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【D.LEAGUE 24-25】第12ラウンド(4/29)観戦レポート〜シーズンに一度だけのCYPHER(サイファー)ラウンド!圧倒的な強さを見せたDYM MESSENGERS

村山 久美子

ダンスのプロリーグ「D.LEAGUE(Dリーグ)24-25」の5年目のシーズンが、2024年10月13日に幕を開けました。2025年5月22日までの約半年間をかけて合計14ラウンドが行われる〈レギュラーシーズン〉と、その成績上位6チームが出場して今シーズンの覇を競う〈チャンピオンシップ〉(2025年6月19日開催)の観戦レポートをお届けしていきます!
寄稿は自身も複数ジャンルのストリート系ダンスを踊りこなす舞踊史家・舞踊評論家の村山久美子さんです。

第12ラウンドは、シーズンに一度だけ行われるサイファー(cypher)での対戦。サイファーは、輪になって交代に即興のパフォーマンスをするスタイル。ソロの対戦のサイファーが3回と、2人組のデュオによる対戦、3人組のトリオによる対戦が1回ずつ行われ、各チームの出場者8人あるいは8組の得点数で順位が決められた。1チームの持ち時間は1分。音楽は、「Dリーグが手配した音楽をDJが選曲」した。ストリートダンスはジャンルによって、基本的には音楽のジャンルが異なる(ハウスダンスはハウスミュージック、ヒップホップダンスはヒップホップミュージック、ロックダンスはファンクミュージック……等々)。今回は踊るジャンルは自由で、そのジャンルをあらかじめ事務局に提示していた。

ストリートダンスは本来、即興での踊り較べの文化であり、Dリーガーの大部分はそのようなダンスバトルで育ってきているため、生き生きとした名演が多数見られた。

第12ラウンド(CYPHER ROUND)の各MATCHレポート

1st CYPHER(SOLO)

1st CYPHERは、全14チームから1名ずつ出場して踊った。ヒップホップで踊るダンサーが多かったためか、一部ブレイク用の曲がかかった以外は、ヒップホップ系の音楽が続いた。ロック、ワックなどの基本ファンクで踊るジャンルは、音楽と完全に融合することは容易ではなく、やや不利であるようにも思われた。しかし、あまりヒップホップの音楽を用いないポップのジャンルで踊ったdip BATTLESKENSEIは、ヒットを軽快にして細かいリズムを刻みながら、エキセントリックな動作で音楽の雰囲気を演出し、2位のポイントを得た。

1位は、ブレイクで踊ったValuence INFINITIESTSUKKI。出場者の輪の狭い空間で、急速な大技を大胆に繰り広げる高度なダンス。ヘッドスピンも片腕のスピンも、技から技への移行もフリーズも、一切ブレがなく、アクロバットの最中の音楽表現も巧みだった。彼は、今ラウンドの最優秀ダンサー、MVDも受賞した。

1st CYPHER 第1位 Valuence INFINITIES/TSUKKI ©D.LEAGUE24-25

1st CYPHER 第2位 dip BATTLES/KENSEI ©D.LEAGUE24-25

1st CYPHER 第3位 LIFULL ALT-RHYTHM/CHIHIRO ©D.LEAGUE24-25

2nd CYPHER(DUO)

2nd CYPHERは、デュオ(DUO)での対決。DUOとTRIOは、ソロとは異なり、当日使用予定の全楽曲が事前に各チームに知らされるという。それに合わせて2人または3人での振りを作り込んで対戦に臨むが、当日DJがどの曲のどの部分をかけるかはわからないため、やはり即興的な要素も求められる。そのなかで、とりわけ面白いアイデアのペアが得点を稼いだ観がある。

1位は、DYM MESSENGERSAITOKeitric。同じような身体で同じ坊主頭にした二人は双子のよう。その二人で、身体能力の高さをアピールする不安定なポーズを使って、背中で輪を作った腕の中からもう一人が飛び出る等々の、予想外の奇妙な絵面を作り続けた。踊りの緩急をつける、音楽のリズムの掬い取り方も巧みだった。

2位は、Valience INFINITIESの現在日本のヒップホップを代表する気鋭のダンサーSEIYAと、フランスからのゲストで世界的に活躍するROCHKAのペア。極めてパワフルかつ高度な動きで、ボリュームのある音楽を見事に描き切った。

2nd CYPHER 第1位 DYM MESSENGERS/AITO、Keitric ©D.LEAGUE24-25

2nd CYPHER 第2位 Valuence INFINITIES/SEIYA、ROCHKA ©D.LEAGUE24-25

2nd CYPHER 第3位 KOSÉ 8ROCKS/Ryo-spin、REN ©D.LEAGUE24-25

3rd CYPHER(SOLO)

3rd CYPHERは、再びソロ(SOLO)での対戦。前述したように、オールスタイルであるため、自分のジャンルを生かしきれない曲に当たったダンサーは、不利であることは否めなかった。たとえば、avex ROYALBRATSのハウスダンスの名手JUMPEIに重量感のある曲がかかり、急速で軽快なフットワークを見ることができなかったのは残念であるし、逆に、とてつもないパワーをアピールするクランプのチームFULLCAST RAISERZのKILLA TWIGGZは、軽いタッチの音楽に当たってしまい、本来のパワーをダンスに込められなかった観がある。

妙技をアピールするシーンが少なかったので獲得点数は低かったが、印象深かったのが、Medical Concierge I’moonMIZUEのソウル。音楽を伸ばしていると思えるほどに伸びのある隙のない動きに、時折小気味よいクイックの動作を差しはさみ、ベテランならではの味わい深い“上手いダンス”を見せた。

3rd CYPHER Medical Concierge I’moon/MIZUE ©D.LEAGUE24-25

1位は、DYM MESSENGERSTakuya。床への沈みから立ち上がりのスムーズな繰り返し、オフバランスの緩やかな回転などを、ソフトにさりげなく力を感じさせずに行う。驚異的な筋力、身体能力である。

2位は、CyberAgent LegitTAKUMIKADOKAWA DREAMSKELO。前者はポップのダンサーだが、テンポの速いヒップホップの曲を、軽やかな心地よいバイブレーションや高速の足技クレイジーレッグスなどで見事に料理。動きのスマートさも目を引いた。後者は、アニメーションの名手。外側に見えている動きは微かと言えるほどで、身体の内部の筋肉でダンスをしてみせた、非常に高度なパフォーマンスだった。

3rd CYPHER 第1位 DYM MESSENGERS/Takuya ©D.LEAGUE24-25

3rd CYPHER 第2位 CyberAgent Legit/TAKUMI ©D.LEAGUE24-25

3rd CYPHER 第2位 KADOKAWA DREAMS/KELO ©D.LEAGUE24-25

4th CYPHER(TRIO)

4th CYPHERは、トリオ(TRIO)の対戦。デュオのように作品としてのアイデアで見せるよりも、それぞれのジャンルの踊りの上手さを3人そろって見せるチームが多かった。

1位は、DYM MESSENGERSYu-mahYoshikiTAKUTO。長年踊り込んだロックダンスの上手さ、そして、決まった動きになりがちなこのジャンルに盛り込んだ多様なアイデアで、魅力あるパフォーマンスを行った。

2位は、CyberAgent Legit、dip BATTLES、KOSÉ 8ROCKSの3チームが同率で並んだ。中でも目を引いたのはCyberAgent Legitの地獄、KANATO、ゲストの世界的に活躍するJENESのポップ。急速な曲をものともせず、スピード感のある力強いクリアなヒットや足技で、爽快なダンスを見せた。1位との差は感じられなかった。

4th CYPHER 第1位 DYM MESSENGERS/Yu-mah、Yoshiki、TAKUTO ©D.LEAGUE24-25

4th CYPHER 第2位 CyberAgent Legit/地獄、KANATO、JENES ©D.LEAGUE24-25

4th CYPHER 第2位 dip BATTLES/TsUmU、HOKUTO、Kouuuuu ©D.LEAGUE24-25

4th CYPHER 第2位 KOSÉ 8ROCKS/SHUVAN、2GOO、WINGZERO ©D.LEAGUE24-25

5th CYPHER(SOLO)

最後の5th CYPHERは、再びソロ(SOLO)。それまでのサイファーよりもヒップホップのダンサーが少なく、ロックのダンサーが3人登場。比較しやすかったこともあったのか、1位も2位もロックダンスだった。

1位は、DYM MESSENGERSのロックダンスの上手さに定評のあるHANA。身体内部の筋肉をしっかり使った抑えた動きから、音楽の盛り上がりとともに次第に外側の動きを加速させ速い足技も見せた展開の上手さ、移動を大きくした空間の使い方など、ベテランならではの演出力。ソウルを入れたしなやかな動きの美しさも際立った。

第2位は同率でCyberAgent LegitとValuence INFINITIESが獲得した。心に残ったのはCyberAgent Legitのenaのパフォーマンス。ジュニアの時にすでに、ロックダンスの日本代表になってフランスの有名な国際大会「Juste Debout(ジュストゥ・ドゥブ)」に出場している実力者。HANAとは対照的に、体内に錘があるかのように重くしっかり上体を固め、強力に身体を止めるロックが気持ちよかった。

5th CYPHER 第1位 DYM MESSENGERS/HANA ©D.LEAGUE24-25

5th CYPHER 第2位 CyberAgent Legit/ena ©D.LEAGUE24-25

5th CYPHER 第2位 Valuence INFINITIES/HIRO10 ©D.LEAGUE24-25

上位入賞は逃したものの、KADOKAWA DREAMSのエース颯希(SATSUKI)の、極力動きを抑えた身体内部の筋肉のダンス、片脚のポーズでのゆっくりとした動きの静かさの魅力は、忘れ難い。

5th CYPHER KADOKAWA DREAMS/颯希(SATSUKI) ©D.LEAGUE24-25

ROUND.12の1位チームは、サイファー得点合計261ポイントのDYM MESSENGERS
今ラウンド終了時点のトータルランキング1位はCyberAgent Legit
今回で、CyberAgent LegitKADOKAWA DREAMSValuence INFINITIESSEPTENI RAPTURESの4チームが、今季の最終的な1位を決定するチャンピオンシップへの出場権を得た。

次回は、第13ラウンド(2025年5月8日(木)開催)のもようをレポート!

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

早稲田大学大学院博士課程満期終了。ハーバード大学大学院、ロシア国立プーシキン記念外国語大学留学。 早稲田大学、工学院大学、東京経済大学、青山学院大学、青山学院大学大学院で非常勤講師として、舞踊史、ロシア・バレエ史、ロシア語の講義、ストリートダンスの実技を担当。 舞踊評論家として、読売新聞、日経新聞、ダンスマガジン、各種公演プログラム等々に、舞踊評論を1980年代前半から寄稿。 文化庁芸術選奨推薦委員、東京新聞全国舞踊コンクール、さいたま全国舞踊コンクール現代舞踊部門審査員、まちだ全国バレエコンクール審査員。 著書に、「バレエ王国ロシアへの道」(東洋書店新社、2022年)、「二十世紀の10大バレエダンサー」(東京堂出版)、「知られざるロシア・バレエ史」(東洋書店)他。訳書に、「ワガノワのバレエレッスン」(新書館)他。論文に、「マリウス・プティパの創作の変遷」「F・ロプホーフのダンスシンフォニー『宇宙の偉大さ』」他多数。 バレエを東京バレエ団元バレエ・ミストレス友田弘子、ボリショイ・バレエ団元プリンシパルでモスクワ国際バレエコンクール第一回優勝者ゲンナージー・レージャフ他、コンテンポラリーダンスをネザーランド・ダンス・シアターの元中心的ダンサー中村恩恵、ストリートダンスを国際ダンスバトル世界チャンピオンSHUHOとGO GOBROTHERSのReiに師事。舞踊歴約60年現役。

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