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【第81回】鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!-隊形変化を楽しむ(1)白鳥の湖

海野 敏

文/海野 敏(舞踊評論家)

第81回 隊形変化を楽しむ(1)白鳥の湖

■『白鳥の湖』第2幕冒頭の隊形変化

本連載「コール・ド・バレエ編」のまとめとして、古典全幕作品のいくつかの傑作場面を徹底解説してみましょう。今回はクラシック・バレエの代名詞となっている『白鳥の湖』の第2幕冒頭、白鳥たちが登場する場面です(注1)

この場面の振付は、日本では逆三角形のフォーメーション(第65回「三角に並ぶ」)が登場するヴァージョンをよく見ますが、マリインスキー・バレエやボリショイ・バレエなど、ロシアのバレエ団が伝統的に上演している振付では逆三角形が登場しません。このロシアのヴァージョンから解説します。

まず①「タッター、タッタカター」のリズムを反復する音楽で、白鳥たちが上手奥から1列で登場します。この振付は、第58回「1列で進む(1)」で詳しく紹介しました。白鳥たちは舞台の端で折り返してジグザグに進み、舞台を埋めてゆきます。

②横6列×縦4列の四角形に整列し(図A)、体の向きを変えながら全員で羽ばたきを繰り返します(第64回「四角に並ぶ」)。

図A

次に③左右12人ずつ、横3列×縦4列の2グループに分かれます(図B)。そして2グループが左右から中央へ「ソテ→パ・ド・シャ」で進み、交差して入れ替わり、袖の手前で折り返して再び交差します(第70回「2群が交差する」)。

図B

④全員が一斉に移動し、各ダンサーの位置を左右対称に入れ替えて、再び横6列×縦4列の四角形に整列します。しばらく全員で羽ばたいたり、アラベスク・ホップを繰り返したり、ポージングしたり、ユニゾンで踊ります。この間に王子が再び舞台に現れます。

⑤続いて24人で大きな円を描き、王子を取り囲みます。そして2人おきに円の中心へ向かってステップし、アティテュードのポーズになって羽ばたきます。

⑥12人が並んだ列を2つ作り、その2列が流れるように動いて王子を取り囲みます。そして縦に長い2列を舞台中央に作って止まります(図C)。

図C

⑦力強く上昇するメロディーに合わせて、ソリストがまず4人、さらに4人(または3人)、腕を羽ばたかせながら登場し、上手側に斜め1列に並びます。最後にオデットが登場します。

⑧オデットが王子に「白鳥たちを撃たないで」と懇願した後、オデットと王子、そして斜め1列に並んでいたソリストたちが上手袖へはけます。そしてコール・ド・バレエによるワルツが始まります。

以上の隊形変化を簡略に表せば、「①1列→②四角→③交差→④四角→⑤円→⑥⑦⑧2列」となります。

■パリ・オペラ座バレエの場合

パリ・オペラ座バレエが上演しているヌレエフ版の『白鳥の湖』には、逆三角形のフォーメーションが登場します(図D)。序盤の①②③の隊形変化は、基本的にロシアのバレエ団と同じ流れです。

その後④全員が1列につながって進むことで四角形のフォーメーションは解きほぐされ、舞台中央を頂点とする逆三角形のフォーメーションへ変化してゆきます。頂点のダンサーを先頭にして、ユニゾンで羽ばたきながら2列目、3列目と順次並んで三角形が完成してゆくプロセスは、コール・ド・バレエの美しい見どころです。

図D

⑤次に12人ずつが大きな二重の同心円を描く配置となって、しばらく踊ります(図E)(第66回「円形に並ぶ(1)」)。

図E

⑥その後12人ずつに分かれ、舞台左右に円を作ってから(図F)、舞台中央で縦12人の長い2列になってポーズします(図C)。円が2つになるのは一瞬なので見逃しがちですが、たいへん魅力的な隊形変化です。

図F

⑦はロシアのバレエ団と同じ流れですが、⑧は少し異なります。オデットと王子が上手袖へはけた後、ソリストの8人はコール・ド・バレエの2列の間に入り、3列になってワルツが始まります。

以上を簡略に表せば、「①1列→②四角→③交差→④三角→⑤円→⑥⑦2列→⑧3列」となります。

■英国ロイヤル・バレエの場合

英国ロイヤル・バレエが上演する『白鳥の湖』にも、逆三角形のフォーメーションが登場します。①から④までは、パリ・オペラ座バレエとほぼ同じ流れ。

⑤は、オペラ座では逆三角形から二重の同心円をすぐに作りますが、ロイヤルでは、ロシアのバレエ団と同じように24人で大きな円を作ってから、1人おきに動いて二重の同心円となります。

⑥も差異があり、ロイヤルではいったん白鳥たち全員が上手で平行四辺形のフォーメーションで寄り集まり、王子の仲間たちと対峙します。

そこへ⑦力強く上昇するメロディーに合わせて、ソリストがまず2人、さらに2人登場して白鳥たちの前に並び、最後にオデットが8羽の白鳥と一緒に登場します。そして、白鳥たちの先頭に立つオデットを、8羽の白鳥が円陣で取り囲むというユニークなフォーメーションになっています。

⑧オデットが退場すると、群舞は、オペラ座と同じように縦に長い3列を作ってポーズし、ワルツが始まります。

以上を簡略に表せば、「①1列→②四角→③交差→④三角→⑤円→⑥⑦平行四辺形→⑧3列」となります。

今回は3つのパターンを紹介しましたが、ほかのパターンも隊形変化はこれらと共通点が多いです。しかし、似ていてもそれぞれ少しずつ違いますし、同じ隊形であっても振付に差異があります。そのような共通点と相違点に気づくことで、コール・ド・バレエの鑑賞はいっそう楽しくなると思います。

★動画でチェック!★
英国イングリッシュ・ナショナル・バレエ『白鳥の湖』の第2幕の映像です。こちらのヴァージョンは、英国ロイヤル・バレエで上演している版に近い構成になっています。
★動画でチェック!★
谷桃子バレエ団『白鳥の湖』の紹介映像より。一連のシーンは、5分41秒から。こちらのヴァージョンでは、白鳥たちがピラミッドから隊形を変えた後、大きな一つの円の状態のままで王子を囲みます。

(注1)以下は『ダンスマガジン』2023年4月号の特別企画「コール・ド・バレエ 美の世界」に、“バレエ・ブランの美の魅力”というタイトルで私が執筆した記事を元にし、大幅な加筆をしたものです。挿入した図は自作です。

(発行日:2026年4月25日)

次回は…

第82回は『ラ・バヤデール』の「影の王国」の隊形変化を徹底解説します。次回の発行予定日は2026年5月25日です。

【鑑賞のためのバレエ・テクニック大研究!-総目次】
http://bibliognost.net/umino/ballet_tech_contents.html

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この記事を書いた人 このライターの記事一覧

うみのびん。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科教授、情報学研究者、舞踊評論家。バレエ、コンテンポラリーダンスの批評記事・解説記事をマスコミ紙誌、ウェブマガジン、公演パンフレット等に執筆。研究としてダンスの三次元振付シミュレーションソフトを開発。著書に『バレエの世界史』『バレエヴァリエーションPerfectブック』『バレエとダンスの歴史:欧米劇場舞踊史』『バレエ パーフェクト・ガイド』など。

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