとつ。なので僕らも全員、若手もベテランも関係なく、みんな横一線でゼロからオーディションを受けました。まずはクラス・レッスンを見ていただいて、そのあと「旗手」という役の動きをやって見せる、という内容だったのですが、後から聞いたところによると、僕に関してはクラス・レッスンの段階で、ジャネットさんが「『死』はあのダンサーで」とおっしゃっていたそうです。

ジョージ ジャネットさんはどうして池田さんを「死」に選んだのか、理由は聞きましたか?

池田 はっきりとは聞いていないのですが、ひとつには体格的なこともあったかと。僕はバレエ団の中では背が高いほうで、体格も大きい。「死」には強さや存在感が必要なので、まずはヴィジュアル面が合っていたのだと思います。でも最終的に踊らせてもらえるかどうかは、実際にリハーサルに入ってからの出来次第なんですよ。というのも、先ほど言った『緑のテーブル』の上演条件のなかに、「6週間リハーサルをしても『死』のダンサーが満足なレベルに達しなかった場合には、他のバレエ団から代役を招くこと」という取り決めも入っているそうなので。

ジョージ 恐ろしい……。

池田 僕もそれを聞いて、いつ降ろされるんだろう……とドキドキしていました(笑)。でもジャネットさんはとても厳しいけれど愛のある方で、本当に一対一で、二人三脚のようにして徹底的に指導してくださいました。彼女は僕たちの本番のあと、今度はポルトガルのバレエ団で指導があるからと日本を発たれたのですが、「もし『死』の役が上手くいかなかったら、武志を代役に呼びたい」とおっしゃっていたそうです。

死は誰にも訪れる。池田さんの「死」は、その人を映す鏡のようだと感じます(ジョージ朝倉)

ジョージ先生は2019年に上演された時の2回公演と、2022年3月の2回公演、計4公演をすべてご覧になったそうですね。
ジョージ 最初は単純に、「あ、面白そう」と思って観に行ったんです。プロモーション動画を見かけて、これは絶対に私好みの作品だと感じて。それで2019年の公演の初日を観に行って、「すごいものを観てしまった」と、衝撃を受けました。正直に言うと、私は難解すぎる作品だと、ちょっと眠たくなっちゃうことがあるんですね。でも『緑のテーブル』は、いい意味でとてもわかりやすかった。テーマが直球で胸に飛び込んでくるし、皮肉も効いているし、これはいい作品だと思いました。それで翌日も観に行ったら、初日以上に感動して。

ジョージ朝倉さん(写真右)、池田武志さん ©︎Toru Hasumi

池田 この9月の神奈川公演もそうなのですが、あの時も『ウェスタン・シンフォニー』と『緑のテーブル』のダブル・ビルで、「Dance Speaks」という公演タイトルがついていたんですよね。つまり「ダンスは何を語るのか」。まさに、ダンスが語りかけるメッセージを観客のみなさんにちゃんと受け取っていただける作品だと思います。

ジョージ とくにウクライナ危機のような世界情勢にある今、3年前よりもさらに多くの人が観てくれたらいいなと思っています。

池田 おっしゃる通り、公演が2年延期になった間にこのような情勢になってしまって、僕たちも「今こそこの作品を届けなくては」という使命感のようなものも感じています。
『緑のテーブル』は戦争の犠牲になっていく人々の悲劇が8つの場面で描かれるのですが、それぞれのシーンがなぜ胸にくるかというと、どの場面も、その人たちにはどうすることもできなかったことばかりだからだと思うんですね。「自分がこう行動していればその悲劇は起こらなかったのに」みたいなことではなく、個々の思いや力ではどうにもならないところで世界が動き、その流れに押し潰されていった人たちの情景が、淡々と綴られていく。そのやるせなさ、切なさが、場面を重ねるごとに胸に積もっていくわけです。
そして「死」である僕は、一つひとつの場面をどう受け止めるべきなのか。3年前に初めて挑戦した時は、「死=無」と解釈して演じました。でも今は、各場面に対して自分がどう感じるかを大事にしています。その場面で命が果てようとしている人の悲しみを受け取って、彼・彼女と同調して、自分の世界へ連れていく。そういう気持ちで演じています。

ジョージ 私、今年3月の舞台を観た後に、ツイッターで池田さんに質問をしたんですよね。「どんな気持ちで舞台に立っているんですか?」って。

池田 そうでしたね。

ジョージ あの「死」を演じている時、池田さんはどういう心持ちでいるのかなと思って。というのも、2019年に初めて観た時の池田さんはまさに「無」というか、ただそこに存在するもの、誰に対しても平等に存在するものとしてそこにいる、と感じたんです。ただ、それを演じるダンサーが実際には人間である限り、そういう存在を表現するって難しいじゃないですか。だからそれも凄いことだなあと。
ところが今年3月の公演で観た池田さんは、「無」というよりは「鏡」みたいだと感じました。老母にも、パルチザンの女性にも、若い娘にも、兵士にも「死」は訪れる。でもその「死」はあくまでも、今その場面で死にゆかんとしている人から見た「死」なのだと。そして最後に舞台から私たち客席のほうを見据えたまま足踏みをするところ、あそこは私たちが見ている「死」なのだと、ハッとしました。彼は最後に、観客の心をも映し出して見せているのだと。

池田 それは本当に嬉しいお言葉です。じつは僕自身、そう感じていただきたくて演じていた部分があったので。その人にとって、死は恐いものなのか、自分を楽にしてくれるものなのか。その人は死に抗いたいのか、それとも死を望んでいるのか。僕はそれぞれの人物の思いを映し出し、それぞれの最期にきちんと報いる「死」であれたらと思っています。

『緑のテーブル』は、美術ファンの間でも高い評価を受けていると聞きます。ジョージ先生も漫画家として素晴らしい絵をお描きになりますが、衣裳やセットなども含めて美術的な視点ではどう感じますか?
ジョージ それも私がこの作品を好きな理由のひとつです。もう、絵面そのものが良いんですよ。とくに最初と最後、緑のテーブルをマスクの紳士たちが囲んでいるシーンなんて、インパクトは抜群だし構図も完璧。それから、若い娘が「死」に抱かれるようにして息を引き取るシーンも素晴らしいですよね。池田さんが娘を床に横たわらせて、こちらを見るところ。あの瞬間も、絵として完璧だと思います。

池田 あの娘の死のシーンはよくできているなと僕も思います。バレエ的な意味で言うと、すごく歪なポーズではあるんですよ。脚はインにしたまま体を正面に向けて顔を上げる、みたいな状態ですから。だけど正面から見ると、もうそれ以外はあり得ないと思う絵になっている。本当に計算し尽くされていますよね。

ジョージ あのシーンは、観ているこちらからすると、訴えかけられている気持ちになるんです。きっと「死」にその意志はないと思いますけれど、こちらが勝手にそう感じてしまう。でもその場面を含めて、「死」ってまったく瞬きしませんよね?

池田 その通りです。目線って「線」というだけあって、ある方向に向かって強く飛ばしているものですよね。ところが瞬きをしてしまうと、その瞬間に線が切れて、弱くなってしまう。だから絶対に瞬きしないようにしています。僕はコンタクトレンズを入れているので、目が乾いて結構つらいのですが(笑)。

ジョージ 瞬きをしちゃダメというのも、振付家の指定なんですか?

池田 そうです。それから口は終始閉じたまま、開けてはいけないというのもあります。舞台ではメイクで口のラインを直角に描くのですが、口を開けるとそれが歪んで見えてしまうので。だからずっと鼻呼吸。どんなに息が切れても、口で大きく呼吸できないんです。

瞬きもできず、口で息もできない上に、全身をずっと力ませていたり、ドン!と音がするくらい強く足踏みしたり……「死」は身体的な負担もかなり大きいのでは?
池田 そうですね。ずっと拳を握りしめているので手が開かなくなったり、脚や腰に深刻な痛みを抱えたりしたこともあります。でもそれ以上に大変なのは、この役が圧倒的に孤独だということです。3年前のオーディションを控えていたある日、僕の前に「死」を演じていたバレエ団の先輩、新村純一さんがこうおっしゃったんです。「チャンスがあるなら絶対に『死』をやったほうがいい。気が狂うほど孤独だけど、それだけの価値がある役だから」と。僕は基本的に楽天的な質(たち)なので、そこまでではないだろう……と思っていたのですが、先輩の言葉は本当でした。役に向き合えば向き合うほど、どんどん孤独に追い込まれていって、しだいに誰とも話せなくなった。そして劇場の楽屋も、「死」は個室なんですよ。僕の他にはジャネットさんしか入ってこない、がらんとした楽屋。そこでたったひとりで役と向き合い、ジャネットさんから「違う、まだ違う」と言われながらひたすら練習し続ける、そんな日々でした。
なぜ、「死」を演じるダンサーは孤独になるのでしょうか?
池田 やはり、ひとりでとことん役と対話し続けないと、正解が出ないんですよ。この役は「演じる」ものでも「頑張る」ものでもなくて、ただそれに「なる」もの。そこにたどり着くにはやはり孤独が必要だったと思うし、その本当に苦しくてつらい時間も含めて、「死」という役を与えていただけたことには感謝しかありません。

「ダンス・ダンス・ダンスール」や僕の踊りが、子どもたちの励みになったら嬉しい(池田武志)

ところで池田さんは、ジョージ先生の漫画『ダンス・ダンス・ダンスール』を読んだことはありますか?
池田 全巻とまではいきませんが、最初のほうを読ませていただきました。つい最近はそれがアニメ化されて、東京バレエ団の井福俊太郎くんや秋元康臣さんがモーションアクターを務めたというお話にもびっくりしましたね。そこまでリアルさにこだわるんだ!と。
読んでみてのご感想は?
池田 まずは男の子が主人公ということにシンパシーを感じました。主人公の潤平くんは、最初はジークンドーをやっていて、少し遅れてバレエを始めますよね。僕も、彼と状況は少し違うにしても、最初はテニスとかピアノとかサッカーをやっていて、そこから「やっぱりバレエだ!」となっていったんですよ。そういう面で、潤平くんの気持ちがわかるなあと思う部分もあります。
ジョージ 池田さんは何歳でバレエを始めたんですか?

池田 小学校4年生の時です。妹が先に習っていて、送り迎えに同行するうちに、そのお教室の先生から「武志くんも一緒にやりなさい」と言われて。でも、最初はすごく嫌でした。女の子ばかりの中に、男の子1人というクラスだったので。学校の友達にも、バレエを習っていることは内緒にしていました。

ジョージ ああ、やはり言えないものなんですね……。

池田 最初の頃はそうでした。もちろん、わかってくれる友達は「すごいじゃん! かっこいいよ」等と言ってくれたのですが。僕がバレエに本気になったのは、中学生になってしばらく経ってからのことです。コンクールに出るようになって、同世代の他の男の子たちを目の当たりにしたことが大きかった。「男子でもこんなにバレエを楽しそうに踊るんだ!」と驚いたし、「僕ももっと上手になって、彼らみたいに踊りたい!」とも思うようになりました。だからジョージ先生が男の子を主人公にしてバレエ漫画を描いてくださったのは、素晴らしいことだなと。先生はなぜ男の子を主人公にしようと思ったんですか?

©︎Toru Hasumi

ジョージ うちは娘が2人いるのですが、上の子が4歳になった時に、ピアノを習わせようと思いまして。その代わり彼女の好きなものもひとつ習っていいということにしたら、本人が「バレエを習いたい」と。それで近所の教室に通い始めたところ、そこに男の子がいたんです。娘より年下の小さな男の子だったけれど、彼はいつもすごく楽しそうに踊っていました。ある時、その子のお母さんとたまたまお話しする機会があったので、聞いてみたんですよ。「息子さん、すごく楽しそうですね。お母様がバレエをお好きなんですか?」って。そうしたら、「違うんです。たまたまバレエ教室の前を通った時、あの子が自分から『僕もこれをやりたい』って言ったんですよ」とおっしゃって。「息子はこれまでいろいろな習い事をやってみたけど、全部続かなかった。でもバレエだけは続いているんですよ」と。当時の私はバレエについて全くの無知だったのですが、そこから「確かにバレエって男性もいないと成り立たないよね?」とか、「プロの男性ダンサーって、どういうふうに思春期を乗り越えて、あの舞台にたどり着いたんだろう?」とか、次々と興味が湧いてきました。で、そういう話を小学館の担当編集さんに話したら、たまたまその人がかつてバレエ漫画『昴』の続編の『MOON』(曽田正人/小学館刊)を担当していたこともあり、「バレエ、いいじゃないですか。やりましょうよ!」という話になって……というのが直接のきっかけです。

池田 そんな巡り合わせが! でも本当に、『ダンスール』をきっかけにバレエを始める男の子が出てきたり、すでに習っている子が「そうか、バレエってかっこいいんだな」と思ってくれたら、すごく素敵だと思う。

ジョージ 『ダンスール』の読者の方がSNSで「息子にバレエを習わせてみようかな」等とつぶやいているのを見かけるたび、「ぜひ習わせて!」って念じています(笑)。でも私が思うに、池田さんって、すごくいい意味で「男の子に好かれるタイプの男性ダンサー」ですよね。踊りがとても美しくて、でもかっこよさがあって。男の子が池田さんに憧れるの、すごくわかる気がします。

池田 少なくとも自分は女性に騒がれるタイプではない、という自覚はあります(笑)。でも実際、僕のファンだと言ってくれる男の子に出会ったり、子どもたちが僕の踊りを見て「自分もがんばる!」と言ってくれたりすると、すごく嬉しくなりますね。そういう時、プロになってよかったなあとしみじみ思います。それに僕自身も、子どもの頃から「男が憧れるタイプの男性ダンサー」が好きだったんですよ。演目的にも、バレエ『ドラゴンクエスト』みたいな男心をくすぐる作品が踊りたくて、スターダンサーズ・バレエ団を選んだ面もありますし。

ジョージ ドラクエバレエ! 池田さんの黒の勇者、最高です。

池田 僕も大好きな役です。演じていて本当に楽しい。

ジョージ 黒の勇者の、ちょっと悪い顔をした池田さんがすごくいいです(笑)。そして悪い顔をしながらも、踊りは抜群に綺麗。だから池田さんにぴったり。

池田 ありがとうございます。『ダンスール』と同じように、バレエ『ドラゴンクエスト』もぜひ男の子に観てほしいという気持ちでいつも踊っています。

ジョージ先生は、バレエを描くようになってあらためてバレエの面白さに気づいたり、あるいは逆に謎が深まったりしたことはありますか?
ジョージ 私、いまだに「バレエって何なんだろう?」って思うんですよ。何がこんなに人を惹きつけるんだろう、って。じゃあ自分自身はバレエの何に惹かれている?と考えると、それはやはり「ダンサー」に拠るところが大きいのかなという気がします。最初の頃は演目目当てで舞台を観にいくことが多かったけれど、今はその演目をダンサーのみなさんがどう自分の中に入れて、どう表現として出しているか、ということのほうにより興味がある。そうなってくるともう、「この演目をあのダンサーが踊ったらどうなるの?!」の掛け算で、観たい舞台が限りなく増えていくんですよね。漫画を描く時間がなくて困っています(笑)。

池田 ダンサーごとの表現の違いに目がいくようになったんですね。それは確実にバレエ鑑賞レベルが上がってますね(笑)。

©︎Toru Hasumi

おふたり初めての対談は、いかがでしたか?
ジョージ 池田さんはきっとフランクな方だろうと思っていたのですが、そのフランクさが想像以上で素敵でした(笑)。9月3日の公演が、より楽しみになりました。

池田 ありがとうございます。僕も、ジョージ先生が本当に深いところまで作品を観てくださっていると知って、すごく嬉しかったです。

最後に池田さん、9月3日(土)上演の『緑のテーブル』神奈川公演に向けて、ファンのみなさんにメッセージをお願いします!
池田 『緑のテーブル』は、バレエダンサーにとって人生で一度出会えるかどうかわからないくらいの、真の名作です。そのいっぽうで、2019年に再演されるまで14年もかかったように、頻繁に上演される作品ではありません。9月3日の神奈川公演が終わったら、もしかすると次の上演は10年後、みたいなことになる可能性もある。だとすれば、自分の年齢的に、今回が最後の「死」になるのかもしれません。だから僕は、この作品にめぐり合えた感謝と、今の世界情勢に対する切実な思いと、すべてを込めて演じます。『緑のテーブル』をまだ観たことのないみなさんも、ぜひ観にいらしてください。

ジョージ朝倉(ジョージ あさくら)
1995年『パンキー・ケーキ・ジャンキー』(「別冊フレンド」/講談社)で漫画家デビュー。2005年『恋文日和』で講談社漫画賞少女部門受賞。代表作『ピース オブ ケイク』『溺れるナイフ』など。2015年より「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で『ダンス・ダンス・ダンスール』を連載中。同作は2022年TVアニメ化されて大きな話題に。2022年8月30日には最新単行本第24集が発売される。
池田武志(いけだ たけし)
10歳より松本道子バレエ団にてバレエを始め、13歳よりマシモ・アクリと堀本美和に師事。2009年、第37回ローザンヌ国際バレエコンクールファイナリスト。スカラシップを得てドイツのハンブルク・バレエ・スクールへ2年間留学。ハンブルク・バレエ、新国立劇場バレエ団を経て、2017年スターダンサーズ・バレエ団入団。2022年9月3日『緑のテーブル』主演、9月23・24日「The Concert」出演の予定。

公演情報

スターダンサーズ・バレエ団『緑のテーブル』

日時

2022年9月3日(土) 15:00開演(16:40終演予定)

14:40より小山久美総監督のプレトークあり

会場

神奈川県民ホール 大ホール

(みなとみらい線 日本大通り駅より徒歩8分)

詳細 スターダンサーズ・バレエ団WEBサイト

【その他の公演予定】

『ジゼル』
●9月10日(土)13:30開演(15:40終演予定)
北九州芸術劇場 大ホール
●詳細はこちら

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