2026年4月9日、都内で東京バレエ団による2026年、27年海外公演について記者会見が行われた。
登壇者は金森譲(演出振付家)、斎藤友佳理(東京バレエ団団長)、秋山瑛(東京バレエ団プリンシパル)、大塚卓(東京バレエ団ファーストソリスト)、髙橋典夫(公益財団法人日本舞台芸術振興会専務理事)の5名。第37次のイタリア公演(2026年)、第38次のフランス公演(2027年)の概要や、海外公演へ向けての思い、作品についてなどを語った。
- 記者会見ダイジェスト動画 チャプター・リスト
- 00:04〜 髙橋典夫コメント
00:56〜 金森譲コメント
03:12〜 斎藤友佳理コメント
05:46〜 秋山瑛コメント
06:26〜 大塚卓コメント
<記者からの質問>
07:51〜 金森さんから見た東京バレエ団の魅力
09:07〜 海外の反応は日本とは違いますか?
10:01〜 『かぐや姫』の題材について
11:25〜 海外で『かぐや姫』を上演することの意味

左から:金森譲、斎藤友佳理、秋山瑛、大塚卓 ©Yuji Namba
フランス公演は「かぐや姫」全幕上演
2027年5月26日~29日、東京バレエ団第38次海外公演で上演されるのは、オリジナル全幕バレエ『かぐや姫』だ。本作は東京バレエ団と、演出振付家・金森譲の手で誕生したグランドバレエで、2023年10月に全幕世界初演。東京バレエ団が全幕オリジナル作品を携えて海外公演に赴くのは、『ザ・カブキ』(1986年初演)、『M』(1993年初演)に続く3作目。パリ・オペラ座ガルニエ宮を含む、フランス都市内の劇場で上演される。
東京バレエ団は1966年からこれまでに、33ヵ国158都市で、36次799回の海外公演を行ってきた。本年の第37次イタリア公演初日をもって、海外公演通算800回を迎えることとなる。なおイタリア公演の詳細については、2026年5月初旬に発表予定。

東京バレエ団「かぐや姫」 ©Shoko Matsuhashi
登壇者挨拶
まず、公益財団法人日本舞台芸術振興会(NBS)専務理事の髙橋典夫が挨拶を述べた。
東京バレエ団の創業者である故佐々木忠次は、バレエ団の海外公演のたびに現地から「どうして日本人の振付家の作品がないのか」と尋ねられていたという。東京バレエ団には、モーリス・ベジャール振付の『ザ・カブキ』『M』、ジョン・ノイマイヤーの『月に寄せる七つの俳句』など、日本をテーマにしたレパートリーは多い。しかし日本人振付家による作品が海外で上演されるのは、この『かぐや姫』が初めてで、「正真正銘の純国産、メイド・イン・ジャパンのバレエ作品」(髙橋)として、世界にお披露目することになる。「これは佐々木から我々が引き継いだ夢であり目標でした。ついに実現すると思うと感慨深い」と笑顔で語った髙橋だが、いっぽうでこの国際的な評価が日本国内で認知されているとは言い難い現状を憂いた。海外のバレエ団で活躍する日本人ダンサーの数は増えており、中にはトッププリンシパルを務める者も少なくはない。海外からこんなに認められても一般には届いていないことに、歯がゆさを覚えていたと言う。パリ・オペラ座は、バレエファン以外の日本人にもよく知られている劇場。「オペラ座での上演を通じて、各国からの評価が国内にも浸透することを期待している。日本のバレエの力が全国に発信されることを祈る」と力強くアピールした。

髙橋典夫(公益財団法人日本舞台芸術振興会 専務理事)©Yuji Namba
「日本にエリアナ・パブロバが来て、神奈川県の鎌倉でバレエ教室が誕生してから約100年。今は、海外のバレエ団にひとりは日本人のプリンシパルがいるような時代になった。外来のバレエというものをみずからの身体芸術にするために、日本人は長いこと研鑽を積んできた。遅かれ早かれ、海外で日本の振付家による全幕バレエが上演する日も訪れたはず」と語ったのは、『かぐや姫』の演出振付を務めた金森譲。海外公演への思いを以下のように述べた。
「私は今まで、さまざまなご縁に報いるかたちで、献身的に精一杯戦い続けてきました。この日々がそのまま私の舞踊家人生です。その中で今回、東京バレエ団とともにつくりあげたこの作品を、欧州の方たちに観ていただける。日本のバレエもここまで来た、という万感の思いとともに、1年後のフランス公演が今から待ちきれません。これから、西洋からの借り物でない日本初の日本のバレエを国際的に発信していく時代が始まります。自分がその一員であることはとても光栄ですし、一助となれば幸いです」。

金森譲(演出振付家。「かぐや姫」の演出・振付・空間デザインを担当)©Yuji Namba
東京バレエ団団長の斎藤友佳理が、金森と新しいクリエーションについて初めて話し合ったのは2017年、斎藤が芸術監督(当時)に就任して2年後のことだったという。それから2021年の全幕世界初演までに、約4年の月日を要した。斎藤は、金森から新作の題材は『かぐや姫』、音楽はドビュッシーを使用したいと伝えられた時のことを振り返った。「題材は日本最古の物語、振付とダンサーは日本人、そして音楽はフランスの作曲家。それを聞いた時、私には夢ができたんです。いつかこの作品を持ってフランスに行きたい。できることならパリ・オペラ座で」。しかしガルニエ宮は2027年7月から2年間の改修工事に入ることが決まっている。夢を諦めかけた矢先、オペラ座から今回の招待の連絡が届いたという。斎藤は少女のように目を輝かせ「この機会はダンサーたちにとってもバレエ団にとっても、日本のバレエ界にとっても、大きな大きな進歩になると思います」と決意を述べた。

斎藤友佳理(東京バレエ団団長)©Yuji Namba
2021年秋、第1幕が上演された時からタイトルロールを演じ続けている秋山瑛は、来たる海外公演での上演に「なんだか現実味がないというか、夢のような気持ちです」。2027年のパリ・オペラ座公演については「バレエをやっている人だったら絶対に、もちろん私にとってもパリ・オペラ座は小さな頃からの憧れの劇場。そこで東京バレエ団が、譲さんの作品を、廣川玉枝さんのお衣裳で踊ることができる。この作品に携われたのは、私にとって本当に幸せなことだと思っています」と語った。

秋山瑛(東京バレエ団プリンシパル)/衣裳協力:Max Mara ©Yuji Namba
最後に緊張の面持ちでマイクを握った大塚卓は、5月の東京文化会館公演で初の道児役に挑む。主役デビューを目前に控えて飛び込んで来た海外公演の報せに、「話が大きく膨らんできていて、ややキャパオーバー気味といいますか、すごくプレッシャーを感じています」と語った。斎藤のコメントで『かぐや姫』のクリエーションが2017年から始まっていたと知って、「僕はその当時まだ東京バレエ団に入ってもいませんでした。そんな時期から始まっていたと知ってしまった今、生半可な気持ちではとても臨めない。本気で頑張らなくては」と真っ直ぐな目でコメント。オペラ座の舞台はもちろんだが、まずは東京公演。「(秋山)瑛さんと一緒に、新しい『かぐや姫』をお届けできればいいなと思います。譲さん、よろしくお願いします!」と意気込みを述べた。

大塚卓(東京バレエ団ファーストソリスト)/衣裳協力:JOSEPH HOMME ©Yuji Namba
質疑応答
続いて、会見に集まった記者たちとの質疑応答が行われた。主な内容は以下の通り。

©Yuji Namba
- (記者1)金森さんが思う東京バレエ団の魅力や、バレエ団に対して思っていることを教えてください。
- 金森 東京バレエ団は、私が10代半ばでバレエを始めた頃から、日本を代表するカンパニーでした。早くから超一流の海外の振付家を招聘して作品をつくり、海外ツアーも行っています。海外に出て行き、これだけの実績を残している日本のバレエ団は他に類を見ません。私の出自に関わる振付家、モーリス・ベジャールとイリ・キリアンとの強い繋がりがあることで、私自身も縁を感じています。今回、声を掛けていただいて、とても光栄です。今回の舞台をきっかけに、東京バレエ団がさらに世界に羽ばたくことを願っていますし、今回の海外公演が成功を収めることによって、この国の若い振付家たちに、世界へ挑戦する夢を与えられたら嬉しいと思っています。

©Yuji Namba
- (記者2)秋山瑛さんは、ブノワ賞受賞のガラ公演でも『かぐや姫』の抜粋を踊っています。海外の観客の反応はいかがでしたか?
- 秋山 第1幕のパ・ド・ドゥを柄本弾さんと踊らせていただきました。踊る前は、どんな反応が来るのか誰にも予想できませんでしたが、踊り終えて舞台袖に引っ込んだ後、お客様が拍手と手拍子で舞台上に呼び戻してくださったんです。楽屋口で待っていてくださる方もいて、たくさんの方に「本当に美しいバレエだった」と言っていただいて嬉しかったです。バレエ団のツアーで海外公演に行くと、「バレエって言葉がないからこそ、素晴らしいな」といつも思うんです。会話はなくても、舞台の上と客席とで心の交流ができる。拍手をいただいたり、時には笑いやざわめきが起こったり。「みんなバレエを愛してるんだな」と感じられる瞬間が、私はいちばん好きです。

©Yuji Namba
- (記者3)海外公演の演目において、日本人の振付による全幕作品をつくる意義は?
- 斎藤 佐々木忠次さんがもし生きていらしたとしたら、きっとご自身で譲さんに作品を依頼されたと思います。先見の明をお持ちで、つねにその時代のいちばんの振付家に目を留め、その作品で東京バレエ団がどう成長するかを考えていらっしゃる方でした。バレエ団に合うオリジナル作品を日本人振付家の手でつくることも、心から望んでいらしたのではないでしょうか。東京バレエ団はクラシック・バレエを中心に、現代ものの作品にもバランスよく取り組んできました。その経験から、ダンサーたちは初めて触れる譲さんの作品にも戸惑うことなく向かっていく。そのようすを肌で感じています。
金森 東京バレエ団から委嘱を受け、最初に感じたのは「新しいバレエをつくるんだ」という思いでした。西洋のバレエには、長い年月をかけて磨かれてきたフォームや、クラシック・バレエとしての伝統的な構造があります。それらを踏襲した上で、バレエが入って来て100年を迎えたこの国のオリジナルの新作を生み出す。それがみずから掲げた振付家としてのテーマでした。テーマに沿って作品を考え、構造的にふさわしい題材として「かぐや姫」を選び、音楽をリサーチしてドビュッシーにたどり着きました。
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かぐや姫と道児のパ・ド・ドゥ。写真は秋山瑛(かぐや姫)、柄本弾(道児)©Shoko Matsuhashi
- 金森 今回の海外公演では、ただ日本人振付家として行くに留まらず、日本の新しいバレエを西洋に見せるんだ、という意識を持つことが大事だと思っています。大きな話になってしまいますが、これはある種のルネッサンスだと思うんですね。ある芸術表現の細分化を重ねていくと、どこかで行き詰まることがあります。新しい何かが必要になった時に芸術家たちはどうするかというと、過去へと遡るんですよ。例えば古代ギリシャ彫刻のあり方とか、現代では忘れ去られていたような、古(いにしえ)の知恵を探り、もう一度持ってきて再研究(restudy)して新しいものへと昇華する。そういうプロセスは、人類の文明の中でも定期的に起きているものであり、私は今、それをバレエでやろうと試みているんです。

©Yuji Namba
東京バレエ団 第38次海外公演概要
【期間】2027年5月26日(水)~5月29日(土)
【公演回数】計5公演予定(2026年3月24日現在)
【訪問都市】 パリ(パリ・オペラ座ガルニエ宮)/他都市調整中
【参加人数】約110名(見込み)
【上演予定作品】
『かぐや姫』全3幕―プロローグ付き―
音楽:クロード・ドビュッシー
演出・振付・空間デザイン:金森譲
※全幕世界初演:2023年10月20日 東京バレエ団(東京文化会館)
『かぐや姫』東京公演(2026年5月5~6日 於:東京文化会館)の情報はこちら