バレエを楽しむ バレエとつながる

  • 観る
  • 知る

【D.LEAGUE 24-25】第9ラウンド(2/27)観戦レポート〜CyberAgent Legitが首位独走中。技より内面の表現で勝負したチームはどう評価された?

村山 久美子

ダンスのプロリーグ「D.LEAGUE(Dリーグ)24-25」の5年目のシーズンが、2024年10月13日に幕を開けました。2025年5月22日までの約半年間をかけて合計14ラウンドが行われる〈レギュラーシーズン〉と、その成績上位6チームが出場して今シーズンの覇を競う〈チャンピオンシップ〉(2025年6月19日開催)の観戦レポートをお届けしていきます!
寄稿は自身も複数ジャンルのストリート系ダンスを踊りこなす舞踊史家・舞踊評論家の村山久美子さんです。

今ROUNDは引き分けが3マッチ。全体として、ダンサーたちのスキル、創作のレベル向上は続いており、今後ますます勝負がつきにくくなることが予想される。

第9ラウンド(2/27)の各MATCHレポート

1st MATCH

1st MATCHは、ポップとロックを主にしたCyberAgent Legitと、ヒップホップのSEGA SAMMY LUXの対戦。

前者は、ベストのパンツスーツ、ジャジーな音楽による洗練されたダンス。今シーズンの評価で重要視されている「シンクロ」を強く意識し、終始整ったシーン作り。ポーズの一つひとつに理想の形を追求したようなきめ細かい仕上げで、大人の雰囲気の美しいダンスだった。
ロッキンでの難しいリズム崩しも見事。

CyberAgent Legit「Attractor」©D.LEAGUE 24-25

後者は、床を滑る動きも入れながらの、やんちゃな遊び感覚のダンス。荒々しい動きで大きなエネルギーは感じられたが、少々力任せの印象。

SEGA SAMMY LUX「Glide or Slip」©D.LEAGUE 24-25

結果は、5-1でCyberAgent Legitの勝利

2nd MATCH

2nd MATCHは、ヒップホップを主とするList::XKADOKAWA DREAMSの対戦。

前者は、これまでのように足裏で床をしっかりつかんだ弾力感のある大きなうねりのヒップホップではなく、速めのテンポで小さく飛び跳ねたり戯画的な動きをしたりと、童心に返ってふざけて遊んでいるようなコミカルなダンス。

List::X「奏(そう)」©D.LEAGUE 24-25

後者は、「掃除のスペシャリスト」というテーマ。「シンクロ」が得意なチームであるため、全員黄色の手袋とシューズで、腕や足の動きがそろっていることをより強調した。机をいくつも使って、重ねたり並べ変えたりしながら、立体感のある多様な空間構成を見せたのも、優れたアイデアだった。

KADOKAWA DREAMS「掃除のSpeciaList::(Cleaning Specialist)」©D.LEAGUE 24-25

結果は1-5でKADOKAWA DREAMSの勝利

3rd MATCH

3rd MATCHは、ドイツの世界的名ダンサーAmin Drillzをゲストに招いたブレイクのチームKOSÉ 8ROCKSと、ブレイク、ロック、ワックなどを組み合わせた作品を見せたLIFULL ALT-RHYTHMの対戦。

前者は、ヘッドスピンの名手で、それを多様なポーズや速度で行うAminを中心に、5人でヘッドスピンを続けたり、スピンとアクロバティックなジャンプを協奏したり。極めて高度な、スケールの大きなシーンの連続だった。

KOSÉ 8ROCKS「SPINNER」写真はSPダンサーのAmin Drillz ©D.LEAGUE 24-25

後者は、「シンクロ」のポイントは獲得したものの、そのシーン以外は、それぞれが自由に動き回っているイメージ。テーブルと椅子を置き、芝居の一コマを思わせる。最後のヘッドスピンを行っているダンサーに、多数の金のテープを投げかけて、光る面白い形を作り上げたのが、効果的だった(以前このチームは、ヘッドスピンで回るダンサーに白い薄い布をかぶせて巨大な繭のような形を出現させ、話題になった)。

LIFULL ALT-RHYTHM「Session」©D.LEAGUE 24-25

結果は、3-3で引き分け。LIFULL ALT-RHYTHMの最後の演出のアイデアは魅力だったが、技術力は、AminをはじめとしてKOSÉ 8ROCKSのほうが上だったと思う。Aminの大技の連続が日本で生で見られたのは、嬉しい。世界的なダンサーをゲストで加えるのは、Dリーグを盛り上げるために歓迎すべきことである。

4th MATCH

4th MATCHは、ロック、ワック、ソウルなどで女性ダンサーが比較的目立ったDYM MESSENGERSと、男性のみのヒップホップ、ブレイクの作品を見せたValuence INFINITIESの対戦。

前者は、「ドレスルーム」というテーマで、鏡の前でゴージャスなコートをはおって踊り、後半はコートを脱いでシックなドレスやスーツになる。それぞれのダンスが熟練し洗練度が高い。ただ、前半の毛皮や厚いコートでのダンスは、身体の動きが重く見え、ダンスの輪郭も見えにくい。もっと早くコートを脱いだほうが、ダンスの上手さがより際立ったのではないかと思われた。

DYM MESSENGERS「DRESS ROOM」©D.LEAGUE 24-25

後者は対照的に、「デジタル」というテーマの無機質なダンス。音楽の掬い取り方の粋さは、これまでほどではなかったように思われたが、各人が高いスキルの持ち主なので、数名ずつのダンスで次々とスポットを変えていっても、見ごたえのあるシーンが続いた。こちらのメンバーは小柄で極めて身体能力の高い男性たちなので、動きに力みがなく、素早くて軽やかで余裕がある。それが、DYM MESSENGERSの女性たちの動きをやや鈍く見せたかもしれない。

Valuence INFINITIES「Digital」©D.LEAGUE 24-25

結果は、3-3の引き分け

5th MATCH

5th MATCHは、ハウスをメインとしたdip BATTLESと、このチームには珍しいジャズヒップホップの表現を見せたSEPTENI RAPTURESの対戦。

前者は、ハウスのステップとアクロバットを組み合わせ、様々なフォーメーションで構成。急速なハウスのステップでスピード感があった。しかし、バウンスをあまり入れないストンプの連続なのか違うのか判別がつきにくいが、終始ヒップホップのダンサーがハウスを踊っているような足の重さが気になった。

dip BATTLES「繋(つなぐ)」©D.LEAGUE 24-25

後者は、内面の表現を重んじたジャズヒップホップ。エースパフォーマンスを担当したAYUMIのドラマ性と美しい動きに魅力を感じた。ほかのダンサーを加えて、AYUMIにスポットを当てるシーンをもう少し長くしたほうが、見栄えがしたように思われた。

SEPTENI RAPTURES「海淵」写真はエースパフォーマーを務めたAYUMI ©D.LEAGUE 24-25

結果は、4-2でdip BATTLESの勝利

6th MATCH

6th MATCHは、女性的なジャズダンスで内面の表現を見せたBenefit one MONOLIZと、クランプの男のパワーでドラマを表現したFULLCAST RAISERZの対戦。

前者は、前半は長いドレスで、後半はそれを脱ぎ捨てる。長いドレスの部分で、ドレスの広がりの美しさをもっと利用した振付を行ったほうが、作品が映えたのではないか。大技をあまり用いていないので、技の見せ場は少々足りなかったように思われるが、動きがシンプルなぶん、感情表現は満足度が高かった。

Benefit one MONOLIZ「殻を破る」©D.LEAGUE 24-25

後者は、ヴォーカルのドラマティックな音楽での、男の力強い動きの感情表現。背中で回転するペアの動きの回転の速さ、力強さは印象深い。エースパフォーマンスが、他のメンバーのソロよりも迫力に欠けたのが惜しい。

FULLCAST RAISERZ「Ephemeral」©D.LEAGUE 24-25

結果は、3-3の引き分け

7th MATCH

7th MATCHは、全員ワックで見せたMedical Concierge I’moonと、コミカルなエピソードのavex ROYALBRATSの対戦。

前者は、ノリのよいヴォーカル曲での上質のダンス。全員がワックをメインとしているのではないと思われるが、ワックの上手さが光ったのは努力の成果。シンクロの美しさを何度も見せたのも、今シーズンの評価方法には得策。

Medical Concierge I’moon「Blend」©D.LEAGUE 24-25

後者は、一人の上司と、無理に自分を隠したような白塗りのおべっか使いたちのエピソード。風刺に満ちた面白い内容で、ショーケースであれば非常にうけるであろう質の高い作品。しかし、ダンスとしてはボキャブラリーが豊富とは言えず、踊りの見せ場も少なかったのは残念。

avex ROYALBRATS「ジャパニーズ」©D.LEAGUE 24-25

結果は6-0でMedical Concierge I’moonの圧勝。作品の質を考えると、圧勝されたのは残念だった。

全体として、何度も書いているが、ストリートダンスのすべてのジャンルの魅力ではない「シンクロ」の評価重視の弊害を今回も感じた。動きをそろえて器用にきれいにまとまった作品ばかりになることは、ストリートダンスにとってマイナスであるし、シンクロパフォーマンスの部分で、妙にシンプルで慎重な動きになり勢いが失速するチームが多いのも、作品としてマイナスでしかない。

ストリートダンスではあまり重要視されないことが多い、内面の表現で勝負して妙技を少なくしたチームの評価が低いように思われたことも、評価の問題として提起したい。

ROUND.9終了時点でCyberAgent Legitがトータルランキング1位を死守。同ラウンドで最も活躍したダンサーMVDはMedical Concierge I’moonMIU

ROUND.9のMVD、Medical Concierge I’moonのMIU ©D.LEAGUE 24-25

次回、第10ラウンドは2025年3月13日(木)開催!

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

早稲田大学大学院博士課程満期終了。ハーバード大学大学院、ロシア国立プーシキン記念外国語大学留学。 早稲田大学、工学院大学、東京経済大学、青山学院大学、青山学院大学大学院で非常勤講師として、舞踊史、ロシア・バレエ史、ロシア語の講義、ストリートダンスの実技を担当。 舞踊評論家として、読売新聞、日経新聞、ダンスマガジン、各種公演プログラム等々に、舞踊評論を1980年代前半から寄稿。 文化庁芸術選奨推薦委員、東京新聞全国舞踊コンクール、さいたま全国舞踊コンクール現代舞踊部門審査員、まちだ全国バレエコンクール審査員。 著書に、「バレエ王国ロシアへの道」(東洋書店新社、2022年)、「二十世紀の10大バレエダンサー」(東京堂出版)、「知られざるロシア・バレエ史」(東洋書店)他。訳書に、「ワガノワのバレエレッスン」(新書館)他。論文に、「マリウス・プティパの創作の変遷」「F・ロプホーフのダンスシンフォニー『宇宙の偉大さ』」他多数。 バレエを東京バレエ団元バレエ・ミストレス友田弘子、ボリショイ・バレエ団元プリンシパルでモスクワ国際バレエコンクール第一回優勝者ゲンナージー・レージャフ他、コンテンポラリーダンスをネザーランド・ダンス・シアターの元中心的ダンサー中村恩恵、ストリートダンスを国際ダンスバトル世界チャンピオンSHUHOとGO GOBROTHERSのReiに師事。舞踊歴約60年現役。

もっとみる

類似記事

NEWS

NEWS

最新記事一覧へ