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【最終回】ウィーンのバレエピアニスト〜滝澤志野の音楽日記〜想いが人をつなぐーー連載の終わりに

滝澤 志野

ウィーン国立バレエ専属ピアニストとして、バレエダンサーを音楽の力で支えている滝澤志野さん。
“バレエピアニスト”というプロフェッショナルから見たヨーロッパのバレエやダンサーの“いま”について、2019年5月から7年間にわたり、志野さん自身の言葉で綴り続けてくださいました。

バレエチャンネル創刊当初からの人気連載、滝澤志野さんの音楽日記も、今回が最終回です。
志野さん、7年間書き続けてくださり、美しい「今月の1曲」を届け続けてくださって、ありがとうございました。

♪「ウィーンのバレエピアニスト 滝澤志野の音楽日記」バックナンバーはこちら

🎹

連載の終わりに

2019年5月に始まったこの連載も、今日で最後になります。

7年間、原稿を書いてきました。振り返ってみると、この連載はウィーン国立バレエで過ごした15年のうち、ほぼ半分の時間を共に歩んでくれた存在でした。苦しかったことも、嬉しかったことも、その時どきに見ていた景色を私はここに書き残してきました。前回は、どうしても書かずには終われなかったマニュエル・ルグリのことを書きました。今回は、この7年間の「あとがき」を綴ろうと思います。

ウィーンに来て15年。変わったこと、変わらないこと

踊りの向こうに哲学が見えるような、言葉を持たない究極の美を湛えたバレエという芸術。私はこの芸術に魂を奪われ、気づけば人生を賭けていました。ウィーンのバレエ団のピアニストになった15年前、私はバレエピアニストとしてまだまだ未熟で、いっぱいいっぱいで周りもよく見えていませんでした。この美しい芸術と一体化したい、信頼されるピアニストになりたい、と憧れに手を伸ばすような気持ちでそこに身を置いてきました。しかし、暗闇の中を走っているような時期も長く、不出来な自分が歯がゆく、焦りと不安から思いつめることもありました。そんななか、時折見える光に救われてギリギリのところを走ってきた気がします。

15年の月日が流れました。いつの頃からか自分の気持ちが変わっていたことに気づきました。今は、朝のクラスレッスンを弾くのが楽しくてしょうがない、と毎日思うのです。楽しんでいるからか疲れもあまり感じません。公演のリハーサルではどうすれば最高のものを差し出せるかを考えます。先月、上演されたミックスビル公演では、二人のバレエダンサーと共に、舞台上でブラームスの作品76を演奏する機会に恵まれました(ラー・ルボヴィッチ振付『Each in Their Own Time』)。私がずっと憧れてやまなかった「この美しい芸術と一体化する」世界がそこにありました。人と響き合うことの素晴らしさを教えてもらえる、それがバレエピアニストという仕事の醍醐味だと、あらためて実感した舞台でした。

ルボヴィッチ振付「Each in Their Own Time」より ©️Ashley Taylor

たくさんの風景を見せてもらい、その美しさを知った自分は確かに変わったと思います。そして、15年たっても変わらないものは、バレエへの憧れと愛情です。

2025年末にリリースしたバレエレッスンCD「Dear Ballet」のPV撮影現場にて。美しいデモンストレーションモデルを務めてくださった、東京バレエ団の中島映理子さんと ©︎Yoshitomo Okuda

想いが人をつなげる

ところで、去年の暮れに嬉しい再会がありました。昔、日本でピアノを教えていた姉妹が、お母様と一緒にウィーンに会いにきてくれたのです。17年近く連絡をとっていませんでした。連絡するすべもタイミングも失い、もう会うことは叶わないのかな、とどこかで思っていました。そんな彼女たちが、私の目の前に現れたのです。ディナーのテーブルを囲んで話が弾むなか、姉妹が「先生、見てください」と首元を指しました。そこにあったのは、昔、最後のレッスンの日に私が手作りして姉妹とお母様に贈ったお揃いのネックレスでした……。それを認識した瞬間、胸に込み上げてくるものがありました。ああ、私は長い間、何を見てきたのだろう。自分にはあれからいろいろなことがあって、つらく孤独だと思っていたけれど、でも、本当はそうではなかった。彼女たちは、発表会でいつもこのネックレスをしてくれていたそうです。私のことを忘れずに遠くで想っていてくれる人がいたのです。見えていなかっただけで、ご縁は切れていなかったのだと。長い時間、自分が何か大変な思い違いをしていた気がして、悔いる気持ちが湧きあがりました。でも、同時にあたたかな想いも胸いっぱいに広がったのでした。

音楽日記がくれたもの、そして未来へ

人生はご縁によって、そして人の想いによって運ばれていくものなのでしょう。この音楽日記もそうです。バレエチャンネルが発足するにあたり、連載の話をいただいた当初、嬉しい反面、当時はネットに対してセンシティブになってしまっていて、発信が怖いという気持ちを抱えていました。連載はできないと思う、と阿部さや子編集長に正直に伝えました。ですが、「バレエピアノのプロフェッショナルとして堂々と発信してください。」と力強く言っていただいたのです。

子どもの頃から好きだった「文章を書く」ことを、こんなに長い連載として紡ぐことができたのは、背中を押してくれた編集長と読者のみなさまのおかげです。本を書く学者の父に、文章について相談することも多く、遠く離れて暮らす親子の関係にも潤いをもたらしてくれました。

私は基本的に夢想家で、前述したように現実が見えていない部分もあったりするのですが、そのいっぽうで、夢みる力が自分の人生を動かしてきたと思うのです。ですが、年齢を重ねてきて、若い頃のような夢はもう描けないだろうな、と感じていました。現実的には、ゆるやかに安定飛行を続けていくのかなと。ですが、今年に入って、急に新たなビジョンが3つ降ってきたのです。じつは近年、自分の人生の一部分に対する違和感みたいなものがずっとあって、それにどう対応すればいいのか悩んでいました。その答えが降ってきた気がしています。

人はこうして、生きている限り、光に向かって手を伸ばし続けるものなのでしょうか。形にするには大きなエネルギーが必要でしょう。でも、何かまた、自分に課題を与えられた気がしているのです。人生はきっとまだ長い。だから、恐れずに一歩ずつ形にしていきたいと思っています。

©️Ayano Tomozawa

バレエチャンネルの連載は、私に多くのことを与えてくれました。自分の生き方に向き合う時間であり、文章と正面から向き合う時間でもありました。そして何より、読者のみなさまとつながることができました。人生では多くの出逢いと別れを経験します。留まっているものはありません。けれど、振り返って思うのです。近くにいても遠くにいても、連絡を取っていてもいなくても、人は想いによってつながり続けることができるのだと。そしてそのつながりは、時に時間や距離さえも越えていくのだと。この連載もまた、私にとってそんなご縁のひとつでした。書くたびに自分自身と向き合い、多くの方に支えられ、少しずつ成長させていただいた7年間でした。本当にありがとうございました。人とのご縁を大切にしながら、これからも芸術と共に歩いていきたいと思います。

最後に、感謝を込めてこの写真を再掲したいと思います。2023年のピアノリサイタル大阪公演で撮った、バレエチャンネル編集部全員と新書館スタッフのみなさんとの一枚です。どうもありがとうございました!

滝澤志野

今月の1曲

今シーズンの最後、2026年6月29日にウィーン国立歌劇場でガラ公演が催されます。私はその公演で『瀕死の白鳥』をチェロと共に演奏する予定でいます。ウィーン国立バレエの美しいプリンシパル、ケテヴァン・パパヴァが踊ります。今日はピアノソロヴァージョンでお届けします。

★本連載は今回をもって終了いたします。長きにわたりご愛読いただき、ありがとうございました。

New Release!


Dear Ballet(ディア・バレエ)〜Music for Ballet Class

今回のコンセプトは「バレエのために作られた音楽だけで綴るレッスンCD
チャイコフスキー(『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』)やプロコフィエフ(『ロミオとジュリエット』『シンデレラ』)といった大作曲家はもちろんのこと、『ジゼル』を書いたアダン、『コッペリア』『シルヴィア』のドリーブ、『ドン・キホーテ』『ラ・バヤデール』のミンクスなど、音楽史の表舞台では語られなくとも、バレエのために曲を書き、今なお踊り継がれる名作を残してくれた作曲家たち——彼らへの感謝とバレエ音楽への愛を込めて、志野さん自身がセレクトした名曲揃いの一枚です。

♪ご購入はこちら

●CD、53曲、79分 ●価格:3,960円(税込)

Now on Sale

Brilliance of Ballet Music~バレエ音楽の輝き

滝澤志野による、珠玉の作品を1枚に収めたピアノソロアルバム。

<収録曲>
1.『眠れる森の美女』第3幕 グラン・パ・ド・ドゥよりアダージオ(チャイコフスキー)
2.『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』よりアダージオ(チャイコフスキー)
3.『ジュエルズ』ダイヤモンドよりアンダンテ/交響曲第3番第3楽章(チャイコフスキー)
4.『瀕死の白鳥』/「動物の謝肉祭」第13番「白鳥」(サン=サーンス)
5.『マノン』第3幕 沼地のパ・ド・ドゥ/宗教劇「聖母」より(マスネ)
6.『椿姫』第2幕/前奏曲第15番「雨だれ」変ニ長調(ショパン)
7.『椿姫』第3幕 黒のパ・ド・ドゥ/バラード第1番 ト短調(ショパン)
8.『ロミオとジュリエット』第1幕 バルコニーのパ・ド・ドゥ(プロコフィエフ)
9.『くるみ割り人形』第1幕 情景「松林の踊り」(チャイコフスキー)
10.『くるみ割り人形』第2幕 葦笛の踊り(チャイコフスキー)
11.『くるみ割り人形』第2幕 花のワルツ(チャイコフスキー)
12.『くるみ割り人形』第2幕 グラン・パ・ド・ドゥよりアダージオ(チャイコフスキー)

●演奏:滝澤志野
●発売元:株式会社 新書館
●販売価格:3,300円(税込)
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Dear Chopin(ディア・ショパン)〜Music for Ballet Class

滝澤志野さんの5枚目となる新譜レッスンCD!
志野さんがこよなく愛する「ピアノの詩人」ショパンのピアノ曲で全曲を綴った一枚。
誰もがよく知るショパンの名曲や、『レ・シルフィード』『椿姫』などバレエ作品に用いられている曲等々を、すべて志野さんの選曲により収録しています。
それぞれのエクササイズに適したテンポ感や曲の長さ、正しい動きを引き出すアレンジなど、レッスンでの使いやすさを徹底重視しながら、原曲の美しさを決して損なわない繊細な演奏。
滝澤志野さんのピアノで踊る格別な心地よさを、ぜひご体感ください。

ドキュメンタリー風のトレイラー全収録曲リストなど、詳細はこちらのページでぜひご覧ください
♪ご購入はこちら

●CD、52曲、78分 ●価格:3,960円(税込)

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Dear Tchaikovsky(ディア・チャイコフスキー)〜Music for Ballet Class

バレエで最も重要な作曲家、チャイコフスキーの美しき名曲ばかりを集めてクラス用にアレンジ。
バレエ音楽はもちろん、オペラ、管弦楽、ピアノ小品etc….
心揺さぶられるメロディで踊る、幸福な時間(ひととき)を。

●ピアノ演奏:滝澤志野
●監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:3,960円(税込)

★収録曲など詳細はこちらをご覧ください

ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス1&2&3 滝澤志野  Dramatic Music for Ballet Class Shino Takizawa (CD)
バレエショップを中心にベストセラーとなっている、滝澤志野さんのレッスンCD。Vol.1では「椿姫」「オネーギン」「ロミオとジュリエット」「マノン」「マイヤリング」など、ドラマティック・バレエ作品の曲を中心にアレンジ。Vol.2には「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「オネーギン」「シルヴィア」「アザー・ダンス」などを収録。Vol.3ではおなじみのバレエ曲のほか「ミー&マイガール」や「シカゴ」といったミュージカルナンバーや「リベルタンゴ」など、ウィーンのダンサーたちのお気に入りの曲をセレクト。ピアノの生演奏でレッスンしているかのような臨場感あふれるサウンドにこだわった、初・中級からプロフェッショナル・レベルまで使用可能なレッスン曲集です。
●ピアノ演奏:滝澤志野
●Vol.2、Vol.3監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:各3,960円(税込)

配信販売中!

現在発売されている滝澤志野さんのベストセラー・CDを配信版でもお買い求めいただけます。
下記の各リンクからどうぞ。

★作曲家シリーズ
♪Dear Tchaikovsky https://linkco.re/pEHd0G2A?lang=ja

★「Dramatic Music for Ballet Class」シリーズ

★滝澤志野さんのアーティスト情報ページはこちら

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

大阪府出身。桐朋学園大学短期大学部ピアノ専攻卒業、同学部専攻科修了。2004年より新国立劇場バレエ団のピアニスト。2011年よりウィーン国立バレエ専属ピアニストに就任。 レッスンCD「Dramatic Music for Ballet Class」Vol.1、2、3、「Dear Tchaikovsky~Music for Ballet Class」、「Dear Chopin〜Music for Ballet Class」をリリース(共に新書館)。国内のバレエショップを中心にベストセラーとなっている。2023年7月大阪・東京で初のピアノソロリサイタルを開催。初のピアノソロアルバム「Brilliance of Ballet Music~バレエ音楽の輝き」も同時発売。

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