コロナ禍の行方はまだまだ先が見えないし、国や地域によって状況には大きく差があるけれど、それでも世界各地の劇場が、数ヵ月〜半年以上にもわたる長い眠りから少しずつ目覚め始めているのは嬉しいことだ。
国内におけるバレエ関連の動きとしては、規模の大きいカンパニーのなかでいち早く公演再開に踏み切ったのが新国立劇場バレエ団だった。
7月24日から上演された新制作『竜宮 りゅうぐう』。
2020年2月末以降、約5ヵ月間にわたってすべての公演・イベントを中止していた同劇場が、この公演の実施を正式に発表したのは開幕1ヵ月前の6月24日のことだった。
2020年7月24日に開幕した「竜宮」。前後左右を空けた配席とはいえ、舞台再開を喜ぶ観客たちのひときわ力強い拍手が劇場を満たした。写真中央は米沢唯(亀の姫)と井澤駿(浦島太郎) 撮影:鹿摩隆司
もちろんすでにチケットは発売されており、購入済みの観客もいたなかで、同劇場は上演スケジュールを見直し、座席も前後左右を空けた配置に変更。そのため6月24日までに販売していたチケットをすべていったん無効にして、全席を払い戻し対象とした。そのうえで鑑賞希望者にはあらためてチケットを購入するよう協力を求める、という対応を採った。
そうして無事に開幕した『竜宮』は、どう考えてもこれ以上の対策は講じようがないと感じるほど、徹底的な感染防止策のもとで上演された(劇場の様子を詳細にレポートした記事はこちら)。
ところが、全8公演のうち6公演までをスムーズに終えていた7月29日、「新国立劇場に勤務する業務委託者1名が、新型コロナウイルスに感染していたことが判明」。同劇場は即日、残り2公演の中止を決断するに至った。
感染が判明した方は、観客に接する業務ではなかったという。それでも公演が即中止となったことに、この時代の厳しさをあらためて感じずにはいられなかった。
そもそも前後左右を空けた配席では、完売したとしてもチケット収入は単純計算で通常時の半分にしかならない。その上こうして中止となれば、払い戻し対応やそのための人件費・手数料負担などがカンパニーにのしかかる。
この事態が続けば、いくら「舞台芸術の灯を絶やさぬように」と言っても、バレエ団や興業元はもはや公演を続けようとすればするほど赤字が嵩み、存続のための体力が奪われていくのではないかーー。
私たちはもはや、いつ誰が感染してもおかしくない“ウィズ・コロナ”時代の中にいる。
この状況を劇場はどのように捉え、どのような方向性を採ろうとしているのだろうか。
これらの疑問について、新国立劇場統括劇場支配人の桑原貴氏、同バレエ団チーフプロデューサーの伊東信行氏、広報室長の松延史子氏の3名に話を聞いた(取材は8月上旬に実施)。
公演再開までの準備について
- 先の『竜宮 りゅうぐう』公演では、劇場の感染拡大防止策を含めて取材をし、開幕後もいち観客として劇場で鑑賞させていただきました。あれだけの対策を実施するには、相当な準備やコストが必要だったのではないでしょうか。
- 桑原 私は劇場の“表まわり”、つまりお客様がチケットを購入し、当日劇場にいらして、舞台を観るために着席するまでに関わることを担当しています。公演を再開するにあたっては、他の接客業がどのような対策を取っているかを見るために、デパートやホテルなど、あちらこちらに足を運び、情報を集めました。その上で、私たちの場合はどこまでのことが必要かを、5月の時点で保健所と読み合わせをして。それとじつは、私どもは『竜宮』の前に、7月上旬から小劇場で演劇『願いがかなうぐつぐつカクテル』を上演したんですね。定員は165名で小規模ではありましたが、この時に行った対策をベースにして『竜宮』に備えたわけです。来場者が増えるぶん、スタッフの人員は増やさなくてはいけないだろうけれども、小劇場と違ってオペラパレスはスペース的には余裕があるので、いろいろな設備をゆったり配置することができる。事前に3日間ほどの時間をかけて、来場者カードの記入所や検温所、消毒、休憩用の椅子などを設置し、人も置いてみてシミュレーションをし、ゲネプロでも人を入れていわゆる“リハーサル”をさせていただき、本番に臨んだ次第です。
新国立劇場オペラパレスのホワイエ。平常時であればここに飲食用のテーブルが多数設置され開演前や幕間は華やかに賑わうが、「竜宮」期間中は観客もきちんとソーシャルディスタンスを保ち、静かに過ごしていた(写真はゲネプロの日)©︎Ballet Channel
- 実際に劇場で観劇した際の体感として、観客の数は通常時に比べると半分なのに、スタッフの数はいつもよりずっと多く感じました。
- 桑原 はい、その通りです。普段であれば25名+マネージャーですが、『竜宮』の時は35名+マネージャーという体制でした。
- チケット収入は単純計算でも最大50%にしかならないのに、人件費や備品代などの経費は余計にかかる。さらには本当に幕を上げられるかどうかはギリギリまでわからない、という状況ですよね。そうなると、公演を打とうとすればするほど赤字や苦しさが増していく、ということはないのでしょうか?
- 松延 それは本当におっしゃる通りです。7〜8月の公演については、やはりとにかく劇場を再開させなくてはということで万全の準備をして臨んだのですが、この状態が続けば当然逼迫(ひっぱく)していきます。苦しいのは、この「座席は定員の50%まで」という状況がいつまで続くのか、誰にもわからないというところです。ご記憶の方もいるかもしれませんが、ちょうど6月頃に、その50%という基準が緩和されるかもしれないという報道が出たんですね。換気の状態や感染リスクが実際どのくらいあるのかをAIを用いて調べ、一定の水準をクリアしていれば緩和する、というような。けれども、実際には劇場関係でクラスターが発生したり、プロ野球やJリーグが観客動員数の上限緩和について慎重な姿勢を見せたりといった情勢の中で、そうした報道も聞こえてこなくなりました。
- “劇場クラスター”については、7月中旬に新宿区の劇場で行われていた公演で発生し大きなニュースになりましたが、まさに『竜宮』開幕まであと10日ほどというタイミングでの出来事でした。あの一件で、劇場やバレエ団に何かしらのインパクトや影響はありましたか?
- 伊東 もちろん緊張感は走りました。距離的にも近い場所で起こったことでしたし、「ああ、迫ってきたな」と。ただ、何が起ころうとも、自分たちにできることは、とにかく手洗い、うがい、消毒、マスクの着用といった基本的な対策を、絶対に油断せずに続けていくことだけですから。そのことは、ダンサーたちには繰り返し伝え続けました。
松延 やはり、インパクトはありましたよね。規模はまったく違いますが同じ“劇場”で、しかもお客様にも感染してしまったということがとてもショックでしたし、リスクというものをリアルに突きつけられたように感じました。でも、ここまで感染が拡大してくると、そのリスクを完全にシャットアウトすることはまず不可能。とにかく感染者が出ても、それを他の人に広げないようにすることがいちばん大事なのだろうと思います。そしてまたこうしたケースが発生した場合には、きちんと原因を究明・検証していただいて、その実例から学んでいきたいというのはあります。今できる限りの対策はしているわけですが、まだ他にできることがあるならば、ぜひその情報を共有し合いたいです。芸術、文化、スポーツ等イベントを行う各団体が、開催実績や学びを積み上げていって、徐々に「こうすればまず大丈夫だ」というラインを見つけ出していくしかないのだろうと思います。
- 新国立劇場として感染拡大防止対策を行いながら公演を実施してみて、最も管理やコントロールが難しかったポイントはどこだったのでしょうか?
- 桑原 順位を付けるのは難しいのですが、いちばん気を遣ったのは「来場者カード」に関する部分です。いまはもうカードへの記入に抵抗のあるお客様はほとんどいらっしゃいませんが、ご記入いただくだけでも時間がかかりますから、そこでお客様をいかにスムーズにご入場いただけるようにするかという問題がありました。ただ、これは思っていた以上に多くの方がご自宅で来場者カードをダウンロードし、記入してからご持参くださったおかげで、大きな渋滞は起こりませんでした。あとは、今回のようにお客様に来場前の注意事項をご案内したかったり、何か急な変更や中止等をお知らせしたかったりする場合に、SNSだけでは周知徹底ができないというのが次の課題です。というのも、お客様の中には携帯電話もスマートフォンもパソコンもお持ちでなかったり、インターネット環境を利用されないで購入された方もいらっしゃいます。そのようなお客様にはお一人ずつに電話をかけるということも行っているのですが、いつどのように状況が変わるか分からないなかで、いかに迅速かつ確実に情報をお届けするか、というところの問題があります。
クロークも「来場者カード」記入台として活用 ©︎Ballet Channel
ダンサーたちの様子
- 次に『竜宮』という新制作のオリジナル作品を創る過程や、ダンサーたちの様子について聞かせてください。実際の舞台を観て、例えば浦島太郎と亀の姫のパ・ド・ドゥでも身体的な接触を控えめに振付けられていたような印象を受けたのですが、創作やリハーサルの過程において、何か困難を極めたことや、工夫して乗り越えたことなどはありましたか?
- 伊東 困難という意味ではもう最初から、この状況下で本当に新作を創れるのかな、創り始めたとして、開幕までに本当に間に合うのかな、という不安のなかでのスタートでした。振付や音楽や舞台美術などの制作進行についてもそうですし、ダンサーたちのコンディションという意味でも。ご存じの通りダンサーというのは、毎日毎日稽古していないと維持できない職業です。なのに自粛期間は徐々に長引き、そんな状況の中で本当に新作を創り上げることができるのかという心配はずっとありました。それでも、ダンサーもスタッフも全員がお互いを信頼し合える関係性の中で進められたこと、そしてこの状況下で考えられることを精一杯考え、工夫しながら演出・振付をしてくださった森山開次さんと、それについていってくれたダンサーたちには、感謝しかありません。
「竜宮」より。5ヵ月ぶりの舞台上でいきいきと躍動するダンサーたち 撮影:鹿摩隆司
ユーモアもたっぷりの楽しいダンスに客席のあちこちから笑い声も 撮影:鹿摩隆司
木村優里(亀の姫)、渡邊峻郁(浦島太郎) 撮影:鹿摩隆司
- あの自粛期間中、ダンサーたちは身体的、精神的、そして経済的にも本当に不安だったことと拝察しますが、自粛期間中や自粛明け、ダンサーたちの様子は実際のところどうだったのでしょうか?
- 伊東 緊急事態宣言が出された時、私たちからは「各自で工夫してコンディションを整えておいてください」としか言えませんでした。ダンサーたちは、自宅でストレッチや基礎練習をしたり、人のいない公園に行って体力が落ちないように運動したり、それぞれが本当に努力してくれたと思います。そして自粛期間に入って数週間後から、先生とピアニストさんをつないでオンラインでのクラス・レッスンを開始しました。
- ダンサーのみなさんに精神的な動揺などは見られませんでしたか?
- 伊東 それは多かれ少なかれあったと思いますが、みんな新国立劇場を信用してくれていたといいますか、いつか必ず活動を再開できる瞬間が来ることを、ダンサーたちなりに信じて待っていてくれたと感じています。何名かのダンサーたちからは、「自宅では思うように稽古ができないから、スタジオを使わせて欲しい」という声もありました。でも、劇場の判断としてそれはどうしても許可できず、断らざるを得なかったのは本当につらかった。「いまは家にいることが社会貢献だから、みんなで我慢しよう」と。
ダンサーたちというのは、3歳とか4歳とかそのくらい小さな頃から、毎日毎日、これまでの人生ずっと稽古をしてきたわけですよね。それが突然できなくなるというのは、どれだけ不安だったことだろうと思います。ですからダンサーたちには、ただただ「ありがとう」と言いたいです。本当にそれだけですね。
- そのような中でも、例えば福岡雄大さんがインスタライブで「雄大の部屋」を始めるなど、ダンサーたち自身が自主的に発信を始めたのは新しい動きでしたね。
- 伊東 自粛期間中のダンサーたちの行動については、こちらから何かを発してくれと頼んだことはいっさいありません。すべて、ダンサーたちが自発的に動いてくれたことです。彼らはやはり、表現者ですから。僕たちのバレエ団で言えば、2月の『マノン』が途中で中止になり、 『ドン・キホーテ』ができなくなり、『不思議の国のアリス』ができなくなり……と、ダンサーたちの人生でここまで表現できない時期というのはなかったと思うんです。だから、とにかく何らかの形で自分たちの表現をしたいという一心からの行動だったのでしょう。みんな、直接的に言葉にしていたわけではありませんが、あれらの行動の裏側には、「いまは我慢の時。また踊り始める日のために、力をためておこう」というメッセージがあったのかなと思います。
- そして緊急事態宣言も解除され、6月からは小人数ずつながらバレエ団の稽古場に集まってのレッスンを再開されました。稽古場に集まってクラスやリハーサルを行うことについて、ダンサーたちから不安などの声はありませんでしたか?
- 伊東 そうした声はとくにありませんでした。もちろん中には高齢者と一緒に住んでいる人もいるでしょうし、電車で通うのが怖いとか、心の中で「大丈夫だろうか」と思っている人もいたかもしれません。でも「自分たちの仕事はバレエ作品を作ること、表現することだから」という意思はみんなはっきりしていて、そこが割れることはありませんでした。
6月初旬にクラスを再開した際の、中劇場の舞台上を利用したクラスレッスンのようす
「竜宮」の開幕と中止、そして今後のこと
- 踊ることへの思いや力を辛抱強くため続けたダンサーのみなさん、劇場再開に向けて万策を尽くして準備したスタッフのみなさん、そして再開の日を待ちに待っていた観客のみなさん。すべての人々の思いを乗せて幕を開けた『竜宮』は、忘れがたい感動を残しました。しかしあまりにも残念なことに、ラスト2回の公演を残して「中止」となってしまいました。
- 松延 あの時は7月29日に劇場スタッフ1名の感染が判明し、翌30日には公演が予定されているという状況でした。保健所にはもう連絡が取れないタイミングで、とにかく明日の公演をどうするかを決めなくてはいけない。何よりも優先されるべきはお客様やキャストやスタッフの安全ですから、すぐに「中止」という判断になりました。
- 劇場からの発表を見ますと、感染が判明したのは「新国立劇場に勤務する業務委託者1名」で、その方は観客に接する業務ではなかったとのことでした。その一報を知った時、これはあくまでも私が個人的に感じたことですが、あれだけの感染防止対策がなされていても、そして観客に接することのない人がただ1名感染しただけでも公演を中止しなくてはいけないのか……ということがショックでした。現実として“ゼロリスク”はあり得ないのに、たとえ1%でもリスクがあるなら中止になるのか、と。
- 松延 少なくとも今の段階では、リスクが1%あれば中止になると思います。感染症の専門家なり保健所なりから「大丈夫ですよ」と判断をいただけない限り、公演を開催することはできません。
- 保健所にも相談できない中で、あの迅速な判断と対応をされたのですね。
- 桑原 新国立劇場の意思決定については、今回の感染が判明するよりも前に何度も会議を重ねて、今この状況下で発生し得る様々なケースを想定して、「この場合はこうしよう」というシミュレーションをしていました。その準備があったから、即時の判断ができたということはあります。いま松延が言ったように、我々は感染症の専門家ではないわけです。1%でも不安があるなら「安全」を選ぶべきだと考えています。
- しかも公演の中止が発表されたその日の夜、該当公演チケット購入者一人ひとりに電話をかけて、中止の連絡とチケット払い戻しの案内をするという対応をされていて驚きました。そのような対応の中で、観客からはどのような反応があったのでしょうか?
- 桑原 結論から言うと、あの作業は思った以上にスムーズでした。じつは、こうした対応を行うのは初めてではなくて、遡れば東日本大震災、昨年の台風19号の時もそうでした。そしてこのコロナ禍においては、2月の『マノン』に始まって以来繰り返してきたことですから、私たちもオペレーションにずいぶん慣れてきています。そのため、電話でしか公演中止をお伝えできないお客様、つまりインターネット環境をご利用されずに購入された方のリスト抽出を迅速に対応することができました。でも、いちばん救われているのは、多くのお客様が事情を理解してくださり、とても協力的だということです。クレームを頂戴することもずいぶん減り、なかには電話口で温かい言葉をかけてくださる方もいて、スタッフの中には泣いている者もいました。慣れてきたとはいっても、やはりつらい仕事ではありますし、心が折れそうになることもありますから。
- 『竜宮』の中止に関しては、ダンサーのみなさんも待ちに待った舞台だっただけに、SNS等でやりきれない思いを吐露する方もいて胸が痛みました。実際に現場で中止の決定を告げた時、ダンサーたちはどのような反応を見せましたか?
- 伊東 もちろん、ダンサーたち自身がいちばんがっかりしていただろうと思います。でも、彼ら・彼女らはとても繊細ですが強くもあって、「自分たちはこんなことでは終わらない」という強い気持ちがみんなの中にみなぎるのも感じました。
繰り返しになりますが、ダンサーたちについては、本当に日々状況が変わる緊張感の中で、よく心身両面を保って頑張ってくれたなと思います。充分な稽古時間を提供してあげられない中で、何とか自分たちで工夫してくれて。だから小クラスずつ稽古場でのレッスンを再開した時には、一つひとつのクラスに出向いて、「みなさん協力してくれてありがとう。よくコンディションをキープしてくれた。何より無事で本当によかった」と言葉を交わすところから始めました。『竜宮』の初日の幕が無事に下りた時、僕は、最終的にはダンサーたちが劇場を守ってくれたのだと思いました。ダンサーたちが動いてくれるから、劇場は発信することができる。そしてもちろん、お客様。お客様が劇場に来てくださるから、ダンサーたちは踊ることができるわけです。やはり舞台というのは、出演者とスタッフとお客様で作るもの。そのことをあらためて、強く思いました。
池田理沙子(亀の姫)、奥村康祐(浦島太郎) 撮影:鹿摩隆司
- 最後の質問です。いま、もう誰がいつ感染してもおかしくないこの状況の中で、「人を集めること」が活動の根幹ともいえる劇場やバレエ団は、どのような方向性で進んでいくべきとお考えですか?
- 伊東 新国立劇場バレエ団を含め、世界中のバレエ団がいまできることはやり尽くしていると思いますし、おっしゃる通り、もういつどこで何が起きてもおかしくない状況まで私たちは追い詰められています。だから、とにかくバレエがしぼんでいかないように、ダンサーもスタッフも個々人が我慢と努力と工夫をしながらやっていくしかありません。本当に、みんな必死にやっています。技術部は状況に合わせて急な変更が生じても迅速に対応し、営業部は何万件という払い戻し作業をコツコツやり、ファンドレイジング担当はこの情勢下で寄付金や賛助金を集めるために駆け回ってくれている。ダンサーたちについては、1日1日、1回1回のクラス・レッスンやリハーサルを、これまで以上に大事にしていかなくてはいけません。稽古ができることも、公演ができることも“当たり前”ではないことをあらためて思い知ったいま、その限られた時間をいかに有意義に使うのか。将来の保証は何もない、苦しい時代ではありますが、模索と努力を継続していくこと。ただし、前のめりになり過ぎてもいけない。何かあったら躊躇なくストップする。そのメリハリが大事だと思っています。
- なるほど。どうすれば劇場は再び扉を閉さずにすむのだろう、というのがひとつのクエスチョンだったのですが、そこはやはり、何かあれば閉ざすことが必要ということですね。
- 桑原 感染のリスクがあれば、閉ざすのは当然です。ただ、閉ざしたりまた開いたりを繰り返す、そのオペレーションをいかに迅速にできるか。そこを工夫して頑張るだけですね。野球は雨が降ったら中止、晴れたら再開。舞台は感染者が出たら中止、クリアになったらまた再開。その繰り返しです。専門家の意見を聞きながら、対策をどんどんブラッシュアップして、舞台芸術やアーティストやお客様のために全力を尽くすのみです。