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【レポート】吉田都次期舞踊芸術監督が登壇! 新国立劇場2020 / 2021シーズンラインアップ説明会①

阿部さや子 Sayako ABE

Photos:Ballet Channel

2020年が明けて間もなくの1月8日、新国立劇場の2020 / 2021シーズンラインアップ説明会が開催された。

会場となった新国立劇場地階のCリハーサル室に、オペラ芸術監督の大野和士、演劇芸術監督の小川絵梨子、そして次期舞踊芸術監督となる吉田都が揃って登場。
オペラ、舞踊、演劇の順に、当該シーズンの方向性や、上演する作品とそれを決めた意図、見どころ、意気込みなどを、集まった大勢の記者や関係者を前に説明した。

まずは芸術監督として3シーズン目を迎えた大野和士氏オペラ公演のラインアップを説明。
2020 / 2021は上演演目全10本のうち4本を新制作するなど、意欲的なシーズンとなることを語った。

大野和士オペラ芸術監督

続いて吉田都次期舞踊芸術監督がバレエ・ダンス公演のラインアップを説明(その内容は下で詳報)したのち、最後は小川絵梨子氏演劇のラインアップを紹介。小川氏も大野と同様、当該シーズンで演劇芸術監督としての任期は3年目。「普段あまり演劇に接することのないお客様にも気軽に劇場や演劇に触れてほしい」と、通常は単独で上演できないため公演が難しい短編(最短5分程度〜最長45分程度)を集め、フェスティバル形式で上演するプラン(2021年7月開催)などを発表した。

小川絵梨子演劇芸術監督

バレエ&ダンス〜吉田都次期舞踊芸術監督によるシーズンランアップ説明

吉田が現役バレリーナとしての人生に幕を引いたのは昨年8月8日。この説明会当日は、奇しくもその忘れられない日からちょうど5ヶ月目にあたる日だった。

登壇した吉田は、小さな顔も、細い体も、バレリーナの頃と少しも変わらない。
しかしこれからのヴィジョンとそれを達成するために何をするのかを説明する語り口は明確かつ意志的で、彼女がすでに来シーズンからの始動に向けて具体的に歩を進めていることが充分に感じれらた。

吉田都次期舞踊芸術監督

吉田次期芸術監督が語った内容には細部まで重要な点が含まれていたため、できるだけ割愛せず、以下に紹介することにする。

***

2020 / 2021シーズン バレエ&ダンスラインアップ
バレエ
白鳥の湖 [新制作]
くるみ割り人形
ニューイヤー・バレエ
パキータ / デュオ・コンチェルタント [新制作] / ペンギン・カフェ

吉田都セレクション
ファイヴ・タンゴ [新制作] /A Million Kisses to my Skin [新制作] / テーマとヴァリエーション
コッペリア
ライモンダ
ダンス
中村恩恵×首藤康之×新国立劇場バレエ団
Shakespeare THE SONNETS
ダンス・コンサート
舞姫と牧神たちの午後 2021
Co.山田うん
オバケッタ

(以下、吉田都次期舞踊芸術監督による説明)

本日はお忙しいところお越しいただきましてありがとうございます。この秋より、舞踊部門の芸術監督としてスタートさせていただきます、吉田都でございます。本日はラインアップと、その前に少しだけ、在任中に目指したいことをご説明していきたいと思っております。

作品選びについて

新国立劇場バレエ団には、20年以上積み上げてきた素晴らしいレパートリーがございます。それらを大切にしつつ、でも、新たなチャレンジをしていきます。

新国立劇場バレエ団では常にトップレベルの古典の上演が必要だと思っておりまして、1年目のラインアップには、古典作品がみっちり入っております。やはり、難しい古典を上演することによって、ダンサーたちは基礎の大切さを知り、テクニックの向上が見込めます。そして体力的にハードな全幕物を踊ることで、スタミナが維持できたり、筋肉強化になったりします。

そしていちばん大切なのは、その作品を理解して、それをお客様に伝える、ということです。現在の大原永子監督が推し進めている方針を引き続き、日本人が苦手とされる“表現”面に力を入れていきたいと思います。

古典というのは、そのバレエ団のレベルの維持し、バレエ団を強くするためにとても大切です。しかし世界的に見ますと、いまはコンテンポラリーダンスの比重が重くなってきております。1年目のラインアップにはそれほど入っていませんけれども、いまのダンサーたちには、クラシックとコンテンポラリーの両方を踊れることが求められます。それはダンサーにとって負担の大きいことですが、それによって踊りのボキャブラリーが増やせたり、お客様にとってもバレエ団やダンサーたちの違う一面が見られたりする、大切な機会だと思っております。

育成と発信、そして環境改善に向けて

そして、振付家の発掘や育成。このことを非常に大切に思っています。私が在籍していた英国ロイヤル・バレエ団は、劇場の歴史は古いのですが、バレエ団としての歴史は日本とそれほど変わりません。それでもなぜロイヤルが“世界三大バレエ”と言われるまでになったか。それは優秀な振付家を育て、素晴らしい作品を作ってきたからではないでしょうか。そしてその作品が素晴らしいからこそ、英国のみならず世界各国で上演されるようになってきた。それがどうバレエ団の強みとなっています。ですからこの新国立劇場でも、世界に発信できるような作品を作れたらと思っております。

エデュケーショナルな部分に関しては、すでに日本のバレエ人口は40万人と言われ、本場のフランスよりも多いくらいです。けれどもまだまだ、新しいお客様の開拓は可能だと思っております。もっといろいろな角度から未来のお客様を育てたり、まだバレエをご覧になっていない方を取り込むような試みをしていきます。また、新国立劇場バレエ団だからこそできるバレエでの社会貢献もしていかなくてはと考えています。

そして最後に、これは私が日本に戻ってきて以来すごく感じていることですが、ダンサーを取り巻く環境を向上していけたらと考えています。時間はかかるかもしれませんけれども、ダンサーたちがそれぞれプライドを持って舞台に臨めるような環境、踊りだけに集中できるような環境作りですね。そういう環境があるからこそ、アーティストが育つと信じております

世界から見ても、日本のバレエの環境というものは、まだまだ遅れております。そのあたりはみなさまのご理解とご協力が必要になってきます。そのためにも、バレエ団が一丸となって、お客様に「また観に行きたい」と思っていただけるような作品作り、舞台作りの努力をしていかなくてはいけないと思っております。

シーズンラインアップについて

2020 /2021シーズンは、“古典バレエ”と言えばこの作品、『白鳥の湖』で幕を開けます。サー・ピーター・ライトの演出・振付です。なぜライト版の『白鳥』を選んだかと言いますと、私自身になじみがあるということもありますが、個々のキャラクターが非常にはっきりしており、お客様にもストーリーがわかりやすく、ダンサーたちにとっても演じやすい、ということがあります。通常、白鳥たちの群舞というのは個々のダンサーの感情が見えづらいものです。しかしライト版は、例えば4幕で白鳥たちがロットバルトに向かっていくところなどは、その意思がはっきりと見えます。ダンサーたちにとって、とても演じがいがある作品です。

また現在は衣裳やセットを制作している最中ですが、セットについては、新国立劇場だけでなくいろいろな劇場のサイズに対応できるようにしています。できれば地方公演や、海外でも上演できたらと考えております。

12月のクリスマスシーズンは、昨年末も動員数1万5000人を超えた人気作品であるウエイン・イーグリング版『くるみ割り人形』を上演します。

そして、2021年1月は、トリプル・ビルです。
まず久しぶりの上演となる『パキータ』、これもまた古典ということで、ダンサーたちのテクニック面もブラッシュアップできたらと。

2つ目が新制作の『デュオ・コンチェルタント』。バランシンの作品で、ストラヴィンスキーの楽曲。ピアニストとヴァイオリニストもステージに立って、1組のカップルで踊られます。バランシンらしい、洒落た作品です。

そして3つ目には、こちらも久しぶりの上演となるビントレー振付『ペンギン・カフェ』を。環境保全など深いテーマがありつつも、作品自体は本当に楽しい作品です。楽しく見たあとには何かが心に残っている、真のマスターピースです。

2月は……「吉田都セレクション」という、とても恥ずかしい名称になっておりますけれども(笑)、こちらにはちょっとチャレンジがあります

最初が『ファイヴ・タンゴ』。ハンス・ファン・マーネンという振付家の作品で、70年代のやや古い作品ではありますが、いまなおヨーロッパではよく上演されている人気作品です。ピアソラの音楽で、大人の雰囲気。バレエ団の、いつもとは少し違った面をご覧いただけるのではと思います。

2作品目は新制作の『A Million Kisses to my Skin』。現在ヨーロッパはじめ世界で活躍されている振付家デヴィッド・ドウソンの作品です。ストーリーがなく、音楽を視覚化するような作品という部分ではバランシン的なのですが、オフバランスを多用するなどの面ではフォーサイス的。ダンサーたちが殻を破れるような作品なので、ちょっとチャレンジしてもらいたいなと考えました。振付家のデヴィッドがおっしゃるには、「これはダンサーが踊っているときに感じる至福感を表現した作品だ」と。個性、自由、本能的であることが大切であり、完璧である必要はないのだ、と。振付はクラシックのステップを基本としていますけれども、ダンサーたちには、そこから先に行ってほしい。そう思ってこの作品を選びました。

そして最後は『テーマとヴァリエーション』。こちらは新国立のコール・ド・バレエの美しさですでに定評のある作品です。

5月はローラン・プティの『コッペリア』。こちらは本当に宝物のような作品です。そしてこの時期に、世界的スターダンサーであったフリオ・ボッカに、ゲスト・ティーチャーとしてコーチングに来ていただく予定です。私は、作品のコーチングはもちろんですが、それ以上に日々の“お稽古”の内容をもっと濃くしたい、ダンサーたちのテクニックや基礎をもっと強化したいと思っております。そのために今後は折に触れてゲスト・ティーチャーをお招きしていきたいと考えています。

6月は久しぶりの上演になります、牧阿佐美先生の『ライモンダ』全幕です。踊りはもちろんのこと、美しい色彩の衣裳やセット、まさに“総合芸術”というものをお楽しみいただける作品で、上演できることを嬉しく思っております。

そして最後の7月は2009年より行っております「こどものためのバレエ」、森山開次さん演出・振付の『竜宮』を上演いたします。

ダンスのほうにつきましては、20年11月に、オペラ・演劇と“シェイクスピア”つながりで『Shakespeare THE SONNETS』を上演します。2011年に中村恩恵さんと首藤康之さんが初演した作品ですが、今回初めて新国立のダンサーが加わって上演いたします。

3月は「舞姫と牧神たちの午後」。日本を代表する振付家、ダンサーたちの共演となります。このシーズンでは「DANCE to the Future」が入っておりませんが、この企画のなかで、2019年に発表した貝川鐵夫振付『Danae』や、この企画で2012年に上演された平山素子さん振付の『Butterfly』を、新国立劇場ダンサーキャストで上演します。

最後に21年の7月は、新国立には久しぶりの登場となる、日本を代表するコンテンポラリーカンパニーのCo.山田うんの新作『オバケッタ』を予定しております。

以上、ちょっと駆け足でしたけれども、ラインアップは以上になります。ありがとうございました。

★この後に続いた吉田次期舞踊芸術監督を囲んでの記者懇談会のもようは次の記事で掲載します

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