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【第16回】ウィーンのバレエピアニスト 〜滝澤志野の音楽日記〜挑戦の夏…新たなシリーズのCD収録へ!

滝澤 志野

ウィーン国立バレエ専属ピアニストとして、バレエダンサーを音楽の力で支えている滝澤志野さん。
彼女は日々の稽古場で、どんな思いを込め、どんな音楽を奏でているのでしょうか。

“バレエピアニスト”というプロフェッショナルから見たヨーロッパのバレエやダンサーの“いま”について、志野さん自身の言葉で綴っていただく月1連載。
日記の最後には、志野さんがバレエ団で弾いている曲の中から“今月の1曲”を選び、バレエチャンネルをご覧のみなさんのためだけに演奏した動画も掲載します。

美しいピアノの音色とともに、ぜひお楽しみください。

挑戦の夏…新たなシリーズのCD収録へ!

2020年8月。
私にとって、新たな挑戦になるはずの月でした。

自分で企画した初のピアノソロリサイタルを、地元大阪、東京ともう1ヵ所で上演するつもりだったのですが、コロナでキャンセル……。ドラマティックなバレエ曲を集めたコンサートで、悶えるような美しいプログラムを組んでいました。同僚もリサイタルのプログラム構成を一緒に考えてくれたり、とても大切に楽しみにしていました。

ここでリサイタルする予定でした。地元のフェニーチェ堺(堺市民芸術文化ホール)

今年は叶わなかったけれど、いつかきっと!

そんなわけで今年の夏はポッカリと予定が空いてしまっていたのですが、何かがなくなれば何かが新しく入ってくるもの。コロナ禍においても私たちができること……そう、新しいレッスンCDの録音! 今まで「Dramatic Music for Ballet Class」シリーズとして3枚のCDをリリースしてきましたが、私には、新たにやってみたい夢がありました。それは、作曲家シリーズCD!!

日々素晴らしいバレエ作品に接しているうちに、偉大な作曲家たちに心酔するようになり、ぜひとも彼らの人生を凝縮した一枚のCDを作りたいと思うようになりました。
その想いを阿部さや子プロデューサーに話したのが、去年の夏。まさかこんな早く実現することになるとは思わなかった……。コロナは私たちの生活を脅かし、変化させましたが、良い変化をももたらしたように思います。

さて、ではどの作曲家を? と考えた時、迷いなく選んだのはチャイコフスキーでした。バレエはチャイコフスキーなしでは語れないし、個人的にもウィーンの劇場で上演したチャイコフスキー作品をすべて担当してきて、もはやチャイコフスキー番長(?)という自負もあるほど、愛してやまない作曲家です。私のライフワークとも言えるものだと思っています。

今までに弾いてきたチャイコフスキーのバレエ作品の楽譜たち

まず、今までに弾いたすべてのチャイコフスキー作品を、すべて弾いてみる作業。そして、バレエ作品以外のチャイコフスキー全作品を網羅するべく、延々と聴く作業。それは、withコロナの中のシンプルで美しい時間でした。7月中旬に日本に帰国してからは、2週間の自己隔離期間が要請されたのですが、それもまた、あつらえたように芸術に捧げる時間となりました。

稀代のヒットメーカーである彼のこと、美しいメロディーがあまりにも多過ぎて、一枚のCDに集約するのは無理があり、取捨選択に苦しみました。嬉しい悲鳴ですね。

実家のリビングにて、チャイコ修行の日々

そして、東京入りの日。今年の宿に選んだのは、外苑にある、国立競技場前の新しいホテル。

ホテルの部屋より。本来は今ごろ、オリンピックで華々しく盛り上がるはずだった国立競技場……

お部屋にて

毎回お世話になっている、乃木坂のSONY MUSIC STUDIO。
4度目の録音ですが、初回からずっと同じチームで仕事をしていて、信頼度が半端なく、これは本当に幸せなことだと感じています。

新書館のスタッフが特注してくれたチョコレート!

チャイコフスキーと向き合う時間は、バレエ作品とその思い出に正面から向き合う作業でもあり。もちろん、チャイコフスキーを弾くのは容易ではないのですが、それ以上に思い出に浸ったり、心揺さぶられる瞬間が何度も訪れたのは、想定外のことでした。

『ジュエルズ』の「ダイヤモンド」を録音している時でした。思いがけず感情が昂って涙が溢れてきてしまい、弾けなくなってしまったのです……。ダイヤモンドという素晴らしい作品をみんなで稽古した思い出、ルグリ時代が私にとってあまりにも美しく貴い時間だったこと、そして、それらが自分にとって過去になってしまったこと。この美しいメロディを奏でていたら、それらに心を占められてしまいました。

珠玉の楽譜たち

私が絶大な信頼を寄せている、SONYの録音技師、房野哲士さんと。

素晴らしいパートナーであり、上司のような、阿部さや子プロデューサーと。

私のCDは、レッスン曲以外に、芸術性の高いバレエ曲を1曲ノーカットで演奏する「ボーナストラック」を毎回収録しているのですが、今回はそれを、なんと7曲も録音してしまいました!(これも想定外で、録音していて急遽決まったことです(笑)。このために練習していないのに録音してしまうなんて……その無謀っぷりを我ながら恐ろしく感じつつも、日々の稽古でどれだけチャイコフスキーを弾きこんでいるかということを、あらためて思いました)
CDに収録するのは1曲のみとなりますが、ゆくゆくは何らかの方法で世に出すことになるはずです。ぜひお楽しみにお待ちくださいね。

今月の1曲

今月の1曲は、そんな「ボーナストラック」の曲の中から、『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』のアダージオをノーカットでお届けしようと思います。この曲は、原曲は『白鳥の湖』の中の1曲です。ウィーン・ヌレエフ版『白鳥の湖』では「黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ」の曲として使用されていて、私も日々、稽古で弾いていた曲です。

今回は、SONYの音源をいただきました。この「音楽日記」連載始まって以来の高音質! どうぞお楽しみください!

2020年8月20日 滝澤志野

★次回更新は2020年9月20日(日)の予定です

ベストセラー!発売中

ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス3
ウィーン国立バレエ専属ピアニスト 滝澤志野

ドラマティック・バレエの名曲に加え、ウィーンのダンサーたちのお気に入りの曲や、ひたむきに稽古するダンサーたちにインスパイアされた曲をセレクト。ピアノの生演奏でレッスンしているかのような臨場感あふれるサウンドにこだわりました。

●ピアノ演奏:滝澤志野
●監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:各3,960円(税込)

★詳細はこちらをご覧ください

 

ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス1&2 滝澤志野  Dramatic Music for Ballet Class Shino Takizawa (CD)
バレエショップを中心にベストセラーとなっている、滝澤志野さんのレッスンCD。Vol.1では「椿姫」「オネーギン」「ロミオとジュリエット」「マノン」「マイヤリング」など、ドラマティック・バレエ作品の曲を中心にアレンジ。Vol.2には「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「オネーギン」「シルヴィア」「アザー・ダンス」などを収録。バー、センター、ポアント、アレグロなど、初・中級からプロフェッショナル・レベルまで使用可能なレッスン曲集です。
●ピアノ演奏:滝澤志野
●Vol.2監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:3,960円(税込)

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

大阪府出身。桐朋学園大学短期大学部ピアノ専攻卒業、同学部専攻科修了。2004年より新国立劇場バレエ団のピアニスト。2011年よりウィーン国立バレエ専属ピアニストに就任。 レッスンCD「Dramatic Music for Ballet Class」Vol.1、2、3、「Dear Tchaikovsky~Music for Ballet Class」、「Dear Chopin〜Music for Ballet Class」をリリース(共に新書館)。国内のバレエショップを中心にベストセラーとなっている。2023年7月大阪・東京で初のピアノソロリサイタルを開催。初のピアノソロアルバム「Brilliance of Ballet Music~バレエ音楽の輝き」も同時発売。

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