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【TVアニメ「ダンス・ダンス・ダンスール」】振付・宝満直也インタビュー〜潤平の情熱と、情熱だけでは乗り越えられないバレエのリアル。そのどちらも描かれているから素晴らしい

阿部さや子 Sayako ABE

MBS/TBS系 全国28局ネット「スーパーアニメイズム」枠他にて放送中/ディズニープラスにて独占配信中のTVアニメ『ダンス・ダンス・ダンスール』
ジョージ朝倉の人気バレエ漫画を原作に、MAPPA(制作)×境宗久(監督)がアニメ化を手がけて大きな反響を呼んでいます。

本作では、バレエという踊りの特徴や魅力をリアルに反映したアニメ作画を追求するために、東京バレエ団の4人のダンサーが実演を務めた〈モーションキャプチャー〉でバレエシーンを撮影しています。

そのバレエシーンの振付を担当したのが、ダンサー・振付家の宝満直也
新国立劇場バレエ団、NBAバレエ団で活躍後、現在はフリーランスとして活動中。振付家としても才能を発揮し、『狼男』や『美女と野獣』などの話題作を次々と発表しています。

主人公・潤平に決定的な影響を与えるニコラス・ブランコのあの踊りも、潤平とライバルの流鶯が繰り広げるあの名シーンも、若いダンサーたちが真摯な眼差しで汗を流すレッスンシーンの数々もーーバレエとしてのクオリティを担保しながらキャラクターたちを躍動させる振付で本作を支えた宝満さんのロングインタビューをお届けします。

宝満直也 ©︎Shinji Masakawa

🤸‍♀️

漫画『ダンス・ダンス・ダンスール』のTVアニメ化にあたり、「ダンスシーンの振付を」とオファーを受けた時の感想は?
原作のジョージ朝倉さんが以前僕のところに取材にいらしたこともあり、作品のことは元々よく知っていました。ですからまずは「あの『ダンス・ダンス・ダンスール』がアニメ化されるんだ!」と。そして僕はジャンルを問わず「これしかやらない」ではなく「なんでもやりたい」と思っているので、すごく嬉しかったです。
宝満さんはアニメ好きでもあるそうですね?
そうなんです。とくに『ONE PIECE(ワンピース)』が本当に大好きで。自分の世代的にど真ん中ということもあって、単行本の第1巻が出た時からずっと読んでいますし、映画版も公開日になった瞬間の午前1時くらいから始まる「日本最速上映」を観に行くくらい好きですね(笑)。最近では『呪術廻戦』も面白いなと思っていたのですが、今回の『ダンス・ダンス・ダンスール』はその『呪術廻戦』を手がけたアニメ制作会社(MAPPA)が作ると知って、それもびっくりしました。
今回は舞台等で振付作品を発表するのとは違って、ダンサーが踊ってそれをモーションキャプチャーで撮影し、アニメとして作画されて世に出るという特殊な仕事だったと思います。そのために何か戸惑ったことや、難しかったことはありますか?
もちろん初めての経験で「どんな感じなのかな?」とは思いましたが、戸惑いとか迷いは全然ありませんでした。どんなシーンを作ればいいのか、それを踊るのはどんなキャラクターなのか、といったことは、原作の漫画にすでに描かれているので。ただ、漫画というのは静止画なので、それを実際に動かすとしたらどうなるのか? それをイメージしながら振付けていくというプロセスでした。

でも、モーションアクターを務めたダンサーたちにとっては、不思議な体験だったかもしれませんね。自分の身体で動きを作り上げ、演技したものが、自分として表には出ないわけですから。ダンサーによっては「一生懸命踊ってもそれが自分として見てもらえないなんて」と感じる人もいるかもしれませんが、今回モーションアクターを引き受けてくれた4人はみんな、むしろそういう体験をおもしろがってくれる人たち。僕も一緒にやっていて楽しかったです。

©︎Shinji Masakawa

そうやってアニメになったダンスシーンを初めて見た時はどう感じましたか?
モーションキャプチャーの現場では、ダンサーたちの動きが棒人間になってモニターに映し出されるだけだったので、「あの状態からこんなに素敵になっちゃうんだ!」と感動したのが一番です。バレエの舞台をよくご覧になる方ならわかると思うのですが、リアルのダンサーが踊ると空気も動きます。そして彼らは長い時間をかけて磨いてきた技術や表現力によって、自分の身体以上の長さや大きさや高さを見せてくれる。その空気が広がっていく感じやスパークする感じを、原作のジョージさんは確実に感じ取りながら描いていると思うんですね。その部分が、あのモーションキャプチャーの棒人間からどのくらい再現され得るんだろう……と、じつはワクワク半分、不安半分の気持ちをもっていました。でも蓋を開けてみたら、あのクオリティだったので。本当に絵が綺麗で、テンションが上がりました。
私自身もスタッフの一員としてモーションキャプチャーの現場に立ち会っていましたが、とくに第1話に出てきたニコラス・ブランコのソロや、第2話で夜道を歩いていた潤平が「ロージー」の曲に合わせて踊りだす場面の振付などは本当に素敵で、できることならアニメファンのみなさんにノーカットで見ていただきたかった!と強く思いました(笑)。
嬉しいです、ありがとうございます。でも今回は僕の作品を発表する場ではないですし(笑)、自分としてはとにかくオーダーされたシーンをきちんと理解して、ダンサーたちにも説明しながら、どこを切り取られてもいいように振付を作るよう務めたつもりです。そして最終的には、境宗久監督はじめアニメのプロの方々が見て一番いい箇所や作品にふさわしい部分を、ちゃんと抜粋して使ってくださったと思っています。

TVアニメ公式Twitterより。第1話冒頭に出てきたブランコのソロの、モーションキャプチャー撮影の様子

振付を作るのが難しかったのはどのシーンですか?
バレエレッスンのシーンですね。クラシック・バレエにはメソッド(指導法、流派)があるので、その先生がロシアのスタイルで学んだ人なのか、フランスのスタイルなのか、イギリスのスタイルなのか等で、ポール・ド・ブラ(腕の運び方)ひとつでもかなり違うんです。今回の場合、流鶯はロシア・バレエのスタイルを幼少期から叩き込まれた少年ですし、潤平が通うことになる生川バレエスクールもワガノワ・メソッド(ロシアのバレエ教授法)で教育している学校。ですからそこは慎重に、時にはロシアのスタイルに詳しい人に聞いたりもしながら、バレエをよく知る人が見ても違和感がないように気をつけて振りを作りました。
レッスンシーンについては、例えば生川バレエスクールのレッスンでは本当にワガノワ・バレエ・アカデミーのピアニストが弾いているレッスン曲を使用するなど、音楽にもこだわっています。振付の部分では、具体的にどういうところでワガノワ・メソッドらしさを出しましたか?
ワガノワ・メソッドで教育を受けたダンサーたちに話を聞くと、みんな口を揃えて「とにかくプリエ。プリエをじっくり繰り返し練習して、しっかり使えるようにならないと、レッスンについていけなくなる」と言うんです。そしてプリエに限らず、タンデュでも、ジュテでも、シンプルなパを繰り返し繰り返し練習するのだと。もちろんアニメ作品ですし、すべて完璧にワガノワ・メソッド通りに、というわけにはいきませんでしたが、シンプルで丁寧なレッスン内容にする、というところは大切にしました。
宝満さんが個人的に心に残っているシーンはありますか?
「ロージー」も楽しかったですし、最終話近くで流鶯が感情を爆発させるシーンが出てきます。そこは流鶯役のモーションアクターを務めた秋元康臣さんが本当に素晴らしく踊ってくださったし、使われる音楽も大好きなので、どんなシーンになるんだろうって僕もワクワクしています。
以前バレエチャンネルの別の企画で宝満さんにインタビューした際、「振付は基本的にスタジオに入ってから作る。事前に頭の中で作り込まずに、ダンサーたちを目の前にしてから考える」とおっしゃっていました。今回はいかがでしたか?
今回は先に作っておきました。撮影時間がとにかくタイトで、現場で考える余裕がないくらいどんどん撮り進めなくてはいけないスケジュールだったので。時間があればたぶんいつものようにスタジオに入ってから考えたと思います。
撮影現場での様子を見ていると、まず宝満さんがそれがどういう場面で、どういう感情で踊られる振付なのかを説明しながらダンサーたちに振付を渡し、ダンサーたちはそれを軽くマーキングするくらいでスパッと覚え、すぐに撮影本番!……と、素晴らしいスピード感でした。
そうですね。彼らは振り覚えも速いし、求められていることへの対応力がとても高いので。あとは僕自身ができるだけスピーディーに撮影を進めたかったというのもあります。ダンス系の撮影ってどうしても同じ動きを何度も繰り返さなくてはいけないので、ダンサーの筋肉がどんどん疲労していくんです。もちろんアニメ制作に必要なクオリティを担保することが最優先でしたけれど、同時にダンサーたちの心身の負担をできるだけ軽減するように心がけました。

©︎Shinji Masakawa

境宗久監督と一緒に仕事をしてみてどうでしたか?
現場で僕がやりやすいように、すごく気を配ってくださっていたと思います。振付については本当に信頼して任せてくださったのがありがたかったですし、判断に迷えば「ここはこういう心情だから」等と演出意図をきめ細かく説明してくださって、とても助かりました。
かつてはご自身も潤平たちのような「バレエ少年」だった宝満さんにとって、『ダンス・ダンス・ダンスール』という作品に魅力を感じるところ、共感を覚えるポイントなどがあれば聞かせてください。
僕が素敵だなと思うのは、バレエを人よりも遅く始めた潤平くんの前に立ちはだかる壁が、きちんと描かれているところです。彼にとって壁となるものは何なのか。そしてそれにぶち当たった時、彼はどう感じるのか。僕も本格的にバレエを始めたのがすごく遅かったし、バレエという職業の大変さを知っているからこそ、そこに共感を覚えるのかもしれません。バレエが好きで好きでたまらなくて、とにかく楽しんでやっちゃえ!というパッションと、でもそれじゃいけない、そのままではプロにはなれないという現実。そうしたバレエのリアルがきちんと提示され、ただ天才少年が「GO! GO! GO!」と突き進むだけの物語になっていないところが素晴らしいと思います。
そうすると、宝満さんがとくに共感を覚えるキャラクターは……?
共感という意味では、やはり潤平です。先ほど「僕も本格的にバレエを始めたのがすごく遅かった」と言いましたが、本気でバレエに取り組むようになったのは18歳で新国立劇場バレエ研修所に入ってからなんですね。それまでヒップホップやジャズダンスなどをメインでやっていて、いざバレエにのめり込むようになったら、「こんなに楽しいのに、ダメなの?」という葛藤みたいなものに何度もぶつかった。ですから潤平の気持ちは手に取るようにわかります。
潤平は、幼い頃にブランコの踊りを見て「ビリビリ、ドッカーン!」ときたという強烈な体験があって、ジークンドーや友達とのバンド活動よりもバレエの道を選んでいきます。宝満さんにも、ヒップホップやジャズダンスよりもバレエを選ぶに至った「ビリビリ、ドッカーン!」体験があったのでしょうか?
僕の場合、バレエに専念するようになったのは18歳からでしたが、いちおう7歳くらいから細々とレッスンを受けてはいました。でも、ずっと女の子たちの中に男の子一人だったし、学校の友達には習っていることを隠していて、バレエを楽しいと思ったことは一度もありませんでした。ところが16歳、高校1年生の頃に出た発表会でコンテンポラリーダンスを踊った時、まさに「ビリビリ、ドッカーン!」ときたんです。「わあ、これが踊りなんだ!」と。それ以来、クラシック・バレエもすごく楽しくなりました。たぶん、「バレエも踊りだよな」と自分のなかでカチッとつながったのでしょうね。それにもともと心のどこかでは、「自分のベースにはクラシック・バレエがある」とも思っていた気がします。
当初はバレエを習っていることをお友達に隠していた、というところも潤平っぽいですね。
そうですね。僕と同じくらいの世代だと、少年時代に同じような経験をした人は多いのではないでしょうか。今は「男子のバレエもかっこいい」というイメージが強くなっていると思いますが、僕の頃はまだ、「男の子なのにバレエをやってるなんてヘン!」とか言われたりしていたので。

©︎Shinji Masakawa

宝満さん自身のこれからについても聞かせてください。今年3月にそれまで所属していたNBAバレエ団を退団して、現在はフリーランスのダンサー・振付家として活動していますが、今後やっていきたいことは?
僕は自分が踊るのもすごく好きなので、まずは引き続き踊っていきたいと思っています。これから年齢を重ねていって、体力勝負、テクニック勝負みたいな踊りは厳しくなったとしても、「いい踊りをするダンサー」であり続けたい。そして振付家としては、プロのカンパニーと仕事ができるようになるのが目標です。バレエはもちろん、ミュージカルでも朗読劇でも、ジャンルを狭めずにいろんなことをやっていきたいです。
ダンサーとして、踊ってみたい作品・演じてみたい役はありますか?
僕がNBAバレエ団の前に所属していた新国立劇場バレエ団のレパートリーに、クリストファー・ウィールドン振付の『不思議の国のアリス』という作品があります。その中に出てくる「イモ虫」の役は、ちょっとやってみたかったなあと思うことがあります。『くるみ割り人形』のアラビアみたいな格好をして、すごくセクシーに踊る役なんですよ。それから、同じく新国立劇場バレエ団が上演しているローラン・プティ振付『コッペリア』のコッペリウス。先ほど言ったように、年齢を重ねていくとフィジカル的な要素はすり減っていくかもしれませんが、コッペリウスに求められるような芝居力や表現力、存在感というものは、むしろより深まっていきます。それを体現しているような先輩方を目の当たりにするたびに、「やっぱり舞台人はこうでなくては」と思うし、そういう面白みのある役が登場する作品を自分でも振付けて、そこに自分をキャスティングしてみたいという気持ちもあります。
振付家として、描いていきたいテーマなどはありますか?
僕のいちばん根本にあるものは、「人を楽しませたい」という思いです。観る人に「楽しい、おもしろい」と感じていただけるものを作りたい。全幕バレエでも、デュエットでも、コンテンポラリーダンスでも、何を作るにしても自分の根っこはそこだと思っています。
いま「全幕バレエ」という言葉が出てきましたが、全幕作品を作るならどんなものを作りたいですか?
僕にとって全幕バレエは大きな目標のひとつ。常に見据えているものであり、全幕バレエで世界から声がかかるような作品を作れるようになりたいとも思っています。内容について言えば、すでに存在するバレエ作品を改訂するよりも、オリジナル作品をゼロから作ること、自分の中から出てくるものを組み立てることに、より強い興味があります。

©︎Shinji Masakawa

個人的な話で恐縮なのですが、私も宝満さんとちょうど同じ時期に長年勤めた会社を辞めて、フリーランスになったのですが……
奇遇ですね(笑)。
(笑)。私自身はフリーになってみて、より自由で清々しい気持ちになれたいっぽうで、どこか足元がスースーするような、心許なさみたいなものも感じています。宝満さんは、そんなことはないですか?
ダンサーという職業を選んだ時点で足元はずっとスースーしてるので、いまさら不安がってもしかたがないというのが正直なところです(笑)。もちろん不安になろうと思えばいくらでも不安になれますけど、その時間があったら今の自分の状況でしかできないことをどんどんやりたい、という思いのほうがずっと強いです。例えば新国立劇場バレエ団を辞めた時も、「えっ、どうしてやめちゃったの?!」と言っていただくことがありました。でも、自分としては、そこにいたらできないことを、そこにいる人に負けないようにやってやろう!という気持ちがひとつのモチベーションになって頑張れた面もあって。フリーになるのと引き換えに受け入れなくてはいけないデメリットももちろんありますけど、失敗しながらでも挑戦するほうが、僕は自分の人生を楽しめるような気がしています。
最後に、少し大きな質問をさせてください。先ほど「観る人に『楽しい、おもしろい』と感じてもらえる作品を作っていきたい」というお話がありました。これから先のバレエの世界が今よりもっと楽しく、おもしろくなっていくために、宝満さんはどんなことが必要だと考えていますか?
僕は、今はもうバレエダンサーがバレエだけに集中していればいい時代ではなくなったと感じています。もっと社会のことも勉強して、自分たちと世界がどう繋がっているのかを知らなくてはいけないと。バレエが多くの人に「特殊な世界」「自分たちの生活とは関係ないもの」というイメージを持たれているのは、僕たち自身のこれまでの在り方と無関係ではないと思います。今この世界にはどんな問題があって、人々の興味関心はどこにあるのか。そういったことにも常に目を光らせておきたいと考えています。
宝満直也 Naoya HOMAN

©︎Shinji Masakawa

ダンサー/振付家。神奈川県出身。新国立劇場バレエ団、NBAバレエ団で活躍後、現在フリー。『ドラキュラ』タイトルロール、『白鳥の湖』ロットバルト役など個性の強い役で光る演技を見せるいっぽう、『狼男』『美女と野獣』など振付家としても才能を発揮している。

作品情報

CAST

村尾潤平:山下大輝
森 流鶯:内山昂輝

五代 都:本渡 楓
安田海咲:天﨑滉平
田倉大和:西山宏太朗
生川夏姫:福圓美里
姫乃小路 寿:井之上 潤

STAFF

原作: ジョージ朝倉「ダンス・ダンス・ダンスール」
(小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載中)
監督: 境 宗久
(「ゾンビランドサガ」「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」)
シリーズ構成: 成田良美
(「プリキュア」シリーズ「抱かれたい男1位に脅されています。」)
キャラクターデザイン:長谷川ひとみ
(「君に届け」「進撃の巨人」「血界戦線」作画監督)
総作画監督:長谷川ひとみ 小美野雅彦 黒岩裕美
副監督: 清水久敏
バレエ演出:大谷 肇
バレエ作画監督:桑原 剛 小笠原篤
美術監督: 藤野真里
撮影監督: 八木まどか
CGディレクター: 鷲田知子
色彩設計: 田辺香奈
編集: 長坂智樹
音響制作: dugout
音楽: 未知瑠
振付:宝満直也
バレエ監修:阿部さや子
制作: MAPPA
(「呪術廻戦」「ユーリ!!! on ICE」)

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