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【第21回】ウィーンのバレエピアニスト 〜滝澤志野の音楽日記〜新しい年の始まりに想うこと。

滝澤 志野

ウィーン国立バレエ専属ピアニストとして、バレエダンサーを音楽の力で支えている滝澤志野さん。
彼女は日々の稽古場で、どんな思いを込め、どんな音楽を奏でているのでしょうか。

“バレエピアニスト”というプロフェッショナルから見たヨーロッパのバレエやダンサーの“いま”について、志野さん自身の言葉で綴っていただく月1連載。
日記の最後には、志野さんがバレエ団で弾いている曲の中から“今月の1曲”を選び、バレエチャンネルをご覧のみなさんのためだけに演奏した動画も掲載します。

美しいピアノの音色とともに、ぜひお楽しみください。

2021年、未来を想う

新年、2021年になりましたね。その響きは、とても近未来的なもののように思えるけれど、こんな「未来」がくるなんて思いもしなかったと、劇場で稽古前に行われるコロナ抗原検査の列に当たり前のように並びながら考えていました。

ウィーンでは依然、昨年11月からのロックダウンが続いていて、私たちは週3回検査を受けながら劇場で稽古する日々が続いています。公演は少なくとも3月までは再開されず、見通しが立たないまま、それでもいつ幕が開いても良いように粛々と稽古しています。例年、この季節はとても忙しく、クリスマスもお正月も連休になった試しがないのですが、今年は時短業務のため、1週間の休みがありました。これは日本でフリーランスとして働いていた時も含めて初めてのこと! 市場に年末の買い出しに行き、海の幸をたっぷり買い込んで、おせち料理も作りました。

そして、ウィーンから1時間のゼメリンクの雪山にも遊びに行ってきました。

冬休みが欲しいとずっと願っていたのが、こんな形で叶うなんて。
コロナ禍になり、ままならないことや苦しいことも大きいですが、別の視点から見ると、立ち止まって自分の居場所、生き方や習慣を見つめ直す良い機会にもなっているのではと思うのです。人生は一度きりだから、本当に生きたいように生きなければ、と。

新国立劇場に憧れて

先日、新国立劇場バレエ団「ニューイヤー・バレエ」のライブ配信を早起きして観ました。実力派揃いで華やかで見ごたえたっぷりの『パキータ』、情感溢れる第2部のコンテンポラリー作品、そして2010年の初演に携わった、思い出深く大好きな『ペンギン・カフェ』。新春に相応しく華やかで、かつ「時代」に呼応していて今の私たちの気持ちにぴったり寄り添っているように感じ、朝から存分に楽しませてもらいました。コロナ禍で起こった良い変化は、世界のどこにいても、見たいもの、欲しいもの、逢いたい人にアクセスしやすくなったことですよね。朝から愛しのバレエ団の公演を楽しみ、ご機嫌で出勤してクラスで『パキータ』を弾き、『リーズの結婚』の稽古を弾き。ああ、繋がっている。生命に対する深い愛とメッセージ性を持つ『ペンギン・カフェ』と、生命賛歌を高らかにうたう『リーズの結婚』がこんなふうに繋がったことに、ひとり静かに感動していたのでした。

2017年『リーズの結婚』稽古にて

新国立劇場バレエ団は、ウィーンに来るまで7年弱、契約ピアニストとして働いていたバレエ団です。もとはといえば、このバレエ団に大きな憧れを抱いていたのです。当日券のZ席を買うために、毎回始発で劇場へ行って並んだ思い出。初めて観た演目が吉田都さんの『シンデレラ』公演で、あまりにも美しい鑑賞体験に感激し、いつかここのピアニストになりたいと天井桟敷でひそかに夢みていたこと。バレエピアニストのパイオニアであられる米田ゆりさんがオケピで演奏されていた『ライモンダ』のソロの美しい音色。昨日のことのようにいろんなことが思い出されます。劇場の香りも……。

音大在学中だったその頃、嘱託演奏員として演劇科のバレエクラスを受け持ったことでバレエ伴奏と出逢いました。担当教師が東京シティ・バレエ団の現芸術監督である安達悦子先生だったということが、私の幸運の第一歩でした。「ピアニストとして生きていく、舞台芸術に携わりたい」ということは、揺るぎないものとして胸にあったのですが、「それは他のどこでもなく、新国立劇場で」ということが具体的に心の夢ノートに書き込まれました。それから数年、横浜のバレエ教室で修行を積ませてもらい、自信がついてきた頃、新国立劇場に電話をしました。

一番の夢しか叶わない

ウィーンに来たこともそうですが、自分が本当にビビッときた夢は、根拠なくとも、そうなるものとして自分で先に決定してしまう癖があるようです。その想いは揺るぎなく強いものでなければダメで、なので私は、新国立劇場とウィーン国立歌劇場以外のバレエ団の就活は全滅しています(笑)。東京じゅうのバレエ団に電話して、たったひとつ、新国立劇場だけが「どうぞ履歴書を送ってください、弾きにいらしてください」と言ってくださったのです。欧州もそう。一番の夢しか叶わない。本命一本釣りです。

新国立劇場で初めて観た作品に関わることができました。2010年シンデレラ公演

あの頃の未来に立つ

劇場の天井桟敷で夢みていた頃から約20年の月日が流れました。ウィーンに拠点を移してからは10年です。じつは10年経ってもなお、新国立劇場と毎年契約を更新していただいています。夏に帰国した際に弾きに来られるように、と配慮してくださっているのです。私の憧れのバレエ団は今でもなお憧れで、大好きな劇場で、ここに帰ってくるたびに天井桟敷で夢みていた自分に戻れるようです。(ずっと新人気分でいます。恐れ多くてダンサーさんとあまり話せない!笑)

あの頃の私は今の自分をどんな風に見ているでしょうか。

あの頃の未来に立っている今、また10年先、20年先の未来を夢みて、何かを決定していかなければいけない。先に書いた、「人生は一度きりだから、本当に生きたいように生きなければ」という想い。自由にやりたいことをやるというのは、じつは楽なことではありません。何かを変えるということは何かを捨てることでもあり、新しい世界に飛び込むのはリスクもあります。責任を自分で負わなければいけません。愚痴をこぼしながらも、今の場所にい続けることのほうが楽なのでしょう。今の職場の去就ということではなく、もっと視野を広く、自由にワイルドに生きたい。そして、そうしなければいけない。そんな風に思う、2021年お正月。

コロナ禍もあり、否応なくいろんな変化が訪れますが、それを将来的に良い波にするかどうかは自分しだい。愛するふたつの劇場と出逢えたような奇跡は、自分の人生にはもう起こらないかもしれない。でも、日々より良い人生を思い描きながら生きていけると楽しいですよね。10年後、20年後の未来の自分が、いい顔でいられるように。

2021年、良い一年を歩んでいきましょう。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

雪景色のウィーンより、愛を込めて

今月の1曲

今、バレエ団で稽古している『リーズの結婚』。どんなに落ち込んでいたとしても、これを弾いていると笑顔になれる。コミカルなラブストーリーに込められた生命賛歌。オペラに詳しい方なら驚くことでしょう、ドニゼッティやロッシーニのアリアや重唱のメロディ(パロディ??)があちらこちらに出てくる作品なのですが、この曲は『リーズ』オリジナル。第1幕のファニー・エルスラー・パ・ド・ドゥのアダージオを。じんわり幸せいっぱいのシーンを味わってくださいね。
(※1月18日、劇場の公演再開の延期が発表され、『リーズの結婚』は全公演中止となってしまいました。来シーズン、同じキャストで上演できるよう願いつつ……)

2017年『リーズの結婚』稽古風景 ナターシャ・マイヤー、ダヴィデ・ダト

2021年1月20日 滝澤志野

★次回更新は2021年2月20日(土)の予定です

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ウィーン国立バレエ専属ピアニスト 滝澤志野

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●ピアノ演奏:滝澤志野
●Vol.2監修:永橋あゆみ(谷桃子バレエ団 プリンシパル)
●発売元:新書館
●価格:各3,960円(税込)

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

大阪府出身。桐朋学園大学短期大学部ピアノ専攻卒業、同学部専攻科修了。2004年より新国立劇場バレエ団のピアニスト。2011年よりウィーン国立バレエ専属ピアニストに就任。 レッスンCD「Dramatic Music for Ballet Class」Vol.1、2をリリース(共に新書館)。国内のバレエショップを中心にベストセラーとなっている。

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