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【インタビュー】特集:Kバレエカンパニー「白鳥の湖」②〜小林美奈×栗山廉「自分の心が動けば、相手の心も動く。ドラマで学んだことを活かして踊りたい」

阿部さや子 Sayako ABE

Videographer:Kazuki Yamakura

2021年3月24日(水)、Kバレエカンパニー『白鳥の湖』が開幕する。

昨年ベテランプリンシパルたちがカンパニーを“卒業”して、大きな世代交代が行われたKバレエ。今回はまさに、カンパニーのこれからを担っていく新たなスターたちが華を競う舞台となる。

また、Kバレエカンパニーが全面協力して大きな話題となったNHKBSプレミアムドラマ『カンパニー〜逆転のスワン〜』も先ごろ最終回を迎えたばかりとあり、今回の公演には、ドラマをきっかけにバレエに興味を持った観客も多く訪れるという。

バレエチャンネル〈特集:Kバレエカンパニー『白鳥の湖』〉、第2弾は同ドラマに出演し、今回の公演でも主役オデット/オディールを踊る小林美奈とロットバルトを演じる栗山廉のインタビューをお届けします。

★こちらの記事は、Kバレエカンパニー公式ファンクラブKバレエフレンズ〉の会報誌「Devant」との特別連動企画です

小林美奈、栗山廉 ©︎Ballet Channel

〈特集:Kバレエカンパニー『白鳥の湖』① 主役全4組リハーサル動画レポート&コメント〉はこちら

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おふたりは、2021年1月から全8回で放送されたNHK BSプレミアムドラマ『カンパニー〜逆転のスワン〜』に重要な役どころで出演されました。Kバレエカンパニーの全面協力のもと、「斜陽のバレエ団が新解釈版『白鳥の湖』公演を成功させるまで」を軸に様々な人間ドラマが描かれた作品で、小林美奈さんは社長令嬢でありプリマ・バレリーナの有明紗良役、栗山廉さんはカンパニーの未来のプリンシパル長谷山蒼太役を演じました。おふたりとも映像のお仕事は初めてとのことでしたが、とても大きな話題になりましたね。
小林 ありがたいことに、番組の視聴者やファンの方から本当にたくさんのメッセージをいただきました。紗良は、最初のほうはとにかく気が強くてツンとした印象だったけれど、回を重ねるにつれて、弱いところを含めた内面や、笑顔が見えて良かったと言ってくださる方がとても多かったです。「最終回の紗良の涙に感動した」「一緒にもらい泣きしました」というコメントもたくさんいただきました。

栗山 僕もインスタグラムにたくさんのメッセージをいただきました。いちばん反響があったのは、最終回のダンスシーンです。あとは、最終回のセリフが良かったという声もとても多かったですね。僕自身も、最終回でやっと、蒼太が抱いている複雑な気持ちをきちんと表現することができたと感じています。蒼太は、那由多に対するライバル心は最後まで持っていたけれど、最終回に至るまでの過程で、徐々に彼のことを認めるようになっていた。そんな心情の変化を表現することができて、自分にとっても印象深いラストになりました。あと、ファンや視聴者のみなさんから「もっといっぱい登場してほしい!」という声もたくさんいただいたので、それは嬉しかったです。

それにしても全8回というのはあっという間でしたね……。撮影が終わり、ご自分でも放送されたドラマを見終えたいまの、率直な感想を聞かせてください。
小林 私は、バレエを題材としたドラマに出演させていただけたということに、まず「感謝」のひと言です。現場のスタッフさんやKバレエの仲間たちが支えてくださり、監督さんや共演者のみなさんが演技のアドバイスをくださったおかげで、何とか無事に乗り越えることができました。いつも現場に入る時はすごく緊張して、台詞を言うにも声が震えたり、「こういう風に言おう」と準備していても、なかなかうまくできなかったりすることばかりだったんです。そんな時、監督さんが緊張を解きほぐしてくださって、「もっとこうしたほうがいいよ」とか「もっと自信を持って」とか、ありがたいアドバイスをたくさんくださいました。あとは、廉君が一緒で本当に良かった! すごく安心感がありました。もしも私ひとりだったら、どれほど緊張したことか……。

栗山 僕も同じです。美奈さんとふたりだったから心強かった。

小林 このドラマを通して学べた「演技」のことは、バレエとも共通する部分がたくさんあると思うんです。それらを今後の自分のバレエに必ず繋げていきたい。この3月の『白鳥の湖』から、さっそく表現に活かしたいと思っています。ドラマに出演できたこと、そこで勉強できたことは、私のなかでものすごく大きな財産になりました。本当に、感謝しかありません。

栗山 僕もこの経験ができて良かったと心から思っています。実際、やるのとやらないのでは大違いだったと思う。良かったことや学べたことは数えきれないくらいあるのですが、ドラマの撮影現場のあの空気感だとか、カメラの前で初めて言葉を発した時の緊張感だとか……経験したことのすべてが宝になりました。撮影がスタートしたばかりの頃は、僕も声が震えたりしたんですよ。でも回数を重ねていって、撮影も後半に入ってくると、ずいぶんスムーズに発声できるようになりました。オンエアを見て、まだまだ研究は必要だなとは思ったのですが、自分の感覚的には、毎回少しずつ自信に繋がっていった気がしています。

ご自身が演じたなかで最も思い出深いシーンや、好きだったシーン、今後に繋がりそうな手応えを感じたシーンなどがあれば聞かせてください。
小林 私はやはり、第6話の“鍋パーティ”のシーンでしょうか。あの場面は、それまでバラバラだったカンパニーのメンバーの気持ちがひとつになるという、とくに重要なシーンだったんですね。それで主演の井ノ原快彦さんが、「前日にリハーサルをしておこうよ」と提案してくださって。やはり、しっかりとしたリハーサルがあるのとないのとでは全然違います。セリフのやりとりなど段取りをしっかりわかっていたほうが役の感情に集中できますし、その感情をどこまで出していいのか、声のボリュームや声色はどういう感じがいいのかといったことも、感覚的につかむことができるので。前日から演者みんなの気持ちがひとつになれたのも、本当によかったです。
もうひとつ印象に残っているのは、いちばん最初に撮影した、私が蒼太を突き飛ばす場面の撮影。あの場面が、私たちにとっては本当に最初の撮影シーンでしたよね。
栗山 そう、撮影初日の、いちばん最初のシーンでした。

©︎K-BALLET FRIENDS

第1話の、カンパニーの稽古場の場面ですね。『白鳥の湖』第2幕のグラン・アダージオのリハーサル中、ピルエットのサポートがうまくいかなかった蒼太を紗良が突き飛ばし、「そんなに強く回さないでよ! こっちが下手に見えるじゃない(怒)」と言い放つシーン。
小林 「私、いきなりこんな台詞を言うんだ!」と思って(笑)。自分自身、まだ紗良のイメージをつかみきれていなかったというか、「どのくらい強く言っていいんだろう?」という加減もよくわからなかったのですが、そこは監督さんが細やかに指示してくださいました。とにかく、人前でワッ!と声を出すのにまず緊張しました。

栗山 緊張しましたよね……。しかもバレエスタジオのシーンだったから、周りのダンサーたちと“バレエの稽古場”らしい空気作りもしなくてはいけなかった。

でも、いちばん最初がおふたり一緒のシーンでよかったですね!
小林 本当によかったです! 安心しつつ、「廉くん、ごめん」と思いながら突き飛ばしました(笑)。

栗山 本当ですか? めちゃくちゃしっかり叱られましたけど(笑)。でも美奈さんの演技はすごいパワーでした。役に深く入り込んでいて、こちらもしっかり「すみません」という気持ちになりました。僕はあのシーン、わざと失敗しなくちゃいけないのが難しかったです。

小林 失敗する演技は難しかったですね。

栗山さんにとって、いちばん印象に残っているシーンは?
栗山 先ほども少しお話ししたのですが、最終話の楽屋でのシーンです。本番のリフトで那由多が紗良に怪我をさせてしまい、ショックで「もう踊れない」と震えている彼に向かって、「でもお前はちゃんと紗良を守ったんだよ」と言うところ。決して長くはないセリフの中で、蒼太の思いを全部出すような場面でした。あの時は、撮影前に監督さんが僕の近くに来てくれて、耳元で「蒼太はこの時、こんなふうに思っているんだ」と説明してくださったり、ふたりが出会った時のことを熱く語ってくださったりしたんです。そのおかげで、僕自身の中にもすごく湧き上がってくるものがありました。また那由多役の古川雄大さんも、カメラリハーサルの前からものすごく気持ちが入っていて。蒼太は自分の思いを語ったあとに那由多の顔を見るのですが、その時の古川さんの泣き顔のような表情は、一生忘れないと思います。

©︎K-BALLET FRIENDS

あの場面の栗山さんの表情も、とても心に残りました。また、小林さんが第6話や最終回に見せた“涙”については、古川雄大さんがバレエチャンネルのインタビューで、「お芝居の中で泣くって、ものすごく集中力が要ること。なのに美奈さんはいつでも、何度でもポロポロ泣き続けることができて、やはりバレエダンサーの表現力と集中力には凄まじいものがある」とおっしゃっていました。
小林 嬉しいです(笑)。でも私、いちど涙が出ると、止まらなくなっちゃうんです。涙スイッチが入るというか。それに他の演者の方も、私がちゃんと泣いていたほうが気持ちが入りやすいだろうと思ったので、できるだけ何度でも泣こうとは思っていました。
栗山さんも、本当に微かな目の動きだけで、蒼太がいま何を思っているかがわかるような演技をしていて見事だと感じたのですが、そういった部分も何か練習や研究をしたのでしょうか?
栗山 細かい計算みたいなものはまったくしていませんでした。ただ気持ちのスイッチを入れるだけ、というか。とくに僕の場合はセリフがあまりなかったぶん、そして本当に短い一瞬のシーンが多かったぶん、その瞬間だけで蒼太の思いが伝わるように、とにかく彼がいま何を思っているのかだけを考えるようにしていました。例えば那由多が登場して「なんだあいつ?」と思っていることを表したいシーンでは、本当に「なんだあいつ?」しか思わない。本当にシンプルなのですが、自分の心の中を、その思いだけに絞りきるんです。そうして感情を強調するように努めました。
ドラマにはバレエのシーンもふんだんに盛り込まれていましたが、他の出演者や撮影スタッフのみなさんは、目の前でバレエを見てどんな反応をしていましたか?
小林 最初、ドラマの撮影が決まった時に監督さんたちがKバレエのレッスンを見にいらしたのですが、まずトウシューズからびっくりしていました(笑)。「こんなの履いているんですか?!」と。それから私たちのバレエバッグを見て、「いつもこういうのを持ち歩いているんですか?」とか、私たちダンサーにとっては身近すぎて意識することのない部分に、すごく興味を示していらっしゃいましたね。

栗山 僕たちがいつも当たり前のようにやっていることが、バレエを知らない方にはとても新鮮に映るんだな、と思いました。「無意識でいる時の立ち方が全然違いますね」と言われたり、合間の時間に何気なく筋トレしているのを見て「すごい!」と驚かれたり。

小林 とにかくリアリティを求めていらっしゃったので、敷島バレエ団の場面では、「ダンサーのウェアや髪型」についても細かく聞かれました。「こういう時にレッグウォーマーを履いていてもいいんですか?」とか、「オーディションの時はみんなオールバックじゃなくていいんですか?」とか。だから実際の放送を見ても「本当は違うのに」と思う部分がなくて、とてもリアルでした。

Kバレエカンパニー「白鳥の湖」リハーサル中の小林美奈(オデット)©︎Ballet Channel

そして! この3月には本家本元(?!)のKバレエ版『白鳥の湖』が上演されますね。小林さんはオデット/オディール役、栗山さんはロットバルト役で出演されます。
栗山 『白鳥の湖』はバレエダンサーなら誰もが踊りたいと願うクラシック・バレエの代名詞ですし、僕にとっては初めて主役をいただいた、思い入れのある作品でもあります。そして、今回は初めてのロットバルト役。ドラマの中の新解釈『白鳥の湖』ではロットバルトが中心的に描かれていたので、おそらくこれまで以上に注目が集まっている役だと思います。そのタイミングで挑戦させていただけるなんてとてもありがたいですし、自分にとって大きなチャンスだと感じています。とくにKバレエ版のロットバルトは、すごくかっこいいので。

小林 本当にかっこいいと思う。私も踊りたいです(笑)。

栗山さんはこれまでジークフリード王子役を踊ってきたぶん、今回はある意味、この物語を反対側の立場から演じるようなかたちですね。
栗山 そうですね。オデットとオディールに向き合う角度が180度違うので、同じシーンを踊っていても、見え方が全然違います。いまリハーサルをしている最中ですが、作品に対する理解が広がっていくのを感じていますね。また、当然ですがジークフリードとは身体の使い方もずいぶん違っていて、人間ではない動きを表現するので、リハーサルを終えると首が痛くなったりすることもあります。

Kバレエカンパニー「白鳥の湖」リハーサル中のひとコマ。栗山廉は今回初役でロットバルトを演じる ©︎Ballet Channel

演じていて楽しいですか?
栗山 楽しいですよ。王子役よりも、自由度が高いので。キャラクター性やエネルギーをもっと発していいんだ、もっと思う存分にやっていいんだな、とリハーサルのたびに思います。でも、ただ機敏に動き回ればいいわけではありません。よりダイナミックに、圧倒的な支配力を出すにはどう動いたらいいのか。王子とはまた違う存在感を見せなくてはいけないというのが、いまの課題です。その挑戦も、すごく楽しいのですが。
小林さんは、今回の『白鳥の湖』にどのような思いで臨んでいますか?
小林 『白鳥の湖』は、自分にとって最も思い入れの深い作品です。今回のドラマに出演して、その思いがさらに強くなりました。オデット/オディールを踊らせていただくのは今回で3回目ですが、回を重ねるごとに、「自分はこの役をどう表現したいか」をより深く掘り下げるようになってきています。演じれば演じるほど、いろんなアイデアが浮かぶんです。
ドラマの中では“紗良として”オデットを演じ、那由多というバレエ未経験ながら王子役に挑むパートナーをリードする立場でもありました。でも今回の本公演では、私自身の真のオデットとして、王子を心から信じ、身を委ねたい。そして私のオデットが感じるままの動き、アームス、呼吸で、言葉はなくても心情をしっかりと伝えられるように演じたいと思います。自分の心とオデットの心をしっかりと重ね合わせて、音楽と一緒に、気持ちから動いていくこと。そこに真実の気持ちがあれば、パートナーにも、お客様にも、きっと伝わるのではないでしょうか。無理に形で作り出すものではなく、自分の中から自然に出てくる感情で、人の心を動かしたい。そういう表現をしたいという思いが、いま、自分のなかですごく大きくなっています。
そう思うようになったきっかけは何かありますが?
小林 それがまさに、今回のドラマの経験で学んだことです。紗良としての感情が真に自分の中に息づけば、表情も、呼吸も、鼓動も変わってくる。そして自分の気持ちが動けば、それを受け取る相手の気持ちも動くのだと。だから今回の『白鳥』では、リハーサルでも毎回100%の気持ちを出して、役に入り込んで演じています。それを積み重ねていけば、本番でもきっとまた新しい発見ができそうな気がして。

©︎Ballet Channel

今回はドラマの影響もあり、「初めてバレエを観る」というお客様もたくさんいるのではないかと思います。そうしたみなさんに、バレエダンサーとしてどんなことを見せたい、伝えたいと思いますか?
栗山 とにかく物語世界に入り込み、楽しんでいただきたい。まずはそれがいちばんです。だから僕らはいま、どうすれば物語やキャラクター像を最も美しく、わかりやすく表現できるかということを、一生懸命考えながらリハーサルしています。そしてこれは非日常的な物語ではありますが、何かご自身の日常とつながるものを発見していただけたら。人を好きになる気持ちや、人を信じる勇気など、自由に感じ取っていただけると嬉しいですね。チャイコフスキーの音楽に耳を傾けるだけでも価値があると思いますし、どんな角度からでも楽しんでいただけると思います!

小林 音楽のことで言うと、例えば「小さい四羽の白鳥」の曲って、テレビなどでもよく使われていますけれど、実際にはどんなシーンで誰が踊っているのか、あまりご存じないと思うんです。そういうところも「これだったのか!」と知っていただきたいですね。また、ちょうど今回の公演のタイミングで熊川哲也芸術監督監修のArt Novel『白鳥の湖』が発売されるのですが、それを読むと、オデットにも王子にもロットバルトにも、それぞれの人生や苦悩、葛藤があるんです。そうしたサイドストーリーも想像しながら舞台を観ていただくと、さらに物語世界がふくらんで、楽しんでいただけるのではないでしょうか。

©︎Ballet Channel

執筆協力:堀尾 真理

公演情報

Kバレエカンパニー『白鳥の湖』

日程 【3/24(水)14:00開演】
オデット/オディール:小林美奈 ジークフリード:山本雅也 ロットバルト:杉野慧

【3/25(木)14:00開演】
オデット/オディール:成田紗弥 ジークフリード:堀内將平 ロットバルト:栗山廉

【3/25(木)18:30開演】
オデット/オディール:日髙世菜 ジークフリード:髙橋裕哉 ロットバルト:グレゴワール・ランシエ

【3/26(金)14:00開演】
オデット/オディール:小林美奈 ジークフリード:山本雅也 ロットバルト:杉野慧

【3/27(土)13:00開演】
オデット/オディール:毛利実沙子 ジークフリード:石橋奨也 ロットバルト:西口直弥

【3/27(土)17:30開演】
オデット/オディール:成田紗弥 ジークフリード:堀内將平 ロットバルト:栗山廉

【3/28(日)13:00開演】★オンラインライブ配信あり
オデット/オディール:日髙世菜 ジークフリード:髙橋裕哉 ロットバルト:杉野慧

会場 Bunkamuraオーチャードホール
詳細 https://www.k-ballet.co.jp/contents/2021swanlake

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