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【CLUB SEVEN】留依まきせ(元宝塚歌劇団)インタビュー〜私の最大限は、きっとまだまだ見つけられる

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

2003年の初演から21年目を迎えたエンターテインメント・ショー『CLUB SEVEN』は、玉野和紀、吉野圭吾、東山義久、西村直人を中心に、ソング&ダンス、芝居、ミュージカル、スケッチなど、舞台のあらゆる要素を取り入れたステージ。新作『CLUB SEVEN another place』は、先述の“レジェンド”メンバーに加え、準レギュラーの大山真志と北翔海莉、初参加の林翔太、鈴木凌平、留依まきせの計9名が出演。9月22・23日にシアター1010(センジュ)でのプレビュー公演を終え、9月28日~10月13日に有楽町よみうりホールにて上演中です。
開幕前の9月上旬、出演者の留依まきせ(るい・まきせ)さんにインタビュー。2022年の宝塚歌劇団退団後も多くのステージでエネルギッシュに活躍する留依さんに、稽古場でのエピソードのほか、バレエが大好きだったという幼少期から学生時代のお話などを聞きました。

『CLUB SEVEN another place』玉野和紀さん、北翔海莉さんとの座談会記事はこちら

©Shoko Matsuhashi

留依さんは『CLUB SEVEN』初参加になりますね。今回は演出の玉野和紀さんからオファーがあったのですか?
留依 はい。玉野さんは宝塚歌劇団のタップダンス指導や振付などもされていますが、私は在団中にはご縁がなく、今回が初めてになります。『CLUB SEVEN』シリーズは宝塚の元トップスターの方などが出演されてきた作品だったので、お話を聞いた時は私が出てもいいの?とびっくりしました。
お稽古のようすはどうですか?
留依 めっちゃ楽しいです! ミュージカル界では有名な方ばかりなのに、みなさんフレンドリーなので驚きました。『CLUB SEVEN』の“レジェンド“メンバーと呼ばれている玉野さん、吉野圭吾さん、東山義久さん、西村直人さんの4人が20年かけて作り上げてきた信頼関係から生まれる空気が本当に心地よくって。初参加の私をあたたかくこの現場に迎え入れてもらえて嬉しく思っています。
今回は男性とのデュエットやダンスシーンもあるようです。女性パートを踊るのはやはり緊張しますか?
留依 宝塚在団中にも2作品ほど女役を経験しているので、緊張することはないですね。退団後に行った単独ディナーライブ『Re: -REBORN-』では、ゲストに元東京バレエ団の松野乃知さんをお迎えして一緒に踊りました。肩乗せリフトもしてもらって。でもステージで男性と一緒にたっぷり踊るのは、もしかしたら初めてかも。みなさんに楽しんでもらえるよう頑張ります!

©Shoko Matsuhashi

留依さんは宝塚歌劇団に入る前、バレエに夢中だったとか。
留依 はい。私、ずっとプロのバレリーナを目指していたんですよ。3歳で始めてから宝塚に入るまで、バレリーナになることしか考えていませんでした。所属していたのは平野節子バレエスクール。先生は(現在、英国ロイヤル・バレエプリンシパルの)平野亮一さんのお母様です。
バレエ少女時代にも宝塚の舞台は観ていたのですか?
留依 おばあちゃんが宝塚ファンで、4歳ごろから劇場に連れて行ってもらっていました。でもバレエ以外に興味がなかったので「宝塚に入ったら?」と言われても「いや、バレエしかやらへん」って。娘役さんにはバレエのイメージが少しあったので、「娘役やったらええけど。可愛い衣裳が着れるから」って答えたこともありましたけれど(笑)、男役をやってみたいとは全然考えなかったですね。なぜそんなにバレエが好きだったのか、と改めて考えると分からないんですけれども、とにかくバレエ以外は目に入らなかったです。
コンクールやお教室の発表会の思い出はありますか?
留依 私が住んでいた関西地区はコンクールが盛んで、中学生の時はいろいろなところに出場しました。こうべ全国洋舞コンクール、Osaka Prix(全国クラシックバレエ・コンペティション)、全国バレエコンクール in Nagoyaなど。夏休みには自宅のある兵庫から名古屋まで遠征していました。ひとりでホテルに泊まって、掛け持ちでコンクールの予選に出場し、準決選まで行ったらバレエの先生に連絡して来ていただいて……賞をいただいたこともありますし、毎日が楽しかったですね。
いままで踊ったなかで思い出に残っているヴァリエーションは?
留依 先生が選んでくださっていたと思うんですけれど、『ドン・キホーテ』が多かったです。最初に踊ったヴァリエーションはキューピッドだったし、コンクールでもドルシネア姫のヴァリエーションを踊っていました。最後のコンクールではキトリも踊った記憶がありますが、当時2年間くらいはドルシネアに絞ってレッスンを積んだので、ドルシネアならいつでもどこでも踊れるはず、です(笑)。
そこから、どんなきっかけで宝塚に興味を持つようになったのでしょうか。
留依 宝塚が大好きなクラスメイトに、宝塚のDVDを強引に貸されたのがきっかけです(笑)。学校にもバレエスクールにも宝塚ファンの子が多かったんですね。バレエの先輩からも「とにかく観てくれ!」と頼まれるし、あまりにもあちこちの方から勧められたので「観るか」となりました。
久しぶりに観た宝塚作品はどうでしたか?
留依 それが、子どもの時に観た印象と全然違ったんです。成長して、感覚が育ったのもあると思うけれど、すべてが洗練されている世界だと感じました。ブロードウェイミュージカルなんてめっちゃおしゃれやし、男役もすごくカッコいい。面白いな、これ! って。
当時は中学生。
留依 14歳でした。宝塚受験を考えたのもそのころです。
バレエから宝塚に夢をシフトした理由は?
留依 そのころ、大阪でユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)の日本予選を受けました。結果しだいで将来を決めるつもりで臨んだけれど、わずかに点が足りなくて予選通過できなかった。それでバレリーナの道を諦めて、別の道を探そうと思ったんです。日本予選の事前ワークショップでほかの出場者たちと一緒にレッスンを受けた時にも、みんなの実力をすぐそばで感じて「この人たちとはとても戦っていけない」と感じました。最初はどうしても諦めきれなかった。でももともと歌やバレエ以外のダンスも好きだったし、みんなから宝塚向きだと言われていたので、やっぱり私の道は宝塚なのかなと思うようになっていきました。

©Shoko Matsuhashi

宝塚音楽学校に入学後、2011年に歌劇団97期として首席入団。素晴らしいスタートを切りました。しかし入団5年目、大きな怪我をし、療養のため半年間休演することになりました。
留依 「ここからどんどん上がっていかなあかん!」と思っていた矢先のことでした。入団して5年目は宝塚にとって大事な最終試験の年です。怪我をしてその試験を受けられなかったことで、精神的にも深く落ち込みました。なんにもできなくなってしまって「もう人生終わり、これ以上のどん底はない」と感じた当時の気持ちははっきり覚えています。でも、いま考えると……正しい言い方ではないのかもしれないけれど、私、怪我してよかったなって思ってるんですよ。それまでの私は前しか見ていなかった。ずっと前のめりの状態で焦っていたし、もっとやらなくちゃいけないと頑張りすぎていた気がします。怪我したことで周りが見えるようになりました。あと、自分の身体とも向き合えるようになりました。身体が怪我を忘れられるまではリハビリが大変で気づかなかったけれど、身体を丁寧に使うようになったと思います。身体のことをちゃんと理解しようとしたり、どういうメンテナンスがいいか考えるようになったり。いまも少しだけ後遺症は残っているんですけれど、私にとってはいい経験になったと感じています。
いまも意識して行なっているストレッチやボディメンテナンスなどはありますか?
留依 バー・レッスンかな。私はやっぱりバレエから始まっているから。全部はやらないけれど、稽古場でのウォームアップ中に5番ポジションを入れてみたり、バランスをとってみたりすると、自分の身体の状態がわかります。自分にとってベストのバランスを保ちたい時にはバレエのインナーマッスルの鍛え方が役立っています。私は筋肉質ではないので、つけすぎると身体が重くて踊りにくいんです。アクションとかダンスをするには、ある程度のアウターマッスルは必要なのですが、自分の身体に大事なのはバレエを忘れないことだと思っています。やっぱりバレエは絶対やっとかなあかんねん、私。って。だからいまでも時間があるときはバレエレッスンを受けに行きます。高岸直樹先生や夏山周久先生に習っています。

©Shoko Matsuhashi

怪我から復帰後、新人公演の主役をはじめ、さまざまな役を演じた留依さんは、2022年入団12年目で退団を発表、ファンを驚かせました。まだこれからという時期に退団を決意したのはなぜですか?
留依 退団については突然決めたのではなくて、じつは前からなんとなく考えていたことなんです。ある程度の学年まで来たら、30歳くらいで退団しようかと。はっきりと決めたのは小池(修一郎)先生の『Never Say Goodbye』(2022年宙組公演)のオーディションで、女戦士ラ・パッショナリア役をいただけた時です。決まった瞬間プロデューサーに言いました。「次の大劇場公演で辞めます、止めても無駄です」って(笑)。
そのタイミングで決意した理由は?
留依 前年に『プロミセス、プロミセス』で急遽女性役を演じたこともあって(*)、一度は女役として宝塚の舞台に出てみたいと考えていました。女役として舞台に立ったら女性として認められるかどうかも知りたかった。宝塚の男役には決められたラインがあり、男役らしい仕草や踊りを作らなくてはいけません。自分の持っている声域やバレエ経験を活かせるフラットな状態でも演じてみたいという願いが叶ったタイミングで退団を決めたんです。
(*)『プロミセス、プロミセス』(2021年宙組公演)。男役で出演予定だった留依は、出演者が休演になったため、急遽女役を一人二役で演じた)
最後に、舞台俳優としての現在の目標を聞かせてください。
留依 海外のミュージカルを見ていると、ときどき男性が負けるぐらい力強い踊りを見せる女性がいますよね。私も人間のもつエネルギーみたいな、生命力みたいなものを出して表現したいです。男役をやったことで表現できる力強さも、私なりの女らしさも、私の中には出せるものがいっぱい詰まっていると思う。自分の身体を使ってできる最大限をまだまだ探っていきたいし、見つけられるんじゃないかな、と思っています。

©Shoko Matsuhashi

留依まきせ  Makise RUI
元宝塚歌劇団男役スター。‘93年生まれ、兵庫県尼崎市出身。’09年宝塚音楽学校に入学、‘11年宝塚歌劇団97期生として首席入団、宙組に所属。留依蒔世の名で舞台に立つ。’12年歴代のタカラジェンヌがつとめてきた阪急電鉄初詣ポスターのモデルに選ばれた。歌劇団での主な出演作品は『エリザベート-愛と死の輪舞-』(新人公演)フランツ・ヨーゼフ役、『王妃の館』(新人公演)北白川右京役、『West side story』アクション役、専科公演『パパ・アイ・ラブ・ユー』レズリー役、『プロミセス・プロミセス』マージ・マクドゥーガル役/カール・クーベリック役(男女二役)、『Never say goodbye』ラ・パッショナリア役など。2022年11月の退団公演『HIGH&LOW/Capricciosa‼』ではリン役とエトワールをつとめた。退団後は芸名を留依まきせとあらため、ディナーライブ『Re: -REBORN-』をはじめ、NHKラジオドラマ『ウィル』、舞台『SEVEN-西遊記7つの戦い-』、舞台『美少女戦士セーラームーン』など多彩な活動を続けている。

✳︎オフィシャルサイト

公演情報

『CLUB SEVEN another place』
脚本・構成・演出・振付:玉野和紀

◆2024年9月22日(日)~9月23日(月祝)※公演終了
シアター1010(センジュ

◆2024年9月28日(土)~10月13日(日)
有楽町よみうりホール

【出演】
玉野和紀
吉野圭吾、東山義久、西村直人
林翔太、大山真志、鈴木凌平
北翔海莉、留依まきせ

【公演に関するお問合せ】
〈有楽町よみうりホール公演〉キョードー東京
0570-550-799
https://kyodotokyo.com/

◆公式サイトはこちら

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