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【インタビュー】「せかいいちのねこ」山田うん~ダンス×言葉×人形劇。ヒグチユウコの人気絵本が舞台劇に!<日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2025>

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

舞台版『せかいいちのねこ』ダイジェスト(日生劇場公式チャンネル)

2025年8月2~3日、日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2025で、舞台版『せかいいちのねこ』が上演されます。原作は画家のヒグチユウコによる絵本「せかいいちのねこ」。2023年に日生劇場開場60周年記念公演として初の舞台化が実現すると、子どもたちはもちろん、おとなや原作を愛するファンまでも魅了しました。絵本から飛び出してきたような世界の中で、Co.山田うんのダンサーたちと人形劇団ひとみ座の人形たちが生き生きと歌い踊ります。

あらすじ
ねこのぬいぐるみ・ニャンコは、持ち主のぼっちゃんからとても愛されています。ただ、赤ちゃんの時から一緒にいたぼっちゃんはもう7歳、みんなから、ぼっちゃんがぬいぐるみに飽きるのはそろそろだと言われ、ニャンコは不安を抱えます。そんな中、ニャンコは仲間のぬいぐるみから「ねこのヒゲ」を集めて身体にいれれば本物のねこになれる、という話を聞き、ヒゲ集めの旅に出るのですが……果たして、ニャンコは本物のねこになれるのでしょうか?

2023年公演より 撮影:三枝近志

本作の演出・振付・脚本・作詞を手掛けるのは山田うん。7月上旬、リハーサル真っ最中の山田さんにお話を聞きました。

山田うん  Un Yamada ダンサー、振付家。器械体操や舞踊を学び、1996年から振付家として活動。2002年ダンスカンパニー〈Co.山田うん〉を設立。カンパニーでの公演活動を主軸に、オペラ、合唱、演劇、新体操、ライヴ、MVやアニメの振付などを手がけるほか、東京2020オリンピック閉会式にDirector of Choreographerとして参加。老若男女、障がいの有無を問わず、宗教、文化、国籍を尊重した、誰もが楽しめるダンスワークショップのファシリテーターとして、国内ではパイオニア的存在でもある。 ©Ballet Channel

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今日の稽古場を見学して驚いたのは、山田さんが気になる点を伝えると、出演者やスタッフが「こうやってみてはどうですか?」と具体的なアイディアを出して、改善していくスピード感でした。
山田 演出していて迷った時は、人形劇のことはひとみ座さんに、ダンスについてはCo.山田うんのメンバーに、テクニカル面なら専門スタッフにすぐ聞くようにしています。それぞれが得意分野の視点から新しい提案や解決策をくれるので、より良いものをつくるための近道になるんです。みんなでつくっていると実感できるお稽古場で、信頼関係も日に日に深まっています。
舞台版『せかいいちのねこ』には、主人公のぬいぐるみ・ニャンコのほか、たくさんのキャラクターが登場します。人形劇団ひとみ座がパペットで表現する役と、Co.山田うんのダンサーがかぶりものをして演じる役との共演。そのコラボレーションも面白いですね。
山田 『せかいいちのねこ』の登場人物には、大きく分けると「生きもの」と「ぬいぐるみ」がいます。その中で、Co.山田うんのダンサーたちが「生きもの」を、人形劇団ひとみ座のみなさんが「ぬいぐるみ」を演じます。
生きているということは、いつかは死んでしまうということ。その儚さはダンサーの身体で表現しようと考えました。いっぽう、ぬいぐるみは、持ち主が手放さなければ汚れても傷んでも存在し続けられますが、命を手に入れ「生きもの」になることはできません。ぬいぐるみたちの言葉は、人形劇を通して生き生きと伝えたいと思っています。

2025年7月中旬に行われたリハーサルより ©Ballet Channel

いじわるねこ役を演じる川合ロンさんの動きは、本物のねこのようでした。
山田 ねこの仕草はアドリブではなくて、ちゃんと振付けているんです。飼い主のぼっちゃんのベッドに上り、掛け布団を前足で揉むように踏む動作は、ねこを飼っている人にはおなじみですよね。彼はしなやかな身体を持っているダンサーで、私が考えた以上の表現ができるので、リアルなねこをイメージできる動きを提案して作っていきました。

©Ballet Channel

個性的な音楽も聴きどころですね。
山田 いろいろなジャンルの曲が出てきます。作曲をお願いしているヲノサトルさんは、観客の細胞に直接、スパン!と刻みこむような音楽を作ってくださいます。そこに歌詞が合わさって、よりお客様の体に染み込んでいくはずです。踊りも歌詞も丸ごと覚えてもらって、お土産として持ち帰ってくれたらいいなと思っています。
物語の中盤、そこまでのいきさつをニャンコが「♪こうなって、こうなって、こうなって」と歌い、登場人物たちが早送りで状況を説明する場面がとても楽しかったです。
山田 あそこは子どもたちにも好評で、ロビーで歌っているようすをたくさん見かけます。何度か繰り返し登場するので印象に残りますよね。台本のト書きに「サンバで説明」と指定したら、ヲノさんはウキウキと踊りだしたくなるようなサンバの曲を作ってきてくださいました。
この作品で、山田さんは演出・振付・脚本・作詞のすべてを担当しています、なかでも“脚本”は、ダンス公演にはあまり存在しないもの。山田さんは自分で書くにあたって原作をどう生かそうと考えましたか?
山田 日生劇場さんから依頼を受けて初めて原作を読んだ時、これを舞台劇にするなら、「言葉」と「動き」をどう融合させるか試してみたいと感じました。そのためには、ただ絵本の言葉をなぞるだけにはしたくない、より多くの言葉を探し、動きを見つけたいと思ったんです。ヒグチさんの文をお借りしながら、舞台用のセリフはすべて自分で書こうと決意しました。が、大変でした! まず書いてみる。自分で音読して書き直し、演出助手やキャストに声に出して読んでもらい、それを聴いて推敲を重ねて……まるでお米を研ぐように、ていねいにていねいに回数を重ねて作業しました。セリフひとつにつき5回は手直ししたと思います。

©Ballet Channel

「言葉と動きの融合」についてもう少し聞かせてください。山田さんは、ダンスと言葉との相性はいいと思いますか?
山田 ダンス作品には言葉と身体の関係から作られているものもたくさんありますから、可能性はたくさんあると思っています。言葉って身体と同じくらい大切で、人間社会の中になくてはならないもの。私にはこのふたつを切り離して考えることはできないくらい、相性のいいものだと思います。でも多くの人は、目に見える体の必要性に比べて、言葉を雑に扱いがちというか、身体と言葉を切り離して考えようとする人も少なくない。そこは時々気になります。
山田さんの作品は、笑顔あふれるステージであっても、どこかに「死」というモチーフが隠れている印象があります。
山田 私が舞台芸術に関わりたいと思う理由は、圧倒的な光に包まれた表の世界と、切なさを感じる裏の世界が一体になっているから。舞台芸術ってとても儚いもので、一度やった舞台を完璧に再現することはできないんですよね。
人間の肉体も似ています。同じ日は一日として繰り返されず、今日よりも明日は少しだけ変化する。私たちの身体は、ペットボトルみたいに投げても壊れない容器とは違って、歳とともに形も変わり、弱ったり、元気になったりして、やがて崩れていきます。
一般的には子どもの人生は長く、お年寄りに待っている未来は短いかもしれません。けれど、本当の未来があとどれくらい残っているのかは、誰にもわかりません。それがすべての生きものに与えられた宿命です。「死」は、人間が一生を通じて向き合う身近でリアリティのある問題。私は観客がいつでもそこに飛び込んでいける世界を用意しておきたいと思うのです。

2023年公演より 撮影:三枝近志

©Ballet Channel

ぼっちゃんを演じている西山友貴さんは、山田さんのダンス『オバケッタ』のゆめた役など、物語に唯一登場する人間の男の子をよく演じています。どちらの役も舞台上で声を出さないという共通点があるようですが、なにか理由はありますか?
山田 声を出してしまうと、ひとりの小学生の男の子というキャラクターが確定してしまうからです。私は、老若男女問わずどのお客様にも、ぼっちゃんやゆめたに感情移入してもらえたら嬉しいです。西山は素晴らしいダンサーで、ファンタジーとリアルの世界を軽々と行き来できる表現力を持っています。彼女が目をパッと開くだけで、ぼっちゃんが見ている明るい未来や、ちょっぴり切ない気持ちが伝わってくると思います。
山田さん自身はどんな子ども時代を過ごしたのですか?
山田 自然の中で育ったので、よく山に登ったり海で泳いだりワイルドに体を動かしていました。そのいっぽうで本をよく読む子どもでした。絵本や図鑑を開いて、頭の中で空想を膨らませるのが大好きで。でも小学生になるまでは、バレエはもちろん、お芝居や映画を観に行ったりしたことはありませんでした。
当時好きだった本は?
山田 松谷みよ子さんの「ちいさいモモちゃん」シリーズが印象に残っています。小学校1、2年生の頃は物語を書く人にもなりたかったんですよ。
ダンスを始めたのはいつ頃ですか?
山田 中学1年生です。小学生の時から、じっとしているよりも身体を動かしているほうが好きで、機械体操をやっていました。ところがリウマチを発症してハードなスポーツができなくなってしまって。リハビリのためにモダンダンスを始めたのが、本格的にダンスを始めたきっかけです。
でも、踊るのが好きになった瞬間は、小学2年生の時、民謡クラブで踊っていた知らないおじいちゃんの姿です。すごく生き生きしていて、なんて素敵なんだろうと思って。そのおじいちゃんと一緒に踊るため、勝手に民謡クラブに入りました(笑)。
身体を動かすのが好きだったっていうことと、物語をつくりたいっていう2つが上手く合わさって、振付家という仕事に結びついたんじゃないかなと思います。
舞台を観に来るお客様にメッセージを。
山田 優しさに触れる時間になったらいいなと思っています。いまは寛容さを発揮しづらい時代です。何かを愛おしいと思う気持ちとか、許していくとか、そういう気持ちにたっぷり触れるひとときを過ごしてもらえたら嬉しいですね。

ニャンコとのスリーショット。右から:山田うん、ニャンコ役・松本美里(人形劇団ひとみ座) ©Ballet Channel

公演情報

日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2025

舞台版「せかいいちのねこ」

チラシはヒグチユウコの描きおろし。いじわるねこが着ている服は、初演の衣裳と同じデザインです!

【日時】
2025年
8月2日(土)11:00/14:30
8月3日(日)11:00/14:30
(開場時間 開演の30分前)

※上演時間 約1時間40分(休憩含む)
※推奨年齢:5歳~(3歳未満入場不可)

【会場】
日生劇場

【出演】
〈Co.山田うん〉
川合ロン、西山友貴、木原浩太、山口将太朗、黒田勇、望月寛斗
須﨑汐理、仁田晶凱、猪俣グレイ玲奈

〈人形劇団ひとみ座〉
松本美里、齋藤俊輔、篠崎亜紀、森下勝史、照屋七瀬、佐藤綾奈、金子優子

【スタッフ】
原作:「せかいいちのねこ」ヒグチユウコ(白泉社)
演出・振付・脚本・作詞:山田うん

美術:松生紘子
照明:櫛田晃代
衣裳:飯嶋久美子
音楽監督・作曲:ヲノサトル
音響:江澤千香子
ヘアメイク:谷口ユリエ
人形美術:小川ちひろ(人形劇団ひとみ座)
人形製作進行:小倉悦子(人形劇団ひとみ座)
人形操演指導:中村孝男(人形劇団ひとみ座)
かぶりもの製作:大石麻央
歌唱指導:片桐雅子
演出助手:齋藤亮介
舞台監督:蒲倉潤(アートクリエイション)

主催・企画・制作:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]

【チケット購入に関するお問合せ】
日生劇場 03-3503-3111(11:00~17:00)

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☆地方公演
【鹿児島公演】
日時:2025年9月14日(日) 14:00開演
会場:川商ホール(鹿児島市民文化ホール) 第1ホール
お問い合わせ:川商ホール 099-257-8111

【熊谷公演】
日時:2026年2月22日(日) 14:30開演
会場:熊谷文化創造館さくらめいと 太陽のホール
お問い合わせ:熊谷文化創造館さくらめいと 048-532-0002

☆ニッセイ名作シリーズ公演
(小学生を対象とした無償招待公演/一般の鑑賞は不可)
・札幌(北海道):2025年9月1~5日 札幌市教育文化会館
・名古屋(愛知県):2026年1月28日 愛知県芸術劇場
・福岡(福岡県):2026年2月4日 福岡市民ホール
・那覇(沖縄県):2026年2月13日 那覇文化芸術劇場なはーと

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◆鑑賞マナーを歌と踊りで楽しくレクチャー♪ 鑑賞前にどうぞ!◆

♪ショータイム 作詞:山田うん/作曲:ヲノサトル(日生劇場公式チャンネル)

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