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【第46回】ウィーンのバレエピアニスト〜滝澤志野の音楽日記〜ピアノリサイタルを開くことになりました

滝澤 志野

ウィーン国立バレエ専属ピアニストとして、バレエダンサーを音楽の力で支えている滝澤志野さん。
彼女は日々の稽古場で、どんな思いを込め、どんな音楽を奏でているのでしょうか。

“バレエピアニスト”というプロフェッショナルから見たヨーロッパのバレエやダンサーの“いま”について、志野さん自身の言葉で綴っていただく連載エッセイ。
日記の最後には、志野さんがバレエ団で弾いている曲の中から“今月の1曲”を選び、読者のみなさんのためだけに演奏した動画も掲載します。

更新は隔月(基本的に偶数月)です。美しいピアノの音色とともに、ぜひお楽しみください。

♪「ウィーンのバレエピアニスト 滝澤志野の音楽日記」バックナンバーはこちら

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お久しぶりです。連載が2ヵ月に1度になり、こうして鍵盤ではなく原稿に向かうことがどこか新鮮に感じられます。季節は変わり、劇場裏の王宮庭園では新緑が輝き、大好きな牡丹の蕾も膨らんでいて、春の到来の喜びを味わっています。

どこで、誰と、何をして生きるか

先週、ウィーン国立バレエでは、2020年から現職についているマーティン・シュレプファー監督が20256月をもって退任すると発表されました。私たちも新聞でのリークによって知ったのですが、次の週、ロスチッチ総監督とシュレプファー監督による団内説明会がありました。バレエ公演の売れ行きがよく、総監督はシュレプファー氏に延長契約をオファーしたものの、シュレプファー氏は自身の年齢、身体のことをふまえて、残りの人生を振付家として全うしたく退任したい、とのことでした。彼はたくさんのスタッフとダンサーを連れてデュッセルドルフからウィーンにいらしたので、デュッセルから来た同僚たちは静かに泣いていました。何十年も彼と一緒にいる人もいます。家族や恋人を置いて、国境を超えて(と言っても隣国ですが)来ている人も多いでしょう。彼の芸術を信じ、ついていくという決断は大きなものであったことでしょう。彼らはこれからどうするでしょうか。芸術の志をひとつにするバレエ団の仲間は、一蓮托生のようなところがあります。でも、それは永遠に続くものではないのも事実……

どこで、誰と、何をして生きるか。何を第一に選ぶのが正解なのでしょうか。

私は、以前、ルグリ監督が退任発表した時のことを思い出していました。契約は更新しませんという彼の決断を、しんと澄んだ心で受け入れた気がします。当時のバレエ団は最高の状態にありましたし、名実ともに最高の監督でした。でも、ウィーンでの10年という月日は彼にとって充分かつパーフェクトな期間だったと思うし、またどこかに、彼に相応しい、輝ける未来が用意されているはずだと感じていました。そしてウィーンでの日々で生まれた私たちの絆は、ずっと続いていくと信じられたのです。愛しい日々が終わってしまうのは寂しい。でも変わらないものはない。私たちは前へ進んでいかなければならないのです。決断に「正解」はないのかもしれません。でも、その時の自分の心に正直に生き、受け入れて前を向くことができたら、また新たな道はできていくのでしょう。

この夏、満を持してピアノリサイタルを開きます

さて、話は変わりますが、みなさまに大きなお知らせがあります。
この夏、東京と大阪で、ソロピアノリサイタルを開くことになりました! 2023年714日(金)大阪のフェニーチェ堺、721日(金)東京の王子ホール。両日とも19時開演予定です。

©︎Marian Furnica

私が触れてきた美し過ぎるバレエ音楽を、花束のように集めてコンサートをしたいという夢を抱くようになったのはいつ頃からでしょうか。バレエレッスンCDを初めて録音したのが2016年。以来、すべてのCDのボーナストラックに、1曲だけ美しいバレエシーンをノーカットで収録してきました。そこには、稽古場という枠を越えて、世界に広くバレエ音楽の美しさを伝えたいという想いがありました。その想いが深まって企画した今回のコンサートは、バレエファンはもとより、あまりバレエに興味をもったことがない方々にも聴いていただけたら嬉しいと思ってプログラムを組んでいます。

じつは日本のバレエファンとクラシック音楽ファンは観客層が分かれていると言われています。オペラハウスで働いていると、オペラとバレエはセットでプログラムが組まれていますし、同じオーケストラが演奏していて、それらは甲乙つけがたい芸術と感じます。この世の奇跡のような美しいバレエ音楽もたくさんあり、棲み分けされていることがもったいなく思うので、架け橋のようなコンサートになったらいいなと思っています。音楽家でありながらバレエ界にどっぷり浸かっている私ですが、今回は純粋にいち演奏家として勝負する気でおります。

2020年に開催予定だったリサイタルはコロナ禍のため中止になってしまいましたが、延期したお陰で素敵なこともありました。5枚のCDの版元である新書館ならびにバレエチャンネルの愛するスタッフのみなさまが、企画に携わってくれることになったのです。がむしゃらに仕事をしてきていつの間にか長い年月が経っていて、ふと我が身を振り返った時、そこには志を共にする仲間ができていたこと。一人では叶えられない夢に、信頼しあえるチームで立ち向かえること。前述したバレエ団の話にも通じるのですが、これは本当に幸せなことだと感じます。時が熟し、実ったという気がしています。

©︎Marian Furnica

バレエ団の仕事をこなしつつ、選曲をし、チラシ用の写真を撮り、仕事のあとにピアノに向かい、忙しくも幸せな気持ちで準備をすすめています。懲りもせず、大きな夢を掲げてそれに挑戦したいというのは、名峰に登りたいという気持ちに似ているのかもしれません。その道のりは楽なものではないけれど、そこからしか眺めることのできない絶景を見にいきたいのです。そして、芸術の素敵なところは、その絶景をみんなで分かちあえること。7月のコンサートを日本のみなさまと分かちあえることを楽しみに、それまでの日々を大切に過ごしていこうと思います。

詳細は後日、バレエチャンネル、TwitterInstagram、新書館の雑誌等で随時発表するので、ぜひ楽しみにしていてくださいね。

2023年4月20日 滝澤志野

©︎Marian Furnica

今月の1曲

リサイタルの準備に集中したいところですが、バレエ団ではまたもや難曲を担当しています(絶景を見るのが生きがいだから仕方ない笑)。バッハのマスターピース、「ゴルトベルク変奏曲」。チューリッヒのハインツ・シュペルリ振付の作品で、今月27日にウィーンで初演を迎えます。バッハの金字塔的存在のこの曲は、(テンポによりますが)全曲1時間半近くもあります。全31曲の変奏曲を弾くと、まるで長い旅路を辿るかのようで、静かに心に残る作品だと感じます。2段チェンバロのために書かれた曲なので、現代のピアノで弾くと右手と左手が縦横無尽に交差し、超絶技巧的な側面があります。でも、ピアノで弾くと本当に美しい輝きを放つこの曲。素晴らしい音楽の魅力に圧倒される日々です。今回なぜか全曲通して録音したのですが、とにかく長いので、今回は冒頭のアリアだけお聴きいただきたいと思います。いつの日か全曲バージョンも残そうと、また遥かな峰を夢みつつ(笑)。

★次回更新は2023年6月20日(火)の予定です

【NEWS!】

ウィーン国立歌劇場・バレエ団専属ピアニスト、滝澤志野さんのピアノリサイタル開催決定!

♪大阪:2023年7月14日(金)19時〜(予定) フェニーチェ堺 小ホール
♪東京:2023年7月21日(金)19時〜(予定)銀座 王子ホール

チケット発売情報など詳細は随時発表いたします

Now on Sale

Dear Chopin(ディア・ショパン)〜Music for Ballet Class

滝澤志野さんの5枚目となる新譜レッスンCDがリリースされました!
志野さんがこよなく愛する「ピアノの詩人」ショパンのピアノ曲で全曲を綴った一枚。
誰もがよく知るショパンの名曲や、『レ・シルフィード』『椿姫』などバレエ作品に用いられている曲等々を、すべて志野さんの選曲により収録しています。
それぞれのエクササイズに適したテンポ感や曲の長さ、正しい動きを引き出すアレンジなど、レッスンでの使いやすさを徹底重視しながら、原曲の美しさを決して損なわない繊細な演奏。
滝澤志野さんのピアノで踊る格別な心地よさを、ぜひご体感ください。

ドキュメンタリー風のトレイラー全収録曲リストなど、詳細はこちらのページでぜひご覧ください
♪ご購入はこちら

●CD、52曲、78分 ●価格:3,960円(税込)

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Dear Tchaikovsky(ディア・チャイコフスキー)〜Music for Ballet Class

バレエで最も重要な作曲家、チャイコフスキーの美しき名曲ばかりを集めてクラス用にアレンジ。
バレエ音楽はもちろん、オペラ、管弦楽、ピアノ小品etc….
心揺さぶられるメロディで踊る、幸福な時間(ひととき)を。

●ピアノ演奏:滝澤志野
●監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:3,960円(税込)

★収録曲など詳細はこちらをご覧ください

ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス1&2&3 滝澤志野  Dramatic Music for Ballet Class Shino Takizawa (CD)
バレエショップを中心にベストセラーとなっている、滝澤志野さんのレッスンCD。Vol.1では「椿姫」「オネーギン」「ロミオとジュリエット」「マノン」「マイヤリング」など、ドラマティック・バレエ作品の曲を中心にアレンジ。Vol.2には「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「オネーギン」「シルヴィア」「アザー・ダンス」などを収録。Vol.3ではおなじみのバレエ曲のほか「ミー&マイガール」や「シカゴ」といったミュージカルナンバーや「リベルタンゴ」など、ウィーンのダンサーたちのお気に入りの曲をセレクト。ピアノの生演奏でレッスンしているかのような臨場感あふれるサウンドにこだわった、初・中級からプロフェッショナル・レベルまで使用可能なレッスン曲集です。
●ピアノ演奏:滝澤志野
●Vol.2、Vol.3監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:各3,960円(税込)

配信販売中!

現在発売されている滝澤志野さんのベストセラー・CDを配信版でもお買い求めいただけます。
下記の各リンクからどうぞ。

★作曲家シリーズ
♪Dear Tchaikovsky https://linkco.re/pEHd0G2A?lang=ja

★「Dramatic Music for Ballet Class」シリーズ

★滝澤志野さんのアーティスト情報ページはこちら

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

大阪府出身。桐朋学園大学短期大学部ピアノ専攻卒業、同学部専攻科修了。2004年より新国立劇場バレエ団のピアニスト。2011年よりウィーン国立バレエ専属ピアニストに就任。 レッスンCD「Dramatic Music for Ballet Class」Vol.1、2、3、「Dear Tchaikovsky~Music for Ballet Class」、「Dear Chopin〜Music for Ballet Class」をリリース(共に新書館)。国内のバレエショップを中心にベストセラーとなっている。2023年7月大阪・東京で初のピアノソロリサイタルを開催。初のピアノソロアルバム「Brilliance of Ballet Music~バレエ音楽の輝き」も同時発売。

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