
2025年10月25日に行われたD.LEAGUE 25-26 ROUND.1 BLOCK HYPEでのパフォーマンス。初戦早々、観客に「今季のMedical Concierge I’moonは何かが違う」と強烈に印象付けた ©D.LEAGUE 25-26
日本発のプロダンスリーグ〈D.LEAGUE〉。今季(2025-2026シーズン)は全16チームが参戦しているが、同リーグが2020年に開幕した当初から参画し、リーグで唯一「女性のみで構成されるチーム」として戦い続けているのが、Medical Concierge I’moon(メディカル・コンシェルジュ アイムーン)である。ディレクターの交代やチームオーナー企業の変更、メンバー構成の変化などを経ながらも、6年間にわたり独自の表現を追求してきた。
女性ならではの身体が繰り出す美的なライン、華やかな存在感。しなやかなムーヴメントに潜む、鋼のような力強さ。しかし彼女たちが歩んできた道のりは、決して平坦とは言えない。とりわけ21-22シーズンおよび22-23シーズンは、2季連続で最下位に沈むという苦難を味わった。
そんな低迷期にあったチームの変革を託され、ディレクターに就任したのがMIZUE氏だ。的確な現状認識と課題分析に基づいた采配で、I’moonを少しずつ、しかし着実に“勝てるチーム”へと進化させ、今シーズンはついに悲願のチャンピオンシップ(CS)進出を決めた。
かつて最下位に苦しんだチームを、いまやD.LEAGUEの“強豪チーム”のひとつに数えられるまでに引き上げた名将・MIZUE氏に、これまでの軌跡とチームづくりの哲学を聞いた。

MIZUE
ダンサー、振付師。チーム「杏仁豆腐」所属。D.LEAGUE 23-24シーズンよりMedical Concierge I’moonディレクターを務める。様々なメディアへの出演やダンスコンテストでの受賞多数、審査員としても10年以上のキャリアを持つ。プライベートでは2児の母でもある ©Ballet Channel
バレエやジャズで知った「曲線」の美
- まずはダンス経験のお話を。MIZUEさんはどんなふうにダンスと出会ったのですか?
- MIZUE 子どもの頃にテレビで安室奈美恵さんやSPEEDを見て、「自分もあんなふうに踊ってみたい!」と家で真似して踊り始めたのが最初です。その後、友達のダンスの発表会を見に行ったのがきっかけで、湘南の海のそばにあるスタジオに9歳から通うようになりました。
- そうしてスタジオに通い始めたMIZUEさんは、中学3年生まで、様々なジャンルのダンスを経験したそうですね?
- MIZUE そのダンススタジオが、いち早く「オールジャンルを踊れるダンサーを作ろう」という方針を掲げていたんです。最近の若いダンサーたちはもう当たり前のように様々なジャンルのダンスを踊りこなしますけれど、当時はまだ「何でも踊るなんてダサい」「いや、ひとつだけを極めないスタイルのほうがユニークだ」等々、いろいろな意見が荒波のように混ざり合っていました。そんな時代にありながら、ハウス、ブレイキン、ヒップホップ、カポエイラ、ジャズ、バレエなど、多様なジャンルを学ぶ機会を与えていただけたのは、本当にラッキーなことだったと思います。あの頃に得た感覚や音楽観は、間違いなく、いまの自分のダンスに大きな影響を与えてくれています。
- バレエを習った経験もお持ちなんですね!
- MIZUE そうなんですよ。スタジオのオーナーがジャズダンサーで、「バレエとジャズは学んでおいて損はないから」とおっしゃっていたので。ただ、正直にいうと最初はバレエがすごく苦手で、嫌々ながらやっていました。何しろ私はロッキンやヒップホップからダンスを始めたので、バレエの姿勢を作るだけでも大変でしたし、お稽古着も「スウェットパンツじゃダメなんですか?!」って……。だけどしばらく続けるうちに、バレエやジャズならではの良さにも気がつくようになりました。それは「曲線」の美しさ。バレエをきちんと習ったのは2〜3年でしたけれど、あの時の経験が、いまの自分の「ジャズ・ヒップホップ」というダンススタイルにつながっています。
- I’moonの作品には「バレエが好きな人はきっと好きだろうな」と感じる要素がたくさんあるのですが、いまのお話で納得がいきました。
- MIZUE そうだったら嬉しいです。私、いまでもプリエとタンジュだけは家でやっているんですよ。床を感じられるのがすごく楽しいし、重心の位置のトレーニングにもなるので。バレエやジャズの素晴らしさのひとつは、裸足で踊ることができて、つま先を自由に動かせるところ。I’moonはD.LEAGUEの舞台に裸足で立ち向かうこともあるので、そういう時にもバレエで学んだことを生かしたいと思っています。

D.LEAGUE 25-26 ROUND.5 BLOCK HYPEより。バレエのニュアンスを含んだ素足でのダンス、曲線美を強調したポーズで魅了した ©D.LEAGUE 25-26
「このチームにはメンタルが足りない」
- MIZUEさんは2023-2024シーズン、Medical Concierge I’moonが過去2季連続最下位という厳しい結果に苦しんでいた時期に、ディレクターに就任しました。当時、MIZUEさんはI’moonというチームをどのように分析し、どのような方向性で導いていこうと考えたのでしょうか?
- MIZUE テクニック的な課題も明らかにありましたが、いちばんの問題だと感じたのはメンタル面のことでした。このチームはまず精神を変えていかないと、絶対に強くはなれない。モチベーションを上げる以前に、ダンスに向き合うスタンスを一段階引き上げなければ、他のチームと肩を並べることができないな、と。メンタリティを変えるのは技術を改善するより難しいことですけれど、そこは覚悟を決めました。すぐには変わらなかったとしても、育てていくというつもりで、会社(チームオーナーの株式会社メディカル・コンシェルジュ)と手を取り合ってスタートしました。
- 具体的に、メンタルのどのような部分が足りなかったのでしょうか。
- MIZUE 自分たちの弱みを受け止めているようで受け止めていなかった、というのでしょうか。対戦に負けても、彼女たちは心のどこかで「負けて当然」と受け入れてしまっていた。D.LEAGUEのように1シーズンをかけて行われる長い戦いの中では、敗北すら活力にして、改善につなげていく力が必要なんですね。それなのに、彼女たちはどこか諦めてしまっているような印象がありました。もちろん、ある意味ではそれが彼女たちの強さでもあり、悪いことばかりではなかったと思います。でも、勝てるチームになりたければ、そこは必ず克服しないといけないポイントでした。
- やはりメンタルは大きいのですね。
- MIZUE スポーツ選手は絶対的にメンタルが重要です。ステージの上では何が起きるかわからないじゃないですか。照明や音響のトラブルが発生するかもしれないし、誰かが転ぶかもしれない。それでもメンタルが強ければ、アクシデントが起きてもむしろそれを力にして、勝利を引き寄せるチャンスに変えられると思うんです。

D.LEAGUE 25-26 ROUND.5にはMIZUEさん自らSPダンサーとして出演し、会場を沸かせた ©D.LEAGUE 25-26
- これまでD.LEAGUEを取材してきたなかで、新ディレクターや新規参入チームが自分たちの信じるダンススタイルでは勝てなかったり、D.LEAGUEのルールや評価基準になかなか適応できなかったりと、苦戦する姿を少なからず見てきました。MIZUEさんはどうでしたか? 最初からルールに葛藤することもなく、自然に適応できましたか?
- MIZUE もちろん、負けるたびにちゃんとくらっていましたし、「次はどうすればいいんだろう?」と苦しんでもいました。ただ私は子ども時代からコンテストに出場してきたので、戦いに出れば勝ち負けがつくのは当たり前だと思っていますし、D.LEAGUEとはそういう場だとわかったうえで、自分たちの意志でステージに立っています。負けるとついルールのせいにしたくなるけれど、そうじゃない。負けているのは自分たちのせいであって、自分たちが変われば必ず結果も変わってくる。そんなふうに受け止めてきました。
- MIZUEさんがMedical Concierge I’moonを率いるようになって現在3シーズン目。シーズンを重ねるごとに順位を上げ、今季はついに悲願のチャンピオンシップ(CS)進出が射程内に入ってきました(*)。この大躍進を支えている鍵はズバリ何だと考えていますか?
- MIZUE やはり先ほどお話しした「メンタル」の変化と、もうひとつは「フィジカル」だと思います。自分自身の身体と徹底的に向き合い、強化してきたこと。それは彼女たちがいままであまりやってきていないことだったので、会社のご協力のもと食と栄養に関するワークショップを実施するなど、改善に努めてきました。プロの世界で長期戦を勝ち抜いていくには、戦うための身体と精神が必要。その意識をダンサーたち自身の中で高めていくことが、大きな鍵だったと思います。

*2026年3月15日開催のROUND.7 BLOCK HYPEで、Medical Concierge I’moonは最終ラウンドを待たずして見事CS進出を決めた ©D.LEAGUE 25-26
女性の身体で、どう戦うか
- いまのI’moonを見ているともはや愚問に思えるのですが……女性チームならではの戦い方や強み、あるいは逆に、ここは要注意という弱点はありますか? バレエなども同じですが、身体の大きさや筋力といった面では、やはり男性に優位性がある。そのなかで、フィメール・チームのI’moonはどのように戦ってきたのでしょうか。
- MIZUE もちろんいまは多様性の時代で、男女の別なんて関係ないという面はあると思います。ただ、女性にしかない身体の仕組みというのはどうしてもあって、私たちが男性チームに勝つためには、まず女性である自分たちの身体を知り尽くす必要があると考えてきました。メンバーそれぞれの身体の状態を私自身ができるだけ察知して、その都度サポートする。本人たちにも、自分の身体に対する解像度をもっと高めてもらう。そういったことを大切にしてきました。
男性との差をとくに感じるのは、やはり筋力です。だから私たちは男性以上にトレーニング量をこなさなければと思ういっぽうで、やりすぎてしまうと女性ならではの良さ——たとえばしなやかさなどが失われてしまいます。筋力だけを見れば男性にはかなわないけれど、逆に言えば、筋力以外の要素を使えば充分に勝負できるはずです。勝つために渡れる橋はひとつじゃない。女性の身体ときちんと向き合っていけば、男性にも充分勝てると私は考えています。
- 女性ダンサーの武器になるものとは、たとえばどんなものがあり得ますか?
- MIZUE 「表現力」は女性の大きな強みではないでしょうか。とくに感情を表に出すのは女性が得意とするところで、I’moonというチームの絶対的な長所でもあるので、もっとしっかり押し出していけるように頑張ります。
- 今季のI’moonはとくに表現力が豊かだと感じます。
- MIZUE 本当ですか? だとしたら嬉しいです。もともとは表現力なんて全然なかったと言っても過言ではないくらいだったので。みんなダンスの技術的なことしか練習してきていなかったし、「顔で踊るのはダサい」みたいに考えているふしもあって、まるで仮面をつけているかのように無表情で踊っていることが多々ありました。だけど顔も身体の一部であって、心が動けばその感情は自然に顔に表れるはず。それを無理に隠すほうが不自然でしょ?という話をして、いまはずいぶん表情が変わってきたと思います。

D.LEAGUE 25-26 ROUND.8 BLOCK HYPEより ©D.LEAGUE 25-26
- もうひとつ、I’moonの大きな強みとして「シンクロ」がありますね。D.LEAGUEの評価項目のひとつである「シンクロパフォーマンス」について、以前MIZUEさんが「シンクロという項目には可能性を感じる」とおっしゃったのが心に残っています。「みんな違ってみんないい」的な価値観がいっそうの広がりを見せているダンスの世界において、MIZUEさんはシンクロ表現のどんなところに面白さや魅力を感じるのか、あらためて聞かせてください。
- MIZUE 「みんな違ってみんないい」という価値観が広がっているからこそ、あえてその逆を行くことで、新たに咲く花があるのではないでしょうか。年齢も性別も体つきも違うメンバーが動きを完全に合わせるってめちゃくちゃ難しいことで、I’moonも他のチームも毎回本当に苦しんでいるのですが、「だから面白くない?」って私は思うんですよ。
それに、シンクロは一般のオーディエンスであれダンス未経験の方であれ、誰もが「合っているか、合っていないか」でシンプルにジャッジできる要素ですよね。日本中にダンスを浸透させていくために、D.LEAGUEが「シンクロパフォーマンス」という審査項目を設けてそれを重視し始めたことは、素晴らしい取り組みだと私は考えています。もっとも、ダンサーとしての自分はシンクロなんてまったく得意ではありません(笑)。それでも、自由に踊っている最中に突如シンクロパフォーマンスで6〜12秒間ほど不自由になるって、なかなか味わえない感覚で面白いです。
- しかも、昨シーズンはアーティスティックスイミングの審査員経験者3名のみがシンクロパフォーマンスを審査していましたが、今シーズンはそこにテクニックを評価するダンサージャッジ3名と、コレオグラフィーを評価する振付師ジャッジ3名も加えた計9名が、それぞれの観点から審査するかたちになりました。つまり、シンクロパフォーマンスは「動きが合っているかどうか」のみならず、技術力や振付のクオリティまで求められるようになったということですね。
- MIZUE そうなんですよ。ですから今シーズンは難易度と完成度が両立するギリギリのラインを攻めています。結果が出ないこともありましたけれど、まさに敗北も活力にして、一回一回勉強しています。
強い個を求め、勝つために挑戦した
- MIZUEさん体制になってもうひとつ大きく変化したのは、今季からメンバーに加わったMEMEさんやsadeさんのように、強烈な個性の持ち主がチームに投入されたことではないでしょうか。それまでのI’moonは集団性で勝負するチームという印象がありましたが、MIZUEさんは意図的に「強い個を立てる」という方向に舵を切ったように見えます。
- MIZUE おっしゃる通りです。それまでのチームに足りなかったのは、まさに「個性」だったので。印象に残るダンスやキャラクター性の持ち主が、良くも悪くもI’moonのメンバーの中にはいませんでした。だからこのチームには天才型のダンサーが必要だと思い、必死に探し続けていたのですが、実際には最下位周辺にいる弱いI’moonに入ってくれる天才なんてなかなかいないんですよ。MEMEとsadeにもダメ元で熱意を伝えたところ、彼女たちは「D.LEAGUEに興味があります」と言ってくれて。新たなメンバーを迎えるってあらゆる意味で簡単なことではないので、入ってくれた彼女たちにも、受け入れてくださった会社にも、感謝の気持ちでいっぱいです。
- MEMEさんやsadeさんの存在は、他のメンバーにも影響を与えていますか?
- MIZUE そうですね。彼女たちの「ダンス大好き!」は、ちょっと次元が違うので。子どもの頃からダンスしか知らないような、とてもいい意味での「ダンスバカ」。こんなに素直でいいんだなって、他のメンバーたちも大いに刺激を受けながらダンスに向き合っていると思います。

D.LEAGUE 25-26 ROUND.2 BLOCK HYPEより、MEMEのエースパフォーマンス。彼女は今季4回エースを担い、いずれの回もエースパフォーマンス項目で相手を上回った ©D.LEAGUE 25-26

D.LEAGUE 25-26 ROUND.4 BLOCK HYPEより、写真中央がsade。彼女は今季2回エースを務め、無二の個性でインパクトを与えた ©D.LEAGUE 25-26
- 今季はもうひとり、オーディションで選ばれたKonaさんも新メンバーとして加入しました。そのオーディションの様子がYouTubeで公開されていて、MIZUEさんが「オーディションで見るのは人間性。D.LEAGUEという特殊な世界で勝負できるメンタルを持ち、I’moonに馴染めるかどうか」という旨のことをおっしゃっていたのが印象的でした。
- MIZUE 新メンバーを選ぶ時に最も重視するのは、向上心と柔軟性です。ダンスが上手い人はごまんといます。そのうえで、いまいるメンバーにもきちんとリスペクトを持ち、自分に自信を持って踊れるダンサーかどうか。D.LEAGUEという厳しい場所で苦楽を共にするには、柔軟な心の持ち主でなければ一緒にやっていくのは難しいし、自分ひとりの考えに固執する人にチームのダンスはできません。私はいつもそういう点に目を光らせながら新しいダンサーを探していて、今回はそれがKonaでした。
- 最後に、これもMIZUEさん采配の大きな特徴として、「勝つために挑戦する」というスタンスがあると思います。ここ一番という時に、自分たちのチームが本来得意としているジャンルのダンスではなく、あえて新たな挑戦となるジャンルの作品で勝負に出る。そのような方針を取ってきたのはなぜなのか、ぜひ聞かせてください。
- MIZUE もちろん、自分の武器で戦い、勝っていく背中を見せることにも大きな意味があると思います。ただ私自身は、子どもの頃にさまざまなジャンルに触れ、挑戦する姿から勇気をもらってきました。いまのI’moonは、ジャズダンサーもいればロッキンダンサーもいるし、ワッキンダンサーもいて……と、とても多様です。「このジャンルのダンサーだからこれしか踊ってはいけない」ということは絶対にないし、プロだからこそ挑戦して、「このジャンルも、あのジャンルも踊れるなんてすごい!」とオーディエンスに思ってもらえたら、勝っても負けても絶対にカッコいい。そう考えたのが、いろいろなジャンルに挑戦し始めたきっかけでした。
といっても、この方針は最初から頭にあったわけではないんですよ。負けが続いて、何かを変えなければいけない、新しいことをやらなければいけないと考え尽くした末に、たどり着いた決断でした。負け続けたあの日々が、新たな扉を開いてくれて、「もっといろいろなことをやっていいんだよ」と背中を押してくれた。それを思うと、ここまでのすべての経験と、そのプロセスをずっと支えてくださったみなさんに、感謝しかありません。
- 挑戦することで、メンバーたちは強くなりましたか?
- MIZUE 強くなりました。初めてのことばかりで、分からないことだらけだからこそ、みんな必死にやってきたので。もともとは、「自分のスタイルはこれだから、これしかやりたくない」と思っている人もいたかもしれない。けれど、そうした気持ちも少しずつみんなの中から取り払われていって、いまはもう全員が純粋に、一生懸命、死に物狂いで挑むようになりました。I’moonは、他のジャンルに挑戦することを通して、真っすぐに立ち向かうことを教わってきました。そのことが徐々に結果にも結びついてきていて、ありがたいなと思っています。

©Ballet Channel
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