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【特集:金森穣×東京バレエ団「かぐや姫」②】足立真里亜インタビュー〜かぐや姫として舞台に生まれて、1幕分の人生を生きる。その姿をお客様に楽しんでいただきたいです

阿部さや子 Sayako ABE

2021年11月、日本初の新しい“全幕バレエ”が産声を上げる。

日本を代表する振付家の金森穣に、東京バレエ団が初めて新作を委嘱。
「日本が世界に発信できるバレエを」――同団からのリクエストを受けて金森が選んだ題材は、私たち誰もが幼いころから親しんできた「かぐや姫」の物語だ。

バレエ『かぐや姫』は全3幕で構想されており、今回上演されるのはその第1幕
注目の「かぐや姫」役は、ファーストソリストの秋山瑛(あきやま・あきら)とセカンドソリストの足立真里亜(あだち・まりあ)が日替わりで演じる。

バレエチャンネルでは、タイトルロールを任されたふたりに単独インタビュー。
今回は足立真里亜さんのお話を、リハーサル写真とともにお届けします。

足立真里亜 Photo:Shoko Matsuhashi

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7月の全国ツアー公演〈HOPE JAPAN 2021〉で上演されたモーリス・ベジャール振付『ロミオとジュリエット』パ・ド・ドゥのジュリエット役や、8月〈めぐろバレエ祭り〉での「子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』」主演など、2021年に入ってから次つぎと大役への抜擢が続いている足立真里亜さん。今回の『かぐや姫』では東京バレエ団にとって初の金森穣作品、しかも世界初演という重要な舞台での主役を務めますね!
足立 今年3月にトライアウトがあり、その翌日のリハーサルで、自分がかぐや姫役だと知りました。とはいえ、その段階では暫定だと聞いていましたし、クリエイションもファーストキャストの秋山瑛さんに振りを付けていくかたちで進んでいったので、「もしかすると私はアンダースタディ(代役)なのかもしれない」とずっと思っていたんです。バレエ団のWEBサイトなどで公式の発表があってはじめて、「ああ、私が本当にかぐや姫役を務めさせていただけるんだ」と実感がわきました。
実際にリハーサルに入ってみていかがでしたか?
足立 穣さんに必死に食らいついていかないと、あっという間に置いていかれそうでした。これまでやってきた動きとはまったく違いますし、本当にみるみるうちに世界がふわ〜っと作られていくので、ちょっとでも目を離すともう何が起こっているのかわからなくなってしまう。とにかく日々リハーサルで起こることを追いかけるのに必死で、他のことを考えたり思ったりする余裕はまったくありませんでした。
東京バレエ団にとって初めての金森穣作品ですが、足立さん自身は金森さんの振付や演出についてどんな特徴や個性を感じますか?
足立 まずは音楽の使い方の素晴らしさに感動しています。この作品のためにドビュッシーが書き下ろしたんじゃないかな?と思うくらい、すべての楽曲が場面や役の感情に対してあまりにもぴったりなんです。それから、振付も。先ほども言いましたが、クリエイションの期間中、私は瑛さんがリハーサルしている後ろで “見て学ぶ”時間が長かったので、その間は物語の流れや役の心情を理解することに徹していました。そうすると、登場人物の心の動きや感情が変化するきっかけがすべてステップのなかにちゃんと組み込まれているのがわかるし、シーンからシーンに移り変わるところにも説得力があって、物語が自然に心に流れ込んでくるんです。「どうしてそうなるの?」と頭にハテナが飛ぶところが何ひとつないので、振付じたいは難しくても、私たちダンサーは納得しながら踊ることができる。そしてそれは穣さんが細かいところまで絶対に妥協せず、こだわり抜いて創り上げていくからこそなんだということにも気づかされました。

今回のアシスタントをしてくださっている井関佐和子さんが、「穣さんは踊りに対して本当に純粋。ただただ『この作品を良いものにしたい』という気持ちしかない」とおっしゃっていたのですが、まさにその通りだと。他にいい表現を見つけられなくておこがましい言い方になってしまいますけれど、まさに純粋無垢な少年のように踊りに向き合っていらっしゃいますし、穣さんの振付には踊りに対する敬意を強く感じます。

『かぐや姫』のリハーサルにて Photo:Shoko Matsuhashi

リハーサルを少し見せていただいたのですが、冒頭の女性群舞など、とても素敵なシーンがたくさんありますね。
足立 最初の群舞は、私も大好きなシーンです! ドビュッシーの音楽に振付が吹き込まれて、波打つ海や青竹の質感が目の前に見えてきた時には本当に感動しました。穣さんは男性でトウシューズは履かないはずなのに、女性ダンサーたちをどう動かせば、頭のなかにある風景を具現化できるのかがわかっているのも不思議で。どうしてそんなことができるのか、頭の中を覗いてみたいです(笑)。
足立さんが演じるかぐや姫も、とても可愛らしくてチャーミングな人物に描かれていますね。
足立 竹を自分で破って飛び出してきそうな勢いの女の子ですよね(笑)。あのおてんば感は、私にもちょっと近いものがあるなと思います。
童たちの上にズンズンよじのぼっていったり、アクロバティックにリフトされたり、ダイナミックな動きもたくさんありますね。
足立 たったいま「自分とかぐやは近いところがある」と言ったばかりなのですが、いっぽうで私は引っ込み思案な性格で、何事にも緊張してしまうタイプでもあります。ですから例えばその童たちによじ登っていくところでは、足場が“人”なので、一瞬「踏んじゃっていいのかな」とためらう気持ちが出てきてしまったりするんです。細かい部分ではありますが、そんなふうに心がすくんでしまう自分を打ち破っていかないと、穣さんの求めている表現にはたどり着けないのだろうなと。そこは逃げずに立ち向かっていきたいと思っています。
もうひとつおもしろいなと思ったのが、群舞の女性たちはトウシューズで踊るのに、ヒロインであるかぐやはトウシューズではなくバレエシューズで踊るところです。一般的なバレエ作品では、周りがバレエシューズでも、主役のバレリーナはトウシューズということが多いと思うのですが。
足立 確かに、かぐやと童たちはトウシューズを履きません。少なくとも今回上演する第1幕はずっとバレエシューズです。穣さんから理由を聞いているわけではありませんが、もしかすると、それがかぐやのあどけなさや童心を表現しているのかもしれません
なるほど……! そんなかぐやが道児と出会い、ふたりで踊るパ・ド・ドゥでは、それまでと違う表情を見せますね。
足立 本当に素敵な場面です。音楽は「月の光」。とても有名な曲なのでもちろん知ってはいたのですが、深く聴いてみると、静かな印象の中にも強弱や緩急があって、こんなにも美しい曲なのかと。今回は1幕だけの上演ですが、この先の物語へとつながっていく場面なのだと思うので、大切に踊りたいです。
その相手役である道児を演じるのは、秋元康臣さんですね。
足立 康臣さんとは先日のベジャール版『ロミオとジュリエット』のパ・ド・ドゥでも組ませていただいたのですが、彼の揺るぎないサポートがあったからこそ、私は思いきって踊ることができました。そしてあの長い腕! どこへ跳んでいってもキャッチしてもらえそうな安心感があって、本当に頼もしいパートナーです。

『かぐや姫』のリハーサルにて、道児役の秋元康臣と Photo:Shoko Matsuhashi

先ほども少しお話に出ましたが、今回はダブルキャストで、初日のかぐや役は秋山瑛さんが踊りますね。足立さんと秋山さんは、ほぼ同世代ですか?
足立 同い年です。誕生日も2日しか違わなくて、見た目も似てるとよく言われます。まだ経験が足りない私とは違って、瑛さんはすでに主役を何度も踊っていて、舞台の真ん中に立った時に輝けるダンサー。思わず目を惹きつけられてしまうような求心力が、彼女にはあります。もちろんそれは生まれ持ったものもあると思いますが、彼女の踊りや、踊りに対する姿勢を見て、勉強させてもらっています。今回の役に関しても、瑛さんが穣さんから直接振りを教わる中で得た感覚的なことや、「こうやったらやりやすかったよ」といった小さなコツなどもいろいろ教えてくれるので、とても助かっています。本当に心強い存在です。
足立さんと秋山さんは、体型的には似ているかもしれませんが、踊りの持ち味や表現の個性はまったく違うように感じます。
足立 それは穣さんもおっしゃっていました。「ふたりは似てるけど、踊りのタイプは全然違うんだね」と。
冒頭の繰り返しになりますが、それにしても2021年は足立さんにとって躍進の年になりましたね。
足立 ありがたいことに、この12月の『くるみ割り人形』でも主演させていただくことになっています。自分でも、まさか今年がこういう1年になるとは夢にも思いませんでした。東京バレエ団に入団して今年で7年目になるのですが、以前、斎藤友佳理芸術監督からこう言われたんです。「あなたを6年間見てきたけれど、“準備”はもう終わり。ここから、あなたがこの世界でダンサーとしてやっていけるかどうかが決まるのよ」と。そのお言葉の通り、まさにいま次つぎと挑戦の機会を与えていただいているので、とにかくがむしゃらに突っ走るのみという気持ちです。
今回の『かぐや姫』では、どんな舞台を見せたいですか?
足立 観にきてくださったお客様が、帰り道に感想を話す時に、「足立さん頑張ってたね」ではなく「あの場面のかぐや姫良かったね」と言ってくださるような舞台をお見せしたいです。かぐやという役に、自分がどれだけ一体になれるか。世界初演の舞台にかぐや姫として誕生して、1幕分の人生を生きる姿をお客様に楽しんでいただくことが、私の果たすべき役割だと思っています。

Photo:Shoko Matsuhashi

足立真里亜 Maria ADACHI
千葉県出身。3歳よりバレエを始める。2015年、東京バレエ団に入団。同年6月、「ラ・バヤデール」で初舞台を踏む。現在セカンドソリスト。2021年11月7日(東京)・20日(新潟/17時公演)『かぐや姫』主演、12月18日(鹿児島)・22日(香川)『くるみ割り人形』主演の予定。

公演情報

東京バレエ団 『かぐや姫』第1幕/『中国の不思議な役人』/『ドリーム・タイム』

【東京公演】

◎日時
2021年11月6日(土)14:00
2021年11月7日(日)14:00

◎会場
東京文化会館(上野)

◎予定されるプログラム(順不同)

『かぐや姫』第1幕 世界初演
音楽:クロード・ドビュッシー
演出振付:金森穣

『中国の不思議な役人』
音楽:ベラ・バルトーク
振付:モーリス・ベジャール

『ドリーム・タイム』
音楽:武満徹
振付:イリ・キリアン

◆上演時間:約2時間15分(休憩含む)

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【新潟公演】

◎日時
2021年11月20日(土)13:00/17:00

◎会場
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 〈劇場〉

◎予定されるプログラム (順不同)

『かぐや姫』第1幕 世界初演
音楽:クロード・ドビュッシー
演出振付:金森穣

『ドリーム・タイム』
音楽:武満徹
振付
:イリ・キリアン

◆上演時間:約1時間30分(休憩含む)

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【詳細・問合せ】
NBSチケットセンター(月-金 10:00~16:00 土日祝・休)
TEL:03-3791-8888
公演ウェブサイトはこちら

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