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ダンスのプロリーグ「D.LEAGUE(Dリーグ)24-25」 の5年目のシーズンが、2024年10月13日に幕を開けました。2025年5月22日までの約半年間をかけて合計14ラウンドが行われる〈レギュラーシーズン〉と、その成績上位6チームが出場して今シーズンの覇を競う〈チャンピオンシップ〉(2025年6月19日開催)の観戦レポートをお届けしていきます!
寄稿は自身も複数ジャンルのストリート系ダンスを踊りこなす舞踊史家・舞踊評論家の村山久美子さんです。
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チャンピオンシップ(CS)まで、今シーズンは残りラウンド1回となり、CS出場が決まっているチームも出場権を狙っているチームも、工夫をこらした作品の熱のこもった舞台が見られ、完全勝利の対戦は皆無、僅差の得点や引き分けが多かった。
第13ラウンド(5/8)の各MATCHレポート
1st MATCH
1st MATCHは、ヒップホップで踊ったList::X と、ヴォーグ、ジャズ、ヒールズを用いたBenefit one MONOLIZ の対戦。
前者は、「心火(しんか)」というテーマで、熱のこもったダンスを強調。細かく軽い打の音にヴォーカルを重ねた音楽。重い音楽の部分での身体の深い揺れも、足の素早いステップのシーンも、気持ちよいほど全員力が漲っている。フォーメーションの変化、アクロバットを差しはさむタイミングなど、振付の緻密さも光った。
List::X「心火」©D.LEAGUE 24-25
後者は、「mythology(神話)」というテーマで、光る赤の長い手袋に金の長い巻きスカート(途中ではずす)で、儀式的な謎めいた雰囲気を演出。ヴォーグの腕の幾何学模様を描く動きが、規定演技の「シンクロ」の際、手袋で際立ち効を奏していた。エースYOICHIROのソロは力強いしなやかさで惹かれたが、全体としては、美しさを追究しているのであれば、バットマンやシェネなどをもう少し丁寧に緻密に行ってほしい気もした。振付の動きの多様性についても、もう少し考えた方がよいかもしれない。
Benefit one MONOLIZ「mythology」©D.LEAGUE 24-25
結果は、4-2でList::X の勝利。ただ、「シンクロ」はList::Xが得点したが、両者に差は感じられなかった。
2nd MATCH
2nd MATCHは、ハウスダンスをメインした作品のdip BATTLES と、フリースタイルやロックダンス等々を織り交ぜたDYM MESSENGERS の対戦。
前者は、「breath」というテーマで、呼吸するように数人の固まりが膨らんで広がってゆく興味深い始まり。その始まりや、その後の水中のようなイメージなどを作る照明が美しい。ハウスのステップはシンプルなものが多いが、舞台いっぱいにスピードのあるステップで駆け回りながらフォーメーションを多様に変化させることで、スケールの大きな作品を創り上げた。
dip BATTLES「breath」©D.LEAGUE 24-25
後者は、いつもながら、身体能力の高さがうかがわれる、操り人形のように力を感じさせない動きや軽やかなステップ、急速なロック等々。フォーメーションや動きの形でもう少し観客に快感を与えられると、もっと得点に結びつくかもしれない。
DYM MESSENGERS「RESONANCE」©D.LEAGUE 24-25
結果は、4-2でdip BATTLESの勝利 。
3rd MATCH
3rd MATCHは、クランプで多様な表現を目指すFULLCAST RAISERZ と、おしゃれなダンスで軽妙なエピソードを描いたCyberAgent Legit の対戦。
前者は、黄昏や暁の幻想的なオレンジの世界で踊るイメージ作り。オレンジの衣裳に金の手袋。速いステップや身体の切り替えしの連続だが、常にクランプの力強さを感じさせている。
ダンスの身体のパワーは相変わらずかなり大きいが、近頃、以前のような身体のパワーと同等の内面の表現のパワーが、あまり見られないのを残念に思う。
FULLCAST RAISERZ「Magic Hour」©D.LEAGUE 24-25
後者は、「Which is Cool???」というテーマで、気取ってタバコを吸いコーヒーを飲んで、缶や吸い殻を捨てる人々と、それを、箒やバケツをもってさっと片付ける掃除人たちのダンス。どちらのグループの振りも粋で、演技も上手いため、風刺に富んだコミカルなやり取りが面白かった。ただ、高さのある台から後に倒れ落ちるテクニック以外は、さほど印象に残る高度な技はなかったように思う。
CyberAgent Legit「Which is Cool???」©D.LEAGUE 24-25
結果は、2-4でCyberAgent Legitの勝利 。
4th MATCH
4th MATCHは、舞踏とアクロバット、ワックなどから構成した作品のLIFULL ALT-RHYTHM と、ヒップホップ、アニメーションによる作品のKADOKAWA DREAMS の対戦。
前者は、日本が生んだダンス「舞踏」の、世界的に高い評価を受けている集団「山海塾」の石井則仁をゲストに迎え、「水と赤」というテーマで、このチームにとって新しい試みを行った。冒頭は、舞踏派特有の全身白塗りの石井が、血管などを思わせる細い管を体に多数巻き付けた衣裳で中央に立ち、うずくまる永井直也(エースダンサー)に生命を与えたかのよう。そして、永井が新体操を生かした水平回転などのアクロバットを連続する。周囲の群舞は、赤の衣裳で血液や漲る力をワックなどの激しい動きで表現したようにも見える。全体として、群舞の前半の舞踏風の腕の動きが軽いために、舞踏の重い濃密な空気が生み出せておらず、後半の急速で騒がしい動きは、石井の舞踏と融け合わず、その神秘性を消してしまっていた。せっかくの新しい試みなので、また、「舞踏」との優れた融合を見せる作品に挑戦してほしい。
LIFULL ALT-RHYTHM「水と赤」写真中央はSPダンサーの舞踏家、石井則仁 ©D.LEAGUE 24-25
後者は、エースダンサーの颯希を中心として、全員が、身体の内部の筋肉での動きを外に伝えて繊細に手足を動かす高度なダンス。演出も優れており、とくに颯希が、上方から差し込む細い光を、まるで手で掴んで動かすように光の動きと腕を同調させたシーンは、圧巻だった。
KADOKAWA DREAMS「Re:Birth」写真中央はエースダンサーを務めた颯希(SATSUKI)©D.LEAGUE 24-25
結果は、1-5でKADOKAWA DREAMSの勝利 。
5th MATCH
5th MATCHは、ブレイクのチームKOSÉ 8ROCKS と、ジャズの作品で勝負をしたMedical Concierge I’moon の対戦。
前者は、いつもながら、達人たちの力みなく軽やかに行うブレイク。「シンクロ」の全員での床でのフットワークが、踏みが柔らかくて心地よい。数人での逆立ちのフリーズも、タイミングも止まっている長さもぴったり。
ただ、今回は、フォーメーションや技の組み合わせが、いつもよりもシンプルだったように思われた。
KOSÉ 8ROCKS「PASSION」©D.LEAGUE 24-25
後者は、一人ひとりのジャズダンスの上手さが際立った。とくに、冒頭、次々とサスの光の位置を変えてソロを交代して言った部分は、それぞれの異なる動きすべてが上質のかっこよさ。シェネなどの回転技も、全員がきちんとしたテクニックをもている。「シンクロ」の振りはシンプルで、優れたダンサーたちなのだから、もっと冒険してもいいのではと思われた。
Medical Concierge I’moon「情熱」©D.LEAGUE 24-25
結果は、2-4でMedical Concierge I’moonの勝利 。「シンクロ」のポイントがMedical Concierge I’moonに入ったことには、疑問を感じた。
6th MATCH
6th MATCHは、今回も興味深い作品を披露した、エピソード的な作品が得意なavex ROYALBRATS と、ヒップホップの作品のSEPTENI RAPTURES の対戦。
前者は、世界的に活躍する振付家Larkin Poynton Olabarriaに振付を依頼した、「The Perfect Human」と題するコンテンポラリーダンスと言える作品。
スーツにアタッシュケースを持つ男たちのなかで、スーツから抜け出て白い衣になった一人の男が社会の中で居場所を失っているかのような内容。まず、「Where is the perfect human?」等々の台詞に静かな低音の音楽を重ねている音響が、ドラマティック。冒頭、エースダンサーのMATSURIが、スーツ姿の人形から頭が落ちるように後ろに消えた瞬間(客席から悲鳴が聞こえた)、人形の横に出て、投げ出されたかのようにトゥール・アン・レール(空中での回転)のダブルやフロアワークを行う演出も秀逸。スーツの男たちの風刺に満ちた画一的な角ばった速い動きと、翻弄されまいと生きる苦悩を表すような、MATSURIの脱力した柔らかい動きの対比も見事。
作品の質も高く、出演者たちも、ドラマを演じるダンスが少ないストリートダンスのダンサーたちには稀と言えるほどに、深いドラマの表現だった。
avex ROYALBRATS「The Perfect Human」©D.LEAGUE 24-25
後者は、「8合目の山びこ」というテーマで、今シーズンの最後のがんばりをダンスで表現した。登山のように、ロープを持ってサポートされながら、身体を横に倒して人の山を登ってゆくアイデアは、興味深かった。
SEPTENI RAPTURES「8合目の山びこ」©D.LEAGUE 24-25
結果は、3-3の引き分け 。SEPTENI RAPTURESのほうが、とくにポイントを得たエースパフォーマンスなど、目を引く技を使っていたかもしれないが、avex ROYALBRATSのコンテンポラリーダンスの脱力テクニックなども、一朝一夕には習得できない高度なものである。作品の質も、avex ROYALBRATSのほうがはるかに高い。
7th MATCH
7th MATCHは、ハウスとブレイクによる作品のValuence INFINITIES と、武術ベースのアクロバティックなダンス「トリッキング」の名手Rikubouzをゲストに迎えたSEGA SAMMY LUX の対戦。
前者は、「疾走」というテーマで、ジャズの複雑な音楽のリズム、抑揚、音楽構成などを、一音ももらさずに(印象では)、たたみかけるようなハウスとブレイクのフットワーク、高速な回転スピンだけでなく、スピードを殺した大きなうねりのパワームーヴなども使って描き切った。まさに、疾走するかのような音楽そのものが、ダンスとして舞台に載せられていた。
Valuence INFINITIES「疾走」©D.LEAGUE 24-25
後者は、「CALM」というテーマ。白を基調とした衣裳で、トレッキングのコンテンポラリーダンスのテイストのある動きの柔らかさとアクロバットを強調したダンス。このチームとしては新鮮だったが、ゲストのRikubouzをもう少し際立たせたほうが、トレッキングの作品の魅力をよりアピールできたのではないかとも思われた。
SEGA SAMMY LUX「CALM」©D.LEAGUE 24-25
結果は、4-2でValuence INFINITIESの勝利 。
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今ラウンドでは、2-4や3-3のスコアで、オーディエンス投票の1ポイントが勝敗や引き分けを決定した対戦が、いくつもあった。オーディエンス票は、サポーターの票もかなり大きいように思われる。チームのファンを増やす努力の大切さを実感した。
チャンピオンシップまで、残すはあと1ラウンドのみ。トータルランキング上位6チームが出場できるチャンピオンシップへの進出を、前回のラウンド で4チームが決め、今回のラウンドでdip BATTLESが決めた。残りの1チームは、次のラウンドで決定される。
最も際立ったダンサーへの賞MVDは、KADOKAWA DREAMS の颯希 が獲得した。
ROUND.13のMVDを受賞した、KADOKAWA DREAMSの颯希 ©D.LEAGUE 24-25
★次回、第11ラウンドは2025年5月22日(木)開催!