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【音楽つき!】山本康介×冨田実里×瀬島五月「ライモンダ」(バレエカンパニーウエストジャパン)クロストーク〜輝かしい音楽、ドラマのある踊り。人間が生み出す音と動きをぜひ劇場で

阿部さや子 Sayako ABE

バレエカンパニーウエストジャパンの朝のクラスレッスン風景 ©️Ballet Channel

神戸を拠点に活動するバレエダンサー瀬島五月が代表を務めるバレエカンパニーウエストジャパン」(以下「ウエストジャパン」)。関西圏のダンサーたちが本格的なクリエイションを体験できる場を作ること、そして「日本バレエ界の悲願」である「バレエダンサーを職業として成立させる」ことを目標に、2018年に創設された団体です。以来、毎年オーディションで登録ダンサーを選抜し、年1回の定期公演を実現してきた同カンパニーが、2023年11月23日(木・祝)、第5回記念公演として『ライモンダ』全幕を上演します。

『ライモンダ』は、“クラシック・バレエの父”マリウス・プティパが手がけた最後の古典大作であり、アレクサンドル・グラズノフによる色彩豊かな音楽も、多くのファンに愛されています。にも関わらず、関西はもちろん全国を見渡しても、全幕上演される機会が少ない作品

この注目の公演を前に、本作の改訂演出・振付を担う元バーミンガム・ロイヤル・バレエの山本康介さん、指揮を務める冨田実里さん、そしてウエストジャパン代表で本作のタイトルロールを踊る瀬島五月さんのクロストークが実現!

グラズノフの音楽の特徴や魅力、作品の見どころ・聴きどころ、さらには音楽性を育むためのアドバイスまで、たっぷりお話を聞きました。

左から、山本康介さん(改訂演出・振付)、瀬島五月さん(ライモンダ役/ウエストジャパン代表)、冨田実里さん(指揮)

Photos:©️Ballet Channel

すべての楽器を輝かせる。その美しい響きが「ライモンダ」の魅力

山本康介さん、冨田実里さん、そして瀬島五月さん、今日はよろしくお願いします!
一同 よろしくお願いします!
山本康介さんはかねてより「いつか『ライモンダ』全幕を手がけてみたい」とおっしゃっていました。それがまさに叶う時がきましたね。
山本 作品をつくる時、僕にインスピレーションを与えてくれるのは音楽です。幼い頃にバレエを習い始めた時から、そして英国で踊るようになってからもずっと、僕は「バレエのステップとは音楽そのものであるべきだ」ということを学んできました。バレエとは音楽ありきのもの。だから振付をするようになったいまも、作りたいと思うのは音楽的な魅力の高い作品です。なかでも「こんなに音楽が素晴らしいのに、どうしてあまりポピュラーではないんだろう?」と多くの人が感じている幕物に挑戦してみたいとずっと思っていて、それが僕にとっては『ライモンダ』でした。
「バレエとは音楽ありき」。今日はぜひその「音楽」に注目して、『ライモンダ』の魅力や見どころ・聴きどころについて深掘りできたらと思っています。まずはみなさんの思う、グラズノフの音楽の特徴や魅力とは?
山本 例えばチャイコフスキーの音楽と比べて大きく違うなと思うのは、グラズノフの音楽って、ピアノではあまりよく聴こえないんですよ。

冨田 ああ、鋭い。素晴らしい。

山本 つまりグラズノフは、弦楽器や管楽器などすべての楽器の特徴をキラキラと輝かせていている。それによって生まれる叙情性が、彼の音楽の魅力だと思うんです。だからフルオーケストラで上演することがとても大切。劇場でその音楽を体感したら、誰もがきっとその素晴らしさに感動する。

取材開始5分にしてもう今日の結論をいただいた気分です……。
山本 グラズノフの「四季」という楽曲が用いられた、フレデリック・アシュトン振付の『誕生日の贈り物』もそう。最初にキラキラした軽快な音楽が始まって、そこに流れるような旋律が加わっていったところで幕が上がる。それだけでもう「わあ……」と胸がいっぱいになる。
確かに。
山本 そしてグラズノフの音楽って、おしゃべりするような音楽でもある。目に映る風景をそのまま音楽にして語りかけてくるような感じ、というのでしょうか。しかもそれは自分の足で歩いて見て回る景色ではなくて、飛行機や船の中から俯瞰するような景色。高貴で壮大に広がる景色がそのまま音楽になっているような印象があって、それも僕にとっては大きな魅力です。

冨田 康介さんはとても鋭いことをおっしゃっていると思います。チャイコフスキーはあのメロディそのものが聴く人の心を打つので、ピアノ1台で演奏しても、充分ドラマティックに響くんですよ。対するグラズノフの音楽的な魅力として真っ先に挙げたいのは、オーケストレーションの豊かさです。チャイコフスキーがバレエ音楽の集大成として書いた『くるみ割り人形』が1892年で、グラズノフの『ライモンダ』が発表されたのはそれから6年後の1898年。ロシア帝室バレエが頂点に達した時代ですから、音楽的にも豪華絢爛、輝きと色彩感に満ちています

冨田さんは、2021年6月に新国立劇場バレエ団がアレクセイ・バクランさんの指揮で『ライモンダ』全幕を上演した際、副指揮を務めていたそうですね?
冨田 はい。自分で全幕を振るのは、今回のウエストジャパン公演が初めてです。『ライモンダ』を演奏するのは本当に難しいんですよ。とにかく音が多いので譜読みが大変なうえに、和音の重ね方がチャイコフスキーよりも複雑になっていたり、転調が多かったり。だからこそグラズノフならではの美しい響きや、キラキラと装飾的な音色が生まれているわけですけれど。

ヒロインは、斜めに進みながら身の上を語る

いち観客として『ライモンダ』全幕を劇場で観た時、オーケストラピットからあふれてくるキラキラした音の洪水があまりに美しくて、思わず涙が出そうになったのを思い出します。聴けば聴くほど名曲揃いの『ライモンダ』ですが、この山本康介版ではいくつかの楽曲をカットしたり切り詰めたりして、上演時間をキュッと凝縮させるそうですね?
冨田 例えば『眠れる森の美女』の上演時間が1890年の初演当時は5時間ほどだったというのは有名な話ですが、現代の私たちはもはやそういう時間感覚の中では生きていません。時代によって、適正なテンポ感や時間の感覚が変化していくのは抗えないこと。作曲家が書いたものをできる限り尊重しつつ、いまの感覚で作品を捉え直していくのも必要なことだと感じています。

山本 以前『くるみ割り人形』で冨田さんと一緒に仕事をした時、楽譜を見ていたら、アダージオのテンポが「アンダンテ」つまり「歩くような速度で」と書かれてあって。ふたりで「チャイコフスキーの時代の歩く速度ってどのくらいだったんだろう?」と話したことがありました。歩く速さひとつとっても、いまの僕たちのほうが間違いなく速くなっている。だから今回の『ライモンダ』も当初はかなりたくさん曲をカットするつもりだったのだけど、最終的には想定より多く曲数を残すことにしました。役や物語のために必要な音楽を整理していくと、「やっぱりこれはカットできないな」というものが意外と多かったから。ただ、同じ曲が繰り返されるところは「ああ、またこの曲か……」という印象にならないように割愛したのと、1幕の夢の場でライモンダが踊るソロは思いきってカットしました。

夢の場のソロというと、最近ではコンクールなどでもおなじみの曲ですね。
山本 そうです。あの曲は楽譜の原版には入っておらず、後から挿入されたものだと聞いて、カットすることにしました。というのも、僕のプロダクションで重要なのはソロを見せることではないので。夢の場はあくまでも、ライモンダが愛するジャンを思い続けていることを描写するシーン。そこに悪い予感としてアブデラフマンが立ち現れます。
それから第3幕の結婚式のグラン・パ・クラシックも、『パキータ』みたいにソロが続くかたちにはしていません。

ウエストジャパン『ライモンダ』のリハーサル。第1幕、“悪い予感”とはいえ素敵すぎるアブデラフマン(厚地康雄)が立ち現れる……

つまりプティパのバレエにあるディヴェルティスマン的な要素はできるだけ削ぎ落として、あくまでも物語バレエとして作っている、ということでしょうか?
山本 そうですね。幕物である以上、そこは重視しています。ただ作品の構成として、物語が展開するのは第1幕と第2幕で、第3幕は踊りが中心。それでも単に踊りの羅列ではなくて、結婚を祝いにきた人たちの踊りとしてストーリーの中に位置付けるようにはしていますね。
逆に、絶対にカットし得ない超重要曲というのもありますか?
山本 第1幕の間奏曲でしょうか。有名な曲ですが、やっぱり僕も大好きなんですよ。間奏曲ですから本来は踊るところではないけれど、僕はライモンダがジャンから贈られたヴェールを手に、彼のことを思いながら踊る場面にしました。バレエ作品が、生きている時代や性別などの違いを超えて観る人の心を動かせるとしたら、それは愛する人を一途に思う気持ちとか、それを支えてくれる周りの友情とか、「人間が生きるって素敵だな」と思わせてくれるドラマ性の部分だと思うんですね。だから僕自身も心を動かされるような良曲は、自然とそういうドラマの描写に当てている気がします。

↑第1幕の間奏曲。静かな感動が胸に広がっていきます……

ライモンダの婚約者、ジャン・ド・ブリエンヌ役を演じるアンドリュー・エルフィンストンさん。ストイックにバー・レッスンに臨む姿がすでに勇敢な騎士のよう……

冨田 重要な曲はいろいろとありますけれど、とくに全幕のバレエ音楽には、各キャラクターと結びついたテーマ曲があるんですね。これはチャイコフスキーと同じやり方なのですが、ある登場人物が出てきた時に、その人のテーマ音楽が流れるようになっている。そしてそれらがいろいろな曲調に変化したり発展したりして、物語が紡がれていく。全幕バレエの音楽を聴く時には、ぜひそこに耳を傾けてほしいなといつも思っています。

山本 『ライモンダ』の場合、とくにアブデラフマンのテーマは必聴 

冨田 そう、アブデラフマンのテーマはすごくわかりやすいですね。エキゾチックで、聴けばすぐに「アブデラフマンが出てくるんだな」とわかるようなテーマになっています。そしてそのテーマが、時に激しく攻め立ててきたり、かと思えばとても優しく響いたりする

山本 怪しいと思いながらもずっと聴いてしまうような魅力がある。

冨田 
素敵な男性であることが、音楽からも伝わってきますよね。

↑アブデラフマンのテーマ。怪しくも抗いがたい魅惑のメロディ!

愛するジャンがいない間に、情熱のアブデラフマンが迫ってくる……ライモンダ、危うし!

冨田 
もうひとつ注目していただきたいのは、3幕のライモンダのソロ。いわゆる「手打ちのソロ」と言われるヴァリエーション曲です。1曲まるごとピアノソロが大活躍するところがバレエ音楽としては珍しいのですが、それはおそらく、ハンガリーの民族楽器であるツィンバロンの奏法を採っているのではないかと思うんです。ツィンバロンは台形の箱に張られた弦を2本のバチで叩いて演奏する楽器で、長い音を持続させたい時はタタタタタタタ……と連打するのですが、あのライモンダのソロも、タンタカタタタタタタタ……とピアノが同じ音を連打しますよね。場面的にもハンガリー風の祝祭のシーンですから、ハンガリーの雰囲気を表現するためにあの曲が書かれたのかなと想像しています。

↑おなじみ、第3幕ライモンダの「手打ちのヴァリエーション」。ぜひ手を打ちながらお聴きください

あの「手打ちのソロ」の曲については、ぜひお話を聞きたいと思っていました。第3幕は結婚式の場面。ずっと壮麗で晴れやかな音楽で彩られているのに、あのライモンダのソロだけいきなり曲調がやや暗く重たい印象になるのはなぜなんだろう?と。
山本 これは僕の見解ですが、マリウス・プティパのバレエって、女性の主役が舞台を斜めに移動しながら踊るところに、必ず彼女の身の上話が入るんですよ。例えば『眠れる森の美女』だったら、第3幕のオーロラのソロの中盤に、両手をくるくる返しながら舞台上手奥から下手前方へ斜めに進むところがありますよね。あそこは「私はこのバラに囲まれてずっと眠っていました」と語っている。あるいは『白鳥の湖』第2幕のオデットのソロには、斜めに進んでは後ろに戻る動きを繰り返すところがありますが、そこは「月に向かって飛んでいきたいけれど、悪魔の呪いでここにとどまらなくてはいけない」という悲しい身の上を伝えているのだと思います。そしてこの『ライモンダ』第3幕のソロは、彼女が愛するジャンと結ばれる日を夢見てずっと待ち続けてきた道のりを、ハンガリー王や客人たちに対する敬意を払いながらお話ししている踊りだと僕は考えています。あのタタタタタタタ……と同じ音が連打されたり同じフレーズが繰り返されたりする音楽に、愛する人を待ち続けたライモンダの人生や思いが表れていると思う。

ヒロインたちはディアゴナルで人生を語る……なるほど!

あのソロは振付も独特ですよね。華やかなテクニックではなく、孤高の存在感みたいなもので圧倒していく。他の古典作品と大きく異なる、『ライモンダ』ならではの特徴だと感じます。
山本 難しいソロです。基礎的な動きでがっちり固められていて、音楽も長い。

冨田 派手な動きがないからこそ難しい。

山本 やはりこれは帝室バレエの時代の、出てきただけで拍手が沸き起こるようなバレリーナのために振付けられたものだなと思います。

もうひとつ、「1曲選んで」系の質問を。『ライモンダ』のなかで、みなさんが「たまらなく好き」と思う1曲はどれですか?
山本 僕が「好き!」と思うのは、第1幕に出てくるこの音楽。

↑第1幕、「客人たちの退場」「シーン・ミミック」等と呼ばれる曲です

山本 僕はもう、『ライモンダ』と言えばここなんです。このメロディがすごく好き。とてもグラズノフらしいし、十字軍に遠征する騎士ジャン・ド・ブリエンヌと、どっしりした石造りの建物の中で待っているライモンダの姿が浮かんでくる

冨田 なるほど、このグランドな感じが。

山本 石造りの階段の前を、鎧を着けた騎士がガシャン、ガシャンと歩いていく。そんな情景が目に浮かぶ音楽だと思う。優雅で勇ましい

冨田 私はやはり全曲好きなので難しいのですが、ひとつ挙げるなら、1幕・夢の場のヴァイオリンソロの曲

↑こちらも「ライモンダ」の有名曲のひとつ

山本 ああ、グラン・アダージオ。

冨田 そう、グラン・アダージオ。この曲は、ヴァイオリンソロの名曲としてリサイタルなどでも演奏されることがあるんですよ。聴くたびに、「ああ、いい曲だな」と思います。

山本 今回の公演のポスターは、この曲で踊るパ・ド・ドゥのポーズで撮影したんですよ。その場面が、全幕を通しての肝になると思ったから。

瀬島 私は、第1幕のグラン・ワルツが大好きです。

↑今回の山本康介版では華やかな群舞の見せ場になっているもよう!

瀬島 個人的な思い入れなのですが、英国ロイヤル・バレエ・スクールに留学していた頃、レッスンでピアニストさんがこの曲を弾いてくださったことがあって。それに合わせてワルツを踊ったのがすごく楽しかったから、楽譜を買って、日本に持って帰ったんですよ。そしてこちらのバレエピアニストさんに「この曲を弾いてもらえませんか?」って頼んだりもしていました。だから今回の公演で再び踊れるのが本当に嬉しいんです。

音楽と踊りの呼吸が舞台上で調和する。それがバレエの真髄だと思う

今回ライモンダ役を踊る瀬島さんは、ここまでのお話を聞いてどのように感じますか?
瀬島 役を演じるためには、ダンサー自身が動きや音楽を解釈したり、自分の内側から感情を出したりすることが必要です。でも、かといって自分の気持ちだけで踊ろうとすると、必ずどこかで限界が来てしまう。ですから今日こうして音楽のことや振付の意味を伺えたのはとてもありがたいですし、あらためて覚悟を決めなくては、とも感じています。

山本 ダンサーが自分なりに考えて解釈することは良いことなんだけれども、それ以上に優先するべきなのは音楽だと僕は思う。バーミンガム・ロイヤル・バレエで踊っていた頃、当時の芸術監督だったデヴィッド・ビントレーはいつも「自分の気持ちよりも、正しい音楽で正しいことをしなさい」と言っていました。音楽に対して忠実であることが、自動的にその役柄を作っていくからと。

瀬島 自分の感情だけでは、物語や役をお客様に伝えることはできないですよね。

山本 語弊を恐れずに言えば、たとえ踊りが80パーセントになったとしても、生演奏の音楽と一緒に踊ったほうがバレエの良さは伝わると僕は思います。

第1幕、ジャンから贈られたヴェールを手に踊る場面をリハーサルする山本康介さんと瀬島五月さん

冨田 康介さんはいつも音楽を最大限にリスペクトして、この音楽だからこそこの振付、というものを作ってくださる。だから私も指揮をしていてすごく気持ちがいいし、この音楽にこの振りを付けてくれてありがとう、っていう気持ちになるんですよ。先ほど、第1幕の間奏曲にライモンダの心情を描写する振りを付けたとおっしゃっていましたけれど、間奏曲というのは場面と場面の間に挿入された曲のこと。本来は音楽だけを楽しむためのものであるところに、康介さんは観る人を夢の場の世界に誘(いざな)うべく、ムーヴメントを付けたわけですよね。そういう試みは音楽家として大いに歓迎したいですし、それも音楽に対するひとつのリスペクトの仕方だと私は思います。

山本 だって、あの間奏曲は本当に綺麗だから。物語に関係ないからといってカットするには、あまりにもったいない。

冨田 例えば『眠れる森の美女』第2幕の間奏曲にしても、あの曲の美しさに心を震わせた振付家たちが「何とかこれを踊りにしたい」と思って、「目覚めのパ・ド・ドゥ」のような踊りを生み出していった。それはすごく素敵なことだと思います。同時に、ダンサーやバレエファンのみなさんには、それらがもともとは間奏曲であるということも知っておいていただけたら嬉しいです。

ウエストジャパンは昨年の第4回公演から冨田さん指揮によるオーケストラの生演奏つきで上演するようになりましたが、ダンサーたちの踊りに変化はありましたか?
瀬島 ガラッと変わりましたね。ウエストジャパンを立ち上げた当初から私がダンサーたちに伝えたいと思ってきたのは、「バレエとは単に美しいポーズの連続ではない」ということです。音楽と共鳴して踊ること、自分の身体から音楽が鳴っているかのように踊ることこそが大事だと。ただ、関西のダンサーのなかにはオーケストラの生演奏で踊るのが初めてという人ももちろんいますから、それがなかなか伝わりきれないもどかしさがずっとあったんです。でも冨田さん指揮によるオーケストラ演奏つきでバランシンの『セレナーデ』を上演した時、ダンサーたちの踊りが一変しました。きっと一人ひとりが、その舞台の上で、「いま自分は音楽と一緒に生きている」と実感したのだと思います。私自身もそうですが、音楽と一体になれた瞬間って、本当に幸せなんですよ。なぜ自分は踊っているのか、その理由がしみじみわかるというか。

冨田 私が初めて海外で指揮をさせていただいた時、いちばん驚いたのは「呼吸感」でした。音楽も踊りと同じで人間がその場で生み出すものですから、その時どきで呼吸が変わって当たり前。でもふだんから常に生の音楽で踊っているダンサーたちは、変わりゆく呼吸に瞬時に反応して、スッと音と一体になれてしまうんです。それぞれに変化する音楽の呼吸と踊りの呼吸が、舞台の上で美しく調和する。そこにバレエの真髄があるのだと私は思います。

山本 僕らは生演奏で踊る経験をたくさん積んできたから、たとえ録音音源で踊っていても「オーケストラならこう聴こえる」というのが想像できる。でもその経験がないダンサーたちには難しいと思う。

しかし日本の現実として、ピアノの生演奏でレッスンできるスタジオは決して多いとは言えず、オーケストラの生演奏付きのバレエ公演を観に行ける機会も、とくに地方では限られているかと思います。そうした状況のなかで、お三方がおっしゃるような音楽性を育むにはどうすれば良いのでしょうか。
山本 僕のアドバイスは、自分で音楽を聴きに行くことだと思う。テレビやスマホみたいに勝手に鳴る音に囲まれるのではなく、誰かの演奏を自分で聴きに行くこと。自ら聴こうとする姿勢が、音楽を聴ける身体や感性を育むのだと思います。

冨田 なるほど。おっしゃるとおりですね。

山本 大事なのは、人間が出す音をどれだけ集中して聴くかだと思います。機械が作る音ではなくて。

公演情報

バレエカンパニー ウエストジャパン 第5回記念公演
『ライモンダ』全幕

日時:2023年11月23日(木・祝) 15時開演(14時15分開場)

会場:神戸文化ホール 大ホール (兵庫県神中央区楠町4‐2‐2)
西神・山手線 大倉山駅より徒歩1分、JR神戸駅より徒歩10分

演目:『ライモンダ』全幕

原振付:マリウス・プティパ
音楽:アレクサンドル・クラズノフ
改訂演出・補足振付:山本康介

出演
ジャン・ド・ブリエンヌ:アンドリュー・エルフィンストン
ライモンダ:瀬島五月
アブデラフマン:厚地康雄(特別出演 元英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ プリンシパル)ほか

指揮:冨田実里
演奏:神戸フィルハーモニック

チケット料金:S席10,000円 A席8,000円 B席6,000円 C席3,000円
※4歳以上入場可

主催:一般社団法人Ballet Company West Japan
後援:兵庫県、神戸市、兵庫県教育委員会、神戸市教育委員会、神戸新聞社、公益財団法人日本バレエ協会、兵庫県洋舞家協会

公式サイトこちら

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