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【動画レポート】牧阿佐美バレヱ団「ロメオとジュリエット」リハーサル&ダンサーインタビュー

古川 真理絵

2024年6月29日(土)・30日(日)、牧阿佐美バレヱ団が12年ぶりに全幕『ロメオとジュリエット』を上演します。同団が上演するのは、マイヤ・プリセツカヤの弟であるアザーリ・M・プリセツキーと牧阿佐美が共同で振付・演出したもの。1995年の初演からバレエ団が大事に受け継いできたこの版ならではの特徴や見どころ、役の魅力について、タイトルロールを踊るダンサーたちに聞きました。

2本の動画、

①『ロメオとジュリエット』通しリハーサル
②主演ダンサーに聞く! ロメオ&ジュリエットの衣裳について

と併せてお楽しみください。

写真・動画撮影・編集:バレエチャンネル編集部

◆◇◆

12年ぶりにロメオ役を踊ります。前回は初役で正直余裕がありませんでしたが、今回は二度目ということもあり、新たな発見をたくさんしています。でも、僕が思い描く素直で誠実なロメオ像は、初演の時から変わりません。それを軸に、今回はパートナリングや音の使い方、お客様への見せ方など、細かいところまで繊細に表現できたらと。とくに舞踏会でジュリエットと出会うシーンは、マスクをつけていて表情が見えないぶん、ロミオの心情をお客様にしっかりと伝えなくてはいけない。見つめ方、ジュリエットへの触れ方など、一つひとつを大事に演じることで、自分なりのロメオを表現できたらと思っています。

シェイクスピア原作の『ロメオとジュリエット』をあらためて読むと、時代背景や当時の価値観など、現代を生きる僕たちには共感できない部分もあります。けれど、人に恋する気持ちや大切な人を失った時の悲しみは今も昔も同じ。心の揺れを大切に演じていけば、きっと自然にストーリーも伝わりやすくなると思います。とくに、あの歌のように流れる美しいセリフが聞こえるように演じられたら。セリフのないバレエで会話しているように見せるには「呼吸」を意識することが大事です。ふだん話す時だって、相手の息遣いや呼吸の間(ま)を感じながら話しますよね。楽器の演奏者も同じで、音を合わせる時はお互いの呼吸を見せるように演奏している。ロメオ役を演じる時は、自分の呼吸・相手の呼吸を感じながら、頭の中ではずっとセリフを喋っているような感覚で踊っています。

ロメオにジュリエットからの手紙を渡すため、広場に訪れた乳母を茶目っ気たっぷりにからかうシーン

このプリセツキー&牧版には、いくつかの大きな特徴があります。例えば第2幕、キャピレット夫人の嘆きの場面。ティボルトが亡くなって彼女が悲痛な想いを爆発させるシーンですが、このバージョンでは「振付」がほとんどありません。本当に極端なくらい、振付としての動きがないんです。これはほかでは見られない演出だと思うし、あえて抑えた演技にすることで、なかなか感情を表に出さない日本人の僕たちにはリアルに感じられる演出になっていると感じます。

そのいっぽうで、踊りを見せる部分では、振付の一つひとつに感情がすべて盛り込まれています。プリセツキーのベースにあるロシア・バレエは、感情を振りやマイムなど動きで見せることが多いですよね。そのスタイルと演劇的な部分がうまくミックスされているところが、このバージョンの魅力ではないでしょうか。

もうひとつ、これが最大の特徴かもしれませんが……第3幕のラストシーン、プリセツキー&牧版ではロメオが息絶える直前に、ジュリエットが目覚めます。つまり、ふたりは最後にほんの一瞬だけ、再会することが叶うんです。ロメオがジュリエットの腕の中で息絶える瞬間にセリフをつけるとしたら「僕と出会ってくれてありがとう」でしょうか。ロメオは自死を選びますが、それまでの選択に後悔はひとつもないと思います。体は死に向かっているけれど、最後にジュリエットが自分の名を呼ぶ声が聞けて、温もりを感じられた。幸せな気持ちで最期を迎えると思います。そして最後の最後にジュリエットとロメオが会えたからこそ、ヒロインの「死」がより一層切なく悲しいものになる。大事に演じたいシーンです。

これまでは『眠れる森の美女』のフロリン王女や『ライモンダ』のクレメンスなどのソリストでキャストされることが多く、まさか自分がタイトルロールを演じる日がくるとは思いませんでした。不安はありましたが、その反面、ジュリエットのようなドラマティックな役柄で主演できるのはやはり嬉しい。今は本番を迎えるのが楽しみです。ロミオ役の清瀧さんはとても踊りやすいパートナーで、信頼して踊れます。パートナリングに関してはあまり心配していません。

そのいっぽうで、ジュリエットの内に秘めた想いを表現することは、とても難しいと感じています。とくに、第1幕のロメオと出会った瞬間の「喜び」をナチュラルに演じるのが今の課題。ジュリエットはこれまで演じてきたどの古典作品とも違っていて、クラシックの型をある程度崩さなければなりません。たとえば、ただ立っているだけでも、ロミオへの想いが高まるにつれて重心は前のめりになる。ジュリエットがいまどんな気持ちなのか、立ち姿ひとつからも伝わるように、上体の角度やラインを研究しています。

今回、役作りのために原作を読んだり、過去のバレエ映像や映画をたくさん観ました。原作を読むと、シェイクスピアの書いた一節が振付とリンクしていて「あぁ、このセリフをこの振りで表現していたのか」と。映画では、フランコ・ゼフィレッリ監督の『ロミオとジュリエット』でオリビア・ハッセーが演じる可憐なジュリエット像が、自分のイメージするジュリエットに近いかなと感じています。最近では、東京バレエ団のクランコ版も観に行きました。たくさんのジュリエットを観て思うのは、演じる人、バージョンによってまったく見え方が変わるということ。私自身は、純粋だけれどじつはすごく芯が強い、そんなジュリエットを演じられたらと思っています。

第3幕。両親からパリスとの結婚を強要され、ロレンツォ神父に助けを求めに行くシーン

第3幕は終始舞台上にいて、場面ごとに気持ちが途切れないようにしなければならないのも、これまでに経験のないことです。なかでもジュリエットが神父からもらった毒薬を飲むシーンは、ジュリエットの迷いや死の恐怖、決断、ロメオへの愛、すべての感情が複雑なステップの中に詰め込まれていて、とても難しい。

そして、そのあとに続く墓場の場面――プリセツキー&牧版の最も特徴的なシーンですが、ジュリエットが仮死状態から目覚めて、瀕死のロメオを見つけ、彼を看取ったあとにジュリエット自身も自害するまで、意外とあっという間に終わってしまうんです。その短い間を、振付通り、流れで演じてしまうと、何もドラマが生まれません。ナイフを胸に刺すところも、ジュリエットの一瞬の覚悟をお客様に伝えるにはどうするか。音楽と振付、間合に全神経を集中して、一つひとつの動きに意味を持たせて演じられたらと思います。

ジュリエットはずっと踊りたかった特別な役。母曰く、私がまだ5歳だった時、初めて『ロメオとジュリエット』を観て涙を流したそうです。大人になってもいろんなバージョンを観ては「自分だったらこう踊りたい」と思いを巡らせていましたし、「ジュリエットを踊るまでバレエはやめられない」とも思っていました。今回は12年ぶりの再演。全幕で踊れるチャンスはこれが最初で最後かもしれない。そういう気持ちを持ってリハーサルに臨んでいます。

ずっと憧れてきた役だからこそ、じっさいに踊ってみると、自分の理想との溝を埋める難しさを感じています。またプリセツキー&牧版はテクニック的な要素も散りばめられていて、ジュリエットのヴァリエーションでは、アラベスクからトゥールに入ったり、アティテュード・ターンやドゥヴァン・アティテュード・ターンがたくさん出てきたり。しかも、左右で同じ振付が繰り返されるんです……。プリセツキーさんは左回転のステップが好きだったそうで、必ず左から振付が始まるのも特徴のひとつ。私は左の回転系に少し苦手意識があり、メンタル的なところも鍛えられています(笑)。

表現の面では、前回踊らせていただいた『アルルの女』に通ずるところがあるように感じます。その時にルイジ・ボニーノさんから「手をひとつ出すのにも、心の奥底から感情がにじみ出るよう表現しなければならない」とご指導いただきました。ジュリエットも、すべての振りに感情が伴っています。動きだけ、表情だけの上面の演技にならないよう、細かくブーレする足先の動きひとつにも、心の機微を乗せられたらと思っています。

第1幕。舞踏会に着るドレスを嬉しそうに身体にあてて鏡を見るジュリエット

演じる上で心がけているのは、ジュリエットが14歳の少女だということです。14歳って、まだ幼いですよね。感情をむき出しにしてストレートな反応をするだろうし、シェイクスピアの原作にあるような長い文章で愛は語らないだろうと思うんです。目の前に好きな人が現れたら、もっと短くシンプルな言葉で、情熱的に想いを伝えるはず。第3幕のラストシーンも、最初からロメオの死は受け入れられず、きっと戸惑いや疑いが先に立つのではないでしょうか。だから今は原作を読み返しつつ、自分の中で生まれた感情を言葉に変換する作業をしています。独りよがりにならないよう客観的な視点も心がけながら、自然でリアルな表現をお客様に届けたいと思っています。

プリセツキー&牧版は、第1幕のバルコニー・パ・ド・ドゥもとても美しいと思います。リフトが多く、ジュリエットとしてはずっとフワフワ浮いているような感じなんですよ。その浮遊感が初恋の浮き立つ感情をよく表していて、長身の近藤さんと踊っていると、ロメオに包まれているような感覚にもなります。そしてこのパ・ド・ドゥの中盤に、ジュリエットが地面にモンタギューの「M」と書き、ロメオがその手を遮って「名前を捨てよう」と二人で語るシーンがあります。原作のエッセンスが感じられ、とてもロマンティックで大好きなシーンです。

バレエ団の舞台に主演するのは『くるみ割り人形』に続いて二度目です。配役を聞いた時は、とにかく驚きました。でも、3年前に踊った『ル・コンバ』(ウィリアム・ダラー振付)というドラマティックな小品に主演した時、とても達成感があり、今回のロメオ役にも通ずるものがあると思いました。『ロメオとジュリエット』はバレエ団を代表する先輩方が踊り繋いできた作品。そのバトンを受け継ぐのはかなりのプレッシャーがありましたが、つねに不安はつきものです。「やるぞ!」と覚悟を決めて、リハーサルをスタートさせました。

ロメオを演じる上で難しいところは、若さゆえの感情の起伏を表現すること。とくに、ロメオの熱い部分や、血がのぼってカッと突っ走ってしまうところは、10代特有だと感じています。16歳という年齢設定ですから、どうしても「若さ」を演じなくてはならず……日々悩みながら、自分なりのロメオ像を模索しているところです。

いまは、初演でロメオ役を務めたイルギス・ガリムーリンさんから指導を受けています。とくに印象に残っているのは、ロメオがソロでみせるマネージュについて教わったこと。バルコニーと、第2幕の乳母からジュリエットの手紙を受け取る場面で、それぞれマネージュが入ります。どちらも同じ「喜び」の表現ですが、バルコニーでは愛を語っているところだからロマンティックに柔らかく。第2幕は喜びを爆発させるよう、元気いっぱいの男の子が跳んでいるように見せなければならないと教えていただきました。ただジャンプする中にも、ちょっとしたニュアンスの違いがあることを知り、自分の中で腑に落ちたし、とても面白いと思いました。

このバージョンの特徴を3つ挙げるとしたら、ひとつ目はロザラインが登場しないこと。もちろんロメオにとってジュリエットが初恋かどうかはわかりませんが(笑)、でも二人の恋によりフォーカスが絞り込まれ、純度の高い恋心が際立つバージョンになっていると思います。最後の二人のすれ違いも、いっそう悲劇性が膨らんでいるのではないでしょうか。
2つ目は、音楽的な振付です。プリセツキー&牧版は踊り手に音楽性を求められる作品だと感じています。すべての音にハマるように無駄なく振付けられている。でも、カウントの通りに踊ってしまうと逆につまらないものになってしまうので、パートナーの光永さんとどうやったらお客様に自然に見えるか相談しながら踊っています。
3つ目は豪華で美しい舞台美術。背後に回廊のような通路が設置されていて、それがどのシーンでも効果的に使われています。とくにジュリエットと出会うシーンでは、先にロメオが回廊の上からジュリエットを見つけるのですが、最初の二人の心の距離が視覚的にも表現されているんです。それに気づいた時、あらためて美しいシーンだと思いました。そして、その舞踏会の衣裳も見どころです。一人ひとり色使いやちょっとした細工が違っていて、ずっと見ていても飽きない衣裳なんですよ。

マーキュシオ役・大川航矢さん、ベンヴォーリオ役・濱田 雄冴さんと踊るトリオの場面

公演情報

牧阿佐美バレヱ団『ロメオとジュリエット』

日程

2024年

6月29日(土)15:00

6月30日(日)15:00

会場

文京シビックホール 大ホール

詳細・問合せ

牧阿佐美バレヱ団 公演サイト

 

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