“D.LEAGUE, are you ready?”
2020年、日本発のダンスのプロリーグ「D.LEAGUE(Dリーグ)」が開幕。その当初から、不動のMCとして毎試合の司会進行を務めているのが、ラジオパーソナリティー等としても活躍するケリー隆介さんだ。
「世界中のすべての人に、『ダンスがある人生』をもたらす」ことを標榜するDリーグは、現在5シーズン目。ここまでの4年と数ヵ月の間には毎年のようにルール変更や審査制度の改変などが行われ、数えきれないほどのドラマが生まれてきた。
その道のりのすべてに立ち合い、ダンサーたちの笑顔も涙も見つめてきたケリー隆介さんに話を聞いた。

D.LEAGUEで司会をするケリー隆介さん 写真提供:D.LEAGUE
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- D.LEAGUE開幕当初からMCを務めているケリー隆介さん。ケリーさん自身がダンスと出会ったのはいつですか?
- ケリー 僕はアイルランド系アメリカと日本のクウォーター。昔から親戚の集まりなどがあればみんなで少し踊ったり、MTVでダンスを目にしたり、といったことはありましたが、ダンスへの興味がはっきりと芽生えたのは中学3年生くらいの時です。テレビで見るアイドルグループみたいな存在に憧れるようになって、見よう見まねで振付を練習してみたりしていました。
そして初めてきちんとダンスを習ったのは、高校に入って始めたブレイキン(ブレイクダンス)です。高校1年から3年まで、3年間やっていました。
- D.LEAGUEを見ていても、頭でスピンしたり、逆立ちでピタッ!と静止したりするブレイキンは、ストリート系ダンスの中で最も参入障壁が高いジャンルではないかという印象があります。でもケリーさんは最初に習ったダンスがブレイキンで、しかも幼少期からではなくいきなり高校生から始めたのですね!
- ケリー 僕も最初は「ウィンドミル(背中や肩をフロアにつけて、脚を大きく開きながら回転する技)をやってみたい」「トーマスフレア(腕で身体を支え、脚を開きながら旋回する技)ができるようになりたい」と、いかにもブレイキンらしいパワームーブに憧れてブレイキンを始めました。でも実際にやってみて、最終的にはヘッドスピン(頭をフロアにつけて倒立した状態から身体を回転させる技)のようなパワームーブはあまり得意にはならず、どちらかというとスタイル(立ち踊りやフットワークを見せる踊り)のほうが好きでしたね。
- 高校卒業後もダンスを続けたのですか?
- ケリー いいえ、高校2〜3年生あたりからダンスと並行してバンド活動をするようになり、大学に進学してからはもうバンドのほうに完全にシフトしてしまいました。
- D.LEAGUEでは、各マッチ(対戦)が終わるごとにジャッジの審査&オーディエンス投票が行われます。そのジャッジタイムの間、ケリーさんが両チームのパフォーマンスについて説明したり、「自分にはこういう表現に見えた」といったコメントをしてくれるのがとても面白く、ダンスの見方のヒントにもなっています。あれはケリーさん自身がその場で即興的にコメントしているのでしょうか? それとも、あらかじめ用意された台本があるのでしょうか?
- ケリー あれは僕が自分でコメントを考えています。他の人が書いた台本を、僕が読み上げているわけではありません。とはいえ即興的に話しているわけでもなくて、本番前に全チームのリハーサルを観て感じたことを自分の言葉で書き留めておき、それを本番の舞台でお伝えしています。
- D.LEAGUEには今や14チームも参加していて、ヒップホップ、ポッピン、ロッキン、ハウス、ブレイキン、クランプ、ワック、ジャズ、コンテンポラリー……等々、じつに多様なジャンルのダンスで構成された作品が繰り広げられています。ケリーさん自身のダンス経験はブレイキンのみであるにも関わらず、どのチーム、どの作品についてもちゃんとコメントできるのはなぜでしょうか?
- ケリー ひとつには、僕がブレイキンを習っていた先生がポッパー(ポップ=筋肉を弾くような動きが特徴のダンスの踊り手)でもあって、ポッピンの技術やスタイルなどの知識も教えてくれていたのが土台にあります。ただ、それも20年以上前のことですし、D.LEAGUEには僕が触れてこなかったジャンルのダンスもたくさん登場しますから、この4年間、MCの仕事をしながら並行して学び続けているという感じですね。
- ダンスを言葉で表現するのは、難しくありませんか?
- ケリー 言葉にする難しさは、ずっと感じています。知識量もボキャブラリーも、まだまだ足りていませんし。ただ、僕なりにつねに心がけているのは、ダンスに詳しくない人が聞いても「自分もそう思った!」と共感してもらえるような言葉を選ぶ、ということ。専門的な言葉を織り交ぜることもありますが、そればかりになると、ダンスを見始めたばかりの人には理解不能になってしまうでしょう。ですからそこは、できるだけジェネラルな表現で語れるように意識しています。

2024年12月26日に行われた第5ラウンドの一場面。「みなさん大きな声を聞かせてください! D.LEAGUE, are you ready?!」等のコール・アンド・レスポンスで観客を盛り上げつつも、落ち着いた佇まいで試合を進行していくケリーさん(写真左端) ©D.LEAGUE 24-25
- MCとして、ケリーさんが大事にしていることは?
- ケリー MCというのは、半分“運営側”、半分“出演者”みたいな立ち位置だと思うんですよ。自分は運営会社に所属しているわけではなく、司会者として出演依頼をいただきステージに立っているけれども、かといってダンサーのように100%演者側でもありません。むしろ観客のみなさんに対しては、僕は運営側の代表としてそこにいる、という意識でいなくてはいけない。当日のステージのことは全部わかっていなくてはいけない立場であり、そう振る舞えるように下準備を怠らないようにしています。
- 同じような質問を重ねますが、ケリーさんがMCとして「これだけはやらない」と決めていることはありますか?
- ケリー 観客のみなさんを不安にさせない、ということ。僕が「この人、大丈夫?」と思われるような司会をしてしまったら、イベント全体が不安なものに見えてしまうので。それだけはどんな場合でも絶対に大切にしている、自分の根本です。
あとは、当たり前ですが、選手のみなさんよりも目立つことはしない。D.LEAGUEの主役はあくまでも本気で戦っているDリーガーたちですから、そのみなさんが輝く姿こそがお客様の目にしっかり映るように、僕は一歩引いた存在であるべきだと思っています。
- 対戦が終わり、勝利チームの代表者がマイクを握ってコメントを語る時間がありますが、人によってはお話がやや長くなることもあります。それでもケリーさんは時間を気にしたり焦ったりする素振りを微塵も見せず、静かに落ち着いてダンサーの話に耳を傾けているのが印象的です。
- ケリー そのステージの主役である彼ら・彼女らが、いま話したい言葉がある。それはもう、思う存分、言いたいだけ言ってもらったほうがいい。お客様が見たいのは「時間内に収まること」ではないはずです。その時にしか出てこない選手たちの言葉がいちばん大事なのだから、それを遮るようなことは絶対にしたくないと思っています。
- 司会者であるケリーさんには「所定の時間内でイベントを進行しなくてはいけない」というプレッシャーがあるはずなのに、素敵だな……と思いながら、いつも見ています。
- ケリー もちろん、心の中で「やばいな……」と思うことはあります(笑)。でもD.LEAGUE自体が、以前に比べると少し余裕のあるタイムスケジュールになっているので、より焦らずに済むようにもなっているんですよ。ただ、仮にそうじゃなかったとしても、僕はダンサーたちが話しているのを遮ったり急かしたりはしないです。
- 2020年にD.LEAGUEが誕生した時から、MCとしてDリーガーたちの熱戦のドラマを見守ってきたケリーさんですが、ここまでの4年間でとくに印象に残っている出来事や、忘れられない瞬間はありますか?
- ケリー たくさんありますが、ひとつだけ挙げるとしたら、2シーズン目(2021-2022シーズン)の最終戦、第12ラウンドのKADOKAWA DREAMSのパフォーマンスでしょうか。その頃はまだコロナ禍の真っ只中で、KADOKAWA DREAMSはシーズン中に1試合欠場を余儀なくされたこともあり、最終戦で絶対にジャッジポイントとオーディエンスポイントの両方で1位を獲らなくてはチャンピオンシップに進出できない状況でした。だから物凄かったんです、選手たちの気迫が。堂々たるパフォーマンス、圧巻のダンス。ジャッジによる審査では、歴代最高得点を叩き出しました。ところがオーディエンスポイントではわずかな差で1位20ポイントに届かず。その瞬間、KADOKAWA DREAMSのチャンピオンシップへの道は、閉ざされてしまいました。コメントを求められながらも悔し涙で言葉を詰まらせたチームリーダーのRyoさんに、ディレクターのKEITA TANAKAさんが「しっかり喋って!」と檄を飛ばした場面も忘れられません。あの時は、僕も司会をしながらこみ上げるものがありました。

写真提供:D.LEAGUE
- 高校時代ダンスに打ち込み、今またD.LEAGUEのMCとしてダンスと繋がって、あらためて「ダンスっていいな」と思うことはありますか?
- ケリー ダンスには、アートの側面と、身体的な技術や表現を競い合う競技的な側面、そしてどのジャンルやスタイルにもそれぞれの歴史やルーツがあるというカルチャーの側面があります。そのすべてがミックスされたものだというところに、僕は大きな魅力を感じています。アーティストであり、クリエイターであり、アスリートでもあるダンサーたちを心からリスペクトしていますし、ダンスを追求すればするほど、その背景にある歴史や文化や社会について知ることにもなっていく。そういうところが、僕はすごく好きですね。
- ケリーさんは日頃から国際情勢や社会課題などについても高い意識を持ち、発信なども行っています。そうした目線から、ダンスの持つ力みたいなものを感じることはありますか?
- ケリー ダンスや音楽のような芸術活動は、社会に存在する様々な事象や問題を、踊りや音に込めて問いかけてくれますよね。たとえばD.LEAGUEの観客のような若い人たちの中には、難しい問題を難しい言葉でぶつけられるより、自分の好きなダンサーが作品にどんな問いや思いを込めているのかを知った時のほうが、社会問題に対する目が開かれていくという方もいらっしゃると思うんですよ。そもそも、ダンスは最高のエンターテインメントであるいっぽうで、そのルーツをたどれば決して楽しいことばかりではなく、むしろ悲しみや苦しみに満ちた負の歴史にも行き当たる。だから少なくともダンサーは、自分たちがどんな歴史の積み重ねの上で踊っているのかを知っておくべきだと僕は思います。もちろん、そういう意識を強く持って活動しているダンサーはたくさんいて、僕自身もすごく勇気づけられますし、心強く感じています。
- 最後にひとつ。ケリーさんは、バレエを観たことがありますか?
- ケリー あります。僕の地元の友人がバレリーナだったんですよ。かつてアメリカのサンディエゴに僕が留学していた時に彼女もサンディエゴに住んでいて、サンディエゴのバレエ団で踊っていました。今はもう引退してしまいましたが、その頃に彼女のステージを一度だけ観に行ったことがあります。
ダンサーがその技術を体得するまでにどれだけの努力と時間を積み重ねてきたか――それを手の動きひとつ、身体の角度ひとつにも感じ取れるのが、バレエファンのみなさんではないでしょうか。ぜひそれと同じ観点で、D.LEAGUEのパフォーマンスも観てもらえたら嬉しいです。各ジャンルのダンサーたちのしなやかさや、それぞれのダンススタイルならではのラインの美。バレエを見慣れているみなさんだからこそ、楽しんでもらえるポイントがあると思います!

「It’s time to judge!」ケリー隆介さんのトレードマーク(?!)、ジャッジタイムを告げるあのポーズを見せてくれました! ©Ballet Channel
- ケリー隆介 Ryusuke KELLY
- 1985年6月30日生まれ。アイリッシュ・アメリカと日本のクウォーター、東京育ち。ラジオパーソナリティや、スポーツ系、海外ブランド系のイベント等でのMCを数多く務める。D.LEAGUEでは2020年の開幕シーズンからMCを担当。
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