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【母の日特集】“お母さんバレリーナ”のワークライフバランス②久保茉莉恵(牧阿佐美バレヱ団)インタビュー〜あの時の決断で、今がある

古川 真理絵

5月12日は【母の日】
キャリアも子育ても両立している、3名の”お母さんバレリーナ “に、妊娠・出産を機に考えたキャリアのこと、ワークライフバランスの向き合い方や1日のタイムスケジュールについてお話を聞きました。

第2回目は牧阿佐美バレヱ団で活躍する久保茉莉恵さんのインタビューをお届けします。

◆◇◆

久保茉莉恵(くぼ・まりえ)

兵庫県出身。2010年牧阿佐美バレヱ団に入団し、『ドン・キホーテ』キトリ、『くるみ割り人形』雪の女王など数々の作品で主要な役を踊る。プライベートでは、出産と夫の海外転勤のため、二度バレエ団から離れた時期も。現在は、7歳の男の子を育児しながら、現役のダンサーとして活躍している。

◆◇◆

久保さんは主演舞台を務めるなど、キャリアも充実していた27歳で出産。妊娠がわかった時はどのような心境でしたか?
授かったことはもちろん嬉しかったです! ただ、ダンサーとして精神的にも肉体的にもバランスのいい時で、キャリアを考えるとどうしても不安になることもありました。とにかくネガティブなことは考えないよう努めて、産後すぐに復帰するために出産ギリギリまで稽古していました。
妊娠を報告した時、バレエ団の先生やダンサーの反応はいかがでしたか?
みんなとても喜んでくれました。妊娠中は出産を経験されている先輩ダンサーの存在が本当に心強かったです。不安な気持ちを吐き出した時に受け止めてくれる人がいる。それだけですごく支えになりました。そのうちの一人であるミストレスの挟間先生は、当時からずっと気にかけてくださいます。本当にたくさんの方がサポートしてくださったおかげで、いまがあると思っています。
出産後、バレエ団への復帰は早かったのですか?
2017年の1月に出産して、半年後には復帰しました。とにかく早くバレエ団に、舞台に戻りたいと思っていました。当時住んでいた杉並区は保育施設の激戦区で、最初は保育園に預けることができませんでした。実家は遠く、両親にも頼ることができず、毎朝必死に電話をし、一時保育所を探してリハーサルに参加していました。
産前・産後では身体に大きな変化があったと思いますが、ダンサーとしてどのようなことに苦労されましたか?
筋肉も、骨格も変わってしまって、ダンサーでいちばん大事な身体を引き上げる感覚が鈍ってしまいました。主人がスポーツトレーナーを生業としていることもあり、自宅でコアトレーニングをしてもらっていましたね。でも、やはりダンサーの身体に戻すにはクラスを受けることがいちばん。それまで以上にどこの筋肉を使っているか意識しながらレッスンするようになりました。産後のほうが意識高くレッスンできていると思います。

クラス・レッスンを受ける久保さん ©︎Ballet Channel

ボディ・メンテナンスはダンサーにとって必須だと思いますが、「お母さん業」と並行して、限られた時間の中でどのように身体のケアをしていますか?
主人に紹介してもらいバー・オ・ソルを始めました。それが私の身体にすごく合っているようで、バレエ団に行く前に必ず30分ほど自習しています。部屋の一角のスペースで気軽にできるのもいいんです。基本的には、脚のアン・ドゥオールの使い方をメインにトレーニングしますが、もちろん上半身も使ってバランスよく全身を動かすこともできます。その時々で自分の身体と相談しながらエクササイズしています。

久保さんの平日24時間の使い方

そうして復帰を果たした2年後、30歳の時に、ご主人の海外転勤で再びバレエ団を離れることになりますね。
本当に突然だったんです。主人が当時担当していたサッカー選手がドイツのブレーメンにあるチームに移籍することになり、家族みんなでついていくことになりました。彼がずっと海外に行きたいのは知っていましたが、ここでまたバレエ団を離れて良いものか、とても悩みました。けれど、日本とは違った環境で子育てできるのは良い経験になりそうだな、と。息子を第一に考えた結果、ドイツに行くことに決めました。
海外赴任が終わったら、バレエ団に再復帰したいと考えていましたか?
一応、主人の海外赴任は2年間の契約となっていたので、終わり次第帰国し、復帰したいと考えていました。
ドイツでの生活はいかがでしたか?
行って本当に正解でした。国民性も日本人に近いところがあって親近感もありました。何の予備知識もないまま渡独しましたが、現地は優しい人ばかりで、とても暮らしやすかったですね。

ドイツで息子とサッカー観戦 写真提供:久保茉莉恵

ドイツでもバレエは続けていたのですか?
1年目は語学を習得しなければならず、とにかく暮らしに慣れることが最優先。正直まだバレエどころではありませんでした。スタジオを探してレッスンを受けに行っていましたが、ドイツでの生活に慣れた2年目にコロナが蔓延し始めて、町がロックダウンしてしまったんです。外出ができなかった期間は自習で身体を動かしていましたが、しばらくしてバレエ団のオンライン配信クラスが始まり、レッスンに参加させてもらいました。久しぶりにバレエ団のみんなと顔を合わせることができて嬉しかったです。ただ、時差があったため早朝4時からのレッスンは結構きつかったですね(笑)。
コロナ禍を外国で過ごすことに、孤独や不安は感じませんでしたか?
孤独だと感じたことはとくにありませんでした。当時3歳だった息子と二人っきりの時間が多かったから「今日は何しようかな?」と考えるのが楽しかった。日本にいる時は、バレエ団と保育園との行き来で、毎日が忙しく時間がただただ過ぎていくだけでしたが、ドイツで子どもとの時間が作れた。自分にとっては必要な時間だったと思います。
そして、2年が経った2021年に帰国。バレエ団にはどのような経緯で復帰することになったのですか?
牧阿佐美先生にドイツに行くことをお話した時、「待ってるから行ってらっしゃい」と温かい言葉をかけてくださり、帰国した時は、先生が「もう次の役は決まってるから。頑張りなさい」って、数ヵ月後の公演にキャスティングしてくださいました。先生が戻る場所を先に用意してくださり、本当に胸がいっぱいになりました。じつはその時、先生は大病を患われていました。主人の海外赴任延長の話もありましたが、先生の病状を聞いてドイツからの帰国を決めました。先生がいるバレエ団に戻りたい。その一心で復帰した舞台でしたが、結局、先生は会場で公演を観ることはできませんでした。でも、病床のベッドから配信をご覧になっていたとか。その公演のあとすぐに先生は旅立たれましたが、最後の最後まで、私にチャンスを与えてくださった先生にはいくら感謝してもしきれません。先生は本当にひと言では言い表せないくらい私にとって大切な存在です。
その公演では何を踊ったのですか?
ローラン・プティ振付の「デューク・エリントン・バレエ」で先輩の男性ダンサー3人と一緒に踊りました。久々の舞台に不安もありましたが、先輩方にたくさん助けてもらい、「あぁ、私は一人じゃないんだな」とあらためて実感したのを覚えています。

2021年の「デューク・エリントン・バレエ」より。逸見智彦、保坂アントン慶、京當侑一籠と踊った復帰公演 ©︎鹿摩隆司

妻として、母として人生経験を積んだいま、表現する上で自分が変わったと感じることはありますか?
最近は「お母さん役」を演じることが多く、自然と感情移入できるようになりました。昨年は『白鳥の湖』で王妃を演じたのですが、さっと手を差し出す仕草も、我が子に接する時の感覚とリンクして、愛情を持って表現することができました。とくに王子への触れ方は、子どもを産む前だったら絶対できなかっただろうな……と思います。
次の舞台では『ロメオとジュリエット』でロメオの母を演じます。まだ稽古は始まったばかりですが、自分がどんな心境になるのか楽しみです。

『白鳥の湖』で王妃役を演じる久保さん ©︎山廣康夫

久保さんは“二人目”をほしいと思うことはありますか?
息子には兄弟がいたらいいなと思うことは多々ありますが、やっぱりまだ踊っていたい気持ちが強く、考えるのは今ではないと思っています。最初の出産で感じた不安や恐怖をもう一度……という気持ちには、今はなれません。考えるならば、現役を引退してからだと思います。自分のキャリアと出産を並行して考えることが、どうしても難しいのが現状です。

でも、「なるようになる」を合言葉に、流れに身を任せて自分のペースで歩んできた人生。私が決断してきたことは、結果的にすべて自分にとってベストだったと思います。子どもを産んだことも、ドイツに行ったことも、あの時に決断したことが今につながっている。今日のこの時間も将来の糧となると思えば、何事も前向きになれます。

最後に、母としてどんな時に幸せを感じるか教えてください。
ひとつ挙げるとしたら、やはり息子の笑顔でしょうか。最近は指導の仕事もあり、週末も家族で過ごす時間があまり持てていません。だから、ちょっとした会話の中で、子どもが心から笑ってくれた時は、「あぁ、幸せだな」と感じます。

©︎Ballet Channel

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IN THE BAG|お仕事の日のバックの中身はコレ!

バックはなんでも入る大きめサイズ。エコバック、香水、マッサージクリーム、お財布、ミニバック、ポーチ、マスクをバックにIN。

久保さんおすすめのマッサージクリーム。旦那さんが教えてくれたそうで、筋肉の疲労を和らげてくれる効果があるのだとか。

ふたには息子さんが好きなキャラクターのシールが。

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