
「ル・パルク」レオノール・ボラック、ジュリアン・マッケイ ⒸNicholas MacKay / MacKay Productions
2026年2月、Bunkamura オーチャードホールにて行われたジュリアン・マッケイ&フレンズ バレエ・ガラ「アート・オブ・ダンス」。バイエルン国立バレエ プリンシパル、ジュリアン・マッケイの呼びかけで、パリ・オペラ座バレエ エトワールのレオノール・ボラックとポール・マルク、バイエルン国立バレエ プリンシパルのオシエル・グネオをはじめ10名のダンサーが集い、16作品が上演されました。
今回はレオノール・ボラックに、作品のことやこれまでのバレエの歩みについて聞きました。

レオノール・ボラック Léonore Baulac
パリ生まれ。2005年パリ・オペラ座バレエ学校に入学、08年パリ・オペラ座バレエに入団。14年コリフェ、15年スジェ、16年プルミエール・ダンスーズに昇格。16年の大晦日、『白鳥の湖』終演後にエトワールに任命された。©Ballet Channel
- 「アート・オブ・ダンス」出演のきっかけは?
- ボラック ジュリアンに「一緒に踊ろう」と声をかけてもらった時、とても嬉しくてすぐに引き受けました。というのも、5年ほど前、ロンドンで共演した舞台がすばらしく、今回もきっと良い経験になるだろうと思ったから。ジュリアンはダンサーとして舞台に立ちながら、公演やイベントをたくさん企画していて感心します。
- 公演のテーマは「アートとダンスの融合」ですね。
- ボラック 私もアートとダンスの融合について考えるのが好きです。20世紀初頭のパリでは、バレエ・リュスに代表されるように、さまざまな分野の芸術家たちが協業して作品を生み出していましたよね。今の時代でも彼らのようなムーヴメントが起こせるだろうか、それができるアーティストは誰だろう?と思うことがよくあります。

「ジゼル」レオノール・ボラック、ポール ・マルク ⒸNicholas MacKay / MacKay Productions
- 今回踊った作品について教えてください。
- ボラック 『ジゼル』は私が好きな古典作品のひとつ。ありがたいことにヒロインのジゼルを何度も踊っていますが、研究すればするほど新たな解釈が生まれる、魅力的なキャラクターです。村娘の第1幕とウィリになった第2幕とで身体の使い方が変わり、踊るたびにそのおもしろさに惹きつけられます。とくにウィリの時は浮遊しているように見せるために、衣裳も身体の一部だと思って、ロマンティック・チュチュが動いたあとの残像を意識して踊っています。
『ル・パルク』はガルニエ宮で今年の1月と2月に上演された演目で、来日する直前までオペラ座でリハーサルを重ねていました。こうして日本でも踊ることができて、嬉しいです。私はこの作品の音楽が大好きで、踊るたびに心を動かされます。『ル・パルク』には同じ動きが何度も繰り返されるパートがあって、それがモーツァルトの音楽とリンクしているんです。とあるテーマがピアノで奏でられたかと思えば、オーケストラに発展したりと、同じフレーズに違う色が与えられるようでおもしろいですよね。
『Renaissance』は私とポール・マルクとで選んだネオ・クラシックの作品です。今回、日本で初めて披露しました。衣裳はファッションブランドのBALMAINとのコラボレーションで、芸術作品そのもの。本番前、ハンガーにかけられている状態でもキラキラしているのですが、舞台で照明を浴びると、辺り一面にまばゆい光の粒を放ちます。それが反射するステンドグラスの光のようで、とても美しいんです。きっとお客さまにもこの衣裳のきらめきを楽しんでいただけたと思います。
- 日本で踊る時に楽しみにしていることは?
- ボラック 日本のお客さまにお会いできる日を心待ちにしていました。久しぶりに東京で踊ることができて嬉しかったわ!
来日する時に楽しみにしているのは日本食。パリにも日本食のレストランはあるけれど、本場の味とは程遠くて……。じつは今日(取材当日)、夫が私のために素敵なレストランを予約してくれたので、どんな料理かワクワクしているところ。ショッピングも好きなので、ディナーの前に代官山を散策するつもりです。もし長く滞在するチャンスがあれば、日本の自然あふれる場所や田舎町にも行ってみたいです。

「Renaissance」レオノール・ボラック、ポール・マルク ⒸNicholas MacKay / MacKay Productions
- ボラックさんのこれまでの歩みについて、まずは子ども時代のことから聞かせてください。
- ボラック 私はパリで生まれました。母がノルウェー人なので、フランスとノルウェーの二つの国籍を持っています。子どもの頃、両親は私をよく劇場に連れて行ってくれたし、バレエの教室にも通わせてくれました。そうして幼い時から文化や芸術に触れる機会に恵まれたのは、本当に幸運だったと思います。両親は決して芸術家になりなさいと強要したことはなかったけれど、今の私につながる道へと導いてくれました。
- パリ・オペラ座バレエ学校に入学した経緯は?
- ボラック 4歳でバレエを始めてからさまざまな教室を転々とし、10歳ではじめてパリ・オペラ座バレエ学校を受験。でもその時は落ちてしまって、2年ほどコンセルヴァトワールに通いました。そして翌年は、惜しくも年齢制限を3週間過ぎてしまって受験できず。ついにチャンスが巡ってきたのは、15歳の時でした。学校にビデオを送ったところ、エリザベット・プラテル校長が入学を許可してくださいました。
パリ・オペラ座バレエへの入団も一度目は落ちてしまったんですよ。バレエ学校は18歳まで在籍できるので、もう一年最終学年に留まって試験を受け、2008年にオペラ座に入団しました。諦めずに挑戦し続けて本当によかった!
- ターニングポイントになったと思う作品は?
- ボラック 私は、パリ・オペラ座バレエに入団してから4〜5年ほどコリフェの階級にいました。ある時『椿姫』でオランピア役に抜擢されたことが、その後の私のバレエ人生を大きく動かしたんです。
主役にも深く関わるこの役には、当然大きな責任を感じたけれど、あの時踊ることができて本当によかったと思っています。パリで公演を終えた後に日本でも踊る機会に恵まれて、かけがえのない経験でした。これを機に、オペラ座の芸術監督からソリストとして見てもらえるようになりました。
- 2016年の大晦日、バスティーユ劇場で上演された『白鳥の湖』で、ボラックさんはエトワールに任命されました。
- ボラック その時のことを鮮明に覚えています。あの日、オーレリ・デュポン芸術監督が袖から登場した時は、お客さまに向けて年末の挨拶をしに来たのだと思っていました。でもその後に自分の名前が呼ばれて、これは現実の出来事なの?と。まさか私がエトワールに任命されるなんて、信じられませんでした。周りにいたダンサーたちとお客様から大きな拍手をいただいて、ようやくその意味がわかった時、私は震えていました。当日は家族も客席にいて、あの瞬間を見てくれていたことがとても嬉しかったです。
それでも、実感するまでにかなり時間がかかりました。しばらく経っても、夢の中ではまだコリフェやスジェで「次の昇進試験の準備をしないと」とうなされていたのだから(笑)。

レオノール・ボラック ©Ballet Channel
- エトワールとして活躍する今でも、本番で緊張することはありますか?
- ボラック ありますよ。そしてそんな時は、よく子どもの頃のことを思い出します。かつての私は、今の自分が立っている場所をずっと夢見ていたはず。だから、その“小さなレオノール”のためにも舞台を楽しもう!って、自分を鼓舞するんです。
- 出産してから、舞台への向き合い方は変わりましたか?
- ボラック 正直なところ、自分では分かりません。ただ、これまでよりも自分の限界を超えられるようになりました。どんなに育児で疲れていても、バレエダンサーは踊るのが仕事。子育てをしているとハラハラすることが起こりますが、その瞬間より怖いものはないと思って、舞台での緊張が減りました。
- 舞台で大切にしていることは?
- ボラック まずは音楽性です。私が踊る理由は、そこに音楽があるから。私にとって、身体で音を奏でることこそがバレエの本質です。もし別の人生があったら演奏家や作曲家になっていたかもしれません。そのくらい、心から音楽を愛しています。
もう一つ大切にしているのは、繋がりです。音楽と一体となることやパートナーと息を合わせることもそうですし、全幕作品でその世界を生きる登場人物として物語を紡いでいくことも、抽象的な作品で観客を巻き込んでいくことも、舞台では欠かせない繋がりです。そして、その場で生まれたものを活かす即興性と余白も残すようにしています。
- 最後に、あなたにとってバレエとは?
- ボラック 人生そのものです。ダンサーとプライベートを分けるべきだと考える人もいますが、私の境界線はとても曖昧だと思います。4歳から踊り続けてきたので、今はもうバレエなしの人生は考えられませんね。

「Renaissance」レオノール・ボラック、ポール・マルク ⒸNicholas MacKay / MacKay Productions
公演情報 ※公演は終了しました
ジュリアン・マッケイ&フレンズ バレエ・ガラ
「アート・オブ・ダンス」
Bunkamura オーチャードホール
【2026年2月7日(土)】
『型(Kata)』
ジュリアン・マッケイ、演奏:ナニワノヲト
『海賊』
ヴィオレッタ・ケラー、オシエル・グネオ
『ル・パルク』
レオノール・ボラック、ジュリアン・マッケイ
『瀕死の白鳥』
エリザベス・トネヴ、演奏:櫃本瑠音
『Intuition Blast』
マーク・シムズ、ジョー・ブラトコ・ディクソン
『ジゼル』
レオノール・ボラック、ポール・マルク
『Avalanche』
ジュリアン・マッケイ
『Cuban Nutcracker』
三浦宏規
『ロミオとジュリエット』
クセニア・シェフツォワ、マーカス・モレッリ
『Renaissance』
レオノール・ボーラック、ポール・マルク
『ドン・キホーテ』
エリザベス・トネヴ、ジュリアン・マッケイ
【2026年2月8日(日)】
『Radio & Juliet』
クセニア・シェフツォワ、ジュリアン・マッケイ
『ディアナとアクティオン』
ヴィオレッタ・ケラー、オシエル・グネオ
『瀕死の白鳥』
エリザベス・トネヴ、演奏:櫃本瑠音
『Avalanche』
ジュリアン・マッケイ
『ジゼル』
レオノール・ボラック、ポール・マルク
『Intuition Blast』
マーク・シムズ、ジョー・ブラトコ・ディクソン
『ラ・シルフィード』
クセニア・シェフツォワ、ポール・マルク
『ドン・キホーテ』
エリザベス・トネヴ、ジュリアン・マッケイ