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【観戦評】プロダンスリーグ「D.LEAGUE 23-24」シーズン王者はKADOKAWA DREAMS!

村山 久美子

日本発、世界初のダンスのプロリーグとして2021年1月に開幕したD.LEAGUE(Dリーグ)が、4年目のシーズンを終えた。
2023年10月29日から始まった今シーズンは、全13チームが14ラウンドをかけて総当たり戦を繰り広げ(レギュラーシーズン)、その上位6チームが、トーナメント形式で頂点を競うチャンピオンシップに進出した。

2024年6月9日(日)、有明の東京ガーデンシアターにて開催されたチャンピオンシップ。どのチームが覇者となってもおかしくない接戦が続いた試合のもようや、今シーズン全体の総評、これからのDリーグに期待することなどについて、自身も複数ジャンルのストリート系ダンスを踊りこなす舞踊史家・舞踊評論家の村山久美子さんに「観戦評」を寄せていただいた。

©D.LEAGUE 23-24

「演出」よりも「音楽表現」で勝負! 白熱のチャンピオンシップ

2020年1月に始まったストリートダンスのリーグ、Dリーグ。4期目を迎え、現在13チームとなった2023-24シーズンの優勝を決定するチャンピオンシップ(以下CSと表記)が、2024年6月9日に開催された。

出場したのは、今シーズン14回の対戦(ラウンド)で獲得した合計得点の上位6チーム。

  • クランプをメインとするFULLCAST RAIZERZ(フルキャスト レイザーズ)
  • ブレイキンをメインとするKOSÉ 8ROCKS(コーセー エイトロックス)
  • ハウス、ロッキンほかをベースにフリースタイルで踊るDYM MESSENGERS(ディーワイエム メッセンジャーズ)
  • ブレイキン、ヒップホップ、ハウスなどのValuence INFINITIES(バリュエンス インフィニティーズ)
  • ヒップホップをメインとするKADOKAWA DREAMS(カドカワ ドリームズ)
  • ポッピン、ロッキンをメインとするCyberAgent Legit(サイバーエージェント レジット)

FULLCAST RAISERZ。彼らがベースにする「クランプ」は、厳しい環境下で生きる若者たちが犯罪を起こさず闘うために生まれたダンス。足を踏み鳴らしたり腕を振り下ろしたりしながら踊るのが特徴。鍛え上げられた肉体の美が光る ©D.LEAGUE 23-24

KOSÉ 8ROCKS。2024年パリ五輪で初めて競技種目となり熱い注目を集める「ブレイキン」のチーム。ブレイキンは音楽やリズムに合わせてアクロバティックでスリリングな超絶技巧を繰り出すダンス ©D.LEAGUE 23-24

DYM MESSENGERS。今シーズンからの新加入していきなりCS進出を果たした実力派チーム。「ハウス」(ハウスミュージックに合わせて踊る、速くて軽快な足技が特徴のダンス)や「ロッキン」(激しい動きから突然静止してポーズを取るのが特徴)など多種多様なスタイルを自在に踊りこなす ©D.LEAGUE 23-24

Valuence INFINITIES。Dリーグ参戦2年目にして大躍進したチーム。ストリートダンスの代表格「ヒップホップ」「ブレイキン」「ハウス」を融合させた作品の数々で、今シーズンを大いに盛り上げた ©D.LEAGUE 23-24

KADOKAWA DREAMSは「ヒップホップ」をメインに闘うチーム。昨シーズン(22-23)はレギュラーシーズン4位からのCS優勝、22-23シーズンの王座についた。今シーズンはレギュラーシーズン2位でCSへ。2連覇を賭けた気合いのパフォーマンスには王者の風格も ©D.LEAGUE 23-24

CyberAgent Legitは「ロッキン」や「ポッピン」(筋肉をはじく動き=ポップが特徴)がメインのチーム。ファーストシーズン、セカンドシーズンと成績が振るわず苦悩した2年間を耐え忍び、昨シーズンと今シーズンは2年連続でレギュラーシーズン第1位。しかし昨シーズンはCSの決勝で惜敗して涙をのんだ。今回のCSはその雪辱戦、果たして結果は……? ©D.LEAGUE 23-24

結果は、昨シーズンに続き、KADOKAWA DREAMSがCyberAgent Legitに勝利してチャンピオンとなった。

決勝戦(Final Match)、ジャッジの結果が出た瞬間。その差はわずか1票だった ©D.LEAGUE 23-24

それまでのラウンドは、各チームが毎回対戦相手を変え、2分から2分15秒の曲を1曲を踊る形式だったが、CSではトーナメント方式を採用。そしてラウンド14回の合計得点数が第1位のCyberAgent Legitと2位のKADOKAWA DREAMSは、準決勝(Semi Final Match)からの出場だった。

©D.LEAGUE 23-24

2023年10月29日の開幕戦(第1ラウンド)から2024年5月19日の第14ラウンドまで、ほぼ一週おきに行われてきた各ラウンドでは、各チームが踊るのはオリジナルの音楽で1曲ずつだった。しかしCSでは、準々決勝からのチームは3曲、準決勝からのチームは2曲の創作作品を発表しなければならない。5月19日の最終ラウンドからたった20日後という短い期間にもかかわらず、パフォーマンスは、すべてのナンバーがかなり高い満足感。

この理由は、シーズンを重ねるごとに、何シーズンも参加しているダンサーたちのダンスのレベルがどんどん向上しているとともに、当初は気鋭の若手たちの参戦が多かったが、現在はベテランの名舞踊手たちも参戦してきていること、そしてCSでは、演出を工夫してテーマを表現する作品というよりは、ストリートダンサーが得意とする、踊りでの音楽の表現がほぼすべてであったためと考えられる。逆に言えば、通常のラウンドよりも、ユニークな演出が際立つ作品は少なかった。演出力が高く、面白いエピソードをヒップホップで描くavex ROYALBRATSなどがCSに出場できなかったことも大きい。

最も心に残った対戦は、準々決勝の第1戦目(1st Trial Match)FULLCAST RAIZERZ「This is KRUMP」KOSÉ 8ROCKS「王道」。筋骨たくましい身体で力みなぎる闘いのダンスを見せる前者の、舞台に充満する強烈な圧倒的エネルギーと、後者の、極めて難易度・危険度の高いアクロバティックな動きを複雑な構成でしっかり音楽を表現しながら次々と繰り出してゆく、息をのむようなブレイキンの対決。結果は1対11で後者の勝ちとなったが、筆者にはどちらにも勝たせたいダンスだった。

準々決勝。圧倒的なパワーを見せたFULLCAST RAISERZ ©D.LEAGUE 23-24

準々決勝のKOSÉ 8ROCKS。SPダンサーに元チームディレクターのISSEIを迎えて挑んだ ©D.LEAGUE 23-24

作品として魅了されたのは、KOSÉ 8ROCKSが準決勝で踊った「踊心」。ジャケットを着た洗練された雰囲気で、急速な回転を入れたアクロバティックなフロアワークなどを、音楽との見事な融合で見せた。CSでは、アクロバティックな技で目を引き付けようとしたチームが大部分だったが、KOSÉ 8ROCKSのアクロバティックな技の難易度の高さ、精確性、危険な技でも失われない身体の音楽性は、比肩するチームがない。逆に、ダンスの上手さや味わいがこれまでのラウンドで際立っていたCyberAgent Legitは、準決勝で7対5でKOSÉ 8ROCKSに勝利したとはいえ、派手な動きのインパクトを意識したようなアクロバットではブレイクのチームに引けを取り、持ち味の上手いダンスをアピールする意識に欠けているように思われたのは残念だった。実力派のCyberAgent Legitが2位に終わったのは、このような理由もあるように、私には思われる。衣裳も、筋肉をはじくポップによる布地の揺れがもっと美しく見えるものを着た方が、素敵な作品になったのでは、と感じた。

準決勝ではスタイリッシュな衣裳とダンサブルな振付で勝負したKOSÉ 8ROCKS ©D.LEAGUE 23-24

決勝(Final Match)。CyberAgent Legitは昨シーズンに続いて準優勝に輝いた ©D.LEAGUE 23-24

最も印象深かったダンサーは、優勝したKADOKAWA DREAMSの颯希(SATSUKI)。CSでのMost Valiable Dancer(MVD)に選ばれたのも当然。すばらしいアイソレーションの能力で自在に急速に筋肉を波立たせ、突然クリアに動きをストップさせる。加えて、感情表現を入れる振付でなくとも、身体の内奥から湧き出る何か情動的なものが見る者を引き付ける。これまでのラウンドでも、颯希が出ると勝つという印象が強かった。

準決勝のパフォーマンスでメインダンサーを務めたKADOKAWA DREAMSの颯希(写真中央) ©D.LEAGUE 23-24

審査することの難しさ……それでもDリーグの意義は大きい

今シーズンのCSの結果については、1位2位が昨シーズンと同じとはいえ、この2チームが圧倒的に強いというわけではない。CSの出場を逃したチームも含めて、現在どのチームも大差なく、リーグ全体として、ダンスのレベルがどんどん向上している観がある。これからも楽しみでならない。

ただ、ダンスは芸術であるがゆえに、審査の項目を「スキル」「クリエイション」「コレオグラフ」「スタイル」「完成度」と分けても、評価が一目瞭然の確実性をもたないという問題は解消されていない。オリンピックのブレイキンについても、ダンサーたち自身がそう語っている。Dリーグ全体のダンサーのレベルが向上すればするほど、審査は甲乙つけがたくなることは必須である。

現段階でこの問題を少しでも解決するために考えられるのは、まず、審査員の選定ではないだろうか。

今シーズンの審査員は、名舞踊手や振付家で、ハウス2人、ポッピン1人、ブレイキン1人、ヒップホップ2人、他はジャズヒップホップやショーダンスの振付と自身のダンスで有名な人々だったが、ストリートダンスはジャンルにより技術が大きく異なり、自分の専門以外の技術をどこまで精密に評価できるかに不安が残った。これは筆者自身が、20年間にわたり世界のトップに数えられるロッキンの「GO GO BROTHERS」Reiや、ハウスの世界的なダンサーSHUHO他に多くを学び、バレエを幼少から長年踊り、コンテンポラリーダンスを40年以上踊り、評論家として様々な舞踊ジャンルを40年以上数多く見てきてもなお、自分のメインの舞踊ジャンル以外のものに深く踏み入って技術やその他の質を精密に判断することはできない、と感じているからである。レギュラーシーズンのラウンドでは演出力がものをいう作品もいくつも出てきたが、最高のものを見せるCSでは、ストリートダンサー本来の、超絶技巧での音楽表現で勝負する作品に片寄っていた。そのために、はたして専門外のダンサーが、微妙な技術力の差異を判断できるのだろうかという不安を感じてしまった。しかも、ロッキンなどのように、専門のダンサーの審査員がいないジャンルもあった。

これは筆者からの提案だが、審査員には各ジャンルのベテラン名舞踊手を数名ずつと振付家、そして舞踊芸術を多岐にわたって長年見ている専門家を揃え、審査員全員での協議によってパフォーマンスに毎ラウンド点数をつけ、その合計点でCS出場を決めるというのはいかがだろうか。それに加えて望みたいのは、演出力でも勝負できる優れた振付家の育成、参戦である。

様々なジャンルの舞踊芸術の、それぞれに優れたものに勝ち負けをつけることの難しさは、今のところ解決できていない。本人たちも語っているように、“勝つための決め手”も各チームがつかめていないのが現状だ。とはいえ、Dリーグができたことによって、これまで30代後半から40代のベテランの黄金世代の素晴らしさが際立っていた日本のストリートダンス界で、若手ダンサーのレベルが非常に上がり、ほかのバトルでも活躍していること。ダンサーの本来の姿である舞台活動で、プロフェッショナルにふさわしい収入を得ることができるようになっていること。またメディアがDリーグを取り上げることで、ストリートダンスへの関心が世代を問わず高まっていること。これらはまさに、Dリーグの高い価値を物語っている。

D.LEAGUE 23-24シーズンを制したKADOKAWA DREAMS。次の24-25シーズンはさらに新規参戦1チーム(List::X/リストエクス)を加えた全14チームで、2024年10月13日(日)に開幕する ©D.LEAGUE 23-24

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早稲田大学大学院博士課程満期終了。ハーバード大学大学院、ロシア国立プーシキン記念外国語大学留学。 早稲田大学、工学院大学、東京経済大学、青山学院大学、青山学院大学大学院で非常勤講師として、舞踊史、ロシア・バレエ史、ロシア語の講義、ストリートダンスの実技を担当。 舞踊評論家として、読売新聞、日経新聞、ダンスマガジン、各種公演プログラム等々に、舞踊評論を1980年代前半から寄稿。 文化庁芸術選奨推薦委員(令和5年まで歴年、令和6年は未定)、東京新聞全国舞踊コンクール、さいたま全国舞踊コンクール現代舞踊部門審査員、まちだ全国バレエコンクール審査員。 著書に、「バレエ王国ロシアへの道」(東洋書店新社、2022年)、「二十世紀の10大バレエダンサー」(東京堂出版)、「知られざるロシア・バレエ史」(東洋書店)他。訳書に、「ワガノワのバレエレッスン」(新書館)他。論文に、「マリウス・プティパの創作の変遷」「F・ロプホーフのダンスシンフォニー『宇宙の偉大さ』」他多数。 バレエを東京バレエ団元バレエ・ミストレス友田弘子、ボリショイ・バレエ団元プリンシパルでモスクワ国際バレエコンクール第一回優勝者ゲンナージー・レージャフ他、コンテンポラリーダンスをネザーランド・ダンス・シアターの元中心的ダンサー中村恩恵、ストリートダンスを国際ダンスバトル世界チャンピオンSHUHOとGO GOBROTHERSのReiに師事。舞踊歴約60年現役。

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