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【D.LEAGUE 24-25】第7ラウンド(1/23)観戦レポート〜温かな愛を描いたLIFULL ALT-RHYTHMがSWEEP!首位を守り抜くKADOKAWA DREAMS

村山 久美子

ダンスのプロリーグ「D.LEAGUE(Dリーグ)24-25」の5年目のシーズンが、2024年10月13日に幕を開けました。2025年5月22日までの約半年間をかけて合計14ラウンドが行われる〈レギュラーシーズン〉と、その成績上位6チームが出場して今シーズンの覇を競う〈チャンピオンシップ〉(2025年6月19日開催)の観戦レポートをお届けしていきます!
寄稿は自身も複数ジャンルのストリート系ダンスを踊りこなす舞踊史家・舞踊評論家の村山久美子さんです。

これまでもチームの力量に差がなくなってきていることを書いてきたが、今ラウンドは、それを証明するかのように、7つの対戦のうち、引き分けの結果が3回も現れた。今後も、勝敗の決定は、ますます厳しくなることが予想される。

第7ラウンド(1/23)の各MATCHレポート

1st MATCH

1st MATCHは、今回もチームのメインのダンス、ヒップホップの作品を見せたSEPTENI RAPTURESと、珍しくハウスダンスをメインとする作品を踊ったValuence INFINITIESの対戦。

前者は『HUNT』というテーマで、長い槍のような棒をもっての狩猟のダンス。動きの力強さ、フォーメーションの変化は評価されるものであるとは思うが、相手チームのシンボルマークであるユニコーンの狩りを意識したという、人間を槍で刺す者と刺される者のシーンが何度も現れる残虐さに、不快感を覚えた。戦いの表現は、浅薄なものになると、思慮に欠けるイメージをもたれかねない。戦いのダンスであるクランプのチームでさえ、相手チームを暴力で負かすような表現はしない。むしろ、自らの苦悩との闘いの表現である。
戦いのダンスの場合、力強さと武道のような精神性の高さ、崇高さのブレンドを巧みに表現できれば、優れた作品が出来上がるのではないだろうか。

SEPTENI RAPTURES「HUNT」©D.LEAGUE 24-25

後者は、ブレイクとヒップホップをメインとするダンサーが大部分だが、気鋭のハウスダンサーKEINなどをかかえているため、ハウスでの作品作りも可能になる。ただ今回は、全体として、ヒップホップに近い遅めのハウスのステップであったため、KEINのソロの細かいステップ以外は、ハウス特有のたたみかけるスピード感の魅力があまり感じられなかった。いつもよりアクロバットも少なかったため、上方空間があまり使用されなかったことも、少々インパクトに欠けて残念だった。

Valuence INFINITIES「舞奏(ぶそう)」©D.LEAGUE 24-25

結果は3-3で引き分け

2nd MATCH

2nd MATCHは、メインのダンスのヒップホップの作品を踊ったKADOKAWA DREAMSと、やはりメインのダンスであるクランプの、本来の味わいで勝負したFULLCAST RAISERZの対戦。

前者は、音楽はこのチームが使うことの多い、細かい打の入るエレクトロニック・サウンドで新鮮さはあまりないが、まず、今回の出場メンバーのダンスのレベルが高く、とても見ごたえがあった。そしてさらに、動きのスタイル、ポーズの角度、音楽のビートの捉え方などが、全員、無意識に自然に一致している観があり、本当の意味での気持ちのよい「シンクロ」が見られた。「シンクロ」を避ける作品の価値を認めてほしい思いは変わらないが、「シンクロ」を意図する作品であれば、このKADOKAWA DREAMSのような「シンクロ」が理想である。エースパフォーマンスのソロを踊ったKELOの、アイソレーションを駆使した急速な動きも、見事だった。

KADOKAWA DREAMS「MODERN」©D.LEAGUE 24-25

後者は、このチームの初代のメンバー、たくましい出演者たちのなかでもとりわけ筋骨隆々のSHOOTとSHUNをスペシャルダンサーに加え、クランプならではのすばらしさ、爆発的なエネルギーを発しながら、宙を打ちつけるダンスを見せた。

FULLCAST RAISERZ「KRASSIC(クラシック)」©D.LEAGUE 24-25

結果は5-1でKADOKAWA DREAMSの勝利。これほどの差があったとは、筆者には思われなかった。

今回のKADOKAWA DREAMSは、これまでにも増して優れた舞台であったとはいえ、舞台に充満させることができたエネルギー量ではFULLCAST RAISERZが勝っており、結果発表まで、KADOKAWA DREAMSのメンバーたちの表情は不安でいっぱいだった。クランプの舞台のエネルギー量のすばらしさをどう評価するかは、クランプのジャンル自体の評価の問題ともつながることであるため、審査員は、ジャンルの異なるダンスの評価の仕方を、責任をもってしっかり考えてほしいと思う。

3rd MATCH

3rd MATCHは、ポップをメインとしたCyberAgent Legitと、『PLANET JAZZ』というテーマで、ロック、ハウスを入れながらのフリー・スタイルの自由なダンスを見せたDYM MESSENGERSの対戦。

前者は、得意のポップに、ソウルやヒップホップを融合させた、いつもよりおしゃれで、ダンスとしての魅力が強調された作品。全員のダンスの上手さが充分に発揮された。

CyberAgent Legit「Electro Hop」©D.LEAGUE 24-25

後者は、いつもながら、様々なダンスジャンルの型がわからなくなるほどの急速な動きの連続。星々のイメージか、衣裳が様々でそれぞれ異なる動きであったため、雑多感が少々強すぎる観があるようにも思われたが、ジャズの絶えず変化する不規則なリズムを巧みに表現していたのは見事。

DYM MESSENGERS「PLANET JAZZ」写真中央はエースパフォーマーを務めたYasmin ©D.LEAGUE 24-25

結果は、4-2でCyberAgent Legitの勝利

とはいえ、DYM MESSENGERSの音楽の奔放なリズムのダンスによる視覚化は、非常に高度なもの。音楽の高度な表現力も、何らかの形で評価に加えてあげたい。

4th MATCH

4th MATCHは、女性のみの出演者にしぼったBenefit one MONOLIZと、これまでとは趣の異なるヒップホップを見せたSEGA SAMMY LUXの対戦。

前者は、彼女たちの得意とするヴォーグをメインに、女性の柔軟性を存分に生かしたポーズを多用しつつ、官能性を強調した作品。

Benefit one MONOLIZ「AURYN-“Immortal”」©D.LEAGUE 24-25

後者は、これまでスタイリッシュなイメージのヒップホップのチームだったが、前ラウンドに続き、ヒップホップのカジュアルなファッションで、スピード感あるやんちゃなイメージのダンスを見せた。

SEGA SAMMY LUX「SPEEDSTER」写真中央はエースパフォーマーを務めたTAKI ©D.LEAGUE 24-25

結果は、1-5でSEGA SAMMY LUXの勝利

5th MATCH

5th MATCHは、ブレイクの可能性を追究し続けるKOSÉ 8ROCKSと、ダンスでエピソードを演出することに長けているavex ROYALBRATSの対戦。

前者は、しだいに速度を増してゆくラップのスピードに合わせて、通常は勢いをつけて行われるアクロバティックな技を、すべて丁寧にブレなく美しく行った作品。全員がブレイクを長年極めてきたこのチームにしかできない、と思われる高度なダンスだった。

KOSÉ 8ROCKS「B-美学」©D.LEAGUE 24-25

後者は、『HAGASU』というテーマで、様々なメッセージを書いたうちわを持って、「推し活」の会場を描いたコミカルな作品。ファンの前に置かれる鉄の柵をアイデア豊かに移動させて、フォーメーションを変化させつつ、「剥がし」が実は、自身も同じTシャツを着ているファンだったというコミカルなエピソードを、ヒップホップ、ハウス、ポップ、ロックなどで描いた。作品としては面白かったが、メインのジャンルが異なる全員で様々なジャンルを踊ったため、全体としての動きの精度は、いつものこのチームのレベルには達していなかったように思われる。

avex ROYALBRATS「HAGASU」©D.LEAGUE 24-25

結果は、3-3の引き分け

6th MATCH

6th MATCHは、女性のみでジャズ・ヒップホップをメインとするMedical Concierge I’moonと、ロックダンスをメインとした作品で勝負したdip BATTLESの対戦。

前者は、前回の女性の色気を強調する作品とは打って変わって、女性の怒りの叫びの歌に合わせ、力強いジャズ・ヒップホップで、ワーグナーの「ワルキューレ」を想起させるような、パワーが炸裂するカッコいいダンスを見せた。身体能力の高さゆえに、思い通りのエネルギーが出ていたのがすばらしい。

Medical Concierge I’moon「エゴイスト」©D.LEAGUE 24-25

後者は、ロックとポップを交えた振付で、今シーズン重要視されている「シンクロ」を意識したと思われる作品。ロックのソロは質の高い動きだったが、全体としては、そろえることを意識しすぎたか、ロックがメインではないダンサーが何人もいたのか、そろっていても動きがこぢんまりとしていて、舞台のエネルギーが充分ではないように思われた。

dip BATTLES「STOP & GO」©D.LEAGUE 24-25

結果は、3-3の引き分け

7th MATCH

7th MATCHは、今回もコンテンポラリーダンスに近い作品を発表したLIFULL ALT-RHYTHMと、自分たちのスタイルの大きなうねりのようなヒップホップの舞台を見せたList::Xの対戦。

前者は、コンテンポラリーダンスのダンサー、振付家として高く評価されている井田亜彩実の振付で、共に生きてゆくカップルを中心に置き、他者への温かい愛をベースとして、様々な人々の気持ちのやり取りを描いた作品。ダンスは軽妙なミュージカル風。コンテンポラリーダンスとしては珍しいテーマではないが、優しさにあふれているゆえの人柄の可愛らしさが、胸に響く作品だった。

LIFULL ALT-RHYTHM「Dear」©D.LEAGUE 24-25

後者は、『Hands of fate』 というテーマで、「輪廻」を描いた。意図が伝えられているかは疑問だが、全員の、強い体幹、床に吸い付くような足での、全身の大きな振りでもぶれることのないダンスは、魅力があった。

List::X「-Hands of fate-」©D.LEAGUE 24-25

結果は、6-0でLIFULL ALT-RHYTHMの完全勝利(SWEEP)となった。

今ROUNDで筆者が最も心惹かれたのは、引き分けという判定だったが、Medical Concierge I’moon。とくに、最初のソロの冒頭、しなやかでエネルギッシュな美しいロッキンは忘れ難い。

ROUND7終了時で、1位は以前としてKADOKAWA DREAMS。最も優れたパフォーマンスを見せたダンサーに贈られるMVDは、SEGA SAMMY LUXTAKI

今ラウンドのMVDに輝いたSEGA SAMMY LUXのTAKI ©D.LEAGUE 24-25

次回、第8ラウンドは2025年2月6日(木)開催!

この記事を書いた人 このライターの記事一覧

早稲田大学大学院博士課程満期終了。ハーバード大学大学院、ロシア国立プーシキン記念外国語大学留学。 早稲田大学、工学院大学、東京経済大学、青山学院大学、青山学院大学大学院で非常勤講師として、舞踊史、ロシア・バレエ史、ロシア語の講義、ストリートダンスの実技を担当。 舞踊評論家として、読売新聞、日経新聞、ダンスマガジン、各種公演プログラム等々に、舞踊評論を1980年代前半から寄稿。 文化庁芸術選奨推薦委員、東京新聞全国舞踊コンクール、さいたま全国舞踊コンクール現代舞踊部門審査員、まちだ全国バレエコンクール審査員。 著書に、「バレエ王国ロシアへの道」(東洋書店新社、2022年)、「二十世紀の10大バレエダンサー」(東京堂出版)、「知られざるロシア・バレエ史」(東洋書店)他。訳書に、「ワガノワのバレエレッスン」(新書館)他。論文に、「マリウス・プティパの創作の変遷」「F・ロプホーフのダンスシンフォニー『宇宙の偉大さ』」他多数。 バレエを東京バレエ団元バレエ・ミストレス友田弘子、ボリショイ・バレエ団元プリンシパルでモスクワ国際バレエコンクール第一回優勝者ゲンナージー・レージャフ他、コンテンポラリーダンスをネザーランド・ダンス・シアターの元中心的ダンサー中村恩恵、ストリートダンスを国際ダンスバトル世界チャンピオンSHUHOとGO GOBROTHERSのReiに師事。舞踊歴約60年現役。

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