
英国ロイヤル・バレエ「ウルフ・ワークス」ナタリア・オシポワ
ロンドンのコヴェント・ガーデンにある歌劇場「ロイヤル・オペラ・ハウス」で上演されたバレエとオペラを映画館で鑑賞できる「英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ」。臨場感のある舞台映像はもちろん、開演前や幕間にはリハーサルの特別映像や舞台裏でのスペシャル・インタビューを楽しめるのも、“映画館で観るバレエ&オペラ”ならではの魅力です。
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2026年5月15日(金)から5月21日(木)まで公開されるのは、英国ロイヤル・バレエ『ウルフ・ワークス』。2015年の初演以来、オリヴィエ賞やナショナル・ダンス・アワードを受賞し、英国ロイヤル・バレエのみならずミラノ・スカラ座バレエやアメリカン・バレエ・シアターなどで上演されています。本作は、振付家ウェイン・マクレガーが、小説家ヴァージニア・ウルフの内面世界と意識の流れを舞台化し、「 I NOW, I THEN」、「ビカミングス」、「火曜日」の3部構成で描いた作品です。第1幕「I NOW, I THEN」は、小説『ダロウェイ夫人』への創作過程が描かれています。続く第2幕「ビカミングス」は、時代とジェンダーを乗り越えて300年生きた青年貴族を描いた小説『オーランドー』にインスパイアされた作品。第3幕「火曜日」では、小説『波』の世界が描かれ、ウルフが最後の旅路へと向かいます。
ヴァージニア・ウルフを演じるプリンシパル、ナタリア・オシポワにインタビュー。役を生きるために考えたことや感じたこと、『ウルフ・ワークス』の魅力などを聞きました。

ナタリア・オシポワ Natalia Osipova
ロシア・モスクワ出身。5歳からダンスを始める。2004年ボリショイ・バレエ入団。その後ミハイロフスキー・バレエ、アメリカン・バレエ・シアターを経て、2013年英国ロイヤル・バレエにプリンシパルとして入団。
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- 『ウルフ・ワークス』で、オシポワさんはヴァージニア・ウルフと彼女の分身であるクラリッサを演じました。この役に決まった時はどう感じましたか?
- オシポワ 正直に言うと、最初は少し消極的だったんです。初演の舞台でアレッサンドラ・フェリが見せた演技は圧倒的でしたから。「私のウルフ(クラリッサ)はどんな人物なんだろう、私には何ができるだろう」と思うと、ナーバスになってしまうこともありました。
- それはなぜだったのでしょう。
- オシポワ 私とウルフの共通点が見つからなかったからです。私とは正反対、と言ってもいいくらいだったので、彼女の内側を理解するのは困難でした。振付のウェイン・マクレガーと何度も対話をして探っていきましたが、こう演じようというイメージが決まるまで、ずいぶん時間がかかりました。

英国ロイヤル・バレエ「ウルフ・ワークス」©2026 Johan Persson
- どんなふうに役作りをしましたか?
- オシポワ 彼女についての情報を集め、著書や伝記をたくさん読みました。私の中の彼女を見つけ出すには、彼女の言葉や思考を読み解くことが必要だと思ったんです。
彼女が生まれ育ったのは第一次世界大戦前後の時代。資料に目を通していくなかで、戦争によって当時の世界がどう変わっていったのか、それに対してウルフがどんな感情を抱いたか知ることができました。また、フェミニストだった彼女の視点から、当時の女性の生き方や思考の変化についても綴られていて、それらを読み込んでいくうちに、私の中でバラバラだった彼女のイメージが、少しずつまとまっていきました。
知的な家系に生まれ、魅力的で興味深い人たちに囲まれて育ったウルフ。彼女は知性とユーモアを持つ反面、心を病み、傷ついた魂を抱えながら生きていました。『ウルフ・ワークス』のエンディングと同じように、最期は川に身を投げてしまったのですが、彼女が自死を試みたのは、おそらくそれが初めてではなかったでしょう。そんなことを思いながら、パズルのピースをひとつずつ組み合わせて一枚の絵にするように、私の演じるウルフ、そしてクラリッサが生まれていったのです。
- 踊っていて、最も心が動いた場面は?
- オシポワ 第3幕、ウルフがコール・ド・バレエと踊り始めるところです。マックス・リヒターの音楽が何度も繰り返されるたびに、群舞がどんどん力を増していって、やがてウルフに向かって波のように押し寄せてくるんです。周りが水で満たされるのを感じながら、ウルフは自分自身と闘うことをやめ、身も心も解き放って水に身を任せます。観ていても思わず息が止まりそうになるくらい、パワフルで美しい瞬間ですし、踊っていても心動かされる大好きなシーンです。

英国ロイヤル・バレエ「ウルフ・ワークス」
- ウルフの最期を演じる瞬間はどんな気持ちですか?
- オシポワ 幸せだった記憶を思い出しながら、夫に手紙を書き最期の別れを告げる。あの場面を演じていると、どうして自死を選んでしまったの?と思わずにはいられません。踊り終えた時には、言葉どおり死んでしまったような感覚になります。心も身体もボロボロになった彼女を演じきると私自身も消耗してしまい、翌日まで回復できないくらいです。

英国ロイヤル・バレエ「ウルフ・ワークス」©2026 Johan Persson
- 第1幕で演じているウルフの分身、クラリッサ役はどのように解釈していますか?
- オシポワ クラリッサを演じる時は、ウルフより少しだけ気持ちが楽なんです。なぜならこのシーンには、まだウルフのユーモアや希望が残されているから。
クラリッサは自分の人生を振り返り「私が歩んできた道は正解だったのかしら」と考え続けています。40代くらいになると、誰でも人生を振り返って、過去を見つめ直したくなることがありますよね? 自分が選んだ人生のかけらを一つひとつ積み重ねていくようすが、まるで大きなモザイクを製作しているみたいだと感じます。
その中で、クラリッサはどんなに心が苦しくても、現実を受け止めて前を見ています。「今日は今日でしかなく、明日はまた新しい日が始まる。朝が来たら目を覚まして、私の人生を続けていかなくては」と。私にはその姿が、希望へとつながっているように見えるんです。

英国ロイヤル・バレエ「ウルフ・ワークス」
- 舞台上であなたが放つ強いエネルギーは、どこから生まれるのですか?
- オシポワ どの作品でも、私は役を深く理解して自分に落とし込むことを意識しています。役を演じる時、私の中に生まれた感情に正直になると、特別なエネルギーが湧きあがってくるんです。それは私の魂そのもので、観客のみなさんに届けたいといつも願っています。役をつかみきれていなかったり、緊張しすぎて自分が何をしているのか分からなくなってしまわない限り、エネルギーはいつもこの中にあります。
- あなたのように素晴らしいダンサーでも、時には難しいことに直面したり、思い悩むことがあるのでしょうか。
- オシポワ もちろん! 無性に両親に会いたくなったり、愛犬を亡くして、とても悲しい気持ちになったり。特別なダンサーである前に、私もみなさんと同じなんです。
- あなたにとって、人生でもっとも価値のあるものは?
- オシポワ 家族です。母、父、姉妹、犬、そして夫。愛するみんながいてくれるから、私は毎朝、幸せな気持ちで目覚めることができます。そしてちょっとしたことでいいから、私もほかの誰かに笑顔を届けられたらと思うんです。今日、コーヒーショップで、携帯の充電が切れていて支払いができずに困っていたら、店員さんが「あなたの笑顔は素敵だから、これはプレゼントするよ」と。その言葉で心が温かくなりました。人生で本当に大切なのって、こういうことなのかもしれませんね。
- 最後に、この映画と7月の来日公演を楽しみにしている日本のファンにメッセージをお願いします。
- オシポワ 私たちにとって日本の観客のみなさんは本当に特別です。みなさんがバレエをどれほど愛してくださっているか、私たちはよく知っています。作品をとおして、みなさんとバレエへの愛を分かち合えることを、とても幸せに感じています。

英国ロイヤル・バレエ「ウルフ・ワークス」©2026 Johan Persson
上映情報
英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ 2025/26
英国ロイヤル・バレエ『ウルフ・ワークス』
2026年5月15日(金)~5月21日(木)※1週間限定
TOHOシネマズ 日本橋 ほか全国公開
★上映館、スケジュールなど詳細は公式サイトをご確認ください
【スタッフ】
演出・振付:ウェイン・マクレガー
音楽:マックス・リヒター
美術:Ciguë, We Not I、ウェイン・マクレガー
衣裳デザイン:モーリッツ・ユンゲ
照明デザイン:ルーシー・カーター
映像デザイン:ラヴィ・ディープレス
音響デザイン:クリス・エカーズ
メイクアップデザイン:Kabuki
ドラマツルギー:ウズマ・ハミード
ステージング:アマンダ・エイルズ、ミカエラ・ポリー、
ジェニー・タッターサル、アントワーヌ・ヴェレーケン
レペティトゥール:ジャン・アティムタエフ
主演指導:エドワード・ワトソン
【出演】
I NOW, I THEN「ダロウェイ夫人」より
ヴァージニア・ウルフ/クラリッサ:ナタリア・オシポワ
リチャード:パトリシオ・レーヴェ
若き日のクラリッサ: 前田紗江
ピーター:ウィリアム・ブレイスウェル
サリー:レティシア・ディアス
セプティマス:マルセリーノ・サンベ
レツィア:高田茜
エヴァンス:マルコ・マシャーリ
ビカミングス(「オーランドー」より)
アクリ瑠嘉、ハリス・ベル、リアム・ボズウェル、
クレア・カルヴァート、レティシア・ディアス、
金子扶生、前田紗江、マルコ・マシャーリ、中尾太亮、
マルセリーノ・サンベ、フランシスコ・セラノ、高田茜
火曜日(「波」より)
ナタリア・オシポワ、ウィリアム・ブレイスウェル、
クレア・カルヴァート、デニルソン・アルメイダ、
マディソン・ベイリー、ベサニー・バートレット、
ラヴィ・カノンニアー=ワトソン、マーティン・ディアス、
オリヴィア・フィンドレイ、リュック・フォスケット、
ハリソン・リー、キャスパー・レンチ、
エラ・ニューストン・セヴェルニーニ、アイデン・オブライエン、
ハンナ・パーク、マディソン・プリッチャード、
ケイティ・ロバートソン、佐々木須弥奈、ブレイク・スミス、
ジネヴラ・ザンボン、レオ・アルミタージュ、ウィリアム・クーパー、
マデリン・コープランド、ピッパ・レイク、ベルタラン・ヴィンツェ、
ダーシー=ローズ・ウォラル=ハルステッド
【上映時間】
3時間3分 ※2回の休憩あり
【上映劇場】
*札幌シネマフロンティア(北海道)
*フォーラム仙台(宮城)
*TOHOシネマズ 日本橋(東京)
*イオンシネマ シアタス調布(東京)
*TOHOシネマズ 流山おおたかの森(千葉)
*TOHOシネマズ ららぽーと横浜(神奈川)
*ミッドランドシネマ(愛知)
*イオンシネマ京都桂川(京都)
*大阪ステーションシティシネマ(大阪)
*TOHOシネマズ 西宮OS(兵庫)
*キノシネマ天神(福岡)