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【インタビュー】綾凰華(元宝塚歌劇団)ミュージカル「天保十二年のシェイクスピア」~歌もダンスも心で演じたい

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

2024年12月9日、東京・日生劇場でミュージカル『天保十二年のシェイクスピア』が開幕。『マクベス』『ハムレット』『リチャード三世』『ロミオとジュリエット』など、ウィリアム・シェイクスピア計37作品と、江戸時代の講談『天保水滸伝』をもとに作られた井上ひさしによる「祝祭音楽劇」。演出:藤田俊太郎、音楽:宮川彬良の東宝版は、コロナ禍の初演から約4年ぶりの再演です。出演は浦井健治、唯月ふうか、梅沢昌代、そして木場勝己らオリジナルメンバーに加え、大貫勇輔、瀬奈じゅん、中村梅雀などが加わりました。今回はお冬役で初参加する元宝塚歌劇団雪組の綾凰華(あや・おうか)さんにインタビュー。男役として活躍していた綾さんに、今回の作品や役柄について、幼少期から学んでいたバレエの思い出などを聞きました。

綾凰華 ©蓮見徹

綾さんは、バレエは早くから習い始めたそうですね。
 はい、バレエは4歳から始めました。
きっかけは?
 母です。気付いた時にはクラシック・バレエを習うと決まっていました(笑)。やりたくて始めたわけではなかったので、何度も行きたくないとごねたのですが、やめさせてもらえるどころか、小学5年生になったら追加でジャズダンスのクラスまで(笑)! 祖母も母も宝塚が大好きだったので、私が宝塚を受験してもいいように、少しずつ機会を与えてくれていたのかも。今はとても感謝しています。
嫌だった踊りが好きになったのはいつ、どんな理由からですか?
 教室の発表会で『くるみ割り人形』のクララ役をいただいた時です。当時小学6年生だった私は、嬉しい気持ちよりも、子どもながらに大役を任された責任感を感じたんですね。「今までみたいに適当な気持ちじゃダメだ。ちゃんとしなくちゃ!」と必死にお稽古をして、発表会が終わった時にはすっかりバレエに夢中になっていました。がんばることの大切さとか、舞台を観て喜んでもらえる喜びを、あの時に初めて知りました。
お教室の発表会やコンクールで踊った作品で一番好きだったのは?
 『コッペリア』のスワニルダです。私の通っていた教室は発表会で全幕作品をやっていて、私は第1幕の村のシーンから第2幕のコッペリウスのお家のシーンまでを踊らせていただきました。スタミナが必要な踊りなのでやりがいがあったし、お芝居の部分を演じるのはすごく楽しかったです。

©蓮見徹

宝塚を目指す決意をしたのはいつですか?
 じつは中学生のころ宝塚を勧めてくれた母と大喧嘩をしたことがあります。「宝塚は絶対に受けない!」って。
その理由は?
 「母に勧められたから受験する」のだけは、どうしても嫌だったんです。中途半端な思いで受けてはいけないという思いがありました。自分の中に宝塚を目指す理由が見つかるまで自分なりに一生懸命考え、最後は自分の意志で決めました。
綾さんは男役として入団。特にダンスには定評がありました。
 ダンスは好きでしたし、頑張ろうと思っていました。でも、踊りが上手いだけではカッコいい男役を演じることはできません。手の動かし方、肩甲骨の位置、どれをとっても、バレエとはまったくちがうのが男役のダンスです。そこで、男役としてのかっこいいダンスを踊るために、それまでの踊りへの考え方を一旦リセットして、新たに学ぼうと決意しました。歌も演技も経験が少なかったので、努力だけは人一倍しようと思い、とにかくたくさん個人レッスンを受け、お稽古に励みました。

©蓮見徹

宝塚歌劇団雪組で活躍ののち、2022年の退団後もミュージカルや朗読劇、ショーなど多くの舞台に出演。今回の『天保十二年のシェイクスピア』ではお冬役に挑戦します。
綾 『天保十二年のシェイクスピア』は江戸時代を舞台にしたお話ですが、エピソードやキャラクター設定には、シェイクスピアの作品がたくさん組み込まれています。お冬は『ハムレット』のオフィーリアにあたる役。『天保十二年のシェイクスピア』の世界で、お冬という女性にどんな風に息を吹き込むことができるか、期待していただきたいと思います。
『ハムレット』の有名なシーンも登場するのでしょうか?
 はい。大貫勇輔さん演じる、きじるしの王次(おうじ)から「尼寺へ行け!」と言われます。お冬は愛する王次と結ばれないことや、大切な父の死をきっかけに傷つき心を病んで、最後は狂乱の末、川に落ちて死んでしまう。まさにオフィーリアと同じ運命をたどります。
オフィーリアといえば奥ゆかしく従順な乙女というイメージがありますが、お冬はどんな女性だと思いますか?
 とても芯の強い女性。ひたすらに王次への愛を貫く一途さもありますね。そして彼女は愛を与える人。その愛情の深さは演じる上で大切にしたい部分です。

綾凰華・お冬役ビジュアル 写真提供:東宝演劇部

お稽古していて「ここが難しい!」と思うところは?
 多くのエピソードが同時進行するため、お冬のエピソードは王次との場面と狂乱したお冬の場面のふたつしか出て来ないんです。舞台上でまったく別のエピソードが進んでいる間も、お冬の物語が途切れてしまわないように気持ちを繋げるようにしています。
また、お冬の精神のバランスが壊れていくところは歌で表現します。乱れた感情を噓のないように表現しつつ、いっぽうでミュージカルナンバーとして歌詞をきちんと伝え、メロディーに乗せて歌わなくてはいけない。そこのバランスをとるのが難しいですね。
お冬のソロナンバーはどんな歌になるのでしょうか?
 ミュージカルのソロナンバーでは感情をわかりやすく伝えるものが多いですよね。でもこの時のお冬は狂気をまとっているので、聞いただけでは何を語っているのか、すぐにはわかりにくいかもしれません。台本のト書きにある「半狂乱で」から想像すると、お冬には「現実と少し違う場所に行ってしまっている彼女にしか見えていないもの」があるのでは?と感じます。なので、私はお冬に見えているものをまっすぐな気持ちで受け入れて、その心のまま伝えられたらと思っています。お客様には「彼女には何が見えているんだろう?」と考えを巡らせていただけたら。
今回、綾さんのダンスを観ることはできますか?
綾 お冬には踊りのシーンはほとんどないのですが、じつはほかの役でも出演させていただいてたくさん踊っていますよ! 客引きをする女郎役とか、お冬とは全然違うキャラクターを演じるのも楽しいです。
振付に花柳寿楽さんのお名前がありますね。
 プロローグをはじめ、多くのダンスナンバーを振付けていただいています。着物姿で踊るので所作のご指導も。宝塚時代からご指導を受けていますが、とても温かくて素敵な方です。踊りはもちろんどうやっても真似できないのですが、お稽古の時には少しでも先生の踊りや仕草を見て勉強しています。

©蓮見徹

ミュージカルの舞台に立つ時、綾さんがとくに大事にしていることは?
綾 「心で演じる」ことですね。ダンスと歌と演技を同時に表現するためには、それぞれのテクニックを磨くのはもちろん大切なのですが、そこに心を吹き込むことが必要、と宝塚で学びました。歌と踊りとお芝居が手を取り合ったステージの上で私たちは役を生きています。ダンスも歌も演技もひとつのお芝居。心を大切に演じていきたいです。
最後に、綾さんが感じる舞台ならではの魅力を聞かせてください。
 最近はあらゆる分野でデジタル化が進んでいると感じます。それはとても素晴らしい一方で、舞台芸術は、お客様が劇場で、役者たちの感情のぶつかり合いをリアルに体感できる。アナログだからこその温もりがあるような気がします。エンターテインメントには、私たちが忘れてはいけないメッセージもたくさん詰まっている。娯楽であると同時に、人の心を育てるための大切な教養でもあると思います。

©蓮見徹

綾凰華  Oka AYA
兵庫県出身。2010年宝塚音楽学校入学。12年に宝塚歌劇団に98期生として入団、組まわりを経て星組に配属。17年雪組へ組替え。『ひかりふる路(みち)〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜』18年『ファントム』それぞれの新人公演で主演をつとめる。男役スターとして21年『ヴェネチアの紋章/ル・ポァゾン 愛の媚薬 -Again-』、『CITY HUNTER/Fire Fever!』などに出演。22年6月『夢介千両みやげ/Sensational!』東京公演千秋楽をもって、宝塚歌劇団を退団。退団後は舞台女優として活躍。23年DANCE LIVE 『2STEP』、ミュージカル『アンドレ・デジール 最後の作品』、24年Classic Movie Reading『若草物語』、『REON JACK5』ほか、ソロライブなども行っている。

《衣裳協力》
ワンピース:EAUVIRE オーヴィル
アクセサリー:VENDOME AOYAMA ヴァンドーム青山

✳︎インスタグラム
✳︎オフィシャルウェブサイト

公演情報

祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』

あらすじ
江戸の末期、天保年間。下総国清滝村の旅籠を取り仕切る鰤の十兵衛(中村梅雀)は、老境に入った自分の跡継ぎを決めるにあたり、三人の娘に対して父への孝養を一人ずつ問う。腹黒い長女・お文(瀬奈じゅん)と次女・お里(土井ケイト)は美辞麗句を並べ立てて父親に取り入ろうとするが、父を真心から愛する三女・お光(唯月ふうか)だけは、おべっかの言葉が出てこない。十兵衛の怒りにふれたお光は家を追い出されてしまう。
月日は流れ、天保十二年。跡を継いだお文とお里が欲のままに骨肉の争いを繰り広げている中、醜い顔と身体、歪んだ心を持つ佐渡の三世次(浦井健治)が現れる。謎の老婆(梅沢昌代)のお告げに焚き付けられた三世次は、言葉巧みに人を操り、清滝村を手に入れる野望を抱くようになる。そこにお文の息子 ・きじるしの王次(大貫勇輔)が父の死を知り、無念を晴らすために村に帰ってくる。この争いの行く末はいかに……。

東京公演
【日程】2024年12月9日(月)~12月29日(日)
【会場】日生劇場

《全国公演》
大阪公演
【日程】2025年1月5日(日)~1月7日(火)
【会場】梅田芸術劇場

福岡公演
【日程】2025年1月11日(土)~1月13日(月祝)
【会場】博多座

富山公演
【日程】2025年1月18日(土)~1月19日(日)
【会場】オーバード・ホール 大ホール

愛知公演
【日程】2025年1月25日(土)~1月26日(日)
【会場】愛知県芸術劇場 大ホール

【スタッフ】
作:井上ひさし
音楽:宮川彬良
演出:藤田俊太郎
振付:新海絵理子
日本舞踊:花柳寿楽
アクションコーディネーター:諸鍛冶裕太

【出演】
浦井健治、大貫勇輔、唯月ふうか
土井ケイト、阿部裕、玉置孝匡
瀬奈じゅん、中村梅雀
章平、猪野広樹、綾凰華、福田えり
梅沢昌代、木場勝己
ほか

【公演に関するお問合せ】
〈東京公演〉東宝テレザーブ 03(3201)7777
〈大阪公演〉梅田芸術劇場 06(6377)3888
〈福岡公演〉博多座電話予約センター 092(263)5555
〈富山公演〉北日本新聞社事業部 076(445)3355
〈愛知公演〉
メ~テレ事業 052(331)9966

◆公式サイトはこちら

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