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【対談】趣里×米沢唯 新国立劇場 演劇公演「キネマの天地」&バレエ公演「竜宮」

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

東京・初台の新国立劇場には、大・中・小の3つのホールがある。それらの空間では日々バレエ、ダンス、演劇、オペラといった幅広いジャンルの公演が行われており、地階にある劇場専用のリハ―サルスタジオには各作品に携わる出演者やスタッフたちがいつも行き交っている。

そのリハーサルスタジオにて、2021年6月・7月に同劇場で予定されている演劇とバレエ、それぞれの公演に出演する2人の合同インタビューが実現した。

登壇者は演劇『キネマの天地』に出演する女優、趣里(しゅり)と、バレエ『竜宮 りゅうぐう』でプリンシパルをつとめる米沢唯(よねざわ・ゆい)。バレエ経験がある趣里と、演技力にも定評がある米沢が、取材記者たちの投げかける質問に一つひとつ丁寧に答えてくれた。

※読みやすさのために一部編集しています。

(左から)趣里、米沢唯

初対面は意外な場所で

記者1 おふたりは今日が初対面ですか?
じつは一度お会いしているんです。
稽古場のそとにある自動販売機で、電子マネーが上手く使えなくて。「大丈夫ですか?」の声に振り返ったら、真後ろに並んでいたのがチュチュをきた唯さん!
『コッペリア』の通し稽古の休憩時間に水を買いに行ったら、前の人がずっと「ピッ……ピッ……」って(笑)。
突然のことだったのでびっくり。ダンサーのみなさんに買い方を教えていただいたんですが、お礼も忘れて「『コッペリア』の配信、見ます!」と言ってしまいました。私は役者を志す前に、ずっとバレエをしていたので、唯さんがローザンヌ国際バレエコンクールに出場したころからのファン。じつは今も、お目にかかれて足がガクガクしています(笑)。
お会いする前から、もちろん趣里さんのお名前は存じ上げていました。家にはテレビがないのでドラマの情報が届かず、舞台や映画で俳優さんを拝見することがほとんどです。『キネマの天地』もじつはチケットを買ってあります。
嬉しいです!  頑張ります!

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舞台を生み出す贅沢な空間

記者2 この新国立劇場ではオペラ、舞踊、演劇の舞台制作が同じスタジオで同時に行われています。こういった創作環境の印象をお聞かせいただけますか?
初めてこちらでお稽古させていただいたのは2年ほど前です。当時からバレエ団のみなさんのことがとても気になっていました。みなさん本当に素敵ですし、まじめな姿勢をあらゆる場所で感じられ、こちらの気持ちも引き締まります。
廊下ではオペラの方とも演劇の方ともすれ違うし、中には芸能人の方もいらっしゃいます。リハーサル室のある場所には中庭があるんですが、そこでは演劇のみなさんが休憩したりセリフを練習していらっしゃる姿を見かけます。オペラの方は、誰もいない化粧室で発声練習をしていらっしゃることもあって。それを耳にすると、ちょっとラッキーな気持ちになります(笑)。
この1年は換気のためにドアを開けているので、どのスタジオの前を通っても、そこでお稽古している作品の空気感みたいなものが伝わってくるんです。「どういう作品を創っているんだろう」と、想像がどんどん膨らんで、観客として観たくてたまらなくなります。
記者2 『キネマの天地』の稽古場にもバレエピアノの音が聴こえてきたり、バー・レッスンが見えたりするのでしょうか。
はい。クラシック音楽が聞こえてくると「あ、チャルダッシュ!」なんて、耳が反応してしまいます。バー・レッスンやリハーサルのようすを、遠目から一生懸命見ようと試みたり(笑)とても贅沢な環境です。
気持ちわかります。私も、演劇の稽古場を一度でいいから見てみたいと思っているんです。舞台セットが組まれているところとか。
そうなんですね。私も先日、廊下からコッペリアの人形が見えただけで嬉しくなりました!

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バレエと演劇、その遠くて近しい関係

記者3 趣里さんはバレエの経験がおありとのことですが、俳優活動のなかで、その経験が活きていると思ったことはありますか。米沢さんは、バレエにも活かせるような何かを演劇に感じることはありますか?
舞台に立つときには、ものすごくエネルギーを使って集中します。それは自分との闘いでもありますけれど、そういうとき、バレエに精神面を鍛えられてきたんだなと感じますね。
また、みんなでひとつの舞台を作り上げてお客さんに楽しんでいただく、その喜びは演劇もバレエも同じ。私が、演劇を通じてもう一度表現の道を目指したいと思ったのも、バレエをしていた過去があるからだと思います。
父が演劇の演出家だったので、私はバレエよりも演劇を観た回数のほうが多いかもしれません。バレエには言葉がありませんが、演劇は「言葉の洪水」というか、言葉の海に投げ出されるような感じになります。
言葉のエネルギーの中で物語を楽しむ体験は、言葉以外の方法で表現するダンサーにはとても必要なものだと思います。だから演劇を観ずにはいられない。

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「解放する」ことと「遊ぶ」こと

記者4 米沢さんも趣里さんも、舞台上で役になりきるというか、キャラクターに入り込んでいく姿が印象的です。おふたりの役作りの取り組み方について聞かせてください。
私は役を演じるとき、そのキャラクターの一番の理解者でいたいと思っているんです。まずは家で台本を読みながら「彼女の性格だったら、きっとこう反応するな」と想像したり、設定とできるだけ近い実体験を掘り起こしたりと、役に近づく準備をします。そして稽古場では自分を解放するんです。演出の小川絵梨子さん(新国立劇場演劇芸術監督)や出演者のみなさんにたくさん刺激をいただいているので、準備したものにこだわりすぎず、その場で生まれたものに反応しながら役を組み立てるようにしています。
小川さんから受けた演出で、思い出に残っているエピソードはありますか。
以前、新国立劇場以外の公演に出演させていただいたときの話なのですが、稽古中に台本を没収されました。「大丈夫だから台本は見ないで。家でも読まないで」と、それも本番一週間ぐらい前まで! それが、素晴らしい経験になりました。演劇は、相手役とのあいだに生まれる対話をお客さんに楽しんでもらうもの。台本を見ながらセリフを言うのではなく、相手役に向かって対話をしなくてはいけないと気づいたときには「お稽古場でなんてことをしていたんだ、私は!」って(笑)。
演技学校でも教わっていたことだったのに、いつの間にか、セリフをきちんと覚えてきちんと演じなければならないということで頭がいっぱいになっていたんですね。台本に囚われている私を見て没収してくださった絵梨子さんには、とても感謝しています。
吉田都舞踊芸術監督の言葉で、米沢さんにとって印象的だったものは?
私、趣里さんと同じことを言われています。
本当ですか!
「もう踊りはできているし、ステップもできている。だから遊んで」って。美しくきれいに踊ることを極めるよりも、いかに自分の踊りを生み出すかということ。これは、プロフェッショナルな踊り方をして欲しいということなのだと気づいたときにはグサッときました。お客さまにとっては、一生懸命踊っているのは当たり前ですよね。「遊ぶ」には、もっと先のところまでいかなきゃいけない。
演技も、毎回悩むところです。あの大きな舞台で、四階席の一番奥にいらっしゃるお客さまに伝わる演技とはどういうものなのか、日々研究です。都さんに細かくご指導いただいています。目線や上体の使いかた、首の傾げかたで伝わるものがガラッと変わったり、ひと呼吸おくだけでも違いが出ます。

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「キネマの天地」「竜宮 りゅうぐう」それぞれの見どころを紹介

記者5 おふたりがそれぞれ出演される作品のおすすめポイントや見どころを教えてください。
『キネマの天地』は井上ひさしさんの戯曲で、4人の女優が登場する推理喜劇。私は一番若い田中小春を演じます。映画館の売り子をしているところをスカウトされ、人気沸騰でとても調子に乗っている女優という役どころ(笑)。
ほかにも個性的なキャラクターがたくさん出てくるんですけれども、『キネマの天地』は表面的な笑いを飛び越えた、人と人とのやり取りから生まれる喜劇です。昭和に書かれた戯曲ですが、現代人の心にもアプローチできる作品になっています。
井上ひさしさんの作品は、セリフ量がとても多いイメージがありますね。
特徴としてセリフ一つひとつが長く、それが続くんです。最初の人がたくさん喋って、2番目の人も長く喋って、その次も、という感じ(笑)。そのテイストをどう崩すかにもトライしています。長ゼリフを会話として再構築していく。セリフを聞いている人のようすや、次のセリフに繋げるための演技も見どころのひとつです。
バレエ『竜宮 りゅうぐう』は誰もがご存じの浦島太郎のお話です。美しいプロジェクションマッピングも見どころのひとつ。劇場の床が、本物の波のようにゆらゆら揺れて見えるので、そこをポワントで歩いてくださいと言われて最初は「無理無理!」って思いました(笑)。お魚がスーって泳いでいったりもするので、初演のときはみんなで魚を追いかけてはしゃいでいました。衣裳デザインもポップで、バレエを初めて観る方や小さなお子様も楽しんでいただけると思います。物語も、亀の姫の浦島太郎への愛が一本筋として通っているので、さまざまな方にご満足いただける作品になっていると思います。
想像力を使って楽しめそうな、夏にぴったりの作品ですね。ぜひ観に行きたいです。

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趣里(Shuri)
女優。東京都出身。2011年にドラマで女優デビュー以降、舞台から映画まで活躍の場を広げている。映画『生きてるだけで、愛。』で第33回高崎映画祭最優秀主演女優賞、おおさかシネマフェスティバル2019主演女優賞、第42回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。ドラマ『ブラックペアン』『私の家政夫ナギサさん』、舞台『ほんとうのハウンド警部』「日本文学シアター Vol.6【坂口安吾】『風博士』」『オレステスとピュラデス』などに出演。新国立劇場では『オレステイア』に出演。
米沢唯(Yui Yonezawa)
新国立劇場バレエ団プリンシパル。愛知県出身。塚本洋子バレエスタジオで学ぶ。2006年に渡米、サンノゼバレエ団に入団。新国立劇場バレエ団へは10年にソリストとして入団した。『パゴダの王子』で初主役を務め、13年にプリンシパルに昇格。『白鳥の湖』『くるみ割り人形』『ドン・キホーテ』ほか数多くの作品で主役を踊っている。20年芸術選奨文部科学大臣賞、橘秋子賞優秀賞受賞。『竜宮 りゅうぐう』には7月24日12:30、7月26日16:00公演に主演予定。

 

公演情報

新国立劇場の演劇 人を思うちから 其の参「キネマの天地」

日本で親しまれ続けてきた名作を上演するシリーズ「人を思うちから」の第三弾として、新国立劇場 小劇場で6月に上演される。
物語は4人の女優(高橋惠子、鈴木杏、趣里、那須佐代子)たちが巻き込まれる殺人事件をめぐっての推理喜劇。演劇芸術監督の小川絵梨子が初めて井上ひさし作品に挑む。

『キネマの天地』稽古場より 撮影:冨田実布
(左から)鈴木杏、那須佐代子、高橋惠子、趣里

公演詳細

新国立劇場の演劇 人を思うちから 其の参『キネマの天地』
作:井上ひさし
演出:小川絵梨子
出演:高橋惠子、鈴木杏、趣里、那須佐代子/佐藤誓、章平、千葉哲也

◎日程 2021年6月10日(木)~6月27日(日)
※プレビュー公演 6月5日(土)・6日(日)

◎会場 新国立劇場 小劇場

◎詳細 https://www.nntt.jac.go.jp/play/kinema/

※緊急事態宣言再延長に伴う公演についての詳細はこちら(観劇前に必ずご確認ください)

 

国立劇場バレエ団「竜宮 りゅうぐう~亀の姫と季(とき)の庭~」

こどものためのバレエ劇場2021として、7月に新国立劇場 オペラパレスで上演予定。
演出・振付・美術・衣裳は森山開次。日本の御伽草子『浦島太郎』をモチーフに描かれるオリジナル作品である。コンテンポラリー・ダンスの振付・創作で活躍してきた森山開次が初めてバレエを手掛け、緊迫していた劇場再開時の2020年7月に世界初演した。
(※バレエチャンネルの記事はこちら:2020年初演レポート森山開次インタビュー

こどものためのバレエ劇場 2020『竜宮 りゅうぐう』公演より 撮影:鹿摩隆司
(手前から)米沢唯、井澤駿

公演詳細

新国立劇場バレエ団『竜宮 りゅうぐう〜亀の姫と季(とき)の庭〜』
演出・振付・美術・衣裳:森山開次

◎日程 2021年7月24日(土)~7月27日(火)

◎会場 新国立劇場 オペラパレス

※一般前売り開始日 2021年7月4日(日)10:00~

◎詳細 https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/turtle-princess/

◎全国公演 2021年9月23日(木・祝) 大阪・フェスティバルホール

※各公演詳細については、必ず主催者サイトをご確認ください。

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