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【動画レポート】Kバレエカンパニー「くるみ割り人形」堀内將平×塚田真夕×吉光美緒リハーサル&クロストーク

阿部さや子 Sayako ABE

2020年12月2日(水)よりKバレエカンパニー『くるみ割り人形』が開幕! 今年は東京・渋谷のオーチャードホールで全9公演が上演されるのに加え、12月5日(土)17:00〜の回にはオンラインライブ配信が、そしてクリスマス・イブの24日(木)には全国41ヵ所のユナイテッド・シネマ系映画館にてディレイビューイングも上映されます。

主演を務める4組のキャストのうち、今秋プリンシパルに昇格したばかりの堀内將平(くるみ割り人形/王子)と新星・塚田真夕(マリー姫)による第2幕グラン・パ・ド・ドゥのリハーサル風景を上記動画でレポート。
甘くて少し切ない音楽に、きらめくようなステップをちりばめていく2人のデュエット。コーダ(4:30〜)での堀内の美しいアラベスクや塚田の爽快なグラン・フェッテにもぜひ注目を。

堀内將平、塚田真夕 ©︎Hidemi Seto

また、堀内・塚田の主演回にクララ役を演じる吉光美緒を加えたフレッシュな3人に、この熊川哲也版『くるみ割り人形』の魅力を聞きました。

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【クロストーク】堀内將平×塚田真夕×吉光美緒〜「『くるみ割り人形』のココが好き!」

左から:堀内將平、塚田真夕、吉光美緒 ©︎Ballet Channel

――今日は12月3日(木)マチネと4日(金)ソワレに主演するお三方、くるみ割り人形/王子役の堀内將平さん、マリー姫役の塚田真夕さん、クララ役の吉光美緒さんにお越しいただきました。最初にひと言……堀内さん、プリンシパル昇格おめでとうございます!

堀内 ありがとうございます。

――先月の『海賊』で主役のコンラッドを踊った日(10月17日)、そのカーテンコールの舞台上で熊川哲也芸術監督から昇格が告げられました。プリンシパルになって1ヵ月が過ぎたいまのご気分は?

堀内 以前よりも周囲から注目されることが少し増えたとは思いますが、基本的には今までと何も変わりません。日々の稽古への取り組み方も、食事や睡眠など生活面での自己管理も、いただいた役と真摯に向き合っていくことも。これまで通り、一つひとつのことを大切に行いながら精進していきたいと思います。

――あらためまして、ここからはKバレエ版『くるみ割り人形』の魅力を伺っていきたいと思います。『くるみ』といえばもうクリスマスシーズンの風物詩的な演目ですが、みなさんそれぞれ、ご自身の役どころをどのようにとらえて演じているか、聞かせていただけますか。

吉光 『くるみ割り人形』は2019年夏のKバレエユース公演でマリー姫を踊らせていただいたのですが、クララ役を演じるのは今回が初めてです。クララはとても純粋で、起こったことに対してすごく素直に反応する女の子。でもねずみたちにさらわれたくるみ割り人形を取り返すため、自分の意志で時計の中に入っていくような強さもあります。冒険しながらどんどん成長していく、演じがいのある役です。
塚田 私もKバレエユース公演でマリ―姫を演じたのですが、カンパニーの本公演では初役ですし、今回が主役デビューでもあります。Kバレエのマリー姫は、魔法でねずみの姿に変えられていたところを、純粋なクララが世界一硬いクラカトゥクくるみを割ってくれたおかげで元の美しい姿に戻る、という設定。私は、マリー姫も純粋で清らかな心を持っているからこそ、クララと意思が通じ合うのだと思っていて。このマリーとクララの関係性は他のバレエ団のバージョンと大きく違うところのひとつなので、個人的にも大好きですし、大切に演じたい部分です。
堀内 僕は、くるみ割り人形/王子役を演じるのは今回が2度目です。一般的にいうと、王子役は特徴が出しにくくて、単調な印象になりやすいんですね。『白鳥の湖』の王子ならドラマがあって感情も上下するけれど、『眠れる森の美女』や多くの『くるみ割り人形』の王子にはそれがない。でもKバレエ版の場合は、王子として登場する前に、くるみ割り人形としての物語があります。そして王子の姿に変わってからの衣裳にも、兵隊だった時の名残みたいなデザインがあしらわれている。そうした特徴が、この役を演じる手がかりになるのかなと思っています。

――Kバレエ版『くるみ』には思わず息を飲む素敵なシーンがたくさんありますが、みなさんのお気に入りの場面は?

塚田 私は、くるみ割り人形率いるおもちゃの兵隊たちとねずみの王様の戦いのあと、クララとくるみ割り人形とドロッセルマイヤーの3人で踊るパ・ド・トロワのシーンがいちばん大好きです!
吉光 私もです!

クララとくるみ割り人形とドロッセルマイヤーのパ・ド・トロワ ©︎Ayumu Gombi

塚田 その後の雪の場面も。細かいところですが、雪がいっぱい降ったあとに4人のソリストが円を作る瞬間とか。それから少しさかのぼりますがクリスマスツリーが大きくなるシーンも……細かくいったらもう数えきれないくらい、好きな場面があります。
堀内 Kバレエ版の『くるみ』は舞台装置を転換する場面そのものが見どころですよね。僕は幕開き早々に、まるでドールハウスが開いていくみたいに物語が始まるところもすごく好きだし、ツリーが大きくなっていく場面の、ドロッセルマイヤーが夢の世界を引っ張り出してくるようなダイナミックさも素晴らしいと思う。実際あのシーンのドロッセルマイヤーは、いつもちょっとうらやましいなと思いながら見ています(笑)。あと、僕が個人的にいちばん好きなのは雪の場面です。クララとくるみ割り人形とドロッセルマイヤーのパ・ド・トロワが終わり、青い幕がスパン!と降りたら一面の雪。音楽はものすごく速いし、その上ステップは一般的な版の倍くらい入っているし、降ってくる雪の量も尋常じゃないけれど(笑)、踊るのも観るのも大好きなシーンです。

ドロッセルマイヤーの不思議な力でツリーがみるみる大きくなっていく……。写真は今回もドロッセルマイヤーを演じる杉野慧 ©️Hidemi Seto

 ――Kバレエ版の降雪量の多さはバレエファンの間でも有名(?!)です。
堀内 しかも年々増えてきていますから(笑)。目の前も床上のバミリ(目印)も何も見えなくて踊るのは大変ですが、あの雪の場面は世界一だなと思います。

雪の場面。舞台が一瞬にしてこの白銀の世界に変わる美しさは必見……! ©︎Hidemi Seto

吉光 私は、ねずみたちとの戦いが終わって、クララが一瞬だけだけど初めて王子の素顔を見るシーンも大好きです。なんてかっこいいんだろう……って、本当に気持ちが入るというか、演じていて胸がいっぱいになります。あと細かいのですが、その前にドロッセルマイヤーが、クララに「時計を見て」ってするところ。ドロッセルマイヤーの強い力に操られていくような、不思議な感覚になります。

これはくるみ割り人形率いるおもちゃの兵隊たちとねずみたちの戦いの場面。ねずみ軍は手強いけれど、ふさふさの毛並みが可愛くてどこか憎めない ©︎Ayumu Gombi

――作品世界を内側から体感しているみなさんだからこその細かなツボがこんなにも……! そのいっぽうでテクニック的にはとても難しそうな踊りが詰まっているように見えますが、実際のところはどうですか?

塚田 全部難しいです……。
堀内 僕自身が踊ったことのある役でいうと、主役、雪の王、花のワルツのソリストは、もうとにかく体力的に非常につらいです。そして例えば『海賊』のような作品は勢いや芝居的な要素で押していけるところがあるのに対して、『くるみ』のように王道的な古典作品となると、一つひとつのステップを美しく正確に終わらせることが必要。そのごまかしのきかなさが何より難しいですね。

堀内將平 ©︎Hidemi Seto

塚田 私もまず、体力がいちばんの問題で……。マリー姫の大きな出番は第2幕のグラン・パ・ド・ドゥだけなのですが、その十数分が、まるで短距離走みたいに詰め詰めなんです。アダージオが終わって、男性ヴァリエーションが意外と短いので、体を整える時間がほとんどないまま自分のヴァリエーションが始まります。そこからが、体力勝負の山場。足の裏も「何かが棲みついてるのかな?」と思うくらい頻繁に攣ってしまいますし……。振付的にも細かな足さばきのパートと上体を大きく使うパートが交互に波打つような構成なので、動きの切り替えもすごく難しいです。

塚田真夕 ©︎Hidemi Seto

吉光 クララは“踊り”というより“演技”が難しいです。お客様に伝わるように演じなくてはいけないけれど、やりすぎると不自然になる。感情を入れなくてはいけないけれど、どの音で何をするかは決まっていて、すべての演技を音楽のなかにきちんと収めなくてはいけません。クララの演技が自然に見えないと、お客様に物語が伝わらない。責任重大だなと痛感しています。

吉光美緒(写真はフランス人形を踊った時のもの)©︎Hidemi Seto

――『くるみ割り人形』にはとてもユニークなキャラクターが本当にたくさん登場します。みなさんのお気に入りの役を聞かせてください。

堀内 僕はやはり、断然、雪の王が大好きです。先ほども言ったように踊るのは本当に大変ですけど、印象的な見せ場のあるいい役だと思う。幕がバン!と落ちたらそこにいるという登場の仕方には、『ドン・キホーテ』のエスパーダや『カルメン』のエスカミーリョにも通じるものがあります

堀内將平(雪の王)©︎Hidemi Seto

――考えてもみませんでしたが、発想を変えると確かにエスパーダ感がありますね……(笑)! 塚田さん、吉光さんはどうですか?

塚田 私はもう絶対にクララです。昨年2公演ほど踊らせていただいたのですが、意識して「役になりきろう」と思わなくても、あの舞台に立ったら、自然にクララになることができて。演じていて本当に楽しめました。
吉光 真夕さんの真似をするわけではないのですが(笑)、私もやはりクララです。実際に演じてみると、想像していたよりもずっと難しくて大変ではあるのですが、それでもやっぱりいちばん好きな役です。

――音楽についても聞かせてください。チャイコフスキー三大バレエの中で最後に書かれた『くるみ割り人形』には斬新さも円熟味もある素晴らしい楽曲がひしめいていますが、みなさんはとくにどの曲が好きですか?

堀内 僕はオープニングの序曲がいちばん好きです。タ~タラタ~タラ♪と聞こえてくると、「ああ、クリスマスが来た!」と。ただしそのテンションは年によって違っていて、「うわあ、来た……」となる時もありますが(笑)。
塚田 私は雪のワルツです。プライベートでも聴くくらい好き。
堀内 もしかして歌うの……?「アーアーアーアアー」って。
塚田 いえ、歌いはしません(笑)。でも昨年は『くるみ』が終わって次の公演が始まっているのに、それでもずっと電車の中で雪のワルツを聴いていたんですよ。雪のソリストを踊らせていただいて、体力もきついし音も速いし振付は難しいし、本当に大変な思い出と結びついているはずなのに。しかも、Kバレエバージョンのあの速いテンポの演奏が好きです。

雪の場面のリハーサル ©︎Hidemi Seto

堀内 Kバレエ版は他の曲も速いからね。花のワルツもすごく速い。
塚田 フィナーレのワルツも速いです。でも、そこがいいんですよね。
吉光 私は、先ほども言ったパ・ド・トロワの曲がいちばん好きです。一般的には「クララと王子のアダージオ」とか「松林の踊り」と呼ばれる曲ですね。あとはドロッセルマイヤーが魔法をかけてクリスマスツリーが大きくなる場面の音楽も、舞台を目の当たりにした時の感動を思い出して鳥肌が立つような感覚になります。

クリスマスツリーが大きくなり、いよいよクララの冒険が始まります……! ©︎Ayumu Gombi

――最後に、観客や読者のみなさんにメッセージをお願いします。

吉光 このような難しい状況のなか、劇場へ足を運んでくださる方に「観に来て良かった」と思っていただけるように、そしてクララと一緒に『くるみ』の世界を楽しんでいただけるように、頑張ります。
塚田 コロナで本当に誰もが大変な時期だと思います。『くるみ割り人形』はたった2時間ほどのステージですが、その2時間だけは楽しくて幸せな世界に引き込めるように、私たちも精一杯踊ります。
堀内 観てくださるみなさまの気持ちが少しでも軽くなるような舞台をお届けしたいです。そして僕もそうだったのですが、子どもたちにとっては初めて見るバレエがこの『くるみ割り人形』になることも多いと思うんです。そんな子たちに、「バレエって素敵だな」「こういう舞台で踊りたいな」「こういうダンサーになりたいな」といった夢を与えられたら嬉しいですね。

 

公演情報

Kバレエカンパニー『くるみ割り人形』

日程 2020年12月2日(水)~12月6日(日)
会場 Bunkamuraオーチャードホール
詳細 https://www.k-ballet.co.jp/contents/2020nutcracker

?12/5(土)17:00〜 オンラインライブ配信あり(24時間アーカイブ配信付き)
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?12/24(木)ディレイビューイング(全国41ヵ所ユナイテッド・シネマ系にて)
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©︎Hidemi Seto

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