吉田都 新国立劇場舞踊芸術監督 ©︎Ballet Channel
2021年3月2日(火)、新国立劇場が2021/2022シーズン舞踊ラインアップ説明会を開催した。
会場は東京・初台の新国立劇場オペラパレスホワイエ、登壇者は舞踊芸術監督の吉田都。
吉田監督は2020年9月、まさにコロナ禍のさなかに舞踊芸術監督に正式に就任した。そこから始まったここまでの約半年間は「6ヵ月間とは思えないぐらい濃い日々」だったという。次々と立ちはだかる困難と、だからこそ生まれた新たな取り組みや挑戦の日々。それらを冒頭で振り返った上で、次シーズンのラインナップを発表。各演目の内容を詳細に説明し、それぞれにかける意気込みを語った。
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また吉田監督によるラインアップ説明のあとには、質疑応答の時間が設けられた。
記者たちから活発に挙がる質問の一つひとつに、監督がみずから回答。その内容は以下の通り。
※読みやすさのために一部編集しています
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- 記者1 今まで新国立劇場バレエ研修所に入った日本人とノンジャパニーズ(在日も含めて)の割合を教えてください。また研修所出身者は海外のどのようなバレエ団で活躍していますか。
- (新国立劇場 常務理事が回答)研修所は芸術監督の所管ではなく、研修所長(牧阿佐美)が別におられますので、吉田監督がお答えしかねる質問です。いま手元に資料がなく正確な数字はお伝えできませんが、修了生につきましては、外国籍というか二重国籍の人は何人かいます。当バレエ団に入る人もいれば、国内の別のバレエ団あるいは海外のバレエ団で活躍している人もいるという状況です。
- 記者2 吉田監督体制がスタートしてからの大きな出来事のひとつとして、コロナの影響もあり「舞台を配信する」という取り組みが始まりました。その結果として「日本全国や世界と繋がりを感じられた」ことの他に、例えばその後のチケットセールスに影響があった等、さらに具体的な効果や成果などがあれば聞かせてください。また、もしコロナが終息しても、配信の取り組みを続けていきたいと考えていますか?
- 吉田 現在は(収容率制限のため)チケットを50%しか売れないので、実際にどのくらいということはなかなか申し上げられないのですが、やはり先ほど申し上げたように、メッセージをくださったお客様のなかには「今まで生でバレエを見たことがなかったけれども、配信を見たことで、劇場に足を運んでみたいと思った」と言われる方が随分いらしたので、そういう意味では少し影響はあったのかなと思います。この間(2021年2月)の『眠れる森の美女』にしても、(お客様から)「配信はないんですか?」と聞かれました(笑)。ここまでのところ、たまたま配信という形が続きましたけれども、今後どうしていくかについてはそこまで明確には見えていません。でも、やはりそうやって海外の方にまでご覧いただけるというのは、新国立劇場バレエ団にとっても良いことだと思いますので、配信もしていけたらいいなと思っております。そして配信するならば、ただ公演をお見せするだけではなくて、もう少しバレエ団のダンサーたちを知っていただいたり、ここでしかできないことも取り入れたりして、もっといろいろなチャレンジをしていきたいと思います。
- 記者2 今回発表されたラインアップのなかで、とくにダンサーたちにとって大きなチャレンジになりそうだと思っているものがあれば聞かせてください。
- 吉田 まず『白鳥の湖』がどういう形になるのか、私自身も本当に楽しみなんです。いまダンサーたちの変化が感じられているところでの『白鳥の湖』が、どうなっていくのか。それがいちばんの大きなチャレンジです。そしてやはり、初めてのフォーサイス(『精確さによる目眩くスリル』)。基礎の大切さというところにも戻るのですが、(動きを)崩すためにも、もっと高度な技術が必要になってくるので、この作品はかなりチャレンジだと思っています。
- 記者3 公演回数について。『くるみ割り人形』が12回公演と昨年よりも多く、他の作品についても少し増やしているように見えますが、その理由を教えてください。例えば吉田監督就任以降に観客の数が増えつつある等、手応えなどがあるのでしょうか。
- 吉田 ダンサーたちの収入アップという意味でも、公演回数はできるだけ増やしていきたいと思っております。そういう意味で『くるみ』も12回というのは初の試みですけれども、公演数を増やし、より多くのお客様にいらしていただきたいなと。でもそのためには、やはり質の高い、良い舞台を作っていかなくてはいけないと実感しております。たとえば配信で見たお客様が「劇場に行ってみたい」と来場してくださった時に、しっかりしたものをお見せできなかったら、もう戻ってきてはもらえないと思うんですね。だから一回一回の舞台が真剣勝負。良い舞台をつくり、それで喜んでくださったお客様がまた戻ってきてくださる。そうして回数をできるだけ多くしていけるように、ということを目指していきたいと思っています。
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- 記者4 公演数が増えるというお話がありましたが、『白鳥の湖』『くるみ割り人形』『不思議の国のアリス』といった大型の作品もあり、現在のダンサー数で足りるのでしょうか? 先日の『眠れる森の美女』も短期間にかなりの公演数があり、シングルキャストで大変そうにも感じました。今後ダンサーをどうやって増強していくのか、聞かせてください。
- 吉田 本当にいつもカツカツの状態です。『ドン・キホーテ』では、ケガ人が1人出ただけで1カップルではなく2カップルをカットしなくてはならなかったりして、私としてはかなりショッキングでした。例えば『不思議の国のアリス』のようなビッグプロダクションであれば、ロイヤル・バレエは90名〜100名近いダンサーたちで上演しているところを、私たちは70名でやっています。それはかなり難しいところがあるのですが、その点は劇場の常務理事も理解してくださって、来シーズンは1〜2名ダンサーが増える予定です。ケガ人が出てもカバーできるようにしたいですし、今回の『眠り』は妖精たちをダブルキャストにしたのですが、そのようにより多くのダンサーがチャレンジできる形にしたいです。理想(の団員数)は90名弱……(笑)。難しいことですけれども。でも、それもやはり公演数を増やして、頑張って良い舞台をお見せして、というところからだと思います。
- 記者4 吉田監督が就任されてダンサーのレベルが上がったように思いますが、これからは主役を踊るようなダンサーも育てていかなくてはならないのではと思います。そういった育成方針などがあれば聞かせてください。
- 吉田 若手にも、どんどんチャレンジしていってもらいたいと思っております。今回の『眠れる森の美女』でも、初役デビューのダンサーたちが多かったのですが、とても頼もしくて、私としては嬉しい発見でした。やはりダンサーは舞台を通して学んでいくところが大きいと思います。例えば新しい作品に臨む時にーーこれはいつも言っていることですが、ダンサーたちは「頭ではわかっていても、できていない」。そういういうところが、踊りにおいても演技においても見受けられます。そこは手取り足取りではないですけれども、とにかく体に覚え込ませていかなくてはいけません。
意識しているのは、繰り返しリハーサルするなかで「いまはまだできていない」というのをしつこく言いつつ、できた時には「いま、何を意識したからそこが変わったの?」と問いかけて、頭の中でちょっとリマインドしてもらって。頭でも理解しつつ、体の形としても覚えられるような積み重ねをやっているところです。やはり基本、繰り返しということが大切だと思っております。
- 記者5 芸術監督就任時に示されたビジョンのうち、バレエの「普及」という面は大きく前進したのではないかと思いますが、もうひとつの「働く環境の整備」について、一歩前進したと思うことと、これから手がけたいことがありましたら教えてください。
- 吉田 まだ始めたばかりではありますが、劇場側の方たちのご理解があって、すごくいろいろな変化を感じていて嬉しいです。小さなことですけれども、例えば休憩室ができたり、いまはコロナで使えてはいませんがトレーニングマシンも入りました。廊下の、ベンチがあって座ることしかできなかったところにカーペットを敷いて、そこでストレッチができるようにしていただけたり、そういうところで少しずつですけれども変わってきています。今後はもちろん、ダンサーたちの収入面のことも。みんながこの劇場の中の仕事に集中できるような環境を、最終的には目指していきたいと思います。他にも変えていきたいことはありますので、引き続き頑張っていきたいと思っております。
- 記者6 2022年2月に予定されている「エデュケーショナル・プログラム」について。これは吉田監督みずから構成・演出を手掛けるということで、それはご自身にとって初めてのことですね?
- 吉田 そんなに大げさなものではないですよ(笑)。
- 記者6 それだけこの企画に対する思いがあるということでしょうか。
- 吉田 はい、それはあります。まずウェンディ(・エリス・サムス)さんがすごく乗ってくださったというか、「こういうことを考えている」とお伝えしたら、本当に喜んでくださって。『シンデレラ』という作品を知っていただくというのもありますが、より多くの方にバレエを広めるというのに、とても面白いプログラムができるのではと。彼女がワクワクしてくださっているのもとても嬉しいです。これから一緒に作っていくような形になると思います。こういうことができるのは嬉しいですね。
- 記者6 これは今後、毎年やっていくことになりますか?
- 吉田 できたら続けていきたいです。毎年になるかはわかりませんが、続けることが大切だと思いますので、やっていきたいと思います。
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- 記者7 個人的には『夏の夜の夢』がとても楽しみなのですが、質問は2点です。1点目は「エデュケーショナル・プログラム」について。具体的に対象となる客層は、子どもたちや親子連れでしょうか? 具体的にどういった客層にどういった形でアプローチしていくのか聞かせてください。2点目は『白鳥の湖』について。元々2020/2021シーズンに予定されていて、すでにキャストが発表されていましたが、それはいったん白紙に戻して新たに発表されるのでしょうか。
- 吉田 「エデュケーショナル・プログラム」は、やはり(メインは)お子さん対象になるかなとは思いますけれども、私自身もすごく興味深く感じていますし、普段バレエをよくご覧になっている方にも楽しんでいただけるのではないかと思います。
また『白鳥の湖』は、メインキャストはそこまで変わらないと思いますので、まったくの白紙という感じではありません。けれどもやはりダンサーたちにはいろいろなタイミングというのもありますので、様子を見ながら(配役を決めたい)と思います。
そして『夏の夜の夢』ですけれど、これは私が指導するというよりは、おそらくアンソニー・ダウエルが来てくださると思います。(ダウエルから指導を受けられるダンサーが)私もとてもうらやましいです。私自身はアンソニーとアントワネット・シブリーに教わりましたけれども、やはり直接アンソニーから教われるというのもダンサーにとっては夢のようなことなので、それが実現することを祈っております。
- 記者8 コロナという誰も体験したことのない状況において、ダンサーたちと接する上で吉田監督が心掛けていることがあれば教えてください。
- 吉田 ダンサーたちも本当によくやってくれていると思います。変えてもらったのは、長時間だらだらリハーサルするのは止める、ということです。人間の集中力ってそんなに続かないものですから。1時間半を目安に、パッと集中してパッと切り上げて、というように。ダメ出しのやり方も先生たちにお願いをして。先生たちにも、スケジューリングの内容や時間配分、ダメ出しの仕方等について、私がいろいろとしつこく注文をつけているので(笑)大変な思いはしているのかもしれません。それでもすごくよくやってくださっていて、そういう普段の仕事のやり方で、ダンサーたちも変わっていっているような気もしています。
あとは、例えばソロの練習をするにも、とにかく毎日させてあげること。やはりこれだけ人数がいてスタジオが2つしかないと、なかなかリハーサルにたどり着けなかったりするダンサーもいるんですけれども、ソロを踊るダンサーたちは、繰り返し踊ることで自然と体も強くなりますし、自信もつきますので。
ちょっと話が違いますけれども、変えていきたいと思っているのが、ダンサーたちがケガをした時の対応です。いままではダンサー任せだったのですが、やはりバレエ団のほうがしっかりと把握して、ケアして、ある程度の指示もしなくてはいけないなと。こちら側で管理することが大切だなと思っておりまして、専属とまではいかなくても、必要な時に診ていただけるドクターをいま探しているところです。「いま、自分の身体に何が起きているのか」をダンサー自身がわかれば安心できます。ケガをしていても、踊りながら治せるケガもあれば、休んだほうがいいケガもあります。そういうところの見極めは、素人判断ではいけないと思うので、ちゃんとバレエの動きをわかっていらっしゃるドクターにお願いできたらと強く思っております。
- 記者9 先ほど「古典にも進化が必要」という言葉がありましたが、古典の進化とは具体的にどういうものか、どんなビジョンにつながっていっているのかを聞かせてください。
- 吉田 ロイヤル・バレエもそうでしたけれども、伝統を守りつつも、新たな思いでチャレンジしていくというところを、私自身、見習いたいなと思っているところです。技術も進化していて、例えばトウシューズにしても、以前とはまったく違うものになっています。踊りのテクニック面もとても進化していまして、いまのダンサーたちというのはより高度な技術を求められています。ただ、最近の『眠れる森の美女』でも感じたのですが、やはりバレエならではの舞台上でのマナーやルールというものがあります。そういうところは絶対に守りつつ。でも、やはりみなさん身体能力も変わってきていますし、そういうところも進化は必要です。いまお話ししたのは踊り方についてですけれども、あとは作品としても、古典バレエも新しい演出・振付というものがいろいろ出てきています。そういう意味での進化、チャレンジというのも、とても大切だと思っています。
- 記者9 この1年、コロナ禍における業界の様子を見てきて、とくにコンテンポラリーの若いダンサーたちが、ほとんどキャンセルをしないでかなりの作品を作ってきていたり、韓国・中国がコンテンポラリーへの予算を増やしたりして、かなり国際的な競争も高まっています。そういったバレエ以外のジャンルのダンスに関しても、考えを聞かせてください。
- 吉田 昨年もお話ししたかと思いますけれども、いまの時代、バレエダンサーもクラシック・バレエだけでなくコンテンポラリーも踊れることを求められています。ですから『DANCE to the future』のようなかたちでダンサーたちが自分たちで振付を作り上げていくことも今後とても大切になっていくと思いますし、できれば日本発信、新国立劇場バレエ団発信のコンテンポラリー作品も、どんどん作っていけたらと思っております。
- 記者10 地方公演について、お願いであり、質問です。「公演回数を増やしたい」とのことですが、新国立劇場は東京に拠点があるとはいえ国のものですから、ぜひ地方公演も増やしていただきたいと思います。その点について、監督の考えを聞かせてください。
- 吉田 実際いろいろなところからオファーをいただいてもいますし、私自身も地方公演はとても大切だと思っております。ただ、本公演のスケジュールとのすり合わせ等、なかなかスケジュール的に難しい部分もあります。でも来シーズン、『不思議の国のアリス』の地方公演はいま話を進めています。実現するかどうかはまだわからないのですが。でも、地方にも素晴らしい劇場がありますから、できればより多くの作品を持っていきたいとは思っています。新制作の『白鳥の湖』にしても、ツアー用として、いろいろな劇場に対応できるようなかたちでセットも作っていますので、これも地方に持って行って、全国のみなさんに見ていただけたらいいなと思っています。夢として(笑)。
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- 【2021/2022シーズン バレエ ラインアップ】
- ●2021年10月23日~11月3日『白鳥の湖』〈新制作〉
振付・演出:ピーター・ライト
- ●2021年12月18日~2022年1月3日『くるみ割り人形』
振付:ウエイン・イーグリング
- ●2022年1月14日~1月16日「ニューイヤー・バレエ」
- 『夏の夜の夢』〈新制作〉振付:フレデリック・アシュトン
- 『テーマとヴァリエーション』振付:ジョージ・バランシン
- ●2022年2月19日~2月23日「吉田都セレクション」
- 『精確さによる目眩くスリル』〈新制作〉振付:ウィリアム・フォーサイス
- 『ファイヴ・タンゴ』〈新制作〉振付:ハンス・ファン・マーネン
- 『こうもり』より「グラン・カフェ」振付:ローラン・プティ
- ●2022年4月30日~5月5日『シンデレラ』
- 振付:フレデリック・アシュトン
- ●2022年6月3日~6月12日『不思議の国のアリス』
- 振付:クリストファー・ウィールドン
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●2021年7月24日~7月27日『竜宮りゅうぐう~亀の姫と季(とき)の庭~』
演出・振付:森山開次
●2022年2月26日~2月27日 エデュケーショナル・プログラムvol.1 ようこそ『シンデレラ』のお城へ!
『シンデレラ』振付:フレデリック・アシュトン
構成・演出:吉田都
- 【2021/2022シーズン ダンス ラインアップ】
- ●2021年11月27日~11月28日「DANCE to the Future: 2021 Selection」
新国立劇場バレエ団作品より(未定)
『ナット・キング・コール組曲』振付:上島雪夫
- ●2022年3月18日~3月21日 カンパニーデラシネラ『ふしぎの国のアリス』
構成・演出:小野寺修二
- ●2022年6月25日~6月26日 森山開次 新版『NINJA』
- 演出・振付・アートディレクション:森山開次