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【特集:金森穣×東京バレエ団「かぐや姫」①】秋山瑛インタビュー〜穣さんの振付には、想像もしなかった動きがいっぱいです

阿部さや子 Sayako ABE

2021年11月、日本初の新しい“全幕バレエ”が産声を上げる。

日本を代表する振付家の金森穣に、東京バレエ団が初めて新作を委嘱。
「日本が世界に発信できるバレエを」――同団からのリクエストを受けて金森が選んだ題材は、私たち誰もが幼いころから親しんできた「かぐや姫」の物語だ。

バレエ『かぐや姫』は全3幕で構想されており、今回上演されるのはその第1幕
注目の「かぐや姫」役は、ファーストソリストの秋山瑛(あきやま・あきら)とセカンドソリストの足立真里亜(あだち・まりあ)が日替わりで演じる。

バレエチャンネルでは、タイトルロールを任されたふたりに単独インタビュー。
まずは初日を務める秋山瑛さんのお話を、リハーサル写真とともにお届けします。

秋山 瑛 Photo:Mizuho Hasegawa

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9月は「海賊」全幕に初主演!

秋山瑛さん、本日はよろしくお願いします! まずは最近の舞台のお話を。先日(2021年8月28日)の「横浜ベイサイドバレエ」で踊られた『海賊』よりパ・ド・トロワ、まさに地中海みたいなブルーのチュチュがよく似合い、音楽をたっぷり使って踊る姿が女神のようでした。
秋山 ありがとうございます。「横浜ベイサイドバレエ」は野外ステージで、床の感じがいつもと違うので少し不安だったのですが、本番は楽しく踊ることができました。
秋山さんは、2021年9月23日(木祝)〜26日(日)に上演される東京バレエ団『海賊』全幕でも、25日(土)の回で主役のメドーラを踊りますね。
秋山 『海賊』の全幕でメドーラを踊るのは初めてです。これまで踊らせていただいたヒロイン――例えばジゼルや『くるみ割り人形』のマーシャや『ドン・キホーテ』のキトリとは違って、メドーラは「こういう女性」というキャラクター像がそれほど明確には決まっていない気がするんです。そのぶんダンサー自身が解釈できる範囲が広いので、私も自分なりのメドーラを見つけたいと思っています。メドーラは奴隷として市場に売りに出されますが、まるで身分の高い女性のように振る舞いが堂々としていて、コンラッドとパ・ド・ドゥを踊る時にはしっとりと美しくて。でもパーシャ(太守)をちょっとからかったりするお茶目さもあります。シーンごとにいろいろな表情を見せる、魅力的な女性だと思います。

Photo:Shoko Matsuhashi

共演は、メドーラと恋に落ちる海賊の首領コンラッド役が宮川新大さん、その奴隷のアリ役が生方隆之介さん。その3人で踊る第2幕のパ・ド・トロワは、やはり何と言っても『海賊』のハイライトですね。
秋山 リハーサル指導をしてくださっている斎藤友佳理芸術監督やバレエ・ミストレスの佐野志織先生には、「踊りの中で3人の関係性が見えることが大切」とアドバイスをいただきました。そこにストーリーが見えなければ、ただテクニックを披露するだけの出し物みたいになってしまうと。視線や手の出し方ひとつでも、首領であり恋人でもあるコンラッドに対する場合と、彼の奴隷であるアリに対する場合とでは当然違うはず。そうした小さなニュアンスの変化で物語の輪郭もくっきり見えてくると思うので、しっかり掘り下げて演じたいです。
とはいえ『海賊』というと、やはり続々と出てくる高度なテクニックは重要な見どころ・見せどころですね?!
秋山 そうなんです! お客様のなかにはきっと胸のすくようなテクニックを楽しみにしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。でも『海賊』は物語もおもしろいですし、やはりテクニックはあくまでも物語や役柄を表現するためのもの。技を見せようとするあまり、「はい、回ります!」とストーリーの流れを断ち切らないようにしなくては……と思っています。
作品のなかでとくに好きなシーンはありますか?
秋山 どの場面も本当に大好きなのですが、強いて挙げるなら第2幕、海賊の隠れ家の洞窟でコンラッドと踊るパ・ド・ドゥでしょうか。音楽も美しいし、衣裳も素敵。リハーサルで踊るたびに、わあっと胸がいっぱいになります。もちろん技術的には難しくて、とくにこのシーンで印象的に出てくるダイナミックなリフトは、とても難易度が高いんですよ。でもそういった振付も、気持ちが高まって高まって持ち上がる!というふうに、役としての感情に身を委ねたほうが上手くいくように思います。

Photo:Shoko Matsuhashi

「かぐや姫」は素の自分に近い気がします

そして秋山瑛さんと言えば11月の『かぐや姫』です……! 振付家・金森穣さんが東京バレエ団に初めて振付ける話題の新作で、秋山さんは初日のタイトルロールを踊ります。
秋山 今年の3月に金森さんがバレエ団にいらして、みんなでトライアウトを受けました。私自身はとくに何か手応えがあったということもなく、その日はそのまま帰宅したのですが、翌日リハーサルに参加したところ「君はかぐや姫だよ」と。その段階では本当に決定なのかもわかりませんでしたし、実感がわかなくて。「嬉しい!」というよりは「えっ……私ですか?」というのが率直な感想でした。でも、選んでいただいたからには精一杯頑張りたい。いまはそういう気持ちで取り組んでいます。
金森穣さんの振付を踊るのはもちろん今回が初めてかと思いますが、とくに特徴的だと感じていることはありますか?
秋山 まずは音楽の使い方の素晴らしさです。『かぐや姫』はすべてドビュッシーの音楽で構成されているのですが、この作品のために書かれた楽曲なのでは?!と思うくらい、各場面と振付にぴったりの曲ばかり。踊っていてまったく違和感がありません。どうしてこんな選曲ができるんだろう……と思っていたのですが、ある日のリハーサルで、穣さんが私たちに振付をしながら見ているノートをふと見たら、じつはそれがノートではなく楽譜だったんです! 本当に一音一音を大切に汲み取りながら振付けているというか、音と一緒に作品を作っているという感じがします。

それから穣さんの振付には、古典はもちろん他のどんな振付家の作品とも違う、私たちの想像し得ないような動きや組み物がたくさん入っています。フォーメーションもどんどん変化しますし、振付の雰囲気までシーンごとにガラリと違うので、どの場面も心に焼き付くような気がします。

『かぐや姫』リハーサルにて。写真左から:柄本弾、秋山瑛、金森穣、秋元康臣、井関佐和子、足立真里亜 Photo:Shoko Matsuhashi

ドビュッシーの音楽はとても素敵ですが、曲によってはカウントを取るのが難しかったり、少し踊りにくかったりすることはないのでしょうか?
秋山 それはあります。例えば冒頭の海のシーンなどはカウントを数えるのがとても難しくて、あの群舞を踊る女性ダンサーたちはみんな苦労していると思います。でも、音を取るのがどんなに難しい曲でも、穣さんとアシスタントの井関佐和子さんに説明していただくと、すごくクリアになるんですよ。ちなみに佐和子さんは、「穣さんには私たちに聞こえない音が聞こえている」とおっしゃっていました。
先日リハーサルを見せていただいたのですが、例えばドビュッシーの中でもとりわけ有名な「月の光」で踊るかぐやと道児のパ・ド・ドゥなどは、まさに心に焼き付いて忘れられなくなるような場面ですね。
秋山 本当に、すごく素敵なパ・ド・ドゥです。ちょうどそのシーンのリハーサルをしていた週は、毎晩とても月がきれいで。バレエ団のみんなとも、「月を見ると『月の光』を思い出すね」と話したりしていました。曲が流れてくると、月明かりの下で踊っている情景が浮かんできます。
同時にそのパ・ド・ドゥには、先ほどおっしゃった通り見たこともないようなリフトや組み物がたくさん折り込まれていて、技術的にはとても難しそうに見えました。
秋山 難しいです……。リフトそのものも難しいのですが、前のステップからリフトへとどうつないでいくか、そしてリフトからどう降りるかといった「間の部分」をもっと磨かなくてはと思っています。
他の場面でも、例えば腕の開き方ひとつ、手を伸ばす仕草ひとつ……本当に一つひとつの動きに特有のニュアンスが求められているように感じました。
秋山 本当にそうですね。私たちがつい「何となく」で動いてしまいがちな部分にも、「それは違う。こういう質感で動いてほしい」というものが必ずあります。それらをひとつずつ体現していくのはとても難しいのですが、それが金森穣さんという振付家のスタイルであり、そこを確実に表現できなければ穣さんの作品ではなくなってしまうのだと思います。でも、今回本当にありがたいのは、穣さんご自身から直接ご指導いただけていることです。振付家がそこにいて、生の言葉で振付の意図やこだわりを聞かせてくださると、作品を理解する深さやイメージの広がりが全然違います。その意味でも、今回はとても大きな経験をさせていただいているなと感じます。

『かぐや姫』リハーサルにて。写真左から:秋山瑛、井関佐和子 Photo:Shoko Matsuhashi

秋山さんは、「かぐや姫」という女の子をどのような人物だと感じていますか?
秋山 元気で、おてんばで、天真爛漫で、喜怒哀楽を素直に出す。私自身もあまり大人しいタイプではないので(笑)、基本的には素の自分に近い気がします。いっぽうで道児と出会って「月の光」のパ・ド・ドゥを踊るところでは、少し大人びた表情も出てきます。本当にいろいろな面をもった魅力的な女の子だと思います。
今回の『かぐや姫』も含め、秋山さんはいま次々と主役など大役を任され、舞台のたびにぐんぐん輝きを増しています。まさに右肩上がりの勢いという言葉がぴったりのご活躍ですね。
秋山 ありがとうございます。自分としては、気がついたらこのように主役を踊らせていただくようになっていた……という感じで、未だに毎回「私で大丈夫なのかな?」という気持ちがあります。でも、『くるみ割り人形』『ドン・キホーテ』『ジゼル』そして今回の『海賊』『かぐや姫』と、技術面でも表現面でもいろいろなタイプの作品に挑戦させていただけて、しかも主役だけでなく群舞もソリスト役もたくさん経験できているおかげで、自分の中の引き出しが着々と増えていっているのを感じます。まだまだ必死に手探りしながらではありますが、いまはそうした引き出しをちょっとずつ活用できるようになってきているところでもあって。こうして踊れる舞台があることに感謝して、一つひとつの作品に、これまで以上に大切に取り組んでいきたいと思っています。

Photo:Mizuho Hasegawa

秋山 瑛 Akira AKIYAMA
埼玉県出身。7歳よりバレエを始める。東京バレエ学校を2012年に卒業後、同年9月より2年間リスボンの国立コンセルヴァトワールに留学。卒業後はイタリアのカンパーニャ・バレット・クラシコに入団。2016年1月東京バレエ団入団。現在ファーストソリスト。2021年9月25日『海賊』全幕主演、11月6日(東京)および20日(新潟)『かぐや姫』主演の予定。

公演情報

東京バレエ団 『かぐや姫』第1幕/『中国の不思議な役人』/『ドリーム・タイム』

【東京公演】

◎日時
2021年11月6日(土)14:00
2021年11月7日(日)14:00

◎会場
東京文化会館(上野)

◎予定されるプログラム(順不同)

『かぐや姫』第1幕 世界初演
音楽:クロード・ドビュッシー
演出振付:金森穣

『中国の不思議な役人』
音楽:ベラ・バルトーク
振付:モーリス・ベジャール

『ドリーム・タイム』
音楽:武満徹
振付:イリ・キリアン

◆上演時間:約2時間15分(休憩含む)

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【新潟公演】

◎日時
2021年11月20日(土)13:00/17:00

◎会場
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 〈劇場〉

◎予定されるプログラム (順不同)

『かぐや姫』第1幕 世界初演
音楽:クロード・ドビュッシー
演出振付:金森穣

『ドリーム・タイム』
音楽:武満徹
振付
:イリ・キリアン

◆上演時間:約1時間30分(休憩含む)

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【詳細・問合せ】
NBSチケットセンター(月-金 10:00~16:00 土日祝・休)
TEL:03-3791-8888
公演ウェブサイトはこちら

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