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【フォト&インタビュー】瀬島五月「ダンサーが“アーティスト”になるために必要な場を」〜バレエカンパニーウエストジャパン「ジゼル」の稽古場から(3)

阿部さや子 Sayako ABE

バレエカンパニーウエストジャパン(BCWJ)朝のクラス・レッスン風景 ©︎瀬戸秀美

「関西に、より良い舞台と環境を」。

2018年、関西で舞踊活動をしているダンサーを中心にしたバレエ団体「バレエカンパニーウエストジャパン」(BCWJ)が結成されました。

代表はバレエダンサーの瀬島五月さん。瀬島さんは英国ロイヤル・バレエ・スクールで学び、ロイヤル・ニュージーランド・バレエに入団、プリンシパル・ソリストとして活躍。帰国後は貞松・浜田バレエ団のプリマ・バレリーナとして約15年間踊ったのち、BCWJを立ち上げました。

現在は公演ごとにダンサーを募り、オーディションで出演者を選抜。2019年の第1回公演の成功に続き、2020年11月23日(月祝)に上演される第2回公演では、同団体初の全幕となる『ジゼル』を上演します。
演出・振付を手がけるのは元バーミンガム・ロイヤル・バレエの山本康介さん。
ジゼル役にはゲストとして中村祥子さんを迎え、アルブレヒト役はBCWJのメンバーであるアンドリュー・エルフィンストンさん、そしてミルタ役は瀬島五月さんが踊ります。

中村祥子(ジゼル)、アンドリュー・エルフィンストン(アルブレヒト)©︎瀬戸秀美

瀬島五月(写真中央:ミルタ役)©︎瀬戸秀美

本番を間近に控えた11月上旬、神戸文化ホールのリハーサル室で行われていた稽古のようすを取材。
朝10時30分のクラス開始から夜7時半ごろまで続いたリハーサルのあと、中村祥子さん、山本康介さん、瀬島五月さんの3名にお話を聞きました。

Interviews

写真(すべて):瀬戸秀美

【Interview】瀬島五月「ダンサーが“アーティスト”になるために必要な場を」

本日はリハーサルを取材させていただきありがとうございました。このBallet Company West Japan(バレエカンパニーウエストジャパン/以降BCWJ)は、どのようなダンサーたちで構成されているのでしょうか?
瀬島 基本的にはどこかのお教室やバレエ団に所属したりしていて、そこで教えなどをしながら舞台出演も続けているというような人たちがメインです。そういうダンサーが関西にはたくさんいるので、公演ごとにオーディションをして、一緒に舞台を作るメンバーを集めています。
貞松・浜田バレエ団で踊っていた瀬島さんの、踊る楽しさや喜びが全身からあふれ出るような舞台姿が今でも強く印象に残っています。その瀬島さんがダンサーとして踊ることを主軸にしていたところから離れ、「関西により良い舞台と環境を」とBCWJを立ち上げた経緯を聞かせてください。
瀬島 私は貞松・浜田バレエ団で踊っていた時から同学園のほうで教えもしていて、発表会などの機会には生徒たちに振付をし、小さいながらもひとつの作品世界を作り上げていくことに面白さを感じていました。もちろん自分の踊りで何かを伝えたいという気持ちは今もありますが、ダンサーとして舞台に立つだけではなく、自分が表現したいことを作品全体として観客に伝えようとしたならば、いったいどれくらいのことができるだろう? そうしたことにも、ずっと興味がありました。
また、やはり団体に所属していれば、その団体のやり方に従わなくてはいけません。たとえば「自分はこう思う」ということがあっても、「いいえ、こうしなさい」と言われれば、それに従わなくてはいけない。ですからいつか、自分でゼロから企画して、すみずみまで納得できる公演を作ってみたい。自分自身が本当に心から「このバレエがいい!」と思えるような環境で公演をしてみたい、という気持ちも芽生えていました。

瀬島さん自身が振付を手がけることもありますか?
瀬島 はい、振付も徐々に勉強していけたらと思っています。2020年12月27日(日)に上演する「瀬島五月 フレンズ ガラ 『LOVE to DANCE』」でも私の振付作品を入れていますし、来年予定している「トリプル・ビル」でも1作品作るつもりです。振り返ってみても、小さい頃から振付を考えることが好きで、小学校の時などはバレエを習っていない友だちにお楽しみ会の振付をしたりしていました(笑)。見せ方を考えることじたいが楽しかったんですね。
BCWJは「関西に、より良い舞台と環境を」ということを標榜していますが、現時点での関西の芸術環境に決定的に足りていないものは何だと思われますか?
瀬島 あちこちの公演を観に行って思うのは、やはりまだ発表会的なところから抜け出せていない舞台が多い、ということです。どうしてもチケットノルマというものがあるので、出演者が手売りをして、その人の知り合いが観にきてくれる。するとどんなことでも「良かったよ」で終わってしまう、その繰り返しなのかな……と。こうした事情とも関係しているのかもしれませんが、ダンサーが「舞台で楽しめたらそれでいい」というところで満足してしまっているというか、「頑張って練習した、舞台にのった、楽しく踊れた、よかった」で完結している舞台が多いように見えるんですね。そうではなくて、観客に何を見せたかったのか、それをどれだけ見せられたのか、どれだけ伝えられたのか。そういうところまで、ダンサーや舞台を作る人たちの考えが及ぶようになるといいな……と思います。

瀬島 だから将来的には、やはりバレエが職業として成り立っていくようにしたい。バレエ公演は制作にすごくお金がかかるので、舞台で踊る対価をチケット代金としていただくことだけでは賄えません。けれど、やはり需要と供給がひとつの輪のようにきちんと繋がるためには、舞台の質の高さが必須です。質の高い舞台を提供しなくては、需要が生まれるわけがないので。ですからまずはそれぞれのダンサーがきちんとアーティストになって表現する、そのステージで何かを感じるためにお客様が観に来る、という関係を作らないといけないと思っています。
このBCWJも、いまはみなさんが応援してくださっていますけれど、あまり価値のない舞台を重ねてしまうとしたら、それはもう活動する意味がありません。日本のバレエダンサー全体の意識やレベルが変わって、「職業=ダンサー」と認められるようになること。それが最終的な目標ではありますが、私が生きているうちに叶うとは思っていないんです(笑)。ただ、BCWJがそのスタートのひとつになればいいなという思いでやっています。

「ダンサーがアーティストになる」ためには、何が必要だと思いますか?
瀬島 “クリエーションの場”だと思います。学びたくないダンサーって、ひとりもいないんです。今回の『ジゼル』もそうですが、こうしたクリエーションの場を与えると、ダンサーたちは学びや気づきを得て、自分自身と向き合い、そこで深く考えたことが踊りに繋がっていく。そうした経験を重ねてもらうことが、まずは何より大事なのではないでしょうか。

「ジゼル」演出振付の山本康介氏から指導を受けるコール・ド・バレエのダンサーたち

それはきっと、瀬島さんご自身の経験から得た確信なのでしょうね。
瀬島 はい、その通りです。外国のカンパニーは日本とは違って、ちゃんとプロダクションがあって、きちんと振付家が来てステージングされます。そして本番の数日前から劇場に入って舞台稽古をするのですが、その時間がとても大切で。劇場って、舞台セットなどが組まれていくにつれて、異空間に変わるんです。その中にポンと身を置いた時、それまでリハーサル室では発見できなかった自分が見えるんですよ。「ああ、この役はこういうことだったんだ」「振付家が描きたかったのはこういう世界だったのか」ということが、一瞬でパン!と理解できる。そういう瞬間を、ダンサーたちにはできる限りたくさん体験してほしいと思っています。

いっぽうで、「日本のバレエ環境では、踊るだけでは食べていけない。だからダンサーたちがプロフェッショナルとしての意識や誇りをなかなか持てないのだ」という意見もあると思いますが、それについてはどう思われますか。
瀬島 たとえば日本でも男性ダンサーは、発表会の客演など“踊ること”で生活が成り立っている人もいるんです。だからといって彼ら全員がプロフェッショナルかと言ったら、私はそうは思いません。お金にならない女性ダンサーのほうがむしろプロフェッショナルであろうとしていると感じることが多いです。だから、やっぱりお金だけの問題ではないと思います。自分の踊りに対価が発生する、そのことに責任を持っていくというのは本当に難しいことです。

最後に今回の『ジゼル』について聞かせください。まず中村祥子さんをゲストに迎えようと思ったきっかけは?
瀬島 本当は第1回公演のときからずっとお招きしたかったんです。ダンサーたちに、プロフェッショナルのダンサーがどのようにリハーサルに取り組み、作品に向き合っているのかというものを、ぜひ間近で見て欲しかったので。そして真にプロフェッショナルなダンサーは誰かと考えたら、中村祥子さんしかいない、と。それが今回ようやく実現したかたちです。
瀬島さんご自身もミルタ役として祥子さんと共演されるわけですが、同じバレエダンサーの目から見て、祥子さんのダンサーとしての特徴や魅力とはどんなところにあると感じますか?
瀬島 本当に1ミリ単位、あるいはもっともっと細かいところまでこだわり、追求をやめないところが素晴らしいなと思います。『ジゼル』のような隙のない舞台では、その良さが最も顕著に出てくるのではないでしょうか。
瀬島さんのミルタも、ジャンプの着地音がまったくしない見事な踊りで驚きました!
瀬島 今日は床に柔らかいものを敷いていただいていたから、というのもありますけれど……(笑)、昔からそれはよく褒めていただくところで、ありがたく思っています。

今後の公演

BalletCompany WestJapan Presents
瀬島五月 フレンズ ガラ 「LOVE to DANCE」

日時 2020年12月27日(日)18時30分開演
会場 兵庫/神戸文化ホール 大ホール
詳細 https://bc-westjapan.com/performance/

※第2回公演『ジゼル』(2020年11月23日)の劇場鑑賞チケットは完売、オンライン配信チケットも販売終了しています

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