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【第17回】ウィーンのバレエピアニスト 〜滝澤志野の音楽日記〜新シーズン開幕! ウィーンに舞台芸術が帰ってきた

滝澤 志野

ウィーン国立バレエ専属ピアニストとして、バレエダンサーを音楽の力で支えている滝澤志野さん。
彼女は日々の稽古場で、どんな思いを込め、どんな音楽を奏でているのでしょうか。

“バレエピアニスト”というプロフェッショナルから見たヨーロッパのバレエやダンサーの“いま”について、志野さん自身の言葉で綴っていただく月1連載。
日記の最後には、志野さんがバレエ団で弾いている曲の中から“今月の1曲”を選び、バレエチャンネルをご覧のみなさんのためだけに演奏した動画も掲載します。

美しいピアノの音色とともに、ぜひお楽しみください。

2020/21シーズン開幕 ウィーンに舞台芸術が帰ってきた

2020年9月。ウィーン国立歌劇場では、10年続いた一つの時代が終わり、新たな時代の幕が開きました。
今シーズンから新たに、ボクダン・ロシチッチ総裁、フィリップ・ジョルダン音楽監督、マーティン・シュレプファー バレエ芸術監督を迎え、新たな体制で船出をしたのです。

この節目となる年に起こったコロナ禍。オーストリアは文化大国の矜恃を貫き、9月頭から当初のプログラムを変更することなく、開幕することを決めました。強気!

オペラ座正面には「OFFEN 」(OPEN)のネオン!強気(笑)

昨シーズンの3月10日から、すべてのオペラ・バレエ公演が中止になり、オペラ座では6月から観客を100名に限定してコンサートを行なってきましたが、ようやくウィーンに舞台芸術が帰ってきたのです。この街にはネオンサインの広告や看板がありません。静寂に包まれていたオペラ座が再開するということが、このネオンと共に、人々の胸にも灯りをともしたようでした。

ソーシャルディスタンスを保ちながらの上演で、客席数は通常の4分の3ほどですが、9月7日にはオペラ『蝶々夫人』も無事プルミエ(新演出初演)を迎えることができました。

オペラ座にいらっしゃるお客様を見ることがとても嬉しい

コロナと闘う劇場生活

さて、劇場でのコロナ対策についても書きたいと思います。まず、劇場で働くすべての人はPCR検査が義務づけられています。そして、職務別に4色のネックホルダーが配られ、私たちはこれをいつも身につけていなければなりません。これは、ソーシャルディスタンスの取りやすさを4つのグループに分けたもので、PCR検査の頻度にも関わっています。私たちバレエ部は赤(最もディスタンスを取りにくいグループ)は週に1回検査を受けています(私はこれまでに7回受けたけれど、慣れることはないでしょう……)。そして、出勤時の検温と、当然ながらマスク着用も義務づけられています。バレエもマスクをしながらの稽古……本当に大変そうです。

職務別に色分けされたネックホルダー

欧州の大きなオペラハウスの中で先陣を切って開幕したのだから、嫌な例を作りたくない、日々の公演を死守したいという気持ちで団結している気がします。

検査を受けていない部外者は劇場には入れず、楽屋口の出待ちも禁止

シュレプファー監督率いるウィーン国立バレエ団、始動

そんな厳戒態勢のなか始まった新シーズン。バレエ団ではシュレプファー新監督が連れてきた新しいダンサーとスタッフたちと共に新たな一歩を踏み出すことになりました。監督の初日の挨拶では「ここで皆と共に新たな時間を作れることを幸せに思います。わからないことも多くあるので、学ぶ時間をください」とおっしゃっていたのが印象的でした。初日こそ「窓から見える景色は同じなのに、ここはどこだろう。私はバレエ・アムラインでピアノを弾いているみたい」と、まるでホームシックのように感じていたのですが、嬉しい変化もありました。デュッセルドルフから監督が連れてきたスタッフたちは皆、私とほとんど同世代の女性であり、ドイツ流のしっかりした体制とモダンカンパニーならではの柔軟さや新しさが心地よくも思え、新たな風を感じています。変化は人生には必ず必要なものだし、取捨選択しながらもそれを柔軟に楽しめる自分でいたいとあらためて思いました。

9月11日。『ジュエルズ』のステージリハーサルが行われました。3月10日に公演が中止になって、ちょうど半年ぶりに私たちはこの美しいステージに帰ってきたのです。

ただいまを言うのはまだ早いのかな?

今回は多くの新しいダンサーが加わるので、バランシン財団の方が去年に引き続き指導に来てくれているのですが、アメリカから欧州への渡航は簡単ではなく、私が担当するダイヤモンドは日々Zoomでバランシン財団の方に指導していただいています。

マスクをしながらZoomリハーサルに参加するダイヤモンドガールズ

ベートーヴェンのピアノソナタ「ハンマークラヴィア」を弾く

そして、私はというと、今月はまたまた大きな挑戦をします(先月も同じことを言っていた気がするのだけど!笑)。今月9月20日(本日)に開幕するバレエ公演『オランダの巨匠たち』で、ハンス・ファン・マネンの『アダージョ・ハンマークラヴィア』という作品でピアノを弾きます。これは、ベートーヴェンのピアノソナタ「ハンマークラヴィア」のアダージョ楽章に振付けられたもの。ファン・マネン作品は、ほとんどの場合テープ上演をするのですが、今年はベートーヴェン生誕250年の記念イヤーであり、ベートーヴェンゆかりのウィーン上演ということで、監督が生演奏にこだわったそうです。協奏曲ではなく、ピアノソロで一作品を弾くのも久しぶりだし、まず、観客の前でピアノを弾くのも半年ぶり……。それより何よりベートーヴェンの凄さに毎日畏敬の念を抱きながら演奏しています。

私たちの第二の劇場、フォルクスオパーでのステージリハーサル

がらんとしたオケピにピアノが一台。巨星のようなベートーヴェンのピアノソナタに振付けられた美しい美しい作品。1ヵ月に渡るこの公演で、多くの方と芸術に浸る喜びを再確認しあいたい。ベートーヴェンについてはまたあらためて書きたいと思います。

今月の1曲

さて、今月はお知らせがあります。新書館から発売しているレッスンCDDramatic Music for Ballet Class」シリーズのVol.1が今年1月からオンラインでも配信されていて、ご好評いただいているのですが、近々Vol.2 のネット配信も始まります。今月はそのVol.2の中から何か、と思い、ロビンス振付『アザーダンス』冒頭の、ショパンのマズルカをノーカットで録音しました。この曲は、静かでもの悲しくも19世紀初頭の曲とは思えないほどお洒落で、ジャズピアノ界の詩人、ビル・エヴァンスをも彷彿とさせる現代性にも溢れていて。こんな曲をポワントレッスン曲に使ってしまって、我ながら悶絶(笑)。『アザーダンス』をご存知の方は、数々の名演を思い出しながら聴いていただけると嬉しいです。

2020年8月20日 滝澤志野

★次回更新は2020年10月20日(火)の予定です

ベストセラー!発売中

ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス3
ウィーン国立バレエ専属ピアニスト 滝澤志野

ドラマティック・バレエの名曲に加え、ウィーンのダンサーたちのお気に入りの曲や、ひたむきに稽古するダンサーたちにインスパイアされた曲をセレクト。ピアノの生演奏でレッスンしているかのような臨場感あふれるサウンドにこだわりました。

●ピアノ演奏:滝澤志野
●監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
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ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス1&2 滝澤志野  Dramatic Music for Ballet Class Shino Takizawa (CD)
バレエショップを中心にベストセラーとなっている、滝澤志野さんのレッスンCD。Vol.1では「椿姫」「オネーギン」「ロミオとジュリエット」「マノン」「マイヤリング」など、ドラマティック・バレエ作品の曲を中心にアレンジ。Vol.2には「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「オネーギン」「シルヴィア」「アザー・ダンス」などを収録。バー、センター、ポアント、アレグロなど、初・中級からプロフェッショナル・レベルまで使用可能なレッスン曲集です。
●ピアノ演奏:滝澤志野
●Vol.2監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:各3,960円(税込)

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

大阪府出身。桐朋学園大学短期大学部ピアノ専攻卒業、同学部専攻科修了。2004年より新国立劇場バレエ団のピアニスト。2011年よりウィーン国立バレエ専属ピアニストに就任。 レッスンCD「Dramatic Music for Ballet Class」Vol.1、2をリリース(共に新書館)。国内のバレエショップを中心にベストセラーとなっている。

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