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【レポート】全幕初演まもなく!東京バレエ団×金森穣 グランド・バレエ「かぐや姫」リハ―サル&囲み取材

若松 圭子 Keiko WAKAMATSU

秋山瑛(かぐや姫)、柄本弾(道児)©Shoko Matsuhashi

東京バレエ団Noism Company Niigata芸術総監督の金森穣が、2年7ヵ月の時を経て創り上げたグランド・バレエ『かぐや姫』。2021年3月にクリエーションを開始して、同年11月に第1幕を、23年4月に第2幕を上演。そして第3幕を加えた全幕公演が、いよいよ2023年10月20日~22日に東京12月2日~3日に新潟で、世界初演の幕を開ける。
初日まであとわずかとなった10月6日、同バレエ団のスタジオにて、第3幕のメディア向け公開リハ―サルと囲み取材が行われた。

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バレエ「かぐや姫」第3幕リハ―サル

第3幕は、眠りについたかぐや姫(秋山瑛)が不思議な夢を見るところから始まる。ドビュッシーの「夜想曲」より第3曲〈シレーヌ〉の女声合唱がスタジオに響き渡るなか、舞台後方から光の精のダンサーたちがあふれ出てくる。かぐや姫はその中に道児(柄本弾)の幻影を見つけるが、光の精たちの手によって引き裂かれてしまう。
大人の女性に成長し、神秘的な佇まいでそこにいるかぐや姫。表情をこわばらせているのは、来たるべきなにかを恐れているからだろうか。しかし道児の幻を見つけた瞬間、瞳にパッと明かりがともる。

かぐや姫(秋山瑛)を取り囲む光の精たち ©Shoko Matsuhashi

夢から醒めた彼女のもとにひょこひょこやってくる翁(木村和夫)。飄々としてコミカルな動作のなかにしたたかな表情をしのばせて、かぐや姫に大臣との結婚を迫る。秋見(伝田陽美)は、大臣たち(宮川新大、池本祥真、樋口祐輝、安村圭太)に結納品を献上するように提案する。
4大臣がかぐや姫に求婚する場面は、この幕の舞踊的なハイライトのひとつ。いずれもテクニックに秀でた男性ダンサーたちだけに、かぐや姫にこれでもかと自分の雄姿をアピールするさまは、さながらダンスバトルのよう!

大臣たち(宮川新大、池本祥真、樋口祐輝、安村圭太)©Shoko Matsuhashi

場面は宮廷内へ。帝(大塚卓)が静かに舞台中央に進み出てくると、空気がピンと張り詰める。求婚を迫る帝と、それを拒むかぐや姫のパ・ド・ドゥは、ドビュッシーの「子どもの領分」から2曲続けて踊られる。ふたりの身体がどんなに絡まり合おうとも、その間にはつねに一枚の壁が挟まっているかに感じさせる振付が切ない。第1幕と第2幕でかぐや姫と道児が踊るという「月の光」のパ・ド・ドゥとの対比も楽しみだ。

秋山瑛(かぐや姫)、帝(大塚卓)©Shoko Matsuhashi

結納品を見つけるために村の竹やぶに侵入した大臣たち。それを撃退するために武器をもって集まる村人たちとの間で戦が始まる。かぐや姫の全身が慟哭に震え、声にならない叫びが響くーー。

金森穣 囲み取材

リハーサル終了後、演出・振付の金森穣の囲み取材が行われた。おもな内容は以下の通り。

©Ballet Channel

『かぐや姫』は2年7ヵ月という長期の制作期間のなかで、幕ごとに上演する方法を取りました。このプロセスは金森さんの創作にどんな意味をもちましたか?
このスタイルでの上演は、世界的にも例を見ない試みではないでしょうか。いちばんの利点は、東京バレエ団のスタッフやダンサーのみなさんと、お互いが求めるものを理解し合う時間が持てたことです。ダンサーたちは私がなにを求めているのか考え、私はどういう言葉で彼らに伝えればどう動いてくれるのかを考えました。もし全幕を一気に創っていたら、この関係を築くところまではいかなかったでしょう。舞踊家と振付家が関係性を深めることの大切さをあらためて確信しました。
全幕を通してドビュッシーの音楽が使われていますが、例えばギリシャをイメージしてつくられた「ビリティスの歌」が日本の物語の世界にしっくりなじむなど、どれも場面に合う曲ばかりです。金森さんは最初からそうなると確信していましたか? またそれぞれの音楽の配置も、最初から頭の中で閃いていたのでしょうか。
『かぐや姫』の創作にあたって、まずは台本を書き上げ、それから音楽を探しました。西洋音楽から日本の現代音楽まであたりましたがピンとくるものがなく、ドビュッシーを耳にした瞬間に「これだ!」と。片っ端から聴いていったら、ほぼすべての場面に合う音楽が見つかったんです。曲がピタリとはまるたびに驚きながら選曲を進めた時間は、時を超えてドビュッシーと対話しているようでした。「ビリティスの歌」はハープが琴の音色に聴こえたり、フルートが尺八に聴こえたりもする。不思議ですよね。
第3幕では「黒衣(くろご)」の存在や役割が、より大きくなっていると感じました。
黒衣は、かぐや姫にだけ見える存在です。目に見えない力を持つダークマターですね。歌舞伎に象徴されるように、「舞台上にいるけど、ここにはいない設定ですよ」っていうルールで動くところが秀逸で、観客もそのルールを受け入れて、イマジネーションで補いながら舞台芸術を鑑賞する。これこそ日本の伝統芸能の力だと思います。私の創作ではよく黒衣を登場させますが、『かぐや姫』の最初の台本に黒衣はいませんでした。第1幕を創作中に、当時(2021年)の翁を演じていた飯田宗孝先生の体調など諸事情があって、後見としてその役をあとから作ったんです。しかし登場させてしまった途端、私の頭の中を黒衣が走り回り始めてしまって(笑)。自分の中で黒衣のイメージがどんどん膨らんで、いまに至ります。これは出てくるべくして出てきたんだと感じています。

©Shoko Matsuhashi

翁役は、第1幕初演の故・飯田宗孝さんに代わり、第2幕(2023年)からは木村和夫さんが演じています。木村さん演じる翁の魅力はどこでしょうか。
誰でも日常的な素の状態で持つエネルギーがありますが、飯田先生が持っていらしたエネルギーと、木村さんだから出るエネルギーはもちろん違います。飯田さんが太陽ならば木村さんは月。第1幕のぽかぽか温かく、あどけなさも残る柔らかい翁像は演技で見せなくてはいけませんが、第2幕、第3幕のダークな翁像を演じる時は、影の部分を感じさせる木村さんの魅力が存分に活かされると思います。そのいっぽうで、飯田先生がご存命であったならば、第2幕、第3幕のどんどん悪くなってく翁をどう演じただろう、と思うこともありますね。
第3幕には帝が率いる宮廷人たちと村人たちの戦闘シーン(第7場「滅びゆく世界」)があります。村人たちは宮廷人にひれ伏すことなく戦いを挑んでいく。そういう群衆の描き方にも金森さんの社会観や人間観のようなものが表れているのかもしれないと感じたのですが。
村人たちも、戦うんです。生きるためには。大臣たちは自分たちの道具を漁り、自分たちの生活の糧としている自然をなぎ倒して乗り込んで来るわけですから、それはもちろん立ち向かうでしょう。
つまり、「かぐや姫は渡さないぞ!」という理由での戦いではないと。
そう、かぐや姫を奪い合うために戦うわけじゃない。それが大事なんです。かぐや姫は戦いを止めさせようとしているのに、彼らにはそれが見えていない。お互いの敵の姿だけしか目に入っていないのです。
大臣たちと村人たちの戦の場面を通して、人間の醜い部分があらわになり、物語は破滅へと進んでいきます。金森さんは今回、かぐや姫に何を託したのでしょうか。テーマを理解するためにも金森さんの見解を聞かせてください。
ある種のカタストロフ(破局・破滅)で終わるのは古今東西の物語の構造で、曰く「死」なんですよね。人間は誰もが死ぬ。ただ今回の『かぐや姫』で提示したかったのは、むしろそのあとの、すべてが夢として回帰する場面です。我々はあらゆる事件に遭っては悲しみや苦悩を感じ、強さをもって乗り越えることで記憶へと変えていきます。けれど記憶は日に日に希釈され、やがては忘れ去られていく。すると人間はまた、同じことを繰り返すのです。
この登場人物たちは、かぐや姫を通して体験したいろいろなことを、いつまで覚えていられるでしょうか。私は観客に、記憶とともに薄れていくメッセージではなく、「みなさんは、かぐや姫は何のために地球に来て、何を背負って月に帰ったと思いますか?」という問いを投げかけたいですね。

©Shoko Matsuhashi

かぐや姫が非常に抽象的に描かれているのは、いまおっしゃった「問い」を、観客に投げかけるためなのでしょうか。ほかにも第1幕、第2幕で描かれるかぐや姫と道児のロマンスは、人間的な愛のドラマとしては抽象的だと感じます。これを描くことの金森さんの狙いを知りたいです。
おっしゃるとおりです。みなさんには、かぐや姫という女性に感情移入して物語を見るよりも、かぐや姫以外の登場人物たちに感情移入して、一緒にかぐや姫に翻弄されてもらいたいです。
かぐや姫と道児が踊る第1幕の「月の光」は恋。リニューアルした第2幕では、2人は成人した男女として、オーケストラ版の「月の光」でパ・ド・ドゥを踊ります。第1幕の恋が愛へと変化し、お互いへの眼差しも変わります。
三寸の赤ちゃんだったかぐや姫が瞬く間に成長して少女になり、最後はひとりの女性として月に帰っていく。そこには時の流れとともに、人の心の変化もあります。(秋山)瑛と(足立)真里亜には、全幕を通してのかぐや姫の成長と「時の流れ」も表現して欲しいと思います。
資料によると、第3幕第5場、帝からの求婚の場面には「精神の双子」というタイトルがついています。かぐや姫の「精神の双子」が、孤独な魂を寄せ合った相手である道児や、光と影の対照的な存在として描かれる影姫でなく、帝なのはなぜでしょうか。
道児は村人たちに虐げられ、孤独ではありますが、童たちという仲間がいる。だから物語の最後まで孤独でいるのは帝とかぐや姫だけです。帝の孤独性は道児のそれとは異なる描き方にしました。物語の構成上の理由もありますが、なによりも帝を演じた(大塚)卓の存在がすごく大きかった。彼は本当に素晴らしい舞踊家で、彼の醸すもの悲しさとか孤独感みたいなものが、私たちの『かぐや姫』の帝像を深めてくれています。
ダンサーがそこにいてくれることで、台本の中の世界が一気に飛躍することがあります。その瞬間に立ち会えることこそ振付家の醍醐味。今回も、当初かぐや姫と帝のパ・ド・ドゥは第5場だけの予定でしたが、リハーサルでの卓と瑛の踊りにインスピレーションを受け、第6場「帝の欲望」と2曲続けて踊るシーンに変更しました。

©Ballet Channel

ほかにも金森さんがインスピレーションを得たダンサーはいますか?
もちろん、とくにファーストキャストからは多くのインスピレーションを得ています。働き者の道児のキャラクターが生まれたのは(柄本)弾がいたからです。かぐや姫の瑛と真里亜はどちらも魅力的なダンサーですが、それぞれが持つ強い部分と弱い部分が対照的。お互いが演じるかぐや姫を見ながら、それぞれのかぐや姫像はもっともっと成熟していくはず。影姫の(沖)香菜子は、いままでこういう影のある役をやったことがないそうですが、私にとっては意外でした。すごく似合っていますよね。同じバレエ団に所属し続けていると、ある程度キャラクターは決まってくる。そこに外部の視点が入ったことで新しい発見があったのも、私が参加した利点のひとつなのかもしれません。
かぐや姫の求婚者となる4人の大臣たちについて伺います。原作では求婚者は5人ですが、クラシック・バレエの『眠れる森の美女』のローズアダージオのように4人にしたのは、何か意味があるのでしょうか。大臣役のダンサーの印象も聞かせてください。
大臣の求婚の場面は、それぞれが自分のテクニックを見せびらかすシーンにしたいと思いました。そこにクインテット(五重奏)じゃなくて、カルテット(四重奏)の曲がすごく合っていたんです(*)。空間構成上5人は難しいのもあり、4人でいいんじゃないかなということになりました。振付もやっと仕上がったので、大臣たちの4人(宮川新大、池本祥真、樋口祐輝、安村圭太)には、高度なレベルで振付を実践するだけでなく、役作りも深めていって欲しいですね。みんなカッコ良く踊ることに慣れているので。もっと醜悪な感じとか、とぼけた感じとか、それぞれの大臣像が出てくると、より面白くなるのではと思っています。
*第3幕第4場「大臣たちの求婚」では、ドビュッシーの弦楽四重奏曲ト短調 作品10が使用されている。

©Ballet Channel

今回のクリエーションには、Noismで国際活動部門芸術監督を務める井関佐和子さんもアシスタントとして参加していますね。
とても助かっています。パートナリングや絡みの部分は、やはりひとつの身体で説明するよりも、佐和子と組んで実際に見せたほうが伝わりやすい。とくに女性のパートについては「ここはこうするといい」という佐和子ならではの助言があるので、女の子たちはすごく助かってると思いますよ。もうひとつダンサーたちにとって良かったのは、私には「聞こうかな……でもちょっとやめとこうかな」と躊躇することでも、隣にいる佐和子には聞けることですね(笑)。
あらためて、全幕上演を直前に控えたいまの気持ちは?
再来週には劇場に行きますので、あと本当に僅かです。今週は第1幕を手直しして、来週は第2幕、そしてその週末には全幕の通し稽古の予定です。そろそろ舞台照明なども考え始めていますから、日に日に頭の中で「いよいよだ……」という気持ちが大きくなってきています。
作品の見どころと、観客のみなさんへメッセージをお願いします。
今回、すべての要素の要素を詰め込んでいます。群舞、パ・ド・ドゥ、パ・ド・トロワ、パ・ド・カトルもパ・ド・サンクもある。一晩でこれだけいろいろなダンスが見られて、たくさんの音楽が聴けて、物語のなかに多くのテーマもある。これは楽しめる! だから多くの人に観て欲しいです。東京バレエ団のファンの方は「金森さんはコンテンポラリーダンスの振付家だから」と思っているかもしれないし、Noismの金森穣のコンテンポラリーが好きな人は「東京バレエ団だからバレエの公演でしょう?」と思うかもしれません。しかしこれは間違いなく、双方のお客さんが満足できるものになっています。21世紀に日本人振付家によるグランド・バレエが誕生する瞬間を、ぜひみなさんにも共有していただきたいです。

©Ballet Channel

公演情報

東京バレエ団×金森穣
グランド・バレエ『かぐや姫』全3幕

【日時】
<東京公演>
2023年10月20日(金)19:00
2023年10月21日(土)14:00
2023年10月22日(日)14:00

会場:東京文化会館 大ホール

<新潟公演>
2023年12月2日(土)16:00開演
2023年12月3日(日)14:00開演

会場:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館〈劇場〉

※上演時間:約2時間40分(休憩2回含む)

演出振付:金森穣(Noism Compaty Niigata)
音楽:クロード・ドビュッシー
衣裳デザイン:廣川玉枝(SOMA DESIGN)
美術:近藤正樹
映像:遠藤龍
照明:伊藤雅一(RYU)、金森穣
演出助手:井関佐和子(Noism Compaty Niigata)
衣裳製作:武田園子(Veronique)

おもな配役
かぐや姫:秋山瑛(10/20、22、新潟公演)・足立真里亜(10/21)
道児:柄本弾(10/21、22、新潟公演)・秋元康臣(10/21)
翁:木村和夫
影姫:沖香菜子(10/20、22、新潟公演)・金子仁美(10/21)
帝:大塚卓(10/20、22、新潟公演)・池本祥真(10/21)

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