Videographer:Kenji Hirano
言わずと知れた大人気ゲームを題材にしたスターダンサーズ・バレエ団のオリジナル・バレエ『ドラゴンクエスト』。
1995年の初演から25年間、再演を重ねるたびにバレエファンのみならずゲームファンの間でも話題を集め、昨年にはフランス・パリで開催されている一大フェスティバル「Japan Expo(ジャパンエキスポ)」への出演も果たしました。2020年10月3・4日に上演される今回は、その“凱旋公演”。そしてコロナのため今年3月以降公演中止を余儀なくされてきた同バレエ団にとって、約7ヵ月ぶりの舞台でもあります。
本番目前の9月29日、東京文化会館で行われていた舞台稽古のようすを取材。物語の重要な鍵を握る、勇者たちの武器やアイテムも紹介していただきました!
“白と黒”ふたりの勇者のトークもお楽しみください。
Photos:Ballet Channel
リハーサルに潜入!
ステージでは演出・振付の鈴木稔の指示のもと、ダンサーたちが自分の立ち位置を確認中。物語に沿って、細かいチェックが行われていました。
王宮。魔王とともに現れた黒の勇者(池田武志)に、さらわれてしまう王女(渡辺恭子)。
まがい物(?)らしき武器をたくさん背負った武器商人(鴻巣明史)
勇者の剣を手に入れた白の勇者(林田翔平)は、仲間たちと一緒に王女を探す旅へ!
「王宮」「酒場」「天空」「魔宮」……とシーンが進むごとに舞台装置も大きく変化。飛び出す絵本のように白の勇者の冒険絵巻が進む
ダイナミックな舞台装置を手掛けたのはディック・バード。イギリスで製作されたそうです。
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勇者たちのアイテムをご紹介!
バレエ『ドラゴンクエスト』に欠かせないのが、ユニークな小道具の数々。
登場人物たちの個性を彩り、物語を動かすカギでもある“あの”アイテムを、出演者のみなさんに紹介していただきました!
特注ケースに詰め込んだ商売道具!ーー武器商人役・鴻巣明史(こうのす・あきひと)
武器がぎっしり詰まったこの金庫のようなケースは、特注でデザインされたものだそうです。年季が入っていそうな色合いやサビの感じが絶妙で、とても重そうに見えますよね? 右奥の白い剣は、選ばれし者だけが抜くことのできる伝説の剣。武器商人は残念ながら抜くことができなくて、「これはパチモン(偽物)だ、だれかに高く売りつけてやろう……」と持ち運んでいます(笑)。
伝説の白い剣の隣には、小剣が刺さっています。戦士が気に入って、戦闘に持って行きます。戦士にはお金を払ってもらえないんですけど、世界を救うためですからね!
右に見える大きくてトゲトゲの出ている武器は、僕が使うメイスという武器。武器商人という役は、これを振り回すだけの怪力はあるけれど、動きは遅いし憶病者。「逃げたい、でもお金は欲しい!」という、楽しくて愛着がもてる役です。
豪華で重そうなこの剣には、思わず笑ってしまう仕掛けが!
「ドラクエ」ファンにもぜひ見てほしい! 初期装備の剣&キメラの翼ーー白の勇者役・林田翔平(はやしだ・しょうへい)
初期装備の短剣は、白の勇者が伝説の剣を手に入れる前から、ずっと大事にしていたものです。おそらく幼少期に、パパからもらったものなのでしょうね。作中に、これを使ってパパに剣術の指導をしてもらうシーンが出てきます。
この短剣、じつはとても軽いんです。ですから逆に、重さを表現するのが難しいところです。
幼いころから大切に使い込まれた剣らしく、あちこちに年季が入った作りなのもポイント
そしてこちらはキメラの翼。ワープするためのアイテムです。最後の闘いのあと、王宮に帰るときに、武器商人が「これで一緒に帰ろうよ!」と持ってきてくれます。「ドラクエ」ファンの方にもぜひ注目していただきたいアイテムのひとつです!
裏面。細部まで丁寧な作り。
扱い方にもコツが要る! ペンダント&邪悪な剣ーー黒の勇者役・池田武志(いけだ・たけし)
胸に光るペンダントは、バレエ『ドラゴンクエスト』の重要アイテムです。白の勇者も同じものを持っていて“対の関係”なんですけど、このペンダントが物語のキーになります。普段は衣裳の内側に隠してあるので、タイミングよく出し入れするのが難しい。激しい踊りでも大丈夫なように、マグネットを使って固定してあります。
剣は『ドラゴンクエスト』の象徴です。白の勇者の剣は王道の武器。それに対して黒の勇者は魔王から賜った邪悪な剣。演出家の鈴木先生からは、扱い方ひとつにしても“紳士的な戦士”には見えないよう、隙あらば何でもやりそうな雰囲気を醸さなくてはいけないと言われています。ただ剣を振り回すだけでなく、黒の勇者という役柄に合わせた扱い方や殺陣の見せ方とはどういうものかを研究しています。
吹けば不思議なことが起こる笛ーー王女役・渡辺恭子(わたなべ・きょうこ)
王女が老人からもらう笛。吹くと美しくも怪しい音色がして、不思議なことが起こります。笛を吹きながら踊る時は、上半身を美しく見せようと、つい肘を張ってしまいがち。でも張りすぎると笛を吹いているように見えなくなるので、その加減が難しいですね。お稽古ではこの笛の代わりに棒を使っていて、何となく吹く真似をしていたら、指揮者の先生から「持ち方が違う」とご指摘を受けました。この笛は実際に音は出ませんが、本当に指で穴を押さえたり離したりしながら、息を吹き込んで音を出すつもりで演じています。
よく見ると真ん中にテープが。白の勇者が腰に下げたまま踊るため、滑らないように巻かれているのだそう
先端の動きまでコントロール! 戦士の 鞭(むち)ーー戦士役・西原友衣菜(にしはら・ゆいな)
酒場でたくさんの荒くれ男たちを率いる女戦士。彼女は鞭の使い手です。前回の公演まではずっと黒い鞭を使っていたのですが、鞭の先の動きがもっとよく見えるようにと、今回からはシルバーが編み込まれた新しいものを使うことになりました。
これを持って踊るのはなかなかハードです。難しいのは音どおりに鞭を鳴らさなければいけないところ。鞭の先端の動きまでも自分で理解していなければいけなくて、手だけで動かすと全然違う軌道になってしまうんです。全身を使って、右脇からぐるっと回すように動かすことを意識しています。
この持ち手の部分はスタッフさんに改造していただきました。中に釘を打っていただいて軸を作り、持っていてもグニャグニャしないようにして。鞭を振るいながら闘うシーンでは、黒の勇者率いる黒軍たちによく当たってしまう(!)のですが、結構痛いらしいです……。
戦士は和テイストの衣裳も素敵。頭のかんざしがじつは小さな剣だったりと、可愛いところもあるんですよ。
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“白と黒” 勇者ふたりのミニトーク!
- 林田さんが白の勇者で池田さんが黒の勇者という配役は、おふたりのキャラクターにとても似合っていますね?!
- 池田 逆のキャストでも演じましたけれど、やっぱり今回の方がしっくりきますね。
林田 白の勇者しか演じていないと、黒の勇者の気持ちはわからない。黒の勇者をやってみて、あっ!と感じる部分がたくさんありました。それまで気づかなかった思いとか、新たに発見したこととか。
池田 役が違うと、まったく違う物語のように感じるんですよね。白の勇者と黒の勇者は対になる存在で、双子という設定ではあるけれど、育った環境も性格も違う。何だか他人(ひと)の家に来た、みたいな感じがしました。
林田 (笑)
池田 白の勇者を演じていると、登場人物のみんながすごく親切で楽しい。でもやっぱり“我が家”という感じではなくて。そして黒に戻ると……
林田 ああ、そうそう!この感じって。
池田 お客さまにも、演じているダンサーが違うだけで、役や物語がまったく違って見えると言われたことがあります。林田君が演じる白の勇者の爽やかさは、僕には出せないと思いました。
林田 池田くんはエネルギーがすごい。舞台上でも、リハーサルでもそう。黒の勇者という役を演じつつ、持っているエネルギーを一気にバン!と出す。黒の勇者はカッコいいし、楽しそうだなと思っていたけれど、演じてみて初めて、あのように力をギュッと詰め込んで演じることの凄さがわかりました。
池田 白の勇者が長距離走だとしたら、黒の勇者は短距離走。第2幕が始まってからが激動の流れで、秘密も明かされ、自分自身に悩み、葛藤させられる。これらが本当に短いシーンに詰め込まれているんですよ。だから瞬発力の勝負です。白の勇者は、気持ちの移り変わりや、なぜその行動につながるのかというきっかけが、しっかりと描かれている。なぜなら、これは白の勇者の物語だから。まさにバレエ作品の王子役、というか。
- なるほど、そのような違いがあるのですね。
- 池田 この作品を演じるたびに、林田くんと僕は、お互い自分にないものを持っているなと感じます。僕は彼のようには白の勇者を演じられないし、たぶん僕の黒の勇者は……疲れるからできないし。
林田 疲れなくてもできない(笑)。
池田 今回の白・黒の組み合わせの公演は「ジャパンエキスポ」でもやっていますし、王女役の渡辺恭子さんとは、僕たちが最初に『ドラゴンクエスト』に出たときから一緒に踊っています。だから安心して、思いきり演じたいと思います!
公演情報
スターダンサーズ・バレエ団 バレエ「ドラゴンクエスト」
●2020年10月3日(土)・4日(日)14:00開演
●東京文化会館 大ホール
●詳細 https://www.sdballet.com/
★10月3日 ニコニコ生放送で有料ライブ配信決定!アーカイブ配信あり。詳細はバレエ団HPへ