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【レポート&インタビュー】ダンス「さかさまの世界」伊藤郁女“子どもはアーティストの先生。みんなの”ひみつ”が物語の世界を創る”

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

動画提供:KAAT神奈川芸術劇場

2023年7月1日(土)~8月13日(日)KAAT 神奈川芸術劇場で開催される「KAATキッズ・プログラム2023」。おとなもこどもも楽しめるダンス・演劇・音楽劇の3作品のトップを飾る、ダンス『さかさまの世界』(7月1~2日、7月8~9日公演)が開幕しました。
キャッチコピーは「おさなごころを持つ4歳から150歳向けダンス作品」。振付・構成・演出は、ストラスブール・グランテスト国立演劇センター「TJP」総芸術監督の伊藤郁女(いとう・かおり)。フランスの子どもたちと創作したステージを、今回は日本の子どもたちで改訂上演します。
物語の鍵になるのは子どもたちのイマジネーション。世界を救う小さな勇者として、地元横浜の2つの幼稚園の子どもたちが協力し、声の出演を務めます。

『さかさまの世界』あらすじ
とあるダンサー・俳優たちは、思いがけない依頼で世界を救うことに。
異常な気候変動により、さかさまになってしまったこの世界をもとに戻すには、子どもたちの声やイマジネーションが必要だった。彼らは世界を救うスーパーヒーローになれるのか?

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試演会レポート

6月16日、横浜中華街に建つ横濱中華幼保園にて、『さかさまの世界』試演会が行われました。園内の廊下とつながるスペースに、5歳~6歳の元気な子どもたち約40名が集合。最初に伊藤さんが登場し、「みんなに教えてもらった”ひみつ”から『さかさまの世界』のお話を作りました。今日はお手伝いしてもらったみんなの感想を教えてください」とあいさつ。「はーい!」と元気な声と拍手のなか、試演会が始まりました。

©Ballet Channel

俳優の朝日くん(石川朝日)があらわれ、子どもたちに「あさひです」と自己紹介するところからスタート。リラックスするためにみんなで顔をグニャグニャ動かそう!という朝日くんの提案に、率先して応じる子もいれば「やだー!」と恥ずかしがる子も。すると、カラフルな衣裳に身を包んだ元気なダンサーたち(川合ロン、Aokid、岡本優)が、ひとりまたひとりと舞台に転がり出てきます。舞台中央に整列しキレのいいダンスを披露したかと思えば、水着姿で想像の海にダイブ。デタラメ語で会話したり、言葉に合わせてくねくねと不思議なポーズを決めるたびに子どもたちは大喜び。出演者の動きを真似して手足を動かす子や、問いかけに大きな声で答える子、ダンサーが落とした小道具を舞台の上まで届けに行く子も。出演者たちがピンチになる場面では身体いっぱい使って舞台にパワーを送るなど、会場は夢中になって楽しむ子どもたちの熱気であふれました。

©Ballet Channel

大きな拍手で試演会が幕を閉じると、出演者を中心に子どもたちがあちこちで輪を作っての感想タイム。「どうだった? なにが面白かった? わからなかったことはあった?」と出演者が子どもたちに語りかけると、「じんせいでいちばんたのしかった!」「男の人がパンツ一丁でムキムキポーズをしたのがおかしかった」など自由な感想が飛び出しました。「顔をぐにゃぐにゃするなんていや」と言っていた子たちも、出演者に負けないくらい面白い顔や変身ポーズを作って出演者に披露したりと、笑い合う姿があちこちで見られました。

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Interview
伊藤郁女 Kaori ITO

試演会終了後、KAAT神奈川芸術劇場に場所を移し、振付・構成・演出の伊藤郁女(いとう・かおり)さんを囲んでの合同インタビューが行われました。

伊藤郁女さん ©KAAT神奈川芸術劇場

伊藤郁女(いとう・かおり)/振付家・ダンサー
1979年生まれ。5歳よりクラシック・バレエを始め、2000年にニューヨーク州立大学パーチェスカレッジへダンス留学後、立教大学で社会学と教育学を専攻。03年~05年に文化庁新進芸術家海外研修制度で渡米し、NYのアルビン・エイリー・ダンスシアターにて研鑽を積む。03年にフィリップ・ドゥクフレ作品『Iris』の主役に抜擢。その後、ジェームス・ティエレ、シディ・ラルビ・シェルカウイ、アラン・プラテルの作品等に出演。拠点をフランスに移し、15年に自らのカンパニー「HIME」立ち上げる。欧州の様々なバレエ団・サーカス学校・オペラ作品で振付を手掛けるほか、ダンスに捉われない多岐にわたる活動を行う。
主な創作作品に『私は言葉を信じないので踊る』『私を燃やして』『ロボット、私の永遠の愛』『Is it worth to save us?』『綾の鼓』『あなたへ』など。15年SACDより新人優秀振付賞、フランス政府より芸術文化勲章「シュヴァリエ」を受賞。22年第16回日本ダンスフォーラム賞大賞受賞。23年1月よりストラスブール・グランテスト国立演劇センター「TJP」のディレクター(総芸術監督)就任。

※読みやすさのために一部編集しています。

幼稚園での試演会について、元気な子どもたちの前で実際にパフォーマンスをした感想を聞かせてください。
伊藤 やはり劇場でやるときとは反応が違いました。幼稚園は”子どもの家”。今日は私たちがお邪魔する立場だったので、子どもたちよりダンサーたちのほうが緊張していたようです。観客のリアクションがここまで大きいと、ダンサーたちには冷静な判断が必要です。子どもたちの高いテンションに合わせすぎればダンスのきめ細かさは崩れてしまうし、出演者同士の横の繋がりも弱くなってしまう。アーティストにとって子どもは先生ですから、彼らにとって良いトレーニングになったのではないでしょうか。
試演会では、出演者と子どもたちとの間に生まれる強いエネルギーを感じました。あの力を舞台で引きだすためには、なにが必要だと考えていますか?
伊藤 舞台上のダンサーや俳優にとって大事なのは「見てほしい」ではなく、「見られてもいい」気持ちでいることです。そして対話は、こちらから「かかって来い!」と構えたり攻めたりするのではなく、相手のエネルギーを「来てもいいよ」と受け入れることで生まれます。互いに受けて、返して、を繰り返しながら、やがてひとつの大きなエネルギーになっていく。これは合気道ととても似ていて、日本人には絶対あるはずの感覚なんです。コロナ禍の影響もあって街でも人との接触が減り、イヤホンをつけて意識的にシャットダウンしている人も多くみられるようになりましたが、日常でもこの感覚を磨けば、みんなもうちょっと幸せになれる。それも大事なことだと思っています。

©Ballet Channel

今日の試演会に参加していた子どもたちが、『さかさまの世界』で声の出演をするそうですね。
伊藤 はい。最後の場面で子どもたちの”ひみつ”が出てきます。昨年12月に、ここともう一つ幼稚園に行って子どもたちの声を録音して集めたのですが、今日も声を録音しました。
伊藤さんが一番印象的だった”ひみつ”を教えてください。
伊藤 「世界を救うのはカマキリだ」。これは、さかさまになった世界を救うための大事なイマジネーションのひとつとして、舞台にも登場する予定です。戦争や世界情勢について感じていることを”ひみつ”として話してくれた4歳の子もいます。今日教えてくれた子の”ひみつ”は「年少さんの時は神様で、年中さんになると獅子に、年長さんでは龍になる。龍はおとなになったら怖くなるんだよ」というもの。「怖くなったらどうなるの?」って尋ねてみたら「(おとなになった怖い龍は)黒くなる」。その龍は、自分が怖い夢を見ている時に前を通り抜けるんだと。子どもってすごい、とびっくりしました。
どんな方法でたくさんの”ひみつ”を聞き出したのでしょうか?
伊藤 最初に『さかさまの世界』の原案を手作りの紙芝居にして持って行き、子どもたちに聞いてもらいました。紙芝居に出てきた”ひみつ”について触れ、自分の話をしてもいいと言ってくれた子どもに教えてもらっています。ここで言う”ひみつ”は、プライベートの秘密ではなく、誰ともシェアしていない、ほかの人とは違った自分だけの世界観のこと。私は小さい時「自分は宇宙人だ」と思っていました。水の中で息をしようとプールで試したけれどできなかった時は残念でした(笑)。自分の中だけで考えていて誰にも言わなかったこの”ひみつ”が、現在の創作の根っこになっています。
フランス版と日本版を作るにあたって、それぞれの国の子どもたちに話を聞いた”ひみつ”に違いはありましたか? 印象に残っている”ひみつ”はありますか?
伊藤 フランスの子どもたちは哲学的なことを言います。「自分の秘密は飛び回ってるんだ」「僕の秘密はどこにでもあるよ、頭とつま先以外は」とか。いっぽう日本の子どもたちは世界観が想像世界に繋がっていて「水鉄砲がお母さんに変わって、冷蔵庫に入っちゃった」のように、物語になっているものが多いです。語り方も違います。「僕はこう思っているんだ」と自分の考えをパシッと伝えてくるフランス人の子どもたちと違い、日本の子どもたちは自分の悩みを明かすように話します。自分の”ひみつ”を誰かに共感して欲しいと感じているのかもしれません。

©KAAT神奈川芸術劇場

楽しいお話のなかに「朝日くんのおじいさんが動かなくなってしまう」というシーンがあります。子どもには難しいかもしれないと思う内容を敢えて加えたのはなぜでしょうか。
伊藤 この場面は、私たち大人が使う言葉で提供しないといけません。観客が子どもだからと子どもっぽい言葉で喋っては彼らをばかにしていることになる。私の大好きなミッシェル・オスロ(フランスの脚本・演出家、映画監督)が、「子どもは、言葉の意味はわからなくても頭の中に焼き付けている」と言っています。観客の子どもたちは「死」への感情や感覚、匂いはわかっているから、これは朝日くんにとってすごく大事なことなんだ、と理解します。自分たち大人が考えていることを子どもに伝えるには、たとえ難しくても提供できるものはすべて提供すること。そうすれば絶対に届くと思います。
『さかさまの世界』を上演するKAAT神奈川芸術劇場は、2021年から「カイハツ」プロジェクト(*)に取り組んでいます。伊藤さんは21年12月に若手ダンサーや俳優と「企画・アイディアカイハツ」のワークショップを実施。それが今回の上演へと繋がったそうですね。
伊藤 そうなんです。KAATはダンスや演劇のコンスタントな上演とともに、芸術監督の意思に基づいた活動も積極的に展開していて、前衛的な劇場だと感じます。
伊藤さんは、劇場とはどういう存在であるべきだと思いますか。また日本の劇場に必要なものは何であると考えますか?
伊藤 芸術監督の長塚圭史さんやKAATのスタッフのみなさんとは、日本の劇場に人を呼ぶために必要なのは、わかりやすいものよりも質の高いもの、子どもも観られるものを作っていくことなのではないかと話しています。子どものころに劇場に行くきっかけがなければ、大人になっても行こうとは思わないでしょう。いつも言うことなのですが、ダンスは踊る人と観ている人の間に起こること。観ていてくれる人がいなければ交流も生まれませんし、どんなに踊っても意味がなくなってしまいます。ダンスは観ているだけで脳の10パーセントは自分が踊っている感覚になるそうなんです。子どもにはそういう経験が必要だし、もちろん大人もそう。だからこそ劇場という、日常から逃れられる何もないところ、無になってみんなが集まれる場所が必要だと思っています。
*KAAT神奈川芸術劇場が、長塚圭史が芸術監督に就任した2021年度から取り組んでいる新プロジェクト。企画、人材、戯曲、創作プロセスを軸に、上演を最終目的としない、劇場の創造活動の核を育てていくことを目指している。

公演情報

KAATキッズ・プログラム2023
『さかさまの世界』

公演日程

2023年
7月1日(土)14:00
7月2日(日)11:00/14:00
7月8日(土)11:00/14:00
7月9日(日)11:00
(開場時間 開演の30分前)
※開演の20分前から大スタジオホワイエにて紙芝居を上演

※上演時間:約40分(休憩なし)

会場

KAAT神奈川芸術劇場 〈大スタジオ〉

料金

(整理番号付き自由席)
◎前売券は各公演の開演2時間前まで販売
おとな:4,500円
こども(4歳~高校生):1,000円
おとな・こどもペア券:5,000円

【KAATキッズ・プログラム3作品セット券】
おとな:13,000円
こども:3,000円

出演

川合ロン
Aokid
岡本優
石川朝日

声の出演:伊藤博史
こどもたち(熊猫幼稚園、横濱中華幼保園)

振付・構成・演出:伊藤郁女

KAATキッズ・プログラム2023 公演一覧
●ダンス『さかさまの世界』(7月1~9日)
●演劇『さいごの1つ前』(7月21~24日)
●音楽劇『くるみ割り人形外伝』(8月8~13日)
※詳細はこちら

『さかさまの世界』公演詳細  KAAT神奈川芸術劇場 WEBサイト

 

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