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【特集・Dリーグ①】なぜ、ダンスを「競技」にするのか?〜日本発・ダンスのプロリーグ誕生の仕掛け人、神田勘太朗氏に聞く

阿部さや子 Sayako ABE

ご存じの通り、バレエでは昨今「コンクール」がますます盛んである。
十代対象のものを中心として、近年ではそれ以下の年齢層のためのいわゆる「プレコンクール」や、大人のバレエ愛好者向けのものまで次々と開催され、活況を呈している。

もちろんその内容や規模、レベル、目的として標榜していること、入賞の結果得られるもの(留学のチャンス、スカラシップ、ワークショップへの参加権、賞金、賞品、賞状……)等は様々である。
それらを一括りにして語ってしまうのは、あまりに乱暴なことだ。
それでもやはり、「コンクール」は「発表会」や「勉強会」とも違うし、もちろん「公演」とも違う。
すでにコンクール独自の様式が確立されており、しかもそれが今やバレエの市場を力強く支える規模と存在感をもっていることは確かだろう。
そしてその結果、多くの人が(「コンクールは”ゴール”ではなく”過程”のひとつにすぎない」と考えてはいても)「コンクール入賞」をひとつの目標にし、「コンクールでの評価」を意識して技術を磨き、「コンクールっぽい踊り方」みたいな表現をもしばしば耳にするくらい、若いダンサーたちの踊り方やバレエと向き合う姿勢に、変容をもたらしてもいる。

この状況を思いきって言葉にするならば、バレエには「コンクール・バレエ」という新たなジャンルがすでに成立している、と言えるのではないだろうか。
“技術や能力を競う”という文字通りの意味で、「競技バレエ」と言い換えることもできるのかもしれない。

私は、それが悪いことだとは少しも思わない。
バレエは突き詰めれば突き詰めるほど難しいダンスであり、身体条件など努力ではどうにもならない要素が、時として決定的な力を持つ。
そうである以上、周辺にできるだけたくさんの、いろんな種類の取り組み方や関わり方が存在するのは、むしろとても良いことだ。

しかし、バレエは「競技」や「勝敗」という言葉を嫌う。コンクールにおいてもトップの座を「優勝」とは言わずに「第1位」や「金賞」等と表現するし、例えば国際バレエコンクールの報道などでマスメディアが出場者を「選手」と呼ぶのを見かけると、私たちは即座に「選手じゃありません、ダンサーです」と訂正したくなる。なぜか。「芸術であるバレエは競うものではない」という信念があるからだ。たとえ、それがコンクール(コンペティション)の場であったとしても。

ところが2021年1月10日、バレエではないがストリート系を中心としたダンスジャンルにおいて、日本発となる「ダンスのプロリーグ」が開幕した。
その名も「D.LEAGUE」(Dリーグ)
ダンスを「競技」と言い、ダンサーを「Dリーガー」と呼ぶ。
各チームは点数を競い合い、メンバーたちは「今日は勝ちに来ました!」と力強く叫ぶ。

何という潔さ。Dリーグ発足を知った時、そのことにまず驚き、興味を持った。

日本発のダンスのプロリーグ「Dリーグ」は2021年1月10日に開幕した。写真はその開幕戦で1位を獲得したチーム「SEGA SAMMY LUX」。ダンス界のレジェンドBOBBYがディレクターを務め、スキルフルでスタイリッシュなダンスが魅力

2024年のパリ五輪では、ストリートダンスの一ジャンルである「ブレイキン」(ブレイクダンス)が競技種目となる。そうしたことからも、ストリートダンスはバレエよりも評価を「得点」に落とし込みやすいのかもしれない。
それでも、やはりそれが「ダンス」である以上、アーティストの魂や鼓動から生まれる自由な表現を点数化し、端的に言えば「優劣」をつけてしまうことに、壁や葛藤はないのだろうか?

ブレイキンのトップダンサーISSEIがディレクター兼Dリーガーを務める「KOSÉ 8ROCKS」。身体のあらゆる部位で回ったり、突然宙を舞ったりと、ブレイキンがオリンピック種目になるのも納得のアクロバティックな大技が毎回飛び出す。ラウンド10では悲願の1位を獲得

Dリーグ開幕から約5ヵ月。初年度である今季は全部で9つの企業チーム(*)が名を連ねている。
試合はおおむね2週に1度(月2回)のペースで開催され、全12ラウンドで構成される「レギュラーシーズン」の上位4チームが、トーナメント戦「チャンピオンシップ」に勝ち上がるという仕組み。
2021年6月現在はレギュラーシーズン中で、6月8日(火)に迎える11ラウンドでは、バレエダンサーの飯島望未がゲストジャッジ(審査員)を務めるという。

*今シーズンの参加企業チームは以下の通り:avex ROYALBRATS/KADOKAWA DREAMS/KOSÉ 8ROCKS/CyberAgent Legit/SEGA SAMMY LUX/SEPTENI RAPTURES/FULLCAST RAISERZ/Benefit one MONOLIZ/USEN-NEXT I’moon

毎試合のもようは、「D.LEAGUEオフィシャルアプリ」のほか「5G LAB」「ABEMA」「GYAO!」「スポーツナビ」「ダンスチャンネル」「ニコニコ」「U-NEXT」「スカパー!」で当日生配信・生放送されている。

このDリーグ誕生の仕掛け人は、株式会社 Dリーグの代表取締役COOを務める神田勘太朗氏
自身も「カリスマカンタロー」の名でプロのダンサーとして活動しながら、これまでにも大規模なストリートダンスバトル大会「DANCE ALIVE HERO’S」などを立ち上げてきた。

なぜ、Dリーグはダンスの競技化に挑んだのか。
「世界中すべての人に『ダンスのある人生』をもたらす」ことを標榜する神田氏に話を聞いた。

神田勘太朗氏 ©︎Shinji Masakawa

Dリーグ、開幕からずっと楽しませていただいています。
神田 本当ですか。ありがとうございます。バレエのジャンルの方から見て、どうですか?
ただひたすら楽しいというのが率直なところですが、バレエを中心に取材している身としては、ダンスを「競技」と言うその潔さにまず興味を持ちました。
神田 潔さ(笑)。はい、確かにそうですね。
バレエではコンペティションの場であってもそれを「競技」とは絶対に言いませんし、最優秀の成績を「第1位」とは言っても「優勝」とは言いません。
神田 それはやはり「アートの世界」だからですか? きっとそうですよね。でも僕は、ピアノとかバレエのコンクールのほうが厳格な「競技」になっていて、僕らストリートダンスのほうがずっと曖昧だと思っていました。「バトル」や「コンテスト」と名のつく場であっても、それが「ショー」なのか「競技」なのか、境目がはっきりしない。

振付といい、構成といい、衣裳といい、センスの光るショーケースを披露してしばしば高得点をマークする「SEPTENI RAPTURES」

そうした状況のなかで「ここではダンスを『競技』として行います」と定義したのがDリーグということですね。神田さんはDリーグ起ち上げの背景にある思いのひとつとして、「ダンサーを職業として成立させたい。ダンサーの権利を整備したい」という旨のことをおっしゃっていました。それを実現するための方法として、なぜ「競技化」を採ったのでしょうか?
神田 2012年にダンスが必修科目として学校教育に組み込まれて以来、ダンス部も増えましたし、ダンスのマーケット自体は大きくなりました。でも、スタジオで上手くなったダンサーたちの“その先”の選択肢がなかなかない。例えば世界を目指せるようなダンサーであれば、海外に飛んで有名なアーティストのバックアップパフォーマーとして契約したり、ワークショップを組んで世界を回ったりといった活躍はあり得ます。しかしそのレベルですら仕事が決まらなければ収入がゼロになるわけで、常にリスキーではあるんです

ダンサーが踊りだけで生活できるようになるにはどうしたらいいかーー考えてみると、野球やサッカー、バスケットボール、F1等々、他のいろいろな業界では、それはもう実現されているわけですよね。「プロ契約」という形で企業と契約を結んで、お給料をいただく。そのぶん選手の側は結果を出すことに本気でコミットする。そういう業態をダンス業界にも組み込むことは、僕がやらなくても、遅かれ早かれ誰かがやったでしょう。幸いなことに、2024年のパリ五輪でブレイキンが競技種目になることが決まったので、ダンスはより競技化する方向に突っ走るはずです。ならば当然、その礎となるものは作っておくべきだとも考えました。

バレエはもちろんですが、ダンスはアートです。それは本質的には非常に本能的なものであり、万人が理解するのはなかなか難しいジャンルです。でもビジネスとして成立させるには、何らかのかたちで価値化して、集客しなくてはいけない。その集客のエンジンとなるものは、いったい何なのか? バレエで言えばコンクール、僕らのダンスで言うならコンテストなのか? それとも発表会? フェス? バトルイベント?……そう考えていった時に、国にも企業にもメディアにもファンにも、みんなにとってダンスを“自分ごと”にできるのが「競技化」ではないかと。その仕組みづくりとして、このDリーグ構想が生まれたんです。

メンバーたちのルックスもダンススタイルもバラバラで、その多様性がチームの個性となっている「KADOKAWA DREAMS」

今日の取材で神田さんに伺いたいと思っている最大のポイントのひとつが、まさにその「アートを競技にする」という点です。神田さんご自身も「カリスマカンタロー」の名でプロのダンサーとして活動していらっしゃいますが、ひとりのアーティストとして、ダンスが点数で評価され勝敗がつくことに葛藤を感じたりはしないのでしょうか……?
神田 それは僕自身、これまでもう何周も、何十周も考えてきたことです。「ただ踊れたらそれでいい、お金なんて関係ない」ということなら、誰も審査なんてしたくもないし、されたくもないですよ。でも、僕はやはり、好きなダンスで生活ができる世界を作りたいと思った。それに僕らのやっていることは、「ダンスを審査・点数化すること」自体が目的ではありません。あくまでも競技化というかたちでダンスの評価軸を作り、その評価額が自分の給料として返ってくる=ダンサーがダンスで生計を立てられるようにする、それがゴールです。自分の好きな職業で生活ができて、自分が守りたい人を守れるようになる。そんな人生が実現するのならば、点数で評価されるとか勝敗がつくとか、取るに足らぬ小事だと思うんです。
なるほど。
神田 審査されて厳しい点数をつけられたダンサーはもちろん傷つくし、その点数をつけなきゃいけない審査員だってつらい。でも、審査すること・されることだけにこだわっていたら、すごく小さな世界になってしまうので。例えばミシュランの星だって、オリコンランキングだって同じでしょう? 「美味しさ」とか「音楽の好み」なんて人それぞれの感覚で違うのが当たり前だけど、資本主義社会においてはいかなるものも何らかの指針によってランク化され、その評価がお金を生み出していくんです。ならばダンスなどアート領域だってジャッジされてランク化されてもおかしくはないし、その手段を使うことでビジネスの好循環が生まれるのならば、その是非にばかりこだわってないで、思いきって踏み込んでみるべきだと僕は思います。

高いヒールを履き、ヴォーグというジャンルを取り入れたダンススタイルで独特なアート性を見せる「Benefit one MONOLIZ」。ラウンド9ではアンデルセン童話「赤い靴」をモチーフにしたショーケースを披露

ランキングや点数といった数字は誰にでも明快でわかりやすい評価だからこそ、アートのように “わかりにくい”と思われがちなジャンルでは効果的な起爆剤になり得る、ということですね。
神田 そうですね。ダンスを知らない人にとっても良い入口になるというか、見る時の大きな手がかりになると思います。
その「審査」についても、Dリーグには大きな特徴があります。審査員(ジャッジ)は①ダンサーのスキルや振付・作品のクオリティなどを見る〈ダンサー・ジャッジ〉と、②パフォーマンスが放つエネルギーや表現力などを見る〈エンターテイナー・ジャッジ〉で構成され、まずは①②の採点による「ジャッジ・ポイント」でランキングがつきます。そして最後に視聴者の投票による「オーディエンス・ポイント」が加算されて、その日の結果が決まる、というかたちです。
Dリーグが「ダンスのプロリーグ」を標榜している以上、「そのダンスやダンサーを、どんな基準で、誰に評価させるのか」は、イコール「プロのダンサーとは何か?」「ダンスにおけるプロの条件とは何か?」あるいは「Dリーグはどんなプロを育てたいのか?」を定義していることになると思います。
神田さんご自身は、ダンスにおけるプロフェッショナルとは何だと考えていらっしゃいますか?
神田 なるほど。それでいくと、僕はまず「どれだけのファンの数を持っているか」ということが、指標のひとつになるんじゃないかと思っています。端的に言えば、チケットの売れ行きとはつまり、そのダンサーやカンパニーを支持している人がどれだけいるかということですよね。これはどの業界にも当てはまることですが、アートの価値は、それを支持している人の数で決まります。その絵を欲しいと思う人が多ければ高値がつくし、そのアーティストに会いたいと思う人が多ければプラチナチケットになる。つまり、まずは多くの人を魅了できることが、プロであることの最低限の条件ではないでしょうか。

KRUMP(クランプ)というジャンルのパワフルでパッショネイトなダンス、トークのおもしろさも人気の肉体派チーム「FULLCAST RAISERZ」

それでDリーグは一般視聴者の投票数で決まる「オーディエンス・ポイント」を設けているわけですね。しかしそのいっぽうで、例えばバレエはミリ単位の細部にこそ真の美が宿るものであり、その繊細なクオリティを備えていてこそプロ、といったところがあります。それはバレエの専門家は高く評価するけれども、一般の観客にはほとんどわからない。だから「どれだけのファンを持っているか」をプロの指標として捉えるかどうかに関しては、議論が分かれそうな気がします。
神田 それは僕らのジャンルのダンスでも同じですよ。超細かいバイブレーションとかやっていて、僕らプロから見るともう凄すぎて「うわっ、ヤバイ……!」とか思うんだけど、そういう凄さほど一般のみなさんには何もわからなかったりする(笑)。アートの世界って、もう仙人のようにどこまででも突き詰めていけるし、どこまででも深みに入っていけるんですよね。でも、それはもはや常人にはわからないレベル。だからその「極み」の領域は「最高の趣味」だと思ったほうがいい、というのが僕の考えで。
最高の趣味!(笑)
神田 そもそも、ダンスって基本的には「趣味」のものですよね。みんな好きだからやっている、という。そして趣味であるうちは、むしろ順位をつけてはいけないと思うんですよ。人が好きでやっているものに優劣をつけるべきではない、というか。でもプロとしてやっていくのなら、評価に晒されることを受け入れなくてはいけない。対価をもらって踊るというのはそういうことであって、そのギブアンドテイクをきちんと成立させるのがプロだと僕は思います。
実際にDリーグを観戦していると、ジャッジ・ポイントによって出ていた結果が、最後にオーディエンス・ポイントが加算された瞬間に大きくひっくり返ることもしばしば起こります。つまり、プロによる評価が、一般票によって覆されることもある。そこがDリーグのおもしろいところのひとつだと個人的には思いますが、批判の声もありますね。
神田 オーディエンス・ポイントの是非のみならず、ジャッジシステムについては本当にいろんな意見が寄せられています。「オーディエンス票のシェアが20%なんて大きすぎる」「ジャッジするのはプロの審査員だけにするべき」という声もあれば、「プロの審査員なんていらない。オーディエンス票だけでいい」という声もある。プロのジャッジについても「ダンスの審査はダンスのプロにしかできないのだからエンターテイナー・ジャッジは不要」という人もいれば、「ダンスのプロに審査させるなら従来のコンペティションと変わらない。エンターテイナー・ジャッジだけでいいじゃないか」という人もいる。
正反対の意見だらけですね……。
神田 こうしたコンフリクト(対立)が生じるのは世の常ですから。Dリーグはまだ1年目であって、当然まだ完璧ではありません。ルールにしろジャッジシステムにしろまだ手探りなところもありますが、まずはこれでやってみる。そしてより多くの人々の支持が集まるやり方が残っていくことで、Dリーグというもののあり方も定まっていくはずです。

ヒップホップ、ポップ、ロック、ブレイキンなど、様々なスタイルのダンスを繰り出す「CyberAgent Legit」。ディレクターはダンス&ボーカルグループRADIOFISHのメンバーとしても活躍するFISHBOY

いまお話のあった「ジャッジ」について、現在はダンサー・ジャッジ4名、エンターテイナー・ジャッジ4名の計8名で審査が行われています。この8名のうち2名は毎回審査員を務める「レギュラー・ジャッジ」、あとの6名は都度変わりますが、ジャッジはいつもどのような基準で選ばれているのでしょうか?
神田 まずレギュラー・ジャッジは12ラウンドを通して見ていただかなくてはいけないので、いろいろなダンスを熟知している見識の広さと経験値の深さ、そして洞察力を持ち合わせている方を選んでいます。そして毎回変わるゲスト・ジャッジは、ジェンダーや専門ジャンル等のバランスをトータルで見ながら、できるだけ偏りなくいろいろな方に来ていただけるようオファーしています。僕らとしても、いろんなジャンルの人たちの目線からダンスがどう見えるのかを知りたいですし。これまで、ダンサー・ジャッジとしてはストリート系の各ジャンル、ジャズ、コンテンポラリー等々いろいろなジャンルのダンサーやコレオグラファーを招いてきました。エンターテイナー・ジャッジのほうはシンガー、楽器の演奏家、役者、スポーツ選手、お笑い芸人……等々。さらに、できればそれぞれのジャンルで影響力のある方をお呼びしたいという気持ちもありますね。その方のファンがDリーグを見て「おもしろい! 次回も見てみよう」と思ってもらえたら嬉しいので。
ちなみに、バレエ関係者がジャッジを務める可能性もありますか……?
神田 もちろんです。まさに6月8日(火)開催のラウンド11では、バレリーナの飯島望未さんにゲスト・ダンサー・ジャッジを務めていただくことになっています。
そうなのですね!
神田 いまダントツに華がある方ですし、自分のスタイルを持っているバレリーナだと思うので、当然ブッキングさせていただいたというかたちです。

毎回チームメンバーの中の一人が“主人公”の作品を披露する「avex ROYALBRATS」。写真はラウンド3で見せた“鏡”をコンセプトにしたパフォーマンス。「ダンスって最初は自分と鏡の中の自分の二人だけで始めるものだから」と話していたディレクターRIEHATAの言葉が心に残る

これは、Dリーグで踊られているジャンルのダンスについて何も知らないに等しい私が軽はずみに言ってはいけないことですが……Dリーガーのみなさんを見ていると、「ああ、プロだな!」と思わされるダンサーもいれば、まだまだ伸び代のある若いダンサーもいるように感じられます。
神田 はい、そうですね。
それはつまり、ダンサーもいろいろなレベルの人を敢えて選んでいるということでしょうか?
神田 いいえ、そうではありません。その差はあくまでも、各チームのディレクターがどういうダンスやダンサーを選んだか、どういうチーム構成にしようと考えたかによるものです。トッププロたちによる洗練されたパフォーマンスを見せたいのか、それとも荒削りのダンサーたちがどんどん磨かれ成長していくストーリーを描きたいのか。もちろん、例えばバレエのようにピタッ!と軸が厳密に定まったダンスを良しとするジャンルの方からすると、技術的に甘く見えることもあるかもしれません。あるいは権威ある人たちからは「アマチュアだ」と思われるようなチームやダンサーもいるかもしれない。でも、彼ら・彼女らがもがき、苦しみながら成長していく姿がオーディエンスの胸を打ち、支持を勝ち得て民意を獲っていったなら、それはもう誰が何と言おうとそのダンスは確立されたものになるんです。そんなふうにDリーグは夢を追える場所でありたいし、子どもたちや若いダンサーが「将来はDリーガーになりたい!」と夢見るような場所になりたいと考えています。
いま「子どもたちや若いダンサーが」という言葉がありましたが、Dリーグは「若年層をターゲットにしている」と明言していますね。この少子高齢化の時代にあって敢えて若年層を狙う意図と、現時点でその狙い通りになっているかについて、教えてください。
神田 まず、狙い通りにはなっています。そして若年層をターゲットにするのは、現在その層を真に取り込めている企業やカルチャーがないからです。例えばJリーグ(サッカー)は観客の平均年齢が40代半ば、野球は50歳近い。確かにこの国において人口が多いのは中高年層ですが、今も昔も流行を作り続けてきた中心の世代は十代です。ですから今後の成長性を考えれば当然若年層を押さえるべきですし、ティーンに訴求できる存在になれば、多くの企業の賛同や協賛を得られることにも繋がると考えています。また、日本のティーンを掴んでおくことは、いざ世界に出ていく際に良いポジションを築くためにも重要です。

チームの平均年齢が最年少(18.5歳/Dリーグ開幕時)、女性のみのチーム「USEN-NEXT I’moon」。バレリーナのようにほっそりとしたダンサーたちが全力で踊る姿や美的なムーヴメントを見ると思わず応援したくなる

若年層への訴求が「狙い通り」になっているとしたら、それはどんな施策が功を奏しているのでしょうか?
神田 毎試合の配信がABEMAなどネットで行われていることが大きいと思います。あとはDリーガーたち自身がInstagramやTikTokなどで活発に発信しているので、若いファンがついてきているというのもあるでしょうね。また、最初にお話しした通り、そもそもいまの若い人たちは学校の必修科目でダンスを踊っているし、部活としてのダンスも活発ですから。そうしたみなさんを中心にDリーグ観戦が広がってきているのではないでしょうか。
ところで、神田さんはバレエをご覧になったことはありますか?
神田 あります。というか僕、バレエダンサーと共演したことがあるんですよ。2007年にバレエダンサーの服部有吉さんが振付・演出した『ラプソディ・イン・ブルー』っていう公演で。バレエ、コンテンポラリーダンス、ジャズ、ストリートダンスが融合した舞台で、僕はハウス・ダンサーとして出演しました。バレエダンサーは有吉さんの他にラスタ・トーマスや大貫真幹さん、横関雄一郎さんが出演していて、コンテンポラリーは辻本知彦さん。辻本くんとは今でも親しくしているんですけど。

©︎Shinji Masakawa

そうでしたか!
神田 その時に辻本くんが、僕にこんな話をしたんです。「勘太朗、ダンスのジャンルを立ち位置の高い順から並べると、〈バレエ→コンテンポラリー→ジャズ→ストリート〉となる。どうしてこの順になるか、わかる?」と。コンテンポラリーとジャズはもしかしたら順番が逆だったかもしれないけど、とにかく僕は「え?」と。それこそ「どのダンスだって芸術なのに、順位をつけるのかよ!」と思っていたら、辻本くんは「絶対的な練習量の差だよ」と言ったんですね。「バレエダンサーは朝からクラス・レッスンをして、終わってもストレッチしたり自分の弱いところを鍛えたりして、その後にリハーサルをして、空き時間があればトレーニングをして……と、1日の大半を練習に費やすんだよ。でもお前たちストリートダンサーは、練習が始まる直前にスタジオに来て、バッと練習して、サッと帰るだろ? そこが違うんだよ」と。それを聞いて僕は衝撃を受けましたね。確かに、例えばその日の練習が朝10時開始だとすると、僕は9時50分くらいにスタジオに来て大急ぎで着替えて……とやっているのに、バレエダンサーのみなさんは8時台から来ていて、練習が始まる頃には汗びっしょり、みたいな状態だったから。もう、練習に対する姿勢から何から違っていました。もちろん、僕らは僕らで負けないものはあるので、それをぶつけて踊りましたけど。
私たちはバレエ専門のメディアなので、今のお話を含め、今日は本当に新鮮でおもしろいお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。
神田 この記事によってバレエ界のみなさんが「Dリーグを見てみよう」となるのか、それともまったく興味をもたれないのか。その反応が知りたいですね。そして将来的にはお互いのジャンルのファンが行き来するようなことを起こせたらいいなと思います。

神田勘太朗 Kantaro Kanda
株式会社Dリーグ代表取締役COO/株式会社アノマリー代表取締CEO/株式会社expg取締役/一般社団法人日本国際ダンス連盟FIDA JAPAN会長

長崎県出身。明治大学法学部卒業。2004年、有限会社アノマリー(現・株式会社アノマリー)を設立。「日本一のイベントをつくり、そこで踊れば有名になれる」と考え、自身も「カリスマカンタロー」の名でダンサーとして活動しながら、ストリートダンスバトル大会「DANCE ALIVE HERO’S」のプロデュースを始める。現在、同イベントは両国国技館を埋め尽くす日本一のダンスイベントに成長。2017年株式会社expg取締役就任。2020年4月、N高等学校と連携しexpg高等学院を立ち上げる。

2021年1月、日本発となるダンスのプロリーグ「D.LEAGUE」を設立。

©︎Shinji Masakawa

配信情報

「第一生命 D.LEAGUE 20-21」ROUND.11

◎開催日時:2021年6月8日(火)19時〜

◎当日生配信・生放送:「D.LEAGUEオフィシャルアプリ」「5G LAB」「ABEMA」「GYAO!」「スポーツナビ」「ダンスチャンネル」「ニコニコ」「U-NEXT」「スカパー!」

◎JUDGE:坂見誠二、黒須洋嗣

◎GUEST JUDGE:パパイヤ鈴木、川畑要、飯島望未、MADOKA、LEE、MASAO

◎GUEST ARTIST:AKLO

◎詳細https://home.dleague.co.jp/

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