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【レポート】栗原ゆう×沖香菜子 オーロラトーク〈上野の森バレエホリデイ2025〉

青木かれん Karen AOKI

2025年4月24日から29日まで東京文化会館で開催された「上野の森バレエホリデイ2025」にて、「栗原ゆう×沖香菜子 オーロラトーク」(4/28)が行われました。

ゲストは英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団ファーストソリストの栗原ゆうさんと東京バレエ団プリンシパルの沖香菜子さん。栗原さんは6月20日から始まる英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の日本公演で『眠れる森の美女』に主演予定、沖さんも「上野の森バレエホリデイ」会期中に上演された東京バレエ団『眠れる森の美女』でオーロラ姫を踊り、6月14日の大津公演でも主演を務めました 。司会の山本康介さん(元バーミンガム・ロイヤル・バレエ団ファーストソリスト)を迎え、オーロラ姫の視点で語る『眠れる森の美女』の見どころや、二人のバレエのキャリアなど、1時間にわたって語り尽くしました。

(左から)山本康介、栗原ゆう、沖香菜子 ©Ballet Channel

まずは、「オーロラ姫をはじめて演じたのは?」という質問から。
栗原さんはBRBの2023/2024シーズンの春に行われたツアーで、オーロラ姫デビュー。「ピーター・ライト版の『眠れる森の美女』の40周年を記念した年に踊ることができて、とても嬉しかったです」(栗原)
沖さんは東京バレエ団に入団して2年目の年に、子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』ではじめてオーロラ姫を演じ、2023年に新制作された『眠れる森の美女』で全幕デビューを果たしました。「全幕の制作は秋にスタートしたのですが、振り写しもリハーサルもとても短い期間で行われました。さらに『かぐや姫』の全幕も同時進行していたので、新制作が2ヵ月も続くようなスケジュールでした」(沖)

続いて「オーロラ姫を演じるうえで心がけていること」について。「全幕を通して、オーロラ姫の変化を表現するように意識している」と沖さんは話します。「眠っていたとはいえ、彼女にとっては100年もの時間が流れている。ですから、目覚める前と後とでは同じ“オーロラ姫”ではないと思います。王子との出会いで、きっとこれまでとは違う思いが芽生えたはずです」。

東京バレエ団「眠れる森の美女」第1幕より沖香菜子(オーロラ姫)©Shoko Matsuhashi

いっぽう栗原さんは「オーロラ姫の成長」を意識しているそう。「品格とエレガントさがありながら少しワイルドな第1幕から、幻想的で匂い立つような美しさの第2幕。そして第3幕では、100年の眠りから覚めたオーロラ姫が、みんなを率いていくような頼りがいのある人格へとステップアップしていく。それを表現するだけでなく、音楽と一体になりながら、テクニックのクオリティを保ち、ストーリーの展開を伝えていくことも求められます。難しい部分はたくさんありますが、公演ごとに自分の感情に合わせ、少しずつ遊びを加えるようにして表現を追求するのがおもしろいです」。

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ「眠れる森の美女」第3幕より栗原ゆう(オーロラ姫)、ラクラン・モナハン(王子)©Tristram Kenton

「オーロラ姫の成長と聞いて思い出すのは、第1幕の登場シーンの音楽のこと」と山本さん。「チャイコフスキーの音楽には、プリマが登場する直前に不穏な和音が入り、ボリュームが大きくなった後に一転して静かになる演出があります。バレエになじみのない人でも“この後に主役が出てくるんだな”とわかる組み立てになっているんです。オーロラ姫の登場の音楽もそう。だから舞台に立っている側のダンサーも一緒になって緊張してしまう。僕はあの曲が流れると、なんだか落ち着かない気持ちになってしまいます(笑)」。
山本さんは第1幕のオーロラ姫のヴァリエーションについても触れ、「ゆったりとした音楽に合わせて、最初に第1アラベスクを見せるのが印象的。振付をしたマリウス・プティパは、オーロラ姫もプリンセスのたしなみとしてバレエを習っていたと設定して、稽古らしい踊りを意識して第1アラベスクを入れたと言われています。そして王様と王妃様に稽古の成果を披露するように、ピルエットの前につま先を前にのばす動き(ポイント)を入れたそうです」と話しました。

第2幕に登場する森の妖精をイメージして、緑を基調としたコーディネートを組んだと山本康介さん ©Ballet Channel

「いちばん好きな場面」については、三人三様、身振り手振りを交えながらトークを展開。
「第3幕のオーロラ姫のヴァリエーションで、舞台の上手奥から斜め前に進むところが好きです。アームスを下からだんだんと上げていく特徴的な振付には、オーロラ姫が小さい頃から現在までの育っていった過程が描かれていると解釈しています。踊りながら『私はこうやって大きくなったんだ』と思えて、嬉しかったです」(沖)
「マリウス・プティパが振付けるプリマのソロには、斜めに進むシーンが必ず入りますよね。オーロラ姫のヴァリエーションも、育った過程を表現していると教える先生もいれば、『私はバラに囲まれて眠っていました』と教える先生もいたりと、さまざまなニュアンスがあります。振付の一つひとつに込められたストーリーを感じながら踊ることで、お客さまに伝わるものも増えると思います」(山本)

東京バレエ団「眠れる森の美女」第3幕より 沖香菜子(オーロラ姫)©Shoko Matsuhashi

「私が好きなのは、第2幕の幻想の場面でオーロラ姫が登場するシーン。妖精たちに囲まれていたところがふわっと裂けて、中からオーロラ姫が現れる美しい演出です。その瞬間に音がなくなって、色と空気がパッと変わったような感覚になります」(栗原)

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ「眠れる森の美女」第2幕より 栗原ゆう(オーロラ姫)©Tristram Kenton

イベントも中盤に入ったところで、トークテーマは二人のバレエのキャリアへと移りました。印象的だったのは「これまでのバレエ人生を振り返って、良かったと思うことは?」という質問について。
小さい頃からバレエのほかにピアノを習い、クラシック音楽が好きだったという栗原さんは、「イギリスに留学したことで、音楽性豊かな作品に触れ、音の使い方が巧みなダンサーに出会うことができたのが良かったと思います」。怪我をして踊れなかった時期もあったそうですが、「自分を見つめなおすきっかけになり、精神的にも肉体的にも強くなったので、いい方向に活かされました」と話しました。

トーク中の栗原ゆうさん ©Ballet Channel

現在一児の母でもある沖さんは、「出産はバレエにいちばん打ち込めなかった時期で、もどかしい気持ちはありました。でもそのおかげで考える時間もできた」と振り返りました。「出産後の体型の変化に対応するのは大変でしたが、身体の使い方を研究できました。自分ではわからないのですが、踊りが変わったと先生方に言っていただくことも。私にとって出産はひとつの転機だったように思います」。

トーク中の沖香菜子さん ©Ballet Channel

その後、それぞれのカンパニーの特徴やバレエとの向き合い方などについて熱く語り、あっという間に1時間が経過。客席から登壇者3名に向けて温かな拍手が送られ、イベントは終了しました。

思わず笑いがこぼれる一幕も ©Ballet Channel

【イベントDATA】

栗原ゆう×沖香菜子 オーロラトーク

登壇者:栗原 ゆう(英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団ファーストソリスト)
沖 香菜子(東京バレエ団プリンシパル)
司会:山本 康介(元英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団ファーストソリスト)

衣裳提供:TOCCA

日程:4月27日(日)12:40〜13:40
会場:東京文化会館 小ホール
主催:NBS日本舞台芸術振興会「上野の森バレエホリデイ2025」
イベント詳細はこちら

公演情報

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団
2025年日本公演
「眠れる森の美女」
「シンデレラ」

「眠れる森の美女」全3幕・プロローグ付き
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
振付:マリウス・プティパ/レフ・イワーノフ/ピーター・ライト
演出:ピーター・ライト
装置・衣裳:フィリップ・プラウズ
オリジナル照明:マーク・ジョナサン

【東京公演】
6月20日(金)18:30
オーロラ姫:エリサ・バデネス(シュツットガルト・バレエ団プリンシパル)
王子:マチアス・ディングマン

6月21日(土)14:00
オーロラ姫:栗原ゆう
王子:ラクラン・モナハン

6月22日(日)14:00
オーロラ姫:エリサ・バデネス(シュツットガルト・バレエ団プリンシパル)
王子:マチアス・ディングマン

会場:東京文化会館 大ホール

■他都市公演
【堺公演】
7月2日(土)
会場:フェニーチェ堺 大ホール

【名古屋公演】
7月5日(土)14:00
会場:愛知県芸術劇場 大ホール

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「シンデレラ」全3幕
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
振付:デヴィッド・ビントリー
美術:ジョン・F・マクファーレン
照明:デヴィッド・A・フィン

6月27日(金)19:00
シンデレラ:平田 桃子
王子:マチアス・ディングマン

6月28日(土) 14:00
シンデレラ:ベアトリス・パルマ
王子:マックス・マズレン

6月29日(日)14:00
シンデレラ:平田 桃子
王子:マチアス・ディングマン

会場:東京文化会館 大ホール

 

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団 2025年日本公演
詳細・その他の公演情報はこちら

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