COCOON PRODUCTION 2026『海辺の独裁者』が、2026年6月27・28日に上演されます。
本作は、劇団「大人計画」の主宰であり、作家・演出家・俳優とマルチに活躍する松尾スズキ、独特な身体表現に定評のある振付家・ダンサーの康本雅子によるダンスユニット「スーパーマツヤス」によるダンス公演。長期休館中のBunkamuraシアターコクーンを2日間限定で復活させます。出演は松尾、康本、大人計画所属の宮崎吐夢。他、コンテンポラリーダンサーや、シアターコクーンが主催する若手俳優の演劇育成所「コクーン アクターズ スタジオ」の卒業生も出演します。
今回は、原作・監修・出演の松尾さんにインタビュー。3年ぶりにシアターコクーンの舞台に立ち、初めてのダンス公演に挑戦する今の思いを聞きました。

松尾スズキ Suzuki Matsuo
1962年12月生まれ、福岡県出身。1988年に劇団「大人計画」を旗揚げ、主宰として作・演出・出演を務める。小説家・映画監督・脚本家・エッセイスト・俳優など幅広く活躍。1997年『ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~』で岸田國士戯曲賞受賞。小説『クワイエットルームにようこそ』『老人賭博』『もう「はい」としか言えない』は芥川賞候補に、テレビドラマ『ちかえもん』(主演)では文化庁芸術祭賞ほか受賞。2019年9月よりシアターコクーン芸術監督、2026年4月よりBunkamura顧問演出家に就任。2024年からはコクーン アクターズ スタジオの学長として若手の育成にも取り組む。2020年第71回読売文学賞戯曲・シナリオ賞、2026年第51回菊田一夫演劇賞受賞。
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- この公演をするにあたって、松尾さんは振付家・ダンサーの康本雅子さんと、ユニット「スーパーマツヤス」を結成したそうですね。
- 松尾 康本とは、もともとBunkamura主催ですすめていた別の企画で組む予定だったのですが、それはポシャってしまって。でも康本と一緒に新作を作るチャンスなんてめったにないし、「せっかくスケジュールも空いているし、何かやろうよ」という話になりました。僕は原作と監修、康本は振付と演出を担当。僕は康本のダンス公演をずっと観てきたし、彼女は僕の舞台に何度も参加してくれている(*)。僕の作品を彼女と作ったらどうなるのか興味があったんです。
(*2005年『キレイ〜神様と待ち合わせした女〜』振付、2021年『シブヤデアイマショウ』(2021年)コーナー演出など)
- 原作は松尾さんの新作小説です。
- 松尾 2025年の冬に、「小説トリッパー」という雑誌に発表した9つの短編小説集です。「ショートショートの作品が多いから、ダンスに向いているんじゃない?」と康本に渡したら、いちばん長い物語を選んできました。「海辺の独裁者」は、南米の知らない国をずっと放浪している日本人の女性を描いています。彼女の孤独や異邦人たちの中にいる不安、焦燥、だるいなっていう感じ……そういうものが伝わったら。理屈よりも感覚的な作品なのでダンスにはぴったりじゃないかな。
- ダンス公演は初とのこと。踊る松尾さんを観るのも楽しみです。
- 松尾 前々からやりたいと思っていたんです。僕が康本の振付で踊るシーンがあるかは現時点ではわかりませんが(※編集部注:取材は2026年4月末)、できるうちにやりたいことはやりたいですね。自分の体力がどこまで持つのか不安なお年頃になってきたので。こんなおじいさんが舞台で踊っているところは、なかなか見られないと思いますよ(笑)。
- 演劇やミュージカル作品をつくる松尾さんですが、ダンス公演をやりたいと思っていたのにはどんな理由がありますか?
- 松尾 ダンスに限らず、僕は「ショー」というものにすごく惹かれます。日本の小劇場出身の演出家ってあまりショーを作らないけれど、僕はストレートプレイもショーもできる演出家でいたいんですよ。僕ぐらいの年齢になってから新しい方向性を探る人は少ない。でも何ごとも「やったもの勝ち」ですからね。
- ショーに惹かれたきっかけは?
- 松尾 何年か前にフランスへ行った時に、バーレスクとかクレイジーホースのショーを観てすごく感動したんです。ああいう猥雑な感じのものを、パリのオリンピック開閉会式を演出するような人物が手掛けていたりする。そういう面白さが生まれるのは、国がすごく成熟しているからです。東京オリンピックを演出した人がストリップも演出するなんて、日本ではありえませんからね。でもそのいっぽうで、このフットワークの違いを乗り越えられる日本人がいるとしたら、それは僕なんじゃないか?って、勝手に思っていたんです。
そして今年の冬には、今までの中でもショー要素高めな『クワイエットルームにようこそ The Musical』が完成。上演したTHEATER MILANO-Zaは新宿歌舞伎町の中にあり、ここで作品をやるようになってから、エンターテインメントと正面から向き合おうという気持ちが、より強くなりました。ブロードウェイの演出家が言うところの「ショー」とはどんなものなのか――『クワイエットルーム』は、ショーイズムについての僕なりの解釈が反映された作品になったと思っています。

COCOON PRODUCTION 2026『クワイエットルームにようこそ The Musical』原作・脚本・演出:松尾スズキ、作曲:宮川彬良、振付:スズキ拓朗、主演:咲妃みゆ(写真中央)。本作と2026年版『アンサンブルデイズ』により、松尾は第51回菊田一夫演劇賞を受賞。 撮影:細野晋司
- ダンスについてはどこに魅力を感じますか?
- 松尾 僕は昔から面白い動きが大好きで、アメリカのコメディアンのエキセントリックな動きとかを見て、真似してみたりするような子どもでした。演者になろうなんて思いもしなかった頃からです。やがて「動きだけで見せる面白さの究極ってなんだ? ダンスやサイレント演劇と繋がっているかもしれない」と考えるようになりました。
いろいろなダンスに触れたきっかけは、パソコンを手に入れたこと。当時はYouTubeの動画配信が始まったばかりでしたが、見たこともないダンス動画がたくさんアップされていたんです。その中でとくにユニークだと感じたアニメーションダンスの動画を追いかけて観ていました。あの動きは自分の中に染みついています。
- 今回のダンス公演では、ショーの要素も期待できるのでしょうか。
- 松尾 原作はどちらかといえば不条理小説なので、ショーっぽい要素が見当たらないんですよ。でも康本が演出をするからには、アートっぽい色は出ると思います。僕が演出するならエンターテインメントや娯楽のほうに寄るでしょうけれど、康本は根っからの「コンテンポラリーな人」。だから彼女の演出によって、僕の中では予測できない部分が出てくるはずで、そこに期待しています。長年舞台作りに関わってもらっているから僕の感性も読み取ってくれるだろうし、いい意味でお互いを探り合えるんじゃないでしょうか。ふたりの掛け合わせがどんな形になるか楽しみです。
- 今回の『海辺の独裁者』は、現在休館中のシアターコクーンで上演されます。この公演のために2日間だけ劇場を開けることになった心境は?
- 松尾 いや、2020年から就任したシアターコクーン芸術監督(現在は顧問演出家)としての職務を全うしてるだけです(笑)。でも、やっぱりシアターコクーンといういい劇場を、みなさんの心に残してほしいし、忘れてほしくないのが本音です。現在シアターコクーンは、東急百貨店本店の建て替えを含む周辺再開発のため長期休館中で、再開する時には僕も現役として関われたら、と今から考えていますが、それがいつになるのかわからないんですよね。だから「せっかく空いているんだから、ここでやらない?」って言いながら、シアターコクーンが使えなくなる日を未練たらしく先延ばしにしているんです。
- シアターコクーンへの思いを聞かせてください。
- 松尾 シアターコクーンは、僕が初めて商業演劇に足を突っ込むきっかけになった劇場なんですよ。自分の演劇人生の転換期というか。失敗したら二度とできなかったかもしれないけれど、一応、成功というお墨付きを得たことが大きかったですね。
商業演劇に足を突っ込んだのに自分が商業まみれになった気がしないのは、僕がやりたいことを曲げずにいられるところだから。そして小劇場を通過してきた先輩たちがここで多くの作品を上演してきたことも理由のひとつかもしれません。商業演劇を、新劇や商業演劇ではない演劇人に任せてもらった。その歴史を作った劇場でもあると思います。
- この劇場で上演した作品でいちばん思い出に残っているのは?
- 松尾 『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』です。この作品は、Bunkamuraで僕が学長を務めている若手のための俳優養成所「コクーン アクターズ スタジオ(CAS)」の生徒のために書き下ろしたものです。僕は自分以外が演出する作品を書いたのはこれが初めてで、それまでしたことがなかったことをやらせてもらいました。出来栄えがすごく良かったし、自分が人に書き下ろせる作家だと分かったのも嬉しかった。僕の中ではエポックとなった舞台です。
- 今回の舞台にはCASの卒業生も出演します。
- 松尾 康本が懇意にしてるダンサーに加えて、アクターズスタジオの第1期生・第2期生から、ダンスや歌唱に秀でた人に出演してもらいます。物語を背負っていく部分でも何かやってくれるんじゃないかという期待もありますが、それ以上に、まだ俳優としての入口にいる彼らには、この機会も生かして、しっかりとプロの俳優になっていってほしい。プロと一緒にやることは、俳優としていちばんの勉強になりますから。
- 指導していて感じる、CASの生徒たちの印象は?
- 松尾 能動的です。受け身じゃないっていうのは非常にいい。みんな尻に火がついているというか、「ここで売れなかったら終わりだ」ぐらいの覚悟をもって集まって来ているなと感じます。でもCASの卒業生の中で、プロとして確実に成長している姿を僕はまだ確認できていません。今はお笑いの人たちの演技レベルもかなり高くなっていますし、そんなヒリヒリした状況で学ぶ機会があることは、俳優を志す彼らにとっていいことだと思います。

COCOON PRODUCTION 2026 Bunkauraオフィシャルサプライヤースペシャル『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』脚本・音楽:松尾スズキ、演出:ノゾエ征爾、出演:コクーン アクターズ スタジオ第2期生 撮影:細野晋司
- 冒頭で、松尾さんが「やったもの勝ち」だとおっしゃっていましたが、これからの個人的な目標としてどんなことを考えていますか?
- 松尾 とにかく、自分ができる限りのことをしたいです。今年の暮れには美術館で個展もやりますしね。僕は、やらないで後悔するのは嫌です。もうお金には困っていないし、70歳ぐらいまでにやりたいことをやればいい!というステージに入ろうとしています。すべてをやりきるまでに、それだけの体力が残っているかが勝負ですが。あと願わくば、いろんなことに手を出しても、怒られない状態が続くといいですね(笑)。
- やりたいことは全部やる、そのパワーの原動力は?
- 松尾 自分のことをわかってくれようとしてくれるスタッフやキャストが、周りにいてくれること。彼らがいるから重い腰を上げることも多いですしね。人を巻き込んでものを作れるのは楽しいです。僕は友だちが少ないから、仕事なんだけど友だち的な時間を過ごせるのもありがたいです。
- 多忙な日々の中で、休日はどう過ごしていますか?
- 松尾 お芝居を作っている時は意図的に休みを入れておかないと体がもたないので、休みの日にほかの仕事は入れないようにしています。でも休みは2日くらいでいいかな。出かける日が1日と、疲れてぐったりする1日と(笑)。
- 最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
- 松尾 初めての現場に立ち会うのって、面白い体験だと思うんですよ。ダンサーとしての自信はないですよ? でも60過ぎたひとりの俳優が、言葉を取り払ってダンスに挑戦しようという姿、たった2日しか見れないその姿を見る体験をしてほしい。そして新作の小説が、書籍として正式に発売される前にダンス公演になる、っていうのも、日本ではまずないことです。どんなステージになるかは僕もまだ説明できませんが、ぜひ確かめに来てもらいたいと思います。
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公演情報
COCOON PRODUCTION 2026
『海辺の独裁者』

【日程】6月27日(土)~28日(日)
【会場】Bunkamuraシアターコクーン
【スタッフ】
原作・監修:松尾スズキ
演出・振付:康本雅子
【キャスト】
松尾スズキ、康本雅子、
鈴木春香、中村駿、阿部真理亜、水島晃太郎、
羽衣、とねり、村井友映、倉元奎哉、
宮崎吐夢
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