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【動画付き】ミュージカル特派員がバレエの魅力を探る!スターダンサーズ・バレエ団「コンサート」リハーサル&ダンサーインタビュー

バレエチャンネル

動画撮影・編集・写真撮影:バレエチャンネル編集部

スターダンサーズ・バレエ団が2022年9月23・24日に『スコッチ・シンフォニー』『牧神の午後』『The Concert(コンサート)』のトリプルビルを上演します。

なかでも『コンサート』はその一部がSNSで紹介され、「絶対揃わないバレエ」として注目されているコメディ・バレエです。
ピアノ・コンサートを舞台に繰り広げられる人間模様をユーモアたっぷりに描いた作品の振付は、ジェローム・ロビンス。ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』『王様と私』『屋根の上のバイオリン弾き』などの人気作品も手掛けたロビンス。彼はじつはロビンスはニューヨーク・シティ・バレエ団(NYCB)のバレエ振付家で、多くのバレエ作品を生み出している、と聞いて驚いた ミュージカルファンもいるかもしれません。

今回は、熱心なミュージカルファンがミュージカル特派員としてスターダンサーズ・バレエ団のリハーサルを取材! 稽古場を見学し、『コンサート』の出演ダンサーにインタビューをおこないました。バレエについての素朴な疑問、ダンサーのこと、作品のことなど、ミュージカルファンならではのユニークな質問がたくさん飛び出しました。
ぜひリハーサル動画と併せてお楽しみください!

ミュージカル特派員はこの2人!

尾崎 豪(おざき・ごう)19歳。声優を目指していたところ、スカウトされてミュージカル俳優を志すことに。ミュージカルアカデミー11期・12期卒。

若松香月(わかまつ・かつき)20歳。ミュージカルナンバーを子守唄に育ち、趣味で小説や舞台評などを書いている。最近、同バレエ団の「緑のテーブル」を鑑賞。

「コンサート」リハーサル見学

まずはバレエ団のスタジオで行われた『コンサート』のリハーサルを見学。

リハーサルはオープニングから通して行われました。ところどころで演出・振付指導のベン・ヒューズ氏が動きを止め、生演奏のピアニスト(重要な出演者の1人でもあります!)に音楽と振りの間(ま)を丁寧に伝えたり、「ここはこんな風に、もっと腕を強く振って」など、身振り手振りで細かな演技指導をしていました。

特派員の2人は初めてのリハーサルに緊張気味。

振付指導:ベン・ヒューズ

出演ダンサーインタビュー

ミュージカル特派員の質問に答えてくれたのは……
林田翔平(はやしだ・しょうへい)さん 『コンサート』では葉巻を加えた「ハズバンド」役(9/23に出演)
喜入依里(きいれ・えり)さん 『コンサート』ではハズバンドの妻「ワイフ」

岩本悠里(いわもと・ゆり)さん 『コンサート』ではいつも怒っている「アングリーガール」役

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Q:本番前。バレエダンサーはどんなことをしている?

舞台に立つ前にみなさんが心がけていることや、ルーティーンなどはありますか?
僕は「自分が楽しまないとお客さまも楽しめない。だから舞台の上では楽しむ!」という信念を持っています。踊りながら湧きあがるものを大事にしたいから、あえて役について深く考えないようにもします。
いざ本番!となるとアドレナリンが出て舞い上がっちゃうところがあるので、本番前には、舞台上でシーンを最初から最後まで静かにイメージする時間をとります。気持ちを落ち着けるためのルーティーンですね。
ルーティーンを作ってしまうと「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」と慌ただしくなってしまうんです。それが苦手なので、とにかく冷静になるようにしています。踊っている仲間たちを舞台袖から覗いて、心を落ち着かせることもあります。
出る前は、みなさんでもやっぱり緊張されますか?
もちろんです!

 

Q:ミュージカル、ショー、演劇……鑑賞する時にどこを観ている?

みなさんがバレエ以外の舞台を見る時に、つい注目してしまうところはありますか?
主役はもちろんですが、スポットが当たってないところで動いたり喋ったりしている俳優さんたちに目が行ってしまいます。全幕バレエにも踊らない“立ち役”というキャストがいて、主役が踊っているあいだも細かい演技をしているんですが、そこはミュージカル等とも似ていますよね。
観客として観ているはずなのに「この人はこういうキャラクターだから、この後の展開はこうなるのでは?」とつい構成を予想してしまうことがあります。クライマックスに盛り上げる演出はどんな動きで見せているのかな、とか、知らないうちに作る側の視点になってしまうことは多いですね。
ミュージカルで群舞のシーンがあると、スペーシング(舞台上の俳優やダンサー同士の立ち位置や距離の取り方)はどうやっているんだろう、とつい見てしまいます。ミュージカルの舞台には前方に番号が書いてあるんですよね。
舞台中央が0番、それぞれ左右に向かって1、2、3……と番号がふってあって、「上手(かみて)2.5くらいの位置」といった感じで立ち位置を指示されます。バレエの舞台には場ミリ(立ち位置の印)はないんですか?
ありますよ。色付きの小さなテープが貼ってあって、その色でチェックします。
例えばコール・ド・バレエ(群舞)は一瞬一瞬で立ち位置が変わりますよね。それをダンサーの方はすべて記憶しているのでしょうか?
場ミリはもちろん基本的には覚えますが、本番ではそれ以上に隣のダンサーに合わせることを大事にします。大切なのは全員がピタッと揃うこと。自分の立ち位置にきちんと立っていたとしても周りとずれていたらだめですから。
コール・ド・バレエの先頭になる人の目印にはなりますが、他はあくまでも目安ですね。スタジオと劇場では広さや間隔なども変わりますし、ミュージカルのように全員が立ち位置をきちっと守るためのものとは違うかもしれません。

Q:バレエは言葉がない世界。動きだけでどうやって物語や感情を伝えているのか気になります

『コンサート』は言葉がないのに、ストーリーとかいろいろなことがダンサーのみなさんの身体をとおして伝わってきました。掛け合いも面白くて、バレエやミュージカルなどの舞台をあまり見ない人でも楽しめる作品だと思いました。
力いっぱい殴るとか、ボクシングみたいなポーズをする振付は、ロビンスの『ウエスト・サイド・ストーリー』のケンカのシーンのようで楽しかったです。ダンサーの方は振付として踊っているのに、こちらには自然な演技のように見えるのも面白いなと感じました。
今回、私の夫役は林田さんと池田武志さんのダブルキャスト。日常で共感できるエピソードばかりなので、二人とはリアルなやりとりを意識して演じています。つい身体のほうが先走って、「会話」ではなく「踊り」になってしまうことがあって難しいです。
演技が全部、振付に組み込まれているんですよね。私は、アングリーガールという、いつでもプンプン怒っている役なのですが、振付指導のベン・ヒューズさんに「もっと怒って!」とよく注意を受けます。怒りを伝えるにはリアクションを大きくするだけでなく、間の取り方も重要なのでは……と、いろいろ工夫してみているところです。役のセリフを考えて、心の中で唱えながら踊ったりもしています。
ベンさんが「こうやってみて」と具体的に実演して伝えてくれるので、それをどうやったらお客さまに伝わりやすいかな、と頭のなかでひたすら繰り返し考えています。たまに迷走するんですけれどね。
迷走?
つい、ふざけたくなるんですよ(笑)。これをやったら怒られるだろうな、っていうギリギリのラインまで試してみたくなる瞬間があって。もちろん「真面目にやっているからこその面白さ」がこの作品の良さなので、こちらが笑いを取りに行くと客席はしらけてしまう。それはじゅうぶん分かっています。でも……笑いを取りに行きたくなる自分をときに必死で抑えています(笑)。

僕は、歌やセリフで表現したい、という思いからミュージカル俳優を志すようになったので、「身体」で表現することは、自分がこれから取り組まないといけない課題のひとつなんです。みなさんは身体ひとつでとても自然に感情を表現したりリアクションしたりしていますが、一番心がけていることはなんですか?
絶対こう演じようとか、役の感情はこうだとか、最初から決め込まないことです。舞台に上がって、装置、照明、衣裳などが加わると、出したいものがもっと出てくると思っているし、本番でポンと違う路線にシフトしてしまうこともありますね。
準備よりも、舞台に上がった時に受け取ったものや、湧いてきた感情で勝負するんですね。
ぶっつけ本番、というと語弊がありますが、本番だからこそ湧き上がってくる感情があれば大事にしています。
『コンサート』はキャラクターの個性が明確なので、どのシーンでもキャラクターのままでいられるように意識しています。この人だったら立ち方はこうかな、歩き方はこうかな、と。ベンさんからの指示がない時は自分でアイディアを練ることもあります。
ベンさんがやって見せてくださるお手本には、ちょっと肩をすくめる、みたいな日本人はあまりやらないような動作も出てきます。そういう時は「今、私は外国人!」と自己暗示をかけて(笑)、ナチュラルさを心がけています。それから、私たちはもう何度も稽古をしていますから、当然ながら物語の展開がもう分かっています。だからこそ、新鮮な気持ちを保ってリアクションすることも、すごく大事にしています。

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ここで、喜入依里さんと林田翔平さんは『スコッチ・シンフォニー』の稽古のためにスタジオへ。
残ってくださった岩本悠里さんに、もう少しだけお話を伺いました!

Q:バレエダンサーが美しい身体を保つ秘訣?

日常の身体のメンテナンスはどうしていますか?
怪我をしないように日々のトレーニングを欠かさないことや、練習が終わったらアイシングをするなどのケアはとても大事です。お休みの日にはに行くことも。痛いところの治療だけでなく、気づいていなかった肩や腰のコリや身体の不調も見つけて治療してくれるのでありがたいです。
私は背中が硬いので、ダンサーのみなさんを見て「肩甲骨ってこんなに動くんだ!」と感動しました。バレエやダンスができない私でも、肩甲骨や身体を柔らかくする秘訣はありますか?
肩甲骨の動きに驚いたなんて、私は意識したことがなかったから、面白いですね! 私たちバレエダンサーは、小さい頃からずっと「腕を大きく動かすように」と言われながらお稽古しています。たとえば「両手に風船を抱えているように」とか、腕を丸くして、遠くに伸ばすことを教わるので、その積み重ねで肩甲骨が動くようになるのだと思います。みなさんも、ずっと同じ姿勢ばかりにならないように、体勢をちょっと変えてみたり、気づいた時に肩や首など身体をぐるぐる動かしてみたりするといいですよ。

編集部が聞きました?「コンサート」の絶対揃わないバレエについて

岩本さんも踊っている「ミステイクワルツ」について聞かせてください。
岩本 「ミステイクワルツ」は6人のバレリーナがショパンのワルツをステージで踊っている設定で、同じ振付を踊っているのにみんなが間違える。誰か一人が間違えるのではなく、みんなが次々と間違えていくから、だから最後までまったく揃わないんです(笑)。踊っていてとても難しいのは、一人ひとりのダンサーがどの部分でどう間違えるのか、すべて決まっているところです。正しい振付を覚えたうえで、「間違えている振りを組み込んだ振付」をそれぞれが覚えて、さらに本当に間違っているように踊らなくてはいけないという……。

バレエは基本的に調和の美ですから、揃えることについてはずっと訓練していると思うのですが、その逆なんですね。
岩本 揃えちゃダメって言われたことがないですからね。つい、隣のダンサーの「間違っている動き」に揃えてしまいそうになります(笑)。
本当に最後まで揃わないのに、バレエ作品としてはやっぱり美しいというのも素晴らしいですね。
岩本 足元などバレエとしての美しさは意識しています。面白いだけでなく、やっぱり綺麗なことは大切。そこもこの作品の魅力だと思います。
公演に向けての意気込みを聞かせてください!
岩本 ただの面白いバレエではなく、まさに今、起こっていることのように表現できたら。 SNSで知られた「絶対に揃わないバレエ」を生の舞台で観られる!と楽しみにしてくださっているお客様の期待に応えられるよう、頑張ります。

☔☔

取材を終えて…

尾崎 豪さん

バレエダンサーのみなさんに話を聞いて、作品への取り組み方や舞台に立つ心がまえはミュージカルに似ているなと、親近感がわきました。言葉を使わない表現にも魅力を感じたので、これから積極的にバレエを観ていきたいと思います。

若松香月さん

バレエのリハーサルを目の前で見学する貴重な経験ができて嬉しかったです。近くで観たことで、バレエは美しさだけでなく、すごい迫力や力強さがあるんだと驚きました。インタビューでは優しく質問に答えていただきありがとうございました。

公演情報

スターダンサーズ・バレエ団「The Concert」

日時

2022年9月23日(金祝)・24日(土)
14:00開演(16:20終演予定)

13:40より小山久美総監督のプレトークあり

会場

東京芸術劇場 プレイハウス

演目

◆『スコッチ・シンフォニー』
振付:ジョージ・バランシン

◆『牧神の午後』
振付:ジェローム・ロビンス

◆『コンサート』<国内バレエ団による初演>
振付:ジェローム・ロビンス

詳細 スターダンサーズ・バレエ団WEBサイト

 

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