ウィーン国立バレエ専属ピアニストとして、バレエダンサーを音楽の力で支えている滝澤志野さん。
彼女は日々の稽古場で、どんな思いを込め、どんな音楽を奏でているのでしょうか。
“バレエピアニスト”というプロフェッショナルから見たヨーロッパのバレエやダンサーの“いま”について、志野さん自身の言葉で綴っていただく月1連載。
日記の最後には、志野さんがバレエ団で弾いている曲の中から“今月の1曲”を選び、バレエチャンネルをご覧のみなさんのためだけに演奏した動画も掲載します。
美しいピアノの音色とともに、ぜひお楽しみください。
新シリーズCDが発売になります
今月末、いよいよ、新譜「Dear Tchaikovsky〜Music for Ballet Class」が発売になります。作曲家シリーズCDの一作め、チャイコフスキーの名曲を集めたレッスンCDが新たに生まれようとしています。
新シリーズなので、ジャケットもガラッと雰囲気が変わりました。 何パターンかサンプルを作って見せていただいたのですが、制作スタッフも私も「これが一番好き!」と第一印象で意見が一致したものが採用になりました。
芸術でも家づくりでも料理でもすべての「ものづくり」がそうだと思うのですが、ものづくりの源はエネルギー。こんなものが作りたい、という憧れ、想い。3枚の「ドラマティック」シリーズCDを作ってきたなか、新たに作曲家に焦点を当てたシリーズを作りたいという想いが芽生えたのは3年ほど前でしょうか。胸に生まれた秘かな想いを自問自答しながら大切に育てて、やがてそれが「志」になり。そして、タイミングが整い、周りの方に助けられて夢が現実になる。それは簡単なことではなく、産みの苦しみもついてきますが、そうして生まれた作品が自分たちの手を離れてお嫁にいこうとしているいま、感動もひとしおです。
さて、これまでリリースしてきた3枚の「ドラマティック」シリーズCDでは、ライナーノーツとして全曲の楽曲解説を自分で書いてきたのですが、今回はなんと、音楽評論家の林田直樹さんが書いてくださることになりました。そもそも私は、林田さんのインターネットラジオ、彼の書くエッセイのファンでした。そのことを阿部さや子プロデューサーに話していたわけでもないのに、こんな人選をしていただけるなんて……これはどういう奇跡でしょうか。バレエにお詳しく、美しい目線で魅力的な文章を紡がれる林田さん。こんな贅沢なレッスンCDがあっていいのでしょうか、と悶えてしまいます。
林田直樹さんと阿部さや子プロデューサーとのZoom会議の様子
ほか、ブックレットには私のインタビューや録音時の写真、監修の永橋あゆみさんの動画も載せられています。レッスンCDに添付するものとしてはあり得ない、全12ページのブックレットという豪華さです。
レコーディング風景
『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』『オネーギン』『アンナ・カレーニナ』『テーマとヴァリエーション』『ジュエルズ』『アレグロ・ブリランテ』 『セレナーデ』……。私がバレエピアニストとして生きてきたなかで出逢った美しい音楽が、その思い出も含めて胸から溢れそうになり、ピアノを通して誰かに伝えたい、という気持ちが形になりました。『眠り』プロローグの妖精たちの登場から始まり、最後は『ジュエルズ』のフィナーレで〆たい。4日の練習で公演に代役ジャンプインした「ピアノ協奏曲」も入れたい。ボーナストラックには、楽曲の完成度から『くるみ割り人形』第2幕グラン・パ・ド・ドゥのアダージオを選び、ノーカット収録しました。
『ジュエルズ』よりダイヤモンド
『オネーギン』
『アレグロ・ブリランテ』で弾いたチャイコフスキー「ピアノ協奏曲」
それ以外にも、交響曲、ピアノ協奏曲、ピアノ小品、オペラなど、チャイコフスキーの様々なジャンルの珠玉の名曲を花束のように集めているのですが、これらすべてがピアノで演奏されているCDはほとんど例がありません。その特異性も手伝い、劇場のオーケストラ団員の方までCDを予約してくれています。
バレエ『眠れる森の美女』公演では、私はオケピでピアノパートを弾いてきました。じつは『眠り』のピアノパートは第3幕にしかありません。「宝石の踊り」に始まり、グラン・パ・ド・ドゥのアダージオ、そしてアポテオーズにピアノが加わるのですが、ピアノの音がオーケストラに加わると、音の粒が宝石のようにキラッと光るんですよね。美しいカットのダイヤモンドが角度を変えたらキラキラ光るように。チャイコフスキーはピアノの音色にそんなイメージを抱いていたのではないでしょうか。私は、ピアノの音色が世界で一番美しく、ダイヤモンドやクリスタルのようだと感じています。 そんなピアノに対する想いが、チャイコフスキーと一致している気がするのです。そして、彼の曲をピアノで演奏すると、オーケストラで演奏するのとはまた違う透明感ある輝きが放たれる気がします。
♪
さて、少し余談になるのですが、いつだったか、不思議な力を持った方に出逢い、私の前世について話していただいたことがあります。その話が印象深く、もしかすると私の本質に迫ってるのかもしれないと思ったので、紹介してみたいと思います。
その方いわく、私は何度か芸術家として生を受け、輪廻転生してきた過去があるのだそうです。中世に芸術家として生きていた時「芸術が人の役に立つのだろうか」と疑問を持っていたそう。そして次に生まれ変わったのが中国の田舎。芸術とは程遠い生活ではあったけれど、学校の先生が素晴らしい芸術の存在を教えてくれたそうです。「そんな世界を見てみたい、味わってみたい。いつか」と思いながら夢を果たせず死んでしまいました。そして、いま。私は日本に生まれ、芸術を追求してウィーンにやってきて、ご存知の通り、芸術に没頭する日々を送っています。 欧州に生まれず日本に生まれたのは、芸術を求めて憧れの場所に自ら行くことに意味があり、それができる環境に生まれたのだそうです。なんと壮大な話でしょうか!!(笑)
ウィーンでは、それまで遠いと思っていたロシアの芸術文化にも出逢いました。ウィーン国立バレエは歴史的にロシア人ダンサーが多く、才能きらめく仲良しのピアニストもロシア人。ここでロシアの芸術文化も自分の目線で見つめてきて、肌で感じてきました。輪廻転生をするなかで、ひとつのテーマについて追求する魂だとしたら。私は次の人生にどんなバトンを持っていくか分からないけど、今の芸術家人生を全うする義務があるのだと、そんな風に感じます。
だいぶ話が飛躍しましたが、新しいCDがみなさまに愛されるものでありますよう。チャイコフスキーの素晴らしさを分かちあえることを幸せに思います。
今月の1曲
さて、今回の音楽日記の目玉はこちらの動画になります! CDの紹介動画を特別に作っていただきました。撮影は阿部プロデューサーと新書館チーム、編集は平野絢士さんです。
CDに収めた32曲のなかから15曲をダイジェストでご紹介しています。こんな動画も自分ひとりの力では作れないので、ひとつのものをみんなで作り上げることの喜びをあらためて感じています。私たちの気持ちがみなさまに届きますように。
動画撮影:新書館
動画編集:平野絢士
2021年4月20日 滝澤志野
★次回更新は2021年5月20日(木)の予定です
2021年4月発売予定!
Dear Tchaikovsky(ディア・チャイコフスキー)〜Music for Ballet Class
ウィーン国立バレエ専属ピアニスト 滝澤志野
ベストセラーCD「ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス」でおなじみ、ウィーン国立バレエ専属ピアニスト・滝澤志野の新シリーズ・レッスンCDが誕生!
バレエで最も重要な作曲家、チャイコフスキーの美しき名曲ばかりを集めてクラス用にアレンジ。
バレエ音楽はもちろん、オペラ、管弦楽、ピアノ小品etc….
心揺さぶられるメロディで踊る、幸福な時間(ひととき)を。
●ピアノ演奏:滝澤志野
●監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:3,960円(税込)
★収録曲など詳細はこちらをご覧ください
- ドラマティック・ミュージック・フォー・バレエ・クラス1&2&3 滝澤志野 Dramatic Music for Ballet Class Shino Takizawa (CD)
- バレエショップを中心にベストセラーとなっている、滝澤志野さんのレッスンCD。Vol.1では「椿姫」「オネーギン」「ロミオとジュリエット」「マノン」「マイヤリング」など、ドラマティック・バレエ作品の曲を中心にアレンジ。Vol.2には「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「オネーギン」「シルヴィア」「アザー・ダンス」などを収録。Vol.3ではおなじみのバレエ曲のほか「ミー&マイガール」や「シカゴ」といったミュージカルナンバーや「リベルタンゴ」など、ウィーンのダンサーたちのお気に入りの曲をセレクト。ピアノの生演奏でレッスンしているかのような臨場感あふれるサウンドにこだわった、初・中級からプロフェッショナル・レベルまで使用可能なレッスン曲集です。
- ●ピアノ演奏:滝澤志野
●Vol.2、Vol.3監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:各3,960円(税込)