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【レポート】バレエカンパニーウエストジャパン「ライモンダ」全幕 公演開催記者会見

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写真左から:山本康介、瀬島五月、厚地康雄 ⒸBallet Channel

瀬島五月が代表を務めるバレエカンパニー ウエストジャパン。関西のダンサーを中心に、毎年オーディションで登録ダンサーを選ぶ独特の運営方法で活動をしてきた彼らが、2023年11月23日(木・祝)に第5回記念公演として『ライモンダ』全幕を上演する。“クラシック・バレエの父”マリウス・プティパによる古典の大作ながら、関西はもちろん全国を見渡しても全幕上演される機会が少ない作品に取り組むという大きなチャレンジだ。9月19日に東京で実施された記者会見にて、代表でライモンダ役を踊る瀬島五月、アブデラフマン役の厚地康雄、改訂演出を担う山本康介が登壇、カンパニーのこれまでの活動や『ライモンダ』の演出、取り組み方について、熱く語った。

冒頭に挨拶した瀬島五月が、まずはカンパニー設立の経緯、おもな活動について振り返った。

瀬島はロイヤル・ニュージーランド・バレエでプリンシパルとして活躍後、2003年に帰国、神戸のバレエ団を拠点に舞踊活動を行い、全国各地の舞台に客演する機会を得た。「とくに東京の舞台では、海外の舞台と同様、振付家、バレエ・マスターがしっかりと最後まで責任をもって仕事をする過程に立ち会い、作品に対する知識や大きな学びを得た」という。そのような機会を関西でも持ちたいという願いとともに、バレエダンサーという仕事を職業として成り立たせたいという「日本バレエ界全員の悲願」実現への思いから、バレエカンパニーウエストジャパンを設立したのが2018年。この5年の間に、定期的に公演を重ねてきた。

ⒸBallet Channel

会見ではまず、カンパニーの過去の公演が舞台映像とともに紹介された。

「第1回公演では『パキータ』『ショピニアーナ』、さらに山本康介さんの『椿姫』を上演しました。2020年の第2回公演では、中村祥子さんをお迎えしての『ジゼル』(山本康介版)、私自身はミルタを演じました。2021年の第3回では『椿姫』の再演とともに、森優貴さんの『lucis ortus(ルーキス・オルトゥス)』を上演、私も『M.M.E』という作品を発表しました。昨年11月の第4回公演では私たちにとっては画期的であったジョージ・バランシンの『セレナーデ』。米国より指導者としてイヴ・ローソン先生をお招きしました。この時は、『オーロラの結婚』(山本康介振付)も上演しています。

今回の公演では、第1回公演よりその豊富な知識と経験をダンサーたちに惜しみなく与えてくださり、一緒になってカンパニーを育ててくださった山本さんの『ライモンダ』を上演します。振付が始まってまだ2週間、すごいスピードでできあがってきていて、ダンサーはついていくのに必死という感じです。全員が経験したことのない作品に、興味津々に、試行錯誤しながら取り組んでいます」(瀬島)

瀬島五月 ⒸBallet Channel

その後リハーサル風景の映像も紹介され、振付を担う山本康介自身から、作品の捉え方について説明があった。

「今の映像でご覧いただいたように、キャラクテール、なんですよね。クラシックの要素の中に多国籍、いろんな要素が用いられています。僕なりの見解ではありますが、マリウス・プティパが帝室バレエの集大成として『眠れる森の美女』や『白鳥の湖』をつくり、『くるみ割り人形』が成功したのち、彼がキャリアの終盤に力を入れてつくったものが『ライモンダ』ではないかという気持ちがあります。

今回、僕が『ライモンダ』をやるにあたっては、ロシア・バレエの集大成としての、古い帝室バレエのロシアン・スタイルの真髄というものは残したいと考えました。これは僕がいつも振付をする時にデヴィッド・ビントレーさんからいつも言われていたことですが、「物語があるものでもないものでも、セッティングをはっきりさせなさい。シナリオとセッティングがしっかりすれば、振りは決まってくるから」というアドバイスがいつも頭によぎります。

ヨーロッパでは宗教戦争、十字軍の遠征という歴史の上に国家が成り立っています。イングリッシュ・ナショナル・バレエで上演したタマラ・ロホのヴァージョンはナイチンゲールの物語でしたが、僕はやはり、その時代のセッティングを大きくずらさないで、なるべくプティパのアイディアに基づいて僕流につくっていこうという考えが、だんだん固まってきました」(山本)

古典全幕作品の改訂においては、その上演時間の長さにどう向き合うかという点も問題となる。

「『眠れる森の美女』とか『白鳥の湖』ですら、どんなにダンサーが良くても、どのヴァージョンを観ても、だいたいいつも長いと思ってしまうもの。みなさんが集中してバレエを観ることができる長さ、というものがあると思います。やはり展開がゆっくりなものより、物語が早めに動いて、しかも観ている人の心が同じように動くようなものをつくっていくことが、古典のものを改訂する意義だとあらためて思います。

オーケストレーションや編曲については、実際に指揮をしてくださる冨田実里さんともお話をしながら進めています。作品の醍醐味を残しつつ、いまのお客さん、とくに忙しく暮らしている日本人のニーズに合うように、ふたりの愛の物語に見えるようにしたい。

また、宗教の問題だったり、侵略や征服だったりという部分は、いまの僕たちの生活にちょっと重なってくるところがあると思います。プティパの頃にはエキゾチックとされていた外国の要素が、もう入り乱れて当たり前の時代になってきている。そういう時代に、つねに政治と隣り合わせで、違う文化をいつも取り入れて発展してきたその延長に、バレエの歴史も成り立っているということが、来てくださるお客さんに伝われば。そういうエッセンスも加えつつ、いまは丁寧に作っている段階です」(山本)

山本康介 ⒸBallet Channel

次にアブデラフマン役の厚地康雄が、出演の経緯と舞台への抱負を述べた。

「今回、お話をいただいてすごく光栄でしたが、じつは結構悩んだ部分がありました。というのは、昨年日本に帰ってきてから、主役以外の役はお断りしていたんです。なぜかというと、イギリスでプリンシパルとしてやってきた僕がいちど主役以外の役をやってしまうと、『あ、この人はこういう役もやるんだ』と思われる、それはまだ早いかなと自分の中で思っていました。キャラクターをやるのであれば、もう少し年齢を重ねて、ジャンプやターンで見せられなくなってからでもできると思っていたのです。そんな中でこのお話をいただいたのですが、本当にみなさんの熱量がすごくて、芸術に対して、バレエの未来に向かっての考え方が素晴らしい。瀬島さんからはメッセージをいただきましたし、康介さんからも会うたびに『やってくれへん? やってくれへん?』とずっと言われていましたので(笑)。

このふたりだったら、新しいドアを開いてくれるというか、ある意味ステップアップになるのではないかなと思い、『もちろんやらせてください』とお返事をさせていただきました。ご一緒できるのも嬉しいですし、これでバレエ界が変わっていくだろうという公演に携われて、光栄に思います。

日本の舞台では、王子役を演じることが圧倒的に多いのですが、こういった悪役というか、油ギトギト系の役(笑)というのは、じつはイギリスでは結構任されていた類でもあります。少し違うかもしれませんが、例えば『ロミオとジュリエット』でいえばロミオはもちろんやっていましたが、ティボルトもやっていましたし、『白鳥の湖』では王子もロットバルトもやっていました。あとは、『美女と野獣』の野獣の役や、『ジゼル』のヒラリオン。そこで評価されていた部分もあるので、舞台上で、まだ日本では見せていない表情をお見せすることになるのではと、自分でもいまから楽しみにしています」(厚地)

厚地康雄 ⒸBallet Channel

質疑応答では、出演者やカンパニーのダンサー、カンパニーの方針についてなど、さまざまな話題が飛び出した。おもな内容は以下の通り。

山本康介さんから見て、ダンサーとしての瀬島五月さんの魅力はどんなところにあると思いますか。
山本 五月さんの印象ですが、じつは僕たち、ロイヤル・バレエ・スクールの同級生なんです。なので、学生の頃の級友という感覚が強いです。当時から変わらないのは、軽いリズム感ですよね。あと、フットワークがとても軽いので、いつも踊りにシャープさがあります。お花に例えるとひまわり。いつも笑っている感じで、ネガティブなことを言っているのを聞いたことがありません。
ウエストジャパンのダンサーのみなさんについてはどう感じていらっしゃいますか。
山本 ウエストジャパンのダンサーたちというより、どうしても、関東と関西の違いみたいになってしまうところがあります。やはり東京はずいぶんバレエ団の形態が欧米に近くなってきたというか、かならずバレエ・マスターや振付をセッティングする方がいて、芸術監督がいる。箱としてのバレエ団に所属することで、ダンサーの役割分担が暗黙の了解で分かっている。毎回のリハーサルが、かならずその前のリハーサルの続きから始めることができる状況があると思います。リハーサルとは本来、振付家とかステージングする人がいて、「ここはこうして……」と少しずつ、細かく、丁寧に稽古を積み重ねていくもの。軽くリハをして、本番だけ突然頑張って! というのはあり得ません。そういうことを最初にわかってもらうことや、何が当たり前かという認識を持ってもらうことが、少し苦労する点ですね。そして僕がダンサーの頃は、「あ、これをやってしまった。次はこうしよう」と、反省で学ぶことのほうが多かったので、ダンサーにもキャパシティを与えて、自分で頑張ったという達成感も与えてあげたいなと思っています。
旗揚げの時から瀬島さんが目指し、達成できたなと思われること、手応えを感じられていること、まだまだここからだと感じられていることを伺えればと思います。
瀬島 クラスレッスンはすごく大事にしています。ただ、(ウエストジャパンは年1回の公演の時だけオーディションで集まるカンパニーのため)公演前になって「ようやくここまで来れた」と思っても、1年経つとかなりのことが失われてしまい、もとに戻ってきてしまうということもあります。いまのウエストジャパンのダンサーたちには、質より量みたいな感じで舞台をこなす傾向がある。その忙しさの中で、大事なクオリティが抜け落ちてしまうところもあるのかなと思います。その中でも、バレエの基本的なことは変わらないので、そこは大切に思って取り組んでくれたら、またこれから変わっていけるんじゃないかなと思っています。

ⒸBallet Channel

アブデラフマンは、現代的な視点から見ると少し差別的に描かれているという意味で議論されることのある役かと思います。山本さんは今回、この役の演出の仕方をアップデートすることを考えていますか。
山本 イスラム勢力を統合した国、ヨーロッパに脅威をもたらしたイスラム教徒のサラセンの王子なので、金銀財宝も持って、自分はヨーロッパ人と対等な立場だと思って来る。ただ文化の違いで、アブデラフマンは強い俺についてこいというイスラムらしい男性らしさを残している。ヨーロッパの女性が、そういった違うものに憧れる文化もあったと思うので、男性らしい像として組み込まれたのが、アブデラフマンではなかったのかなと解釈しています。

康雄くん本人はもう本当に油ギトギトの野性的な感じで演じるかもしれませんが、彼のように清潔感があって端正なダンサーがボディランゲージをもって表現することで、お客様により伝わりやすくなるのではないかと思います。悪役とされてはいますが、たまたまジャンと恋敵になってしまうわけですから、悪い人間というふうにはつくりません。たぶん、いまの世の中でいろんな争い事が起こるにしても、受ける教育によってずいぶん考え方が変わってしまうということはあると思います。正しい知識を身につけるとか、道徳心を持つとかいうことをバレエに残すのはすごく大切なことだと思います。

厚地さんが出演することによって、特別にソロをつくる予定はあるのでしょうか。
山本 あります。ソロ以外にも、結構踊ります。まだつくっていませんが、予定では(笑)。僕のヴァージョンでは、ジャン・ド・ブリエンヌは最初には登場せず、アブデラフマンのほうが先に南仏にやってきます。

いまでも南仏を旅行すると、『天空の城ラピュタ』のモデルといわれるような要塞が丘のてっぺんに残されています。イスラム勢力の人たちが攻めてきた時に村の人たちが上に逃げられるようになっているお城が、プロヴァンスやアルデシュ地方に結構多く残っています。イスラム勢力が活発になってきて、人々が身を守れるように村が作られているのがすごく印象に残りました。

中世のフランスといえば、もちろんフランソワ1世の時代以降は装飾品もすごく華やかになりますが、それまでのフランスは意外と質素。『ライモンダ』は十字軍の遠征の頃の物語ですから、たとえば『眠れる森の美女』のように、ヴェルサイユを想像させるようなふわふわとしたイメージよりは、敵が来るとどういうふうに対処するか、ガチッと地に足をつけて暮らしていた人たちをイメージして作っています

ⒸBallet Channel

集まってくる毎回のメンバーは、関西の中ではソリスト級のダンサーばかりですが、ダンサーたちに話を聞くと、ウエストジャパンに参加して、音楽との向き合い方、音楽との付き合い方、感じ方、考え方がすごく変わったという人がいました。その点について、瀬島さん、山本さんのこだわりや、ふだんから口を酸っぱくして伝えていることがあれば教えてください。
瀬島 大事にしていることといえば、きちんとバレエであること、音楽ありきということです。当たり前のことを要求しているだけなのですが、それが、向き合い方が変わるきっかけになったとしたらとても嬉しいことです。もちろん、ダンサー自身の成長も願っていますが、実際、ダンサーたちも小さい子たちを指導していたりしているので、次の世代の子たちにもそういったきちんとしたものを伝えていってほしいっていうのが根底にあります。

山本 やっぱり音楽がすべて、なんですね。音楽へのリスペクトは絶対にあるべきで、それをないがしろにするとか、例えばたくさん回るために音楽を変えたりするというのは、僕も手段としては間違っているかなと思います。『ライモンダ』に関しても、オーケストラの人たちがいるからこそ残っている音楽なので、それは音楽じたいがステップになるということ、音楽じたいがストーリーを表現しているということを、つくる側も踊る側も、やっぱり忘れてはいけないなと思います

ウエストジャパンは固定の団員を持たず、ダンサーたちは登録メンバーとして継続して取り組んでいます。ダンサーたちの継続性について、また出演者の構成などをもう少し教えてください。
瀬島 関西では、一度この教室でバレエを始めたらその先生に一生ついていきます、というような風潮がまだまだあります。この活動を始めるにあたって、そういった小さいバレエ教室で始めた子でも、才能、実力がある人が所属に関係なく参加できるということを大切にしたいと思っていました。そういったプロジェクト的なカンパニーが、バランシンやこういった大きな作品に取り組むということは本当に画期的なことだったと思います。例えば、小さい教室でバレエを始めたら、一生バランシンを踊ることなく終わるバレリーナがほとんどという中で、こうしてバランシン作品の上演に携われたことに、私はすごく喜びを感じ、やってきてよかったと思えたのです。

もちろん、お教室の先生方はじめみなさんのご協力のもとでウエストジャパンの活動が成り立っているということは承知していますので、大きな責任も感じています。ですから参加してもらった以上は、ダンサーたちに少しでも成長してもらえる環境をかならずつくりたいと思って取り組んでいます。

瀬島さんからは観客を育てるというお話もありましたが、「関西にはウエストジャパンがある」という位置付けを目指す時、今後、どんなところをブラッシュアップされていくかという青写真はありますか。
瀬島 関西ではやはり『白鳥の湖』や『ドン・キホーテ』といった有名な作品がよく上演されていますが、ウエストジャパンではあえて、『ライモンダ』のように、あまり上演されない作品を紹介したいと考えています。東京のようにいろんな公演があるわけではなく、いろんなものに触れる機会が関西では少ないので、ほかの団体がやらないような作品をぜひ紹介したいと思っています。

ⒸBallet Channel

公演情報

バレエカンパニー ウエストジャパン 第5回記念公演
『ライモンダ』全幕

日時:2023年11月23日(木・祝) 15時開演(14時15分開場)

会場:神戸文化ホール 大ホール (兵庫県神中央区楠町4‐2‐2)
西神・山手線 大倉山駅より徒歩1分、JR神戸駅より徒歩10分

演目:『ライモンダ』全幕

原振付:マリウス・プティパ
音楽:アレクサンドル・クラズノフ
改訂演出・補足振付:山本康介

出演
ジャン・ド・ブリエンヌ:アンドリュー・エルフィンストン
ライモンダ:瀬島五月
アブデラフマン:厚地康雄(特別出演 元英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ プリンシパル)ほか

指揮:冨田実里
演奏:神戸フィルハーモニック

チケット料金:S席10,000円 A席8,000円 B席6,000円 C席3,000円
※4歳以上入場可

主催:一般社団法人Ballet Company West Japan
後援:兵庫県、神戸市、兵庫県教育委員会、神戸市教育委員会、神戸新聞社、公益財団法人日本バレエ協会、兵庫県洋舞家協会

公式サイトこちら

©Ballet Channel

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